井原医師会立訪問看護ステーションの経過について

理事 河合恭廣著 
  この論文は平成11年度備中ブロック協議会(平成12年1月29日(土)総社市)にて発表した。

◆はじめに
 井原医師会は、平成9年9月より訪問看護事業を始めたが、これまでの経過について報告する。
 平成8年、周辺市町村を見渡しても、井原市・芳井町にだけ訪問看護ステーションがないという現状に、井原
 医師会は地域在宅医療への遅れを痛感した。この原因として、従来からの往診=在宅医療という会員の認識が
 強く、訪問看護をはじめとする新しいスタイルの在宅医療についての意識改革が遅れた。また、往診を主体と
 する在宅医療と保健婦やヘルパーを通じての在宅介護が比較的うまく運用されていたため、改めて訪問看護ス
 テーションを必要としなかった。さらに井原市、芳井町併せても人口4万人強のため、単独の医療機関では採
 算性が悪いなどが考えられた。しかし、新しいスタイルの医療に対応していくため、平成8年度事業に訪問看
 獲ステーション設立を最重点課題に掲げ、行政側と協議を重ね「医師会立訪問看護ステーション」の設立を決
 定した。
 (1). 平成8年秋より、平成9年度実施に向け 準備を始めた。
 (2). 設置場所として老朽化した旧医師会館で は不適当のため、活動拠点を井原市保健センター2階とし、無償
   で借用することとした。 (平成11年10月より井原市フレスタ3階に医師会事務局、訪問看護ステーショ
   ンとも移転している。)
 (3). 平成9年4月看護婦4名(常勤3名、非 常勤1名)の採用を決定し、5月より訪問看護研修を行った。
 (4). 平成9年9月9日訪問看護ステーション を開設し活動を開始した。
 (5). 平成9年度に訪問看護ステーション設備 整備費として、岡山県、井原市・芳井町 より合計300万円の助
   成をうけた。また、運営費として、赤字が生じた場合、開設後3年間(平成9、10,11年度)は年間
   300万円を限度に助成を受けることとした。
 (6). 訪問件数の増加これに伴う看護婦の増員 により、手狭になった保健センター2階より施設拡充のため、平
   成11年10月フレスタ3階に移転した。

 訪問看護ステーション設立までの申請書類の作成、提出、広報による市民への啓蒙、訪問看護婦の募集など井
 原市役所の市民課、保健センター関係者に全面的に協力していただいた。  設立にあたって高梁医師会、福山
 市医師会に御指導、御協力いただき感謝を申し上げます。

◆設立後の経過概要
 当初より訪問看護対象者が多いことは確認していたが、医師からの指示書がどの程度出るか不安なスタートで
 あった。しかし、医師会内に訪問看護ステーションがないこと、そして会員の協力により順調に患者数は増加
 していった。8ケ月後の平成10年4月には、収支が合うと推測した患者数40人台となった。平成11年12月
 には、患者数61人、患者数の増加に伴い職員も増員し、看護婦13名(常勤4名、非常勤9名)、事務職員(
 非常勤)1名(平成10年7月より)となっている。このように早期に軌道に乗れた理由の一因としては次のよ
 うなことが考えられる。 市・町との連携、特に保健センター、訪問介護を担当する社会福祉協議会との連携
 がうまくいったこと、そして看護内容が医師、患者、家族にある程度満足してもらえたことであろう。訪問件
 数は単純に計算すると看護婦一人平均1日2.4件である。
 訪問看護対象者の状況を見ると、男女差はなく、ほとんどが70歳以上である。日常生活自立度ではランクC・
 Bの寝たきり・準寝たきりが約7割を占め初めから大きな変化はない。また、痴呆の状況では、なし・軽度が
 7〜8割を占めている。寝たきりで痴呆度の低い人が対象となっている。社会資源の利用状況は多くの人が多
 様なサーピスを受けている。特にこの中でも訪問看護とデイサービス、訪問看護とデイケアーを共に利用して
 いる人はそれぞれ対象者の約2割である。在宅の患者を対象としているので当然のことだが、対象者は施設な
 どのデイサービス、デイケアーより、介護、看護、リハビリを主とした在宅サーピスだけを必要としている人
 が多いと考えられる。痴呆度のみ高い人は施設でのサービスが必要と推測される。 疾患別では脳血管疾患が約
 半数を占めた。地区別では山間部の多い芳井町が増加している。
 収支状況は平成10年度上半期より黒字となり順調に推移している.平成11年12月の厚生省の報告では、1事
 業所1月当たりの収支を見ると、事業収入は262.1万円、事業費用は228.8万円で、収支差額は33.3万円の黒
 字となっている。収支差の事業収入に占める割合は12.7%、給与費の事業収入に占める割合は74.1%となって
 いる。当訪問看護ステーションの平成10年度の収支はこれに近い数字となった。しかし、平成11年10月移転
 し、その費用として約1000万円を要したため、平成11年度以降の収支に関しては厳しい状況にある。

◆今後の予定及び課題
 平成12年4月介護保険が開始されるのに伴い、井原医師会は訪問看護ステーションの運営だけでなく、在宅医
 療においてケアープラン作成などの総合的な関与が必要と考えている。平成11年11月井原医師会は居宅介護
 支援事業所の指定を受けたが、平成12年4月より井原医師会立在宅介獲支援センターの併設を予定している。
 昨年末に発表された「ゴールドプラン21」によれば、2004年度には全国で訪問看護ステーションは、現在の
 5000カ所から、9900カ所にするとされている。最近では芳井町の需要が増加しており、芳井町へのサテライ
 トを検討している。当訪問看護ステーションは、現在まだそのニーズに対応し切れていない。平成10年度の訪
 問看護の必要量に対する供給率は、井原市、芳井町ともまだ5割に達しておらず、そのニーズは益々増加する
 と考えられる。今後有機的かつ円滑に運営されていくためには、井原市、芳井町等の各機関との充分な連携が
 必要とされるであろう。また、それが出来る地域でもあると思う。さらに、平成11年8月に構築した井原医師
 会イントラネットを活用して、訪問看護ステーションと各医療機関との連携を密にし看護内容を充実していき
 たいと考えている。

 

表1 訪問看護ステーションの推移
表2 性別(平成11年12月末まで)
表3 年齢分布(男女別)
表4 地区別件数
表5 日常生活自立度(月間変化の6ヶ月加算による対比)
表6 主病名別件数
表7 痴呆の状況(1)
表8 痴呆の状況(2)
表9 社会資源の利用状況

 

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