【第1章の補遺】:臨床検査の補遺

異型リンパ球(Downey cell)を見たら

 a.ウイルス感染症
  EB ウイルス、サイトメガロウイルス、肝炎ウイルス(A・B)、風疹、
  ムンプス(水痘、コクサッキー、アデノ、ヘルペス等)
 b.その他感染症
  β-溶連菌感染、百日咳、梅毒、ブルセラ、リケッチャ感染症、トキソプ
  ラスマ
 c.ワクチン接種
 d.薬物アレルギー、膠原病など







PT時間の表示について

 イ.実際の値を表示(正常対照値を併記)
 ロ.PT指数:正常対照PT時間/被検PT時間×100 (%)
 ハ.PT比:被検PT時間/正常対照PT時間
 ニ.希釈標準曲線に当てはめて活性%で示す







好酸球増多症(末梢血)
 (NEJM.1998,338:1592-1599などより)

 a.感染症
  特に寄生虫感染症、結核または梅毒、トキソプラスマ症、内臓ダニ症

 b.呼吸器疾患
  喘息、好酸球性肺炎、カリーニ肺炎、じん肺症・珪肺症、過敏性肺臓炎、
  特発性肺血鉄症

 c.消化器系
  炎症性腸疾患、好酸球性胃腸炎、アレルギー性腸炎

 d.アレルギー性
  アレルギー性鼻炎・結膜炎、喘息、湿疹、アレルギー性気管支、肺アスペ
  ルギルス症、アレルギー性肉芽腫性血管炎、血管性浮腫・クインケ浮腫、
  口腔粘膜アレルギー症候群、アレルギー性紫斑病(S-H紫斑病)

 e.全身性
  特発性好酸球増加症候群、血管炎

 f.医原性
  薬物反応、サイトカイン注入(e.g. 顆粒球-マクロファージ-CSF)、薬物
  性(中毒性)腎障害、アレルギー性間質性腎炎(AIN)、中毒性表皮壊死
  剥離症、薬剤反応性リンパ腫、eosinophilia-myalgia 症候群(tryptp-
  han ingestionに伴う)
  ※注意:薬物性のものでも、中止後も好酸球増多が続くことがある。

 g.自己免疫疾患
  慢性活動性肝炎(ルポイド肝炎)

 h.膠原病、類縁疾患
  天庖瘡または類天庖瘡、サルコイドーシス、ウエジナー肉芽腫症(WG)
  、悪性関節リウマチ、結節性多発性動脈炎(PN)、カプラン症候群

 i.悪性腫瘍
  リンパ腫、大腸癌、菌状息肉腫症(Sezary症候群も含む)、軟部組織の肉
  腫、癌性リンパ管症、傍悪性腫瘍症候群、ホジキン病、重鎖病、真性赤血
  球増加症、成人T細胞性白血病、赤白血病、eosinophilic leukemia

 j.その他
  シャルマン症候群(好酸球性筋膜炎)、血清病、膠原性大腸炎、レフラー
  好酸球性心内膜炎、木村病(リンパ組織増生を伴う異常肉芽腫)、アジソ
  ン病、悪性貧血、多発性コレステロール塞栓症症候群、原発性免疫不全症
  候群、紅皮症(剥脱性皮膚炎、基礎疾患に注意)、免疫芽球性リンパ節症
  、全身性脂肪腫症、心筋梗塞後症候群、砒素中毒症、ランゲルハンス細胞
  性組織球症、トルーサ・ハント症候群、巨赤芽球性貧血、ネフローゼ症候
  群、腎動脈瘤、結節性腸管リンパ組織過形成症、コーガン症候群、empty
  sella症候群、肝線維症、eosinophilic cellulitis(Well's syndrome)







尿中・血中ケトン体の上昇の原因
 (生体が糖質よりむしろ脂質を利用している指標)

 1.糖尿病(インシュリン分泌低下)、高脂肪食
 2.摂食低下
  食欲不振、嘔気・嘔吐、絶食、消化器疾患など
 3.ストレス反応
  発熱、手術、外傷、運動
 4.その他
  糖原病、高グルカゴン血症、褐色細胞腫、つわり(妊娠悪疽)、心筋梗塞
  など(グルカゴン、エピネフリン、ノルエピネフリン増加はケトン体の上
  昇の原因)







【第2章の補遺】:しびれ・麻痺・感覚障害

こどもの難聴

 A.胎生期難聴
  1.先天性風疹症候群
   a.妊娠3か月以内に母体が感染した場合、本症の発生は平均約20%とさ
    れる。(不顕性感染が20%あるので、診断上注意を要する)
   b.主な症状
    ・難聴:多くは内耳障害により、難聴は一般に高度。
    ・心疾患:PDA、PS など
    ・眼疾患:白内障、網膜症、小眼球症など

  2.先天梅毒
   a.妊娠5か月以後、胎盤を通して胎児に感染。
   b.主な症状
    難聴、角膜実質炎、Hutchinson 歯の三主徴は有名。難聴は先天梅毒
    の10〜20%に認められる。難聴の初発は幼児期もあれば成人になって
    からのこともある

  3.先天性サイトメガロウイルス感染症
   出生時低体重、小頭症、水頭症、痙攣、精神発達障害、運動障害、視力
   障害、難聴、肝脾腫、黄疸、貧血、出血傾向、呼吸障害をみる。
   内耳にも独特の封入体を持つ巨細胞が認められる。

 B.周生期難聴
  a.危険因子(乳幼児難聴の6%を占める)
   ・血清ビリルビン増加:20mg/dl 以上
   ・1500g以下の低体重出生
   ・新生児無呼吸とチアノーゼ(Apgar scoreで1〜4)
   ・新生児重症感染症
   ・(ゲンタマイシンの投与)
   注意:この時期の聴力障害の評価は非常に難しく、先天性障害の合併の
      可能性もあって聴力障害出現時期の判定が難しく臨床的推定とな
      る場合が多い。

 C.後天性難聴
  1.髄膜炎
   特に細菌性髄膜炎は小児の後天性難聴の原因として重要。
   死亡率は1.5〜5%であり15〜20%に何らかの神経学的後遺症を残す。
   ある報告では9.5%に内耳性難聴をみたという。

  2.流行性耳下腺炎
   a.頻度は少ない(5〜15人/10万人)が聴器に侵入し難聴を起こすこと
    がある。
   b.不顕性感染が40%あるといわれており、疑わしい時は血清学的検査が
    必要。
   c.急性発症、通常一側性、高度障害。
   d.血中からと髄液より内耳道、蝸牛小管を経由して内耳炎を起こす。
    何故一側性かは不明
   e.予後不良。MMRワクチン接種後に難聴を来した症例あり。

  3.麻疹
   a.麻疹ワクチン導入前の麻疹による難聴は0.1%以下と言われていた。今は激減。
   b.発疹の出現と同時に急性発症、通常両側性、45%は高度難聴。
   c.左右非対称に障害され、高音部が低音部より障害され易い。予後不良。
   d.合併症として中耳炎があるが、細菌の二次感染の場合が多く、この時は伝音
  難聴を来す。

  4.薬物
   a.かつてはアミノグリコシド系抗生剤が有名。1960年以降は激減
   b.シスプラチンによる聴力障害(ある報告では76.2%に高音急墜型の障害)、
    腎障害が問題。

 D.内耳奇形
  a.Michel型:内耳発育なし。
  b.Mondini型:最も多い。様々な程度の蝸牛、前庭、半規管の形成不全。
  c.Bing-Siebmann型:骨迷路は発達、膜迷路の発育不全。
  d.Scheibe型:骨迷路は発育、蝸牛と球形嚢の感覚細胞の発育不全。

 E.遺伝性難聴(1人/1000人出生)
  a.非症候群性難聴:難聴以外の症候を持たない(70%)。
   遺伝子座が徐々に判明中(詳細を略す)。
  b.症候群性難聴:難聴が症候群の一つ(30%)。
   ・Waardenburg 症候群:type-1,2,3 は常染色体優性、type-4 は常染色体
               劣性。
   ・Usher 症候群:type-1,2,3は常染色体劣性、type-4は X連鎖劣性。
   ・Alport 症候群:X連鎖優性。
   ・神経線維腫症-II:常染色体優性







胸椎椎間板ヘルニアの病態と治療

 脊椎疾患診断上の落とし穴として特に注意を払う必要あり。
 1.病態
  1).T10/11からT12/L1が好発部位
  2).ヘルニア発生椎間に石灰化がみられたり隣接上下椎体部に古い骨折がみ
    られることが多い。
  3).外傷の既往、職業上の姿勢とも関連

 2.臨床症状
  1).初診時に確定されにくい
    腰部椎間板ヘルニア、腰部椎間板症、腰椎脊柱管狭窄、陳旧性脊髄圧迫
    骨折、糖尿病性末梢神経障害などとされていることが多い。
  2).主訴
    腰痛、背部痛(労働、運動で悪化。安静で軽快)、下肢筋力低下。
  3).一見馬尾性の知覚障害
    T10/11からT12/L1のヘルニアでは、脊髄円錐やその上部を圧迫する
    ため、知覚障害の最上部(頭側)が皮膚髄節ではMRIなど画像で推定す
    るより二髄節以上下側(尾側)とみなされやすいため
  4).下肢腱反射の状態は多彩
    1/3ずつ亢進、正常、低下を示す。
  5).排尿障害は約1/2に出現

 3.画像上の特徴
  1).ヘルニア部に退行性変性(骨棘、椎体楔状化など)
  2).当該ヘルニア部椎間円板の石灰化(10〜30%)
  3).黄色靭帯骨化

 4.治療方針
  1).過剰診断に注意
  2).保存的治療に抵抗性のことが多い
  3).確定診断までに長期間かかっている例が多く、手術適応例が多い。
  4).前方徐圧前方固定術が合理的







【第 3章の補遺】:呼吸器疾患

肺気腫の外科治療の適応基準

 1.画像所見
  胸部CT、肺換気・血流シンチで不均等な気腫性変化が認められる。

 2.機能的所見
  1).1秒率55%以下で、気管支拡張剤の吸入により1秒率の有為の改善を認
    めない。
  2).全肺気量120%以上、残気率50%以上。
  3).静肺コンプライアンス0.3l/cmH2O以上。
  4).%DLCO60%以下、DLCO/VA 3.0ml/min/mmHg以下。

 3.症状
  内科的治療によって、Flecher-Hugh-Jones III度以上の労作性呼吸困難
  を認める。

 4.以上の3項目を参考にして、手術の危険性を理解した上で患者本人が手術
  を強く希望する。







肺気腫の呼吸機能所見

 1).閉塞性換気障害
  a).FEV1.0(1秒量)の減少、FEV1.0%(1秒率)の低下。
  b).フローボリューム曲線の下降脚の急激な下降

 2).肺気量分画異常と肺弾性収縮力異常
  a).残気率(RV/TLC%)の上昇、機能的残気量(FRC)の増加
  b).静肺コンプライアンス(Cst)の上昇

 3).ガス交換障害
  a).CO肺拡散能力(DLCO、DLCO/VA)の減少
  b).換気の不均等性:N2 1回呼吸法でのΔN2の上昇
  c).換気・血流比の不均等分布:AaDO2の開大

 4).動脈血ガス異常
  a).低O2血症
  b).高CO2血症







【第 6章の補遺】:糖尿病について

血糖値に影響する薬剤

 A.通常血糖値を上昇させる薬剤
  1.サイアザイド系利尿剤
  2.糖質コルチコイド
  3.エストロゲン
  4.フェニトイン
  5.甲状腺ホルモン
  6.リチウム
  7.糖含有シロップ

 B.稀に血糖値を上昇させる薬剤
  1.カフェイン
  2.ニコチン
  3.NSAID
  4.フェノバルビタール
  5.シクロフォスファミド
  6.エタクリン酸
  7.Ca-blocker

 C.低血糖をおこす薬剤
  1.スルフォン酸アミド
   インシュリン分泌促進
  2.サリチル酸
   高投与量で糖新生の低下、遊離SU剤増加
  3.β-ブロッカー
   拮抗ホルモン作用低下
  4.蛋白同化ホルモン
   インシュリン感受性増強
  5.MAO阻害剤
   インシュリン分泌促進
  6.アルコール
   糖新生の低下
  7.クロニジン
   拮抗ホルモン作用低下
  8.プロベネシド
   SU剤腎排泄の抑制
  9.クロフィブレート
   糖新生の低下、SU剤腎排泄の抑制
  10.クロロキン
    遊離SU剤増加
  11.フェニルブタゾン
    遊離SU剤増加







【第9章の補遺】:腎疾患など

ネフローゼ症候群について

 A.原因   1.ネフローゼ症候群の基礎疾患としての原発性糸球体疾患の頻度(%)
- 子供 60歳以下成人 61歳以上成人
Minimal-change glomerulopathy 76 20 20
Focal segmental glomerulosclerosis 8 15 2
Membranous glomerulonephritis 7 40 39
Membranoproliferativeglomerulonephritis 4 7 0
Other diseases 5 18 39

 2.ネフローゼ症候群の稀な原因
  a.Fibrillary glomerulopathy
  b.Several forms of amyloidosis
  c.Light-chain deposit disease
  d.Preeclampsia
  e.Infectious disease
   ・Bacterial
    poststreptococcal glomerulonephritis、infectious endocar-
    ditis、syphylis
   ・Viral
    hepatitis B & C、HIV
   ・Protozoal
    quantum malaria
   ・Helminthic
    schistosomiasia、filariasis、toxoplasmosis
  f.Cancer
   mostly associated with minimal-change glomerulonephropa-
   thy or membranous glomerulonephritis
  g.Systemic disease
   mostly SLE
  h.Heredofamilial syndrome
   Alport's syndrome 、nail-patella syndrome、etc.
  i.Proved o rsuspected immune reactions
   ・Drugs
    gold、penicillamine、NSAID、captopril、interfelonα etc.
   ・Environmental antigens
    poison ivy、inhalational antigens、bee sting、etc.
   ・Illicit drugs
    heroin etc.

 3.ネフローゼ症候群における血液凝固亢進傾向の原因
  a.Low zymogen facters
   facter IX、facter XI
  b.Increased procoaglatory cofacters
   facter V、facter VIII
  c.Increased fibrinogen level
  d.Decreased coaglation inhibiters
   antithrombin III(but protein C and protein S increased)
  e.Altered fibrinolytic system
   α2-antiplasmin increased、plasminogen decreased
  f.Increased platelet reactivity
   ・Thrombocytosis
   ・Increased release reaction in vitro
    adenosine diphosphate、thrombin、collagen、arachidonic
    acid、epinephrine
   ・Increased facter IV and β-thromboglobuline in vitro
  g.Altered endothelial-cell function

 4.ネフローゼ症候群を呈しやすい、原発性糸球体疾患の免疫療法
  a.Minimal-change glomerulopathy
   Corticosteroids(alkilating agents、cyclosporine)
  b.Focal segmental glomerulosclerosis
   Corticosteroids(alkilating agents、cyclosporine);
   immunoabsorption
  c.Membranous glomerulonephritis
   Corticosteroids plus alkilating agents;cyclosporine







腎性糖尿について

 1.分類
  a.Marble型
   耐糖曲線正常、一日中また絶食中でも尿糖検出。家族性発症。
   近位尿細管でのグルコース輸送機構の先天的異常。
  b.Lawrence型
   耐糖曲線正常、糖負荷後のみ尿糖検出。
   糖尿病の家族歴を有する率が高く、患者本人の真正糖尿病への移行率も
   高いと言われているが、否定的な見解もある。

 2.尿糖出現閾値など
  a.健常人では濾過されたグルコースは近位尿細管で殆ど再吸収され尿中に
   は30〜130mg/日しか排泄されない。
  b.理論的尿糖量=血糖値×GFR (糸球体濾過率) −TmaxG
          (TmaxG:尿細管再吸収極量、約300mg/分)
   この式から得られる尿糖出現閾値は250〜300mg/dl 以上だが、実際に
   はsplayという現象を通じてより低い血糖値(160〜180mg/dl)から
   尿糖が出現。

 3.腎性糖尿が低血糖を引き起こすか?
  a.明確な解答は困難。
  b.グルコース/ガラクトース吸収不良症候群では低血糖を引き起こすことが
   ある。

 4.妊婦の1割程度に腎性糖尿が見られるが、機構解明は複雑。
  耐糖能異常、GFR上昇、TmaxG低下、splay部分の増大などが絡み合って
  いると考えられる。







急性腎不全の鑑別診断の指標

診断指標 腎前性 腎実質性(急性尿細管壊死)
 FENa(%) < 1 > 1
 RFI(=尿Na/(尿Cr/血清Cr)) < 1 > 1
 尿中Na濃度(mEq/L) < 20 > 40
 尿中Cr/血中Cr > 40 < 20
 尿中BUN/血中BUN > 8 < 3
 血中BUN/血中Cr > 20 < 20
 尿比重 > 1.018 < 1.012
 尿浸透圧(mOsm/kg H2O) > 500 < 350
 U/Posm > 1.5 < 1.1
 尿沈渣 硝子円柱 顆粒円柱、細胞性円柱
FENa=(尿Na*血清Cr)/(血清Na*尿Cr)×100(%)







膜性腎症について

 A.膜性腎症の病因
  1.外因性病因
   ・B型肝炎ウイルス
   ・マラリア
   ・癩
   ・溶連菌
   ・フィラリア
   ・梅毒
   ・住血吸虫
   ・薬物:カプトリル、D-ペニシラミン
   ・重金属:金、水銀
   ・有機溶剤

  2.内因性病因
   ・悪性腫瘍
   ・SLE
   ・自己免疫性甲状腺炎
   ・痛風
   ・移植腎(de novo病変)
   ・シェーグレン
   ・MCTD

  3.遺伝的要因
   ・HLA DR2、MT1(日本)
   ・HLA DR3、D8(ヨーロッパ)

 B.初診時における膜性腎症の臨床的特徴(昭和大学藤が丘病院、1998)
  a.年齢:16-78歳(49.3+-15)
  b.性別:男性60.3%
  c.発症形式
   ・chance proteinuria:67.1%
   ・浮腫:31.5%
   ・肉眼的血尿:2.7%
  d.尿蛋白量
   ・ネフローゼ症候群:69.8%(3.5〜13.3g/day、10.0g/day以上は
             13.7%)
   ・無症候性蛋白尿:30.1%
  e.血尿
   ・なし:32.9%
   ・顕微鏡的血尿:64.4%
   ・肉眼的血尿:2.7%
  f.血圧
   ・125.9+-30.5/74.9+-7.7mmHg
   ・高血圧(>145/85)は16.4%
  g.浮腫
   ・有り:34.2%
   ・無し:65.8%
  h. 腎機能(Ccr)
   ・70.0ml/min以上:84.9%
   ・70.0ml/min以下:15.1%







糸球体腎炎の基本型の特徴

病理診断名 発症年齢 尿所見 腎不全 病 態 関与する因子
1.微小変化型
  ネフローゼ
〜10代 P ネフローゼ時
数%
基底膜透過性
亢進
IgE
2.巣状分節性
  糸球体硬化症
10代 P 進行性、50% 基底膜透過性
亢進+α
IgE+IgM+α
3.膜性腎症 40〜70代 P 進行性、
10〜20%
基底膜上皮側
にIgG4沈着
IgG4
4.半月体
   形成性腎炎
50代〜 P+B 急速進行性、
約50%
基底膜の破壊 抗GBM抗体
免疫複合体
ACNA、その他
5.メサンギウム
   増殖性腎炎
20〜30代 B+(P) 緩徐に進行、
約30%
メサンギウム
増殖
IgA
(約90%がIgA腎症)
6.膜性増殖性腎炎 10〜20代 P+B 進行性、50% メサンギウム
増殖+膜二重化
IgG3
7.管内増殖性腎炎 〜10代 P+B 一時的、数% 管内に多核
白血球増加
溶連菌成分







【第10章の補遺】:癌を発見する

咽頭癌

 ※癌は殆ど扁平上皮癌
 ※違和感、長引く風邪様症状に注目
 ※咽頭癌患者は初診時、既に30〜80%に頚部リンパ節転移を認める。
 ※頚部リンパ節の取り扱い(一般に腫瘍リンパ節は比較的に硬く境界不明瞭
  で圧痛 (-))

 a.juglodigastric lymphnodes(内頚・顎二腹筋リンパ節)
  ・このリンパ節は上気道炎や扁桃炎で腫脹するcommon lymphnodesであ
   る。
  ・診察時、このリンパ節腫脹があれば入念に咽頭を診察する。
  ・鼻咽頭に炎症以外の特別な所見がなければ、咽頭の炎症所見が消退する
   まで経過観察

 b.upper deep cervical lymphnodes(上深頚リンパ節)
  ・側頚部〜後頚部リンパ節腫脹があり、扁桃に白苔が存在する時は、EBウ
   イルス感染も考慮。

 c.Rouviereリンパ節(咽頭後リンパ節、特に側方咽後リンパ節)
  頭頚部管腔癌におけるRouviereリンパ節(頭部軸位で上顎洞後部、環椎前
  部)への転移については、癌伸展の程度判定に有用なのでCTあるいはMRI
  で確認すべきである。(以下全stageを通じての転移の頻度)
  ・上咽頭癌: 80%
  ・中咽頭癌: 15%
  ・下咽頭癌: 25%
  ・口腔癌 : 3%(これらは全て進行癌)
  ・上顎癌 :4.7%(これらは全て進行癌)

 ○上咽頭癌(有病率:0.3〜0.4)
  ◇危険因子
   EBウイルスの関与、東南アジア系に多発、男:女=3:1
   30〜40歳代から発症。
  ◇症状から
   鼻閉、鼻汁(特に一側性)、耳閉感、鼻声、(頚部リンパ節腫大)
  ◇客観的所見:長引く風邪様症状
  ◇検査・血液データ・確診:鼻内および口内よりのファイバースコピー
   ※初診時頚部リンパ節転移は75%に認められる。

 ○中咽頭癌(有病率:0.4〜0.5)
  ◇危険因子
   口内の不衛生な人に多い傾向。男:女=4:1
  ◇症状から
   口狭部(中咽頭側壁)や中咽頭後壁の異物感、嚥下時の違和感
   口内炎にも注意(この時は軽度の痛みあり)
  ◇客観的所見
   肉眼で病巣観察可能。長引く風邪様症状
  ◇検査・血液データ・確診
   触診にてびらん、潰瘍、腫瘤部分周辺の硬結の有無を確認。
  ※初診時頚部リンパ節転移は40%に認められる。
  ※中咽頭側壁腫瘍は悪性リンパ腫(男:女=2:1)も考慮。

 ○下咽頭癌(有病率:0.3〜0.4)
  ◇危険因子
   喫煙、アルコール多飲。Plummer-Vinson症候群は下咽頭前癌状態で
   女性に多い。喉頭癌などに対する放射線治療後多年を経過して生じる
   radiationcancer
  ◇症状から
   咽頭喉頭違和感、咳・嚥下時違和感、軽度血痰 (唾液に血液を混じる) 。
  ◇客観的所見
   喉頭をつまみ左右に動かしてMoure症候のクリック、喉頭が下咽頭後壁
   と離れて動くかを確かめる。声帯運動の制限の有無を確認。
   梨状陥凹への唾液の貯留の有無を確かめる。
  ◇検査・血液データ・確診
   ファイバースコピーでの確認と生検。
   咽頭巻綿での下咽頭の擦過細胞診も有効。
   ※初診時頚部リンパ節転移は50%に認められる。
   ※梨状陥凹型は男性に多い(男性:74/80)
    輪状後部型は女性に多い(女性:25/26)







肺癌の発見
(「東京から肺癌をなくす会」での成績、ヘリカルCT導入前後の成績)

  導入前
(1975/9〜19 93/8)
導入後
(1993/9〜1998/4)
延べ受診者数 26338 8952
要精検者数 1331(5.1%) 814 (9.1%)
肺癌発見数 43 30
対10万比 163 335
部位別 : 肺門型 7 4
肺野型 36 26
組織型 : 腺 癌 21 19
扁平上皮癌 15 10
小細胞癌 5 1
大細胞癌 1 0
腺扁平上皮癌 1 0
病期別 : IA 18 (41.9%) 24 (80.0%)
IB 5 1
IIA 3 1
IIB 3 0
IIIA 8 2
IIIB 1 1
IV 5 1







腫瘍マーカーの臨床的意義

 1.CEA(CEA)
  (1).免疫グロブリンスーパーファミリー
  (2).本来の生理作用は不明。細胞間の接着分子
  (3).陽性
    肺癌、乳癌、大腸癌、胃癌、甲状腺髄様癌などの進行期やCEA産生細
    胞の肝転移で陽性
  (4).偽陽性
    慢性肝炎、慢性膵炎などの慢性炎症性疾患、甲状腺機能低下症、自己
    免疫疾患、閉塞性黄疸、腎不全、高齢者、喫煙者で異常高値

 2.CA19-9(CA19-9)
  (1).CA19-9は大腸癌細胞をマウスに免疫して作成したモノクローナル抗
    体NS19-9が認識するI型糖鎖抗原。
  (2).陽性
    膵癌、胆道系癌
  (3).偽陽性
    慢性肝炎、慢性膵炎、胆石症、胆嚢・胆道炎、閉塞性黄疸、糖尿病、
    慢性関節リウマチで軽度上昇
(4).日本人に約4〜10%いるフコシルトランスフェラーゼ欠いルイスA陰性
  者はルイスA糖鎖がつくれずCA19-9を産生できない。

 3.SCC(SCC)
  (1).子宮頚部扁平上皮癌から抽出された腫瘍関連抗原TA-4亜分画の一つ
  (2).陽性
    子宮頚癌、頭頚部、食道、肺、肛門などの扁平上皮癌
  (3).偽陽性
    乾癬などの皮膚疾患
  (4).治療効果判定や病状の追跡にすぐれている。特に遠隔部位の再発に敏
    感。

 4.SLX(SLX、syalyl*-i antigen)
  (1).F9 teratocarcinoma細胞を免疫原として作成したモノクローナル抗
    体が認識する胎児性抗原SSEA-1(stage specific antigen-1)を
    シアル化したもの。
  (2).陽性
    各種腺癌とくに肺腺癌、卵巣癌、膵臓癌などで高値。
  (3).偽陽性
    非癌良性疾患での偽陽性率は低く癌特異性は高い。

 5.NSE(NSE、neuron-specific enolase)
  (1).NSEは解糖系酵素エノラーゼで神経分泌細胞やAPUD-cellに存在
  (2).神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、肺小細胞癌、甲状腺髄様癌、褐色細胞
    腫瘍
  (3).NSE産生細胞の崩壊による逸脱上昇なので病期の推定が可能。
    また化学療法や放射線療法で腫瘍細胞が破壊されたときも上昇。

 6.CYFRA21-1(CYFRA21-1)
  (1).サイトケラチンは上皮細胞の骨格の中間径フィラメントを構成する蛋
    白の一種
  (2).CYFRA21-1はサイトケラチン19のフラグメントを認識する二つのモ
    ノクローナル抗体が特異的に認識する抗原
  (3).陽性
    肺、食道の扁平上皮癌
  (4).治療効果や経過観察にも有用。SCCより特異性が高い。

 7.Pro-GRP(Pro-GRP、Pro-gastrin-releasing peptide)
  (1).Pro-GRPはガストリン放出ペプチドGRPの前駆体
  (2).陽性
    肺小細胞癌に対してはNSEより特異性が高く、比較的早期から高い陽
    性率を示す。

 8.DUPAN-2(DUPAN-2)
  (1).膵腺癌培養細胞を免疫原として作成したモノクローナル抗体で、これ
    が認識する抗原は腺癌特異的
  (2).陽性
    HCC、膵臓癌、胆道癌では70%、胃癌、大腸癌では30%の陽性率。

 9.CA-50(CA-50)
  (1).大腸癌細胞株Colo-205から作成されたモノクローナル抗体C-50によ
    り認識される糖鎖抗原でCA19-9に類似
  (2).陽性
  CA19-9が陽性になる膵臓癌や胆道癌では陽性。CA19-9を作れない
  ルイス陰性者でも陽性。
  (3).偽陽性
    偽陽性率がたかい。

10.SPAN-1(SPAN-1)
  (1).ヒト大腸癌細胞株SW-1990を免疫原として作成されたモノクローナ
    ル抗体が認識する糖鎖抗原でCA-50に類似。
  (2).陽性
    膵臓癌、胆道癌、HCCで高い陽性。胃癌、大腸癌では陽性率はやや低
    い。
  (3).偽陽性
    慢性肝炎や肝硬変で偽陽性率が高い。

11.NCC-ST-439(NCC-ST-439)
  (1).ヒト胃癌癌細胞株St-4を免疫原として作成されたモノクローナル抗
    体。
  (2).陽性
    胃癌、大腸癌などの消化器癌や乳癌、肺腺癌、卵巣癌などの種々の腺
    癌で陽性
  (3).偽陽性
    偽陽性率が低くNCC-ST-439が異常高値なら悪性腫瘍が存在する可能
    性が高い。

12.CA72-4(CA72-4)
  (1).乳癌の肝転移細胞膜成分を免疫原として作成されたモノクローナル抗
    体に反応する抗原(TAG72)を免疫原として作成した第二世代のモノ
    クローナル抗体CC49の両抗体で測定される。
  (2).陽性
    卵巣癌、胃癌、大腸癌
  (3).偽陽性
    偽陽性率は低い。

13.CA15-3(CA15-3)
  (1).ヒト乳汁脂肪球上ぼ糖蛋白に対するモノクローナル抗体とヒト乳癌肝
    転移巣の膜成分に対するモノクローナル抗体を用いて認識される糖蛋
    白
  (2).陽性
    乳癌。早期診断は不可能、特に肝、胸膜への転移で効率に陽性。
    治療効果とよく相関し経過観察に有用。卵巣癌の腫瘍マーカーとして
    も用いられる。
  (3).偽陽性
    炎症性疾患、妊娠、良性乳腺疾患
  (4).再発乳癌、転移乳癌のモニタリングんいはCEAより有用

14.CA125(CA125)
  (1).卵巣漿液性嚢胞腺癌の株化細胞を免疫原として作成されたモノクロー
    ナル抗体OC125の認識される抗原。
  (2).陽性
    上皮性卵巣癌、特に漿液性嚢胞腺癌で非常に高い陽性。
    子宮内膜症のマーカーでもある。
  (3).偽陽性
    漿膜由来の抗原であるため癌性、結核性、細菌性、胆汁性など原因の
    如何を問わず腹膜炎や胸膜炎で上昇。月経周期や妊娠で左右される。

15.AFP(α-FP)
  (1).分子量約7万の糖蛋白でα-gl位に泳動される胎児性蛋白
  (2).陽性
    HCC、卵黄嚢腫瘍の診断や治療効果判定に利用
  (3).偽陽性
    肝炎、肝硬変でもわずかに上昇

16.PIVKA-II(PIVKA-II、protein induced by vitamin K abscence or
        antogonist-II)
  (1).PIVKA-IIはビタミン-K欠乏時の特異的に産生される異常プロトロン
    ビン
  (2).陽性
    HCC特異的、α-FPとの組み合わせでHCCの診断率は上昇
  (3).注意
    閉塞性黄疸や肝内胆汁鬱滞併発症例で増加しヴィタミンK投与やワー
    ファリン投与で減少するので注意

17.PAP(PAP、prostatic acid phosphatase)
  (1).前立腺癌の診断、スクリーニング、治療効果判定、病勢把握に利用

18.PSA(PA、PSA、prostaticspecific antigeen)、γ-Sm
  (1).精巣と前立腺に特異的な抗原として分離されたカリクレイン様の糖蛋
    白
  (2).陽性
    前立腺癌。診断、経過観察、再発診断に利用
  (3).注意
    アンドロゲン除去療法の患者では、効果に関係なく下がることがあ
    る。
  (4).偽陽性
    前立腺肥大
  (5).γ-SmはPSAと同一蛋白で抗γ-Sm抗体は遊離型PSAのみを認識

19.β-HCG(β-HCG)
  (1).ヒト胎盤性ゴナドトロピンは糖蛋白ホルモンでα、βサブユニットか
    らなりβ-HCGがHCGの特徴部分
  (2).陽性
    妊婦、栄養膜腫瘍(胞状奇胎、絨毛癌など)、精巣腫瘍(非セミノー
    マ性腫瘍では60%以上の高値、セミノーマ性腫瘍では陽性率は低い)
    絨毛癌で100%、胎児性癌や奇形癌では60%程度の陽性。
  (3).極めて鋭敏な腫瘍マーカーで治療効果、再発のモニタリングに有用。

20.ICTP(ICTP、pyridinoline cross-linked carboxyterminal telo-
     peptide of type I procollagen)
  (1).type I collagenは骨組織の90%以上を占める蛋白でICTPは骨吸収の
    際、コラーゲンが破壊され血液中に放出される。
  (2).骨転移マーカーのうち骨吸収マーカーとして新しく注目
  (3).陽性
    乳癌の骨転移マーカー

21.BFP(BFP、basic fetoprotein)
  (1).γ-gl分画に泳動される癌関連胎児性蛋白。
  (2).臓器特異性は低いがBFPは消化器癌をはじめ種々の癌組織中に存在す
    るため腫瘍マーカーとしては全体を見通せる位置に属する
  (3).陽性
    他の腫瘍マーカーより早期に検出、精巣や卵巣の早期癌での陽性率は
    50%。
    尿BFPは尿管癌や膀胱癌など尿路上皮の癌のスクリーニングに有用
  (4).偽陽性
    慢性肝炎(血清BFP)、膀胱炎(尿BFP)

22.シリアルTn抗原(STN、STN)
  (1).ムチン型糖鎖に属する癌関連性糖鎖抗原
  (2).陽性
    卵巣癌、胃癌、大腸癌、膵臓癌などの消化器癌で認められる。
    陽性患者は陰性患者と比較して予後不良の傾向
  (3).偽陽性
    良性疾患での偽陽性率は高くないが、肺結核など呼吸器系良性疾患で
    は陽性率は低いもののかなり高値を示す症例がある。

23.TPA(TPA、tissue polypeptide antigen)
  (1).種々の悪性腫瘍の細胞膜や細胞質内小胞体に存在する共通抗原として
    見いだされた。サイトケラチンに類似。
  (2).陽性
    非特異的腫瘍マーカーで肺癌、消化器癌、乳癌のマーカー尿中TPAは
    乳癌、肺癌、胃癌、大腸癌などでも上昇
  (3).臓器特異性に乏しいが、腫瘍量や病勢、病期と関連して増減するため
    治療効果のモニタリングや経過観察に有用

24.IAP(IAP、immunosuppressive acidic protein)
  (1).IAPは癌患者の腹水や血清中に見いだされる糖蛋白。
  (2).IAPは肝細胞、マクロファージ、顆粒球で産生され免疫機能を低下さ
    せる。
  (3).種々の癌の進行度や深達度、腫瘍の大きさと相関、転移や再発でも大
    きく増加、変動。
  (4).宿主の免疫能の指標としても有効。







各臓器における有用な腫瘍マーカー

  食道 大腸 卵巣 子宮 精巣 前立腺 膀胱
CEA      
CA19-9              
DUPAN-2                    
SPAN-1                    
CA-50                    
NCC-ST-439          
CA72-4              
SCC                    
NSE                        
SLX                  
Pro-GRF                        
CA125                  
  食道 大腸 卵巣 子宮 精巣 前立腺 膀胱
CA15-3                        
CYFRA21-1                    
PAP                        
PSA or γ-Sm                        
AFP                      
PIVKA-II                        
ICTP                        
β-HCG                        
STN                  
BFP        
TPA  
IAP            
  食道 大腸 卵巣 子宮 精巣 前立腺 膀胱