注意欠陥多動性障害(ADHD)の行動の特徴(共済エグザミナー通信 2003;13号,P25)
  1. 注意欠陥
     ・最後までやれない
     ●いうことを聞いてない
     ●すぐに気が散る
     ・遊んでいてすぐに飽きる
  2. 衝動性
     ・よく無思慮に行動する
     ●すぐに他のことに気が移る
     ・順序だてて行なえない
     ・つきっきりの指導が必要
     ・順番を待てない
  3. 多動性
     ・走り回ったり高いところにのぼる
     ●しずかに座っていられない
     ●動き回る(いつもモーターで動かされているかのように動き回る)
  4. 友人関係
     ・すぐにぶったりけんかする
     ・他の子から嫌われている
     ・他の子の邪魔をよくする
     ●他人に命令ばかりする
     ・他の子どもをよくいじめる
     ・集団の遊びに参加しない
     ・すぐにかんしゃくを起こす
  (鳥越注:●印はこの研究において頻度の高かった行動)







エネルギー消費量の算出式(NIS、No.4141(2003/9/6)、p12)
(1) Fick:Liggett SB,et al:Chest 91:562,1987.
    REE = CO × HgB ×(SaO2 ー SvO2)× 95.18
          CO:心拍出量(L/分)、HgB:ヘモグロビン(g/dl)
           SaO2:動脈内酸素飽和度(%)、SvO2:静脈内酸素飽和度(%)
(2) Harris Benedict:Harris JA、Benedict FG:Biometric Studies of Basal
              Metabolism in Man,Publication 270,Carnegie Institution
              of Washington,Washington DC,1919.
   男性: 66.47 + 13.75(W)+ 5.00(H)− 6.75(A)
   女性:655.09 +  9.56(W)+ 1.85(H)− 4.68(A)
          W:体重(kg)、H:身長(cm)、A:年齢
(3) Ireton-Jones:Ireton-Jones CS,et al:J Burn Care Rehabil 13:330,1992.
   自発呼吸患者REE   = 629 − 11(A)+ 25(W)− 609(O)
   人工呼吸器患者REE = 1.725 − 11(A)+5(W)+ 244(G)+ 239(T)
                        + 804(B)
          A:年齢、W:体重(kg)、O:肥満(>IBW + 30%)の有無(肥満あり:1、
           肥満なし:0)、G:性別(男性:1、女性:0)、T:外傷の有無(有:1、
           無:0)、B:熱傷の有無(有:1、無:0)
(4) Swinamer:この文献は意味不明、下記参照のこと
          Swinamer DL,et al:Crit Care Med 18:657,1990.
(5) Frankenfield:この文献は意味不明、下記参照のこと
           Frankenfield DC,et al:JPEN 18:398,1994.







転倒ハイリスク者発見のための問診表
    ※ 転倒の既往が多いとADLや意欲の低下を来す傾向にある。
       (鳥羽研二ら、厚労省痴呆・骨折分野研究. Medical Tribune 2004.2.19より)
       ●印は”転倒リスク”と有意に関連(△印は有意でない)
    ------------------------------------------------------------------------
   1) 過去1年に転んだことがありますか(はい、いいえ)
      はい の場合の転倒回数(  回/年)
 ● 2) つまずくことがありますか(はい、いいえ)
 △ 3) 手すりにつかまらず、階段の昇り降りができますか(はい、いいえ)
    4) 歩く速度が遅くなってきましたか(はい、いいえ)
 ● 5) 横断歩道を青のうちに渡り切れますか(はい、いいえ)
    6) 1kmくらい続けて歩けますか(はい、いいえ)
    7) 片足で5秒くらい立っていられますか(はい、いいえ)
 ● 8) 杖を使っていますか(はい、いいえ)
    9) タオルを固く絞れますか(はい、いいえ)
 ●10) めまい、ふらつきがありますか(はい、いいえ)
   11) 背中が丸くなってきましたか(はい、いいえ)
 △12) 膝が痛みますか(はい、いいえ)
   13) 目が見にくいですか(はい、いいえ)
 △14) 耳が聞こえにくいですか(はい、いいえ)
 △15) 物忘れが気になりますか(はい、いいえ)
   16) 転ばないかと不安になりますか(はい、いいえ)
 △17) 毎日お薬を5種類以上飲んでいますか(はい、いいえ)
   18) 家のなかで歩くとき暗く感じますか(はい、いいえ)
 ●19) 廊下、居間、玄関によけて通るものがおいてありますか(はい、いいえ)
   20) 家のなかに段差がありますか(はい、いいえ)
   21) 階段を使わなくてはなりませんか(はい、いいえ)
   22) 生活上家の近くの急な坂道を歩きますか(はい、いいえ)
    ------------------------------------------------------------------------
    ※ 参考
      a. やせているもの、認知機能が低下した者は入院時のADLが低く退院時は悪化
      b. 寝たきり要因:年齢、女性、コミュニケーション障害、転倒、脳血管障害
                 抑うつ傾向、膝関節疾患。(とくに転倒を繰り返すほど有意
                 にADL低下、意欲低下を来す)







過活動膀胱について(本間之夫.日医雑誌 2004;131:774-775)
 1. はじめに
      排尿に関する症状の代表的なものは尿失禁で、主に腹庄性尿失禁と切迫性
     尿失禁の2つのタイプに分けられる。腹圧性尿失禁とは中高年女性に多い「お
     腹に力が入った拍子に漏れる」という症状で、切迫性尿失禁とは男女を問わ
     ず高齢者に多い「我慢できなくて漏れる」という症状である。一般には、切
     迫性尿失禁のほうが症状が重く、合わせて「漏れそうになる」、「トイレが
     近い」といった関連症状もある。また、尿失禁がなくても、このような関連
     症状が問題となっている場合もある。そこで、切迫性尿失禁とその関連症状
     をまとめる疾患概念が必要ではないかという考え方が出てきた。それに対応
     するのが、過活動膀胱である。
 2. 過活動膀胱とは
      過活動膀胱とは、尿意切迫感・頻尿・切迫性尿失禁の症状で構成される症
     状症候群を呈する病的状態である。症状症候群の構成では、尿意切迫感が必
     須で、通常は頻尿を伴い、切迫性尿失禁はあってもなくてもよい。ただし、
     同様な症状を来す局所の疾患(後述)は除外されなくてはならない。つまり、
     過活動膀胱とは、尿意切迫感・頻尿・切迫性尿失禁などの症状症候群を呈す
     る機能性疾患である。
 3. 疫学
      平成14年11月、日本排尿機能学会では、対象集団として、わが国の40歳以
     上の男女を約1万人無作為抽出し、郵送による疫学調査を行った。回収率は約
     45%であった。過活動膀胱の定義を「週1回以上の頻度で尿意切迫感がある」、
     「1日の排尿回数が8回以上ある」の2つの条件を共に満たすとすると、12.4%
     が過活動膀胱とされた。「切迫性尿失禁が週1回以上ある」のは6.4%、ないの
     が6.0%であった。実数でいうと、日本の40歳以上の男女で、過活動膀胱は810
     万人おり、そのうち420万人は切迫性尿失禁が週1回以上あり、390万人はない
     ことが分かった。このような大きな数字は、過活動膀胱はいわゆるcommon
      diseaseの1つであることを意味するものである。
      年齢別では、加齢によって頻度は著しく上昇し、40歳代では5%ぐらいであ
     るが、80歳以上では35%である。有病率12.4%は、欧州や米国の調査における
     有病率16.7%にほぼ匹敵する値である。ただし、受診率は22.7%にとどまり、
     受診者のうち泌尿器科医の受診率は男性が86.5%、女性は60.0%にすぎなかっ
     た。
 4. 病態
      過活動膀胱の病態は排尿筋過活動とされる。すなわち、蓄尿期における本
     人の意思によらない膀胱平滑筋(排尿筋)の収縮である。そのために、膀胱
     容量が低下したり尿失禁になったりする。排尿筋過活動が起こる原因には、
     脳梗塞、パーキンソン病、脊髄損傷などの神経疾患による膀胱の神経系の障
     害(神経因性排尿筋過活動)があるが、原因不明のことも多い。原因不明も
     含めて過活動膀胱は高齢者で頻度が高いことから、加齢と関係のある膀胱ま
     たはその支配神経系の異常が想定され、研究が進んでいる。
 5. 症状・QOL
      過活動膀胱の最も特徴的な症状は尿意切迫感である。これは、「急に尿意
     が起こり、我慢が難しい」という感覚とされる。切迫性尿失禁とは、尿意切
     迫感が先行した、または同時に起こる尿の漏れをいう。これに頻尿が加わり、
     過活動膀胱患者は、
      ・外出が制限される
      ・バス旅行に行けない
      ・劇場では座席が通路側でないと困る
      ・知らない場所ではトイレの位置に神経質になる
      ・用心にパッドを当てるので衣服の制限がある
      ・こんな自分が情けない
      ・気分が憂うつで乗らない
      ・睡眠が十分とれない
     などといった問題を抱えている。
      疾患特異的なQOL評価尺度であるOAB-q(coyne K,Revicki D,Hunt T,et al:
      Psychometric validation of an overactive bladder symptom and
      health-related quality of life questiomaire:the OAB-q.Qual Life
      Res 2002;11:563−574)、尿失禁のQOL尺度で日本人の過活動膀胱患者に
     おいて妥当性が確認されたキング健康調査票、または全般的健康尺度である
      SF36などを用いた研究で、多くの領域でQOLが低下することが知られている。
 6. 診断
      診断は症状から可能で容易であるが、同様な症状を起こす疾患の除外診断が
     重要である。除外が必要な疾患としては、下部尿路の炎症・感染(細菌性膀胱
     炎、問質性膀胱炎、尿道炎、前立腺炎など)、下部尿路の悪性新生物(膀胱癌、
     前立腺癌など)、尿路結石(膀胱結石、尿道結石など)、腹圧性尿失禁、多尿
     などがあげられる。重大な疾患も含まれているので、疑問があるときは泌尿器
     科専門医の受診が望ましい。
 7. 治療
      治療の中心は薬物療法で、抗コリン薬が主体である。神経終末から放出され
     るアセチルコリンの作用を阻害し、排尿筋の収縮を抑え、排尿筋過活動も抑え
     ることが期待される。膀胱に特異性の高い薬剤が開発されて、効果はかなり高
     い。副作用は口内乾燥や便秘が多いが、注意すべきは排尿困難と尿閉である。
     特に前立腺肥大症の好発する中高年男性では注意が必要である。薬以外では、
     排尿間隔を少しずつ延ばす膀胱訓練や、骨盤底の筋肉を収縮させる骨盤底筋訓
     練などがあるが、これらの治療は単独では高い効果は得にくい。
 8. おわりに
      過活動膀胱は高齢者に多いQOL疾患で、健康な高齢化を進めようとする社会
     の要請に応じて、今後は、ますますその重要性が高まるであろう。診断時には
     重大な疾患を鑑別する必要があるが、治療・管理は比較的容易である。その意
     味では、泌尿器科専門医とかかりつけ医とが病診連携を組みやすい疾患の1つ
     ともいえよう。







過活動膀胱の原因(NIS 2004;4192:24)
    1. 神経因性
        1)脳幹部橋より上位の中枢の障害
           脳血管障害、パーキンソン病、多系統萎縮症、痴呆
             脳腫瘍、脳外傷、脳炎、髄膜炎
        2)脊髄の障害
           脊髄損傷、多発性硬化症、脊髄小脳変性症、脊髄腫瘍
             頚椎症、後縦靭帯骨化症、脊柱管狭窄症、脊髄血管障害
             脊髄炎、二分脊推
   2. 非神経因性
        1)下部尿路閉塞
        2)加齢
        3)骨盤底の脆弱化
        4)特発性







外傷性記憶の特性(中井久夫『兆候・記憶・外傷』みすず書房,pp.161-162,2004)
    ※2.5歳から3.5歳前後までの幼児的記憶の特性は以下の外傷性記憶の特徴とすべて
      一致する。

 (1)静止的あるいはほぼ静止的映像で一般に異様に鮮明であるが、
 (2)その文脈(前後関係、時間的・空間的定位)が不明であり、
 (3)鮮明性と対照的に言語化が困難であり、
 (4)時間に抵抗して変造加工がなく(生涯を通じてほとんど変わらず)、
 (5)夢においても加工(置き換え、象徴化なく)されずそのまま出現し(通常の夢
      が睡眠のレム期に出現するのに対して外傷夢はノンレム期であるという研究が
      ある)、
 (6)反復出現し、
 (7)感覚性が強い。状況の記述や解釈を伴う場合は事後的、特に周囲、写真、日記、
      新聞記事などの外的示唆によることが多い。
 (8)視覚映像が多いが、1995年1月の払暁震災のように振動感覚の場合もあり、全感
      覚が記憶に参与しうる。聴覚の場合、微妙な鑑別が必要となる。
 (9)何年経っても何かのきっかけによって(よらないこともある)昨日のごとく再現
      され、かつしばしば当時の情動が鮮明に現れる。これを身体外傷と比較すれば、
      ヴァレリーのいうとおり、体の傷は癒えても心の傷は癒えないということにな
      る。これは脳の一つの特性であろう。
(10)過去の追想につきものの「時間の霞」がかかるどころか、しばしば原記憶よりも
      映像の鮮明化や随伴情動の増強が見られる。

   このような記憶を他に求めれば、一つは覚醒剤中毒者が断薬後、数十年を経て、
  少量の覚醒剤によって、時には単にストレッサーによって過去の記憶がまざまざと
  (しばしば増強されて)ただちに出現する場合である。すなわち、脳はそういう働
  きを秘めているのである。証言心理学において、記憶を何もかも一緒にしてその曖
  昧さを強調するのは間違いである。







アスペルガー障害(Asperger's syndrome)の診断基準(DSM-IV*より)
                               (参考資料:『カプラン臨床精神医学テキスト』)
  A. 以下のうち少なくとも二つにより示される対人的相互作用の質的な障害。
       1. 目と目で見つめ合う、顔の表情、体の姿勢、身ぶりなど、対人的相互反応を
         調節する多彩な非言語性行動の著名な障害。
       2. 発達の水準に相応した仲間関係をつくることの失敗。
       3. 楽しみ、興味、成し遂げたものを他人と共有すること(例えば、他の人たち
         に興味のあるものを見せる、持ってくる、指さす)を自発的に求めることの欠如
       4. 対人的または情緒的相互性の欠如。
  B. 行動、興味および活動の、限定され反復性で常同的な様式で、以下の少なくと
     も一つによって明らかになる。(鳥越注:異常なこだわり)
       1. その強度または対象において異常なほど、常同的で限定された型の一つまた
         はそれ以上の興味だけに集中すること。
       2. 特定の、機能的でない習慣や儀式にかたくなにこだわるのが明らかである。
       3. 常同的で反復的な衒奇的運動(例えば、手や指をパタパタさせたりねじ曲げ
         る、または複雑な全身の動き)。
       4. 物体の一部に持続的に熱中する。
  C. その障害は社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の臨床的に著
     しい障害を引き起こしている。
  D. 臨床的に著しい言語の遅れがない(例えば、2歳までに単語を用い、3歳までに
     意思伝達的な句を用いる)。
  E. 認知の発達、年齢に相応した自己管理能力、(対人関係以外の)適応行動およ
    び小児期における環境への好奇心などについて明らかな遅れがない。
  F. 他の特定の広汎性発達障害または分裂病の基準を満たさない。
         (井上敏明『アスペルガーの子どもたち』第三文明社、pp.84-86、2004)
      *DSM-IV:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders







注意欠陥/多動性障害(Attention deficit/Hyperactivity disorder、ADHD)
                               (参考資料:『カプラン臨床精神医学テキスト』)
 A.(1)か(2)のどちらか…。
  (1)以下の不注意の症状のうち6つ(またはそれ以上)が、少なくとも6か月以
     上続いたことがあり、その程度は不適応的で、発達の水準に相応しないもの。
      ●不注意
        (a)学業、仕事、またはその他の活動において、しばしば綿密に注意する
          ことができない、または不注意な過ちをおかす。
        (b)課題または遊びの活動で注意を持続することがしばしば困難である。
        (c)直接話しかけられた時にしばしば聞いていないようにみえる。
        (d)しばしば指示に従えず、学業、用事、または職場での義務をやり遂げ
         ることができない(反抗的な行勤または指示を理解できないためでは
         なく)。
       (e)課題や活動を順序立てることがしばしば困難である。
       (f)(学業や宿題のような)精神的努力の持続を要する課題に従事するこ
         とをしばしば避ける、嫌う、またはいやいや行う。
       (g)(例えばおもちゃ、学校の宿題、鉛筆、本、遊具など)課題や活動に
         必要なものをしばしばなくす。
       (h)しばしば外からの刺激によって容易に注意をそらされる。
       (i)しばしば毎日の活動を忘れてしまう。
  (2)以下の多動性−衝動性の症状のうち6つ(またはそれ以上)が、少なくとも
      6か月以上持続したことがあり、その程度は不適応的で、発達水準に相応しない。
      ●多動性
        (a)しばしば手足をそわそわと動かし、またはいすの上でもじもじする。
        (b)しばしば教室や、その他、座っていることを要求される状況で席を離
          れる。
        (c)しばしば、不適切な状況で、余計に走り回ったり高いところへ上った
          りする(青年または成人では落ち着かない感じの自覚のみに限られる
          かもしれない)。
        (d)しばしば静かに遊んだり余暇活動につくことができない。
        (e)しばしば「じっとしていない」またはまるで「エンジンで動かされる
          ように」行動する。
        (f)しばしばしゃべりすぎる。
      ●衝動性
        (g)しばしば質問が終わる前にだし抜けに答えてしまう。
        (h)しばしば順番を待つことが困難である。
        (i)しばしば他人を妨害し、邪魔する(例えば、会話やゲームに干渉する)
 B. 多動性−衝動性または不注意の症状のいくつかが7歳未満に存在し、障害を引き
    起こしている。
 C. これらの症状による障害が2つ以上の状況において(例えば、学校[または仕事]
    と家庭)存在する。
 D. 社会的、学業的または職業的機能において、臨床的に著しい障害が存在するとい
    う明確な証拠が存在しなければならない。
 E. その症状は広汎性発達障害、精神分裂病、またはその他の精神病性障害の経過中
    にのみ起こるものではなく、他の精神疾患(例えば、気分障害、不安障害、解離
    性障害、または人格障害)ではうまく説明されない。
        (井上敏明『アスペルガーの子どもたち』第三文明社、pp.123-126、2004)







長寿と摂取カロリー制限(NIS 2004;4183(H16/6/26),pp.95-96)
  1900年代初頭、癌研究者たちは、マウスやラットを低栄養状態にすると腫瘍の増
  大が抑制されることに気づいていた。1930年代に入り、米国コーネル大学のMcCayら
  が、ラットの摂食を成長期から長期間制限すると寿命が延長することを明らかにし
  た。これらがカロリー制限による老化制御に関する研究の始まりとなった。
   その後、ラットやマウスを自由に摂食させた場合に比べ、20〜50%程度(強度の飢
  餓や栄養失調などが生じない程度)摂食量を制限すると、老齢期に引き起こされる
  さまざまな老化現象や疾患が遅延または抑制され、寿命が延長することが多くの研
  究グループによって実証されてきた。
   これまでの研究は、食餌成分の中で蛋白質や脂肪、ミネラルなどの特異的な成分
  の制限ではなく、摂食カロリーの制限が本質的であること(よって、近年はカロリ
  ー制限と呼ばれることが多い)、性成熟期以後に摂食カロリーを制限しても(つま
  り成長を遅延することなく)寿命は延長すること、代謝率(酸素消費量)の単純な
  低下がそのメカニズムではないことなどを明らかにしてきた。
   ラットやマウスばかりではなく、酵母や線虫、ショウジョウバエなどの無脊推動
  物から大型哺乳類であるイヌまで、寿命が延長されることも示された。さらに、霊
  長類における効果を検討するために、1980年代後半から米国において、サルを用い
  た研究が進んでいる。中間報告では、多くの老化のバイオマーカーにおいて、げっ
  歯類と類似した変化が示された。
   このように単純な動物から哺乳類まで、類似した効果が得られることは、カロリ
  ー制限に対する反応が進化の過程で保存されてきたこと、つまり多様な老化現象を
  示す動物において老化や寿命を制御する普遍的なメカニズムが存在することを示唆
  している。
   食物量が変動しやすい野生の環境下では、動物は食物資源が減少した場合、自身
  の個体維持と生存のために摂取エネルギーを使い、生殖や成長機能などは停止させ
  る。食物資源が豊富になった時点で、摂取したエネルギーを生殖や成長などの生理
  機能へ用いる。このように動物は環境中の食物資源の変動に迅速に対応するシステ
  ムを持たなければ、種の存続は困難であったと考えられる。カロリー制限はこのよ
  うな適応機構を実験室において誘導し、結果的に個体の生存を最適化すると考えら
  れている。
    個体の維持と生存を増強する機構として、細胞の置換(細胞回転)、創傷治癒、
  DNA修復、高分子の精密な合成、欠陥のある蛋白質の分解、解毒、活性酸素の除去、
  免疫能、体温の制御などが挙げられている。実際にこの20年間の研究においてカロ
  リー制限がこれらを制御することが明らかにされてきた。
   近年、カロリー制限の抗老化機構の基盤として、エネルギー代謝の変化とストレ
  ス応答が注目されている。しかし、現時点では、カロリー制限の普遍的なメカニズ
  ムを説明するには至っていない。例えば、エネルギー産生に伴う酸化的ストレスは、
  細胞構成成分を直接傷害すること、および細胞内の酸化還元状態の偏椅に伴う遺伝
  子発現の変化を通して、老化を促進すると考えられている。カロリー制限は酸化ス
  トレスを減弱するが、カロリー制限が細胞内の酸化ストレスをどのように制御して
  いるのか、その分子機構は不明である。
   最近、カロリー制限動物の代謝の特徴(低体温、血中低インスリン濃度、血中高
  デヒドロエピアンドロステロン濃度)を示すヒトは長命であることも報告された)。
  ヒトの摂食量を長期間制限することは困難であるが、カロリー制限の分子機構が明
  らかになれば、カロリー制限を模倣する方法や薬剤を開発し、摂食量は減らさなく
  てもヒトの老化を制御できる時代がくるかもしれない。
                              (長崎大大学院病態解析・制御学教授  下川功)







人格障害の全般的診断基準
 A. その人の属する文化から期待されるものより著しく偏った、内的体験および行動
    の持続的様式。この様式は以下の領域の二つ(またはそれ以上)の領域に表れる。
     1. 認知(つまり、自己、他者、および出来事を知覚し解釈する仕方)
     2. 感情性(つまり、情動反応の範囲、強さ、不安定性、および適切さ)
     3. 対人関係機能
     4. 衝動の制御
 B. その持続的様式は柔軟性がなく、個人的および社会的状況の幅広い範囲に広がっ
    ている。
 C. その持続的様式が、臨床的に著しい苦痛または、社会的、職業的、または他の
    重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
 D. その様式は安定し、長期間続いており、その始まりは少なくとも青年期または
    成人期早期にまでさかのぽることができる。
 E. その持続的様式は、他の精神疾患の現れ、またはその結果ではうまく説明されない。
 F. その持続的様式は、物質(例:乱用薬物、投薬)または一般身体疾患(例:頭部
    外傷)の直接的な生理学的作用によるものではない。
    (米国精神医学会編『DSM-IV 精神疾患の分類と診断の手引』高橋三郎ほか訳、







人格障害のタイプ (岡田尊司『人格障害の時代』平凡社新書より要約)
  (米国精神医学会編『DSM-IV』(精神疾患の診断と統計のためのマニュアル)より)
  ● A群人格障害:オッド・タイプ(風変わり)。非現実的思考に囚われやすい。
     適材適所型、自我不安定で適応不全から統合失調症に移行しやすい。
       1. 妄想性人格障害:信じられない病。オセロー的。
              第一印象はいい。ストーカー行為。エネルギッシュ。政治的・宗教的
            カリスマ。被害者だと思い加害的行動をする。個人的なことに関する極
            端な秘密主義と改ざん・改名。特有のこだわり・強硬さ。
            (「秩序愛」:律儀、責任感が強く、きちんとしているゆえに強い支配欲求をもつ)
       2. 統合失調質人格障害(シゾイド):無欲で孤独な人生
              非常に傷つき易く、脆い自分の世界を自閉という手段で守っている。
            恋愛や性交渉は自己を破壊しかねない危険をはらむ。性的欲望や関心自
            体も淡白。基礎的研究・プログラマに向く。
       3. 統合失調型人格障害(スキゾタイパル)
              マイペース。常識などおかまいなしに行動、誰の支配も受けない。い
            つも考えが際限なく沸き上がり溢れ勝手に連鎖し時には自分の思考と対
            話する。現実はおろそかになる。その人の言論や行動は客観的には不可
            解。高度な創造性やインスピレーションをもつ。些細な現象にも過剰な
            意味を感じ取る(関係妄想・被害妄想)。
  ● B群人格障害:ドラマチック・タイプ(演技的)。華やか・衝動性・自己顕示・
            対人操作性。もっとも「人格障害」的。養育環境依存性で愛情や保護の不足
            が遺伝的傾向に加えて引きがねになっている。
              自己愛の傷つきを生み、基本的信頼感が損なわれており、変動の多い対人
            関係を持つ。
       4. 境界性人格障害:精神病と神経症の境界状態。自己中心的性格と行動。
              情緒面や対人関係の変動の激しさと周囲に対する操作的態度を最大の
            特徴とする。そううつ病のように長いスパンで変動するのではなく、も
            っと短いスパンで喜怒哀楽が変動。これは気分だけでなく対人関係にも
            及ぶ(中間の思考困難のため「あれかこれか」を選択する)。
              愛情や関心を得ようと行動化(重要!:外界に対する能動的働きかけ)
            することによって周囲をコントロールする。(周囲のものは腫れ物に触
            るように接することになる)。
              重症になるほど自己観が劣悪で「自分は存在しないほうがいいもの」
            とさえ考えている(根底に深い空虚感を抱えている)。
              親や保護すべき立場のものが間違った扱いをして育てたことに由来す
            る。虐待ばかりでなく親の子育て上のいい加減さ、無関心のため基本的
            な安心感が培われなかった状態にある。
              境界性人格障害の人にとっては「今」この瞬間の「自分」がすべてな
            のである(実存主義的価値観)。
       5. 反社会性人格障害:冷酷なプレディター。テーマは「復讐」。
            良心の呵責なく、人を騙し、裏切り、傷つけ、搾取しながら「復讐」
            を遂げている。何代にもわたる怒りと暴力の歴史を背負う。
       6. 自己愛性人格障害:賞賛以外はいらない。自信満々な態度と裏腹に傷つき
            易い脆い部分を抱えている。
            自分は優れているとおもう。傲慢で、要求がましい態度。周りの人は
            単なる取り巻き。非難されると切り捨てる。他人は利用価値あるのみ。
            父親不在の状況がエディプス・コンプレックス(男児が無意識のうち
             に同性の父親を憎み、母親の愛を独占しようとする思い)形成以前の状
            態に固着(サルトル)させるのかもしれない。
              プライドを傷つけられるのが嫌で引きこもる場合もある。
              自分の健康に過度に心配する。不安、パニック、抑うつを起こす。
       7. 演技性人格障害:マドンナ
              失われた親の愛を性的な誘惑によって取り戻したいという願望。
              嘘で塗り固めた虚栄人生。「性」は重要なテーマ。
  ● C群人格障害:アンクシャス・タイプ(不安の強い傾向)。神経質・穏やかで、
            一見人格障害にはみえない。人格障害は軽度、神経症レベルに近い。自己
            の本心をないがしろにして他者本位傾向。養育上の過保護、過度の支配、
            過度の否定によって主体性や自尊心が十分育たなかった。
            いじめられ易い。恥をかきやすい。不安を感じやすい。
            「いい人」「控えめ」な性格が災いして、引きこもり、うつ病、心身症、
            パニック障害を起こし易くなっている。
       8. 回避性人格障害
              失敗や傷つくことを恐れる余り、行動や決断をさける。人の評価や
            反応に敏感。「どうせ自分は駄目なので」「嫌われても仕方ない」など
            と考えせっかくのチャンスを逃す。
              親から褒められた事がなく否定的見方をされて育てられた人に多い。
              最近では、本人が望まないことを押しつけられて、主体性が損なわれ
            ることがあり、「やらされすぎ」が負担の加重を避けさせる傾向。
              引きこもり、恥ずかしがりや、喜怒哀楽の振幅が小さい。
              無気力、不安に苛まれながら引きこもる。
       9. 強迫性人格障害:執着気質(環境の変化に耐えられない)
           -->鬱病・適応障害を起こしやすい。
              物ごとには決められた秩序があり、その通りにすることが最良だと思
            っている。生活自体を楽しむより、秩序ややり方を維持することに注意
            とエネルギーを注ぐ。何事にもパーフェクトを目指す頑張り屋。
              絶えず何かをしてないと気が済まなくて次第に苦行の様相を帯びる。
              自分のやり方に強いこだわりがあって、やりかたの違う人としばしば
            衝突する。
            「善人過ぎる」「堅物」「律儀」「きまじめ」「責任感がつよい」とし
            て他人からは敬遠される傾向あり、しかもそれを家族や周囲にも要求す
            る。子どもはのびのびできなくて、子育てのやりかたが客観的に虐待の
            ようにみえることがある。
      10. 依存性人格障害:本来は気弱で優しい。断るのが苦手(--->ローン地獄)。
              自分は無力であり、他者に頼らないと生きられないと思っている。
              相手に認めてもらうため、あるいは嫌われないために自分にとって明
            らかに不利益なこと、望んでないことをしてしまう。
              過保護な養育により親からの分離・独立が損なわれている。
              自己愛的で横暴な親の機嫌や顔色をうかがいつつ子ども時代を過ごし
            てきたという背景がある。
              一人ではおとなしいが集団の非行に簡単にひきずられる。







人格障害と摂食障害の関係(岡田尊司『人格障害の時代』平凡社新書.p124-125)
    摂食障害も近年急増した精神障害の一つである。急増の時代的背景には、家庭の
  機能不全と、スリムな体形を礼賛する風潮の二つを挙げることができる。前者には、
  核家族化、父親の希薄化と母子密着、母性的でない母親の養育態度などが関わって
  いるし、後者の風潮は、成熟やその先にある老化を拒否する、ナルシスティックな
  美意識を読み取ることができる。
    実際、今の世の中は、いつまでも変わらず若々しくいることに、非常に重きをお
  いている。七十になっても、若い娘のような女優が存在し、社会は彼女に畏敬の念
  を抱くという現実は、今日の健康ブーム、美容整形の繁盛などとともに、現代社会
  の自己愛性を表している。
    娘と同じ格好をし、娘と姉妹のように話せると自慢する人がいるが、そうした行
  動の裏には、自分も「オバサン」ではなく、娘でいたいという思いがある。そこに
  は、いつまでも主役でいたいというナルシスティックな願望がある。
   老いを潔く受け入れるのではなく、あくまでも、若いときのままの姿を保つこと
  に、大きな価値をおく社会。それは、ユートピアのようで、どこか不自然な作り物
  の匂いがする。ここにも、現代社会の「操作性」信仰とテクノ万能感が見てとれる。
  ある意味、摂食障害とは、体重や食べるという自然現象をコントロールしょうとし
  て、迷路にはまった状態ともいえるのである。
   摂食障害には、いくつかタイプがある。食べることを拒否する拒食症(アノレク
  シア,anorexia)と、過度に食べることに執着する過食症(ブリミア,bulimia)であ
  る。同じ摂食障害でも、拒食症と過食症は、まったく別の病気と考えてもいいくら
  い、その特徴や印象は違っている。
   過食症は、母性的な愛情に対する飢餓との関係が深く、境界性人格障害、演技性
  人格障害の合併が多い。母性的な愛情への欲求を、食べるという代理行為で満たし
  ているというのは、単なる言葉の綾や喩えではない。まさに、食べる行為が、乳房
  を口に含む行為の代理なのだということを、重度の過食症の少女たちと接している
  と感じる。ある境界性人格障害のケースでは、母親が亡くなった後、泣きながら一
  日中食べ続け、満腹になると少し安心して眠るという状態が見られた。見捨てられ
  不安が強まると、過食が悪化することはよく経験する。
    一方、拒食症では、強迫性人格障害、回避性・依存性人格障害の合併が多い。本
  人だけでなく、親の強迫パーソナリティが、発症の危険因子となるともいわれてい
  る。
   摂食障害の増加は、母子密着と愛情飢餓が並存するこの社会の自己愛障害的な特
  性を示す重要な徴候であるとともに、生理現象をコントロールしようとする現代文
  明の病理が生み出した
  副産物ともいえる。







高機能自閉症の判断基準(日医雑誌 2004;132:501)
   1. 知的発達の遅れが認められないこと。
   2. 以下の項目に多く該当する。
    ○人への反応やかかわりの乏しさ、社会的関係形成の困難さ
      ・目と目で見つめ合う。身振りなどの多彩な非言語的な行動が困難である。
      ・同年齢の仲間関係をつくることが困難である。
      ・楽しい気持ちを他人と共有することや気持ちでの交流が困難である。
    ○言葉の発達の遅れ
      ・話し言葉の遅れがあり、身振りなどにより補おうとしない。
      ・他人と会話を開始し継続する能力に明らかな困難性がある。
      ・常同的で反復的な言葉の使用または独特な言語がある。
      ・その年齢に相応した、変化に富んだ自発的なごっご遊びや社会性のある物
       まね遊びができない。
    ○興味や関心が狭く特定のものにこだわること
      ・強いこだわりがあり、限定された興味だけに熱中する。
      ・特定の習慣や手順にかたくなにこだわる。
      ・反復的な変わった行動(例えば、手や指をばたばたさせるなど)をする。
      ・物の一部に持続して熱中する。
    ○その他の高機能自閉症における特徴
     ・常識的な判断が難しいことがある。
     ・動作やジェスチャーがぎこちない。
   3. 社会生活や学校生活に不適応が認められること。
  (今後の特別支援教育の在り方について(最終報告) 2003より引用。−部省略)







心膜気腫(気心膜)の原因(Causes of pneumopericardium)
                 (Jounal of THoracic Imasing 1999;14:217)
  1.Inflammatory/infectious/neoplastic
   a.Fistura with air-containing structure
    ・Bronchogenic carcinoma
    ・Empyema
    ・Esophageal or gastric ulcers
    ・Esophageal or gastric neoplasms
   b.Direct extension of inflammatory process
    ・Lung or liver abscess
    ・Sternal wound dehiscence
    ・Subphrenic abscess
   c.Pericarditis with gas-forming organism
   d.Tuberculosis
  2.Extension of pneumomediastinum
   a.Asthma
   b.Prolonged labor(hyperemesis gravidarum)
   c.Cocaine inhalation
  3.Trauma
   a.Blunt
   b.Penetrating
  4.Iatrogenic
   a.Pericardiocentasis
   b.Esophageal instrumentation
   c.Postsurgical
    ・Esophago-antrostomy
    ・Cardiac surgery
   d.Positive pressure ventilation(particularly in neonates)
  5.Idiopathic







Restless legs syndrome(診断に必要な臨床特徴ほか、日内雑誌 89:692,2000)
    (The International Restless Legs Syndrome Study Group、1955))
1.必須項目
   1)下肢(ないし上下肢)の異常感覚のために、下肢(ないし上下肢)を動か
    したい欲求にかられる:この異常感覚はしばしば「ムズムズする」「虫が
    這うよう」「灼熱感」「ズキズキする」「揮い」などと表現され、通常は
    深在性である。一般に下肢のみ、あるいは四肢に出現しても下肢に強く、
    通常は腓腹部に強いが、ときに大腿や足に認められることもある。両側な
    いし一側に生じ、一日の間に感覚異常の生じる体の部位が何度か変動する
    こともある。「表現しがたい下肢ないし上肢の不快感」あるいは「異常感
    覚というよりもむしろ単に手足を動かしたい欲求」と表現する患者もいる。
   2)安静を保つことができない:下肢(ないし上下肢)の異常感覚を和らげる
    ため、歩き回ったり、足を動かしたり、ときどき体を揺すったりする。
    温浴や冷水浴を行う患者もいる。
   3)症状は安静時に増悪もしくは出現し、体動により少なくとも部分的、一時
    的には軽減する。
   4)症状は夜間に増悪する。
2.付帯項目
   5)睡眠障害(入眠ないし睡眠維持の障害)とそれによる日中の疲労感。
   6)不随意運動
     a)periodic limb or leg movements in sleep(PLMS)=睡眠stageIとII
       において周期が5〜90秒で持続が0.5〜5秒の、反復性・常同性に拇指
       を背屈し、2〜4趾を拡げ、足・膝・大腿を屈曲する運動がみられる。
     b)involuntary limb movements while awake and atrest:覚醒時に下肢
      (ないし上下肢)に、典型的なRLSの異常感覚に伴い出現する足、膝、
       大腿の不随意な屈曲運動で、PLMSより速い動きであり、ときにミオク
       ローヌス様のこともある.随意運動時には消失する.
   7)神経学的検査:特発性のRLSは筋電図や神経伝導検査も含め異常を認めない。
    続発性のRLSではニューロバシーや神経根障害などがみられることもある。
   8)臨床経過:全年齢層に発症しうるが、重症例は中年ないしより高齢者にみら
    れる。症状は停止性ないし進行性である。長期間症状が寛解することもある
    が、一般的に慢性の経過をとる。妊娠中にのみ出現ないし増悪することがあ
    る。またカフェイン摂取により増悪することがある。
   9)家族歴:常染色体優性遺伝形式を示唆する家族歴を有する例がある。

    ※注意:1)〜4)は必須症状であり、5)〜9)は必須ではない.

※症候性restless legs syndromeの原因(日内雑誌 89:692,2000)
  ・尿毒症(人工透析)
  ・鉄欠乏
  ・妊娠
  ・葉酸、マグネシウム、ビタミンB12欠乏
  ・パーキンソン病
  ・多発ニューロバシー
   (アミロイドーシス、糖尿病、腰仙部神経根症、慢性関節リウマチ、
    Charcot-Maie-Tooth病2型など)
  ・胃切除
  ・慢性末梢静脈不全、下肢静脈瘤
  ・薬剤
    フェノチアジン系薬剤、リチウム、ミアンセリン、β一blocker
    アマンタジン、プロメタジン、カフェインなど
  ・慢性閉塞性肺疾患
  ・喫煙
  ・甲状腺機能低下症ないし亢進症
  ・急性間欠性ポルフイリン症                    .
  ・遭伝性脊髄小脳変性症







肥満の判定と肥満症の診断基準
 1.肥満の定義
   脂肪組織が過剰に蓄積した状態。
 2.肥満の判定
   身長あたりの体重指数(BMI:body mass index)=体重(kg)/身長×身長(m)を
  もとに下表のごとく判定する。
                 <肥満度分類>

          BMI       判定      WHO基準
       -----------------------------------------------------
         <18.5       低体重      underweight
        18.5≦〜<25    普通体重     normal range
        25≦〜<30     肥満(1度)   preobese
        30≦〜<35     肥満(2度)   obeseclass  I
        35≦〜<40     肥満(3度)   obeseclass IIU
          40≦      肥満(4度)   obeseclass IIIV
       -----------------------------------------------------
       ※ただし、肥満(BMI≧25)は、医学的に減量を要する状態とは限
        らない。なお、標準体重(理想体重)は、最も疾病の少ない
        BMI22を基準として、標準体重(kg)=身長×身長(m)×22で計算さ
        れた値とする。
 3.肥満症の定義
   肥満症とは、肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか、その合併が
  予測される場合で、医学的に減量を必要とする病態をいい、疾患単位として取
  り扱う。
 4.肥満症の静晰
   肥満と判定されたもの(BMI25以上)のうち、以下のいずれかの条件を満たす
  もの
  1)肥満に起因ないし関連し、減量を要する(減量により改善する。または進展
    が防止される)健康障害を有するもの
  2)健康障害を伴いやすいハイリスク肥満
    身体計測のスクリーニングにより上半身肥満を疑われ、腹部CT検査によって
    確定診断された内臓脂肪型肥満
 5.肥満に起因ないし関連し、減量を要する健康障害
  1)2型糖尿病・耐糖能障害
  2)脂質代謝異常
  3)高血圧
  4)高尿酸血症・痛風
  5)冠動脈疾患:心筋梗塞・狭心症
  6)脳梗塞:脳血栓・一過性脳虚血発作
  7)睡眠時無呼吸症候群・Pickwick症候群
  8)脂肪肝
  9)整形外科的疾患:変形性関節症・腰椎症
  10)月経異常

 ※参考:肥満に関連する健康障害として考慮するが、診断基準に含めない項目
  1)扁桃肥大
  2)気管支喘息
  3)胆石
  4)膵炎
  5)蛋白尿、腎機能障害
  6)子宮筋腫
  7)悪性腫瘍
    ・乳癌
    ・胆嚢癌
    ・大腸癌
    ・子宮内膜癌(子宮体癌)
    ・前立腺癌
  8)偽性黒色表皮腫
  9)摩擦疹、汗疹などの皮膚炎







1日の適正接取エネルギーの算定法
  1)IBW、理想体重(kg):身長(m)×身長(m)×22
  2)理想体重当たりの一日の消費エネルギー
   ・軽い労作:25〜30kcal/kgIBW/日
   ・普通の労作:30〜35kcal/kgIBW/日
   ・やや重い労作:35〜40kcal/kgIBW/日
   ・重い労作:>40kcal/kgIBW/日
      ------------------------
    例  50歳、男性、身長173cm、教師
      IBW=1.73×1.73×22=65.8kg
      一日摂取エネルギー=65.8×30=2000kca1
  3)成人肥満の場合
    25〜30kcal/kg/IBW/日で開始し、徐々に漸減
  4)小児 1000kcal+年齢×100kcal/日







成人男性が約200kcalを消費するのに要する時間
      運動          時間
  --------------------------------------
 ・歩行(70〜80m/分)       60分
 ・急歩(90〜100m/分)      40分
 ・ジョギング(140m/分)     30分
 ・階段昇り           30分
 ・階段降り           60分
 ・卓球・バドミントン      40分
 ・テニス・バレーボール     30分
 ・野球             70分
 ・ラジオ体操          50分
 ・ゲートボール         100分
 ・サイクリング         60分
 ・水中歩行(ゆっくり)     60分
 ・水中歩行(速く)       30分







神経因性疼痛の特徴的症状(NIS、No.4065(H14/3/23)、P40)
 ・組織揖傷は治癒し、進行性の病変はないのに痛みがある
 ・灼熱痛であったり、突発的な電撃痛や刺すような痛みである
 ・きわめて不快な感覚(dysesthesia)である
 ・侵害刺激ではない刺激によって痛みが生じる(allodynia)
 ・刺激の繰り返しで、痛みの増加がみられる
 ・刺激消失後も痛みが持続する
 ・外傷後やや時間が経過したところで痛みが生じる
 ・感覚が消失している部位に痛みを訴える







虚血性心疾患の予後の予測(日内雑誌 2002;91:996)
 1. 冠動脈危険因子
    冠動脈危険因子の数が多いほど心事故率が高い
 2. 運動負荷心電図(Duke大学方式の予後指標)
    トレッドミルスコア=(運動時間)-5×(最大ST下降mm)-4×
               (胸痛指標:胸痛なければ0、胸痛あれば1、
                     胸痛が運動中止理由なら2)
    −11以下なら高リスク(年間リスク5%以上)
    一11〜+5は中リスク (年間リスク5%〜0.5%以上)
    +5以上なら低リスク (年間リスク0.5%未満)
 3. 負荷心筋血流イメージング
    正常潅流例は予後良好(年間心事故率が0.5%未満)
    欠損が大きいほど、心事故率、死亡率が高い
 4. 心エコー図法
    壁運動異常スコアが大きく、心機能低下が高度の例は予後不良
    虚血性僧帽弁逆流が高度の例は死亡率が高い
    ドブタミン負荷心エコー図法で新たな璧運動異常が出現する例は心事故率が高い
 5. 観血的検査法
    有意狭窄病変が多いほど心事故率が高い
    左主幹部病変、他枝冠病変と低左室機能の合併例は薬物治療で死亡率が高い
    左室駆出率が低いほど死亡率が高い
 6. 冠攣縮
    多枝冠攣縮は心臓死率が高い
    カルシウム括抗薬の非使用例は心臓死率が高い
    狭心症発作に関連した不整脈発現と失神発作は心臓死率が高い
    異型狭心症の発病数か月以内は心筋梗塞の発症リスクが高い







意欲の指標(vitality index)
  1. 起床(wake up)              (点数)
    ・いつも定時に起床している         (2)
    ・起こさないと起床しないことがある     (1)
    ・自分から起床することがない        (0)
  2. 意思疎通(communication)
    ・自分から挨拶する、話し掛ける       (2)
    ・挨拶、呼び掛けに対し返答や笑顔がみられる (1)
    ・反応がない                (0)
  3. 食事(feeding)
    ・自分で進んで食べようとする        (2)
    ・促されると食べようとする         (1)
    ・食事に関心がない、全く食べようとしない  (0)
  4. 排泄〈on and off toilet)
    ・いつも自ら便意尿意を伝える。       (2)
      あるいは、自分で排尿・排便を行う
    ・時々尿意・便意を伝える          (1)
    ・排泄に全く関心がない           (0)
  5. リハビリ、活動(rehabilitation,aCtivity)
    ・自らリハに向かう、活動を求める      (2)
    ・促されて向かう              (1)
    ・拒否、無関心               (0)

  除外規定:意識障害、高度の臓器障害、急性疾患(肺炎などの発熱)
  <判定上の注意>
    1. 薬剤の影響(睡眠薬など)を除外、起座できない場合、開眼し覚醒して
     いれば2点
    2. 失語の合併がある場合、言語以外の表現でよい
    3. 器質的消化器疾患を除外.麻痺で食事の介助が必要な場合、介助により
     摂取意欲があれば2点(口まで運んでやった場合も積極的に食べようと
     すれば2点)
    4. 失禁の有無は問わない。尿意不明の場合,失禁後にいつも不快を伝えれ
     ば2点
    5. リハビリでなくとも散歩やリクリエーション、テレビなどでもよい。
     寝たきりの場合、受動的理学運動に対する反応で判定する







口臭の原因と対処法について(NIS 2005;No.4238(H17/7/16):97)
  口臭の原因の大部分は、口腔内細菌の代謝産物である揮発性硫黄化合物( volatile
 sulfur compounds;VSC)である。質問に挙げられている原因のうち歯周炎、口腔内の
 清掃不良、食物残渣が貯留するう歯や歯髄に至るう歯がこれに当たる。
  VSCは、その60%以上が舌背表面後方2/3に蓄積している舌苔から産生されているこ
 とがわかっている。これは歯周炎などを有していても例外ではない。舌苔は、口腔内
 の脱落上皮細胞、唾液や血液由来の細胞成分、食物残渣、そして細菌により構成され
  、そこに含まれる含硫アミノ酸が口腔内細菌により代謝されVSCを産生する。したが
 って、口腔内細菌が増加している起床時は口臭が最も強い。
  VSCによる口臭への対処法としては、舌清掃や歯磨きを含む適切な口腔清掃が最も
 効果的である。舌清掃は、舌ベラよりも毛先の細かな舌ブラシのほうが効果が高い。
 ただし、舌を傷つけると危険なので、舌ブラシの選択には注意を要する。舌フレッ
 シュG、フレッシュメイトは通常の舌清掃では舌を傷つけないことが報告されてい
 る。
  塩化亜鉛を含む含吸剤の使用も短時間であれば効果は高い。これは、1) VSCと結合
 し非揮発性とする、2) 含硫アミノ酸と結合しVSC産生を阻害する、3) 細菌の蛋白質
 分解酵素活性を阻害し、その結果、唾液中の細胞成分の分解が阻害されVSC産生を阻
 害するという亜鉛イオンの働きによるものであり、即効性を有する。
  しかしながら、長期的には歯周疾患などの口腔内疾患の治療と、定期的に専門的な
 口腔清掃を受けることが口臭の対処法として最も効果的である。
  服薬による口臭は、副作用としての唾液分泌抑制により口腔内の自浄作用が減少し
 た結果起こることが多いと考えられる。このような薬剤には利尿剤の他、副交感神経
 遮断築である抗コリン築や抗ムスカリン粟などがある。このような場合でも適切な口
 腔清掃が効果的である。
  その他にも、呼吸器・消化器・耳鼻咽喉科疾患でも口臭が認められることがある。
 ただし、これらの疾患が原因で口臭が認められるならば、原疾患がかなり進行してい
 る可能性がある。このような場合、原疾患の治療が最優先であり、原疾患の緩解に従
 い、口臭強度も減少するものと考えられる。
  少数ではあるが、口臭を訴える人の中には代謝疾患を有する人がいる。例えば、糖
 尿病では過剰に産生されたケトン体が血流により肺へ運ばれ、ガス交換の際に呼気中
 に排出されることによる口臭が生じる。このような場合、基礎疾患のコントロールが
 口臭の減少につながる。
  食事内容(特にニンニク料理等)による口臭は、本来、治療対象となる口臭ではな
 いが、人々の意識は高い。食事による口臭の予防方法には確立した方法はない。
  口腔内には約300種類の細菌が存在するが、そのほとんどが含硫アミノ酸を代謝し
 VSCを産生することがわかっている。そのため、一概に口臭の原因菌としていくつか
 の細菌を挙げることはできない。ただし、歯周病においては、その原因菌とされ、実
 際に歯周病患者から高頻度で検出されPorphyromonas gingivalisやPrevotella
 intermediaなどの偏性嫌気性菌が非常に高いVSC産生能を有していることから、口臭
 の発現に関与していることは間違いないであろう。(日本歯大衛生学 村田貴俊、
 八重垣健)







唾液過多の原因と対策(NIS 2003;No.4120(H15/4/12):103)
  唾液過多症を主訴で受診する患者は少ないが、それが真性のものか、仮性のもの
 であるか、心因性のものであるかの鑑別が特に必要。しかし、その判定は三者が微
 妙に混在することもあり、必ずしも容易ではない。
  真性過多症は乳児の歯牙萌出期、口内炎などの炎症、中枢性として脳炎などの炎
 症、麻薬・ヒ素・水銀などの中毒、パーキンソン病、脳血管障害などが挙げられる。
 一方、仮性過多症は種々の嚥下障害に起因するもので、口腔・咽頭・喉頭・食道の
 腫瘍の他、舌咽神経麻痺、球麻痺、仮性球麻痺などがある。心因性唾液過多症とは
 実際の唾液量に関係なく、その訴えに心因が強く関与する症例を指す。
  問診に当たってはこれらの疾患を念頭に置いて進めるのであるが、筆者が好んで
 行う質問は、食事中の唾液過多症状の変化である。嚥下障害を背景に持つ仮性過多
 症の場合には過多症状に変化がないか増悪することが多い。一方、心因性の場合は
 症状が軽快するか消失する。真性の場合は一定しないが、程度の軽い例では軽快す
 ることが多い。
  視診においても上記疾患を念頭に置いて進めるが、口腔では特に口腔底、口腔前
 庭の唾液貯留の有無を調べる。心因性では唾液貯留は認めない。耳下腺導管開口部
 の観察も重要である。真性の場合は開口部より唾液排出が明らかに確認できること
 が多い。喉頭の観察では梨状窩に注目する。唾液の貯留が確認されれば味下障害が
 疑われる。検査は、上記した疾患のうちで問診と視診で疑われたものにつき、重点
 的に画像診断を含め行われるべきであるが、本稿では個々には触れない。
  唾液量の検査は、刺激時唾液量検査と安静時唾液量を調べる。唾液量は個人差が
 大きく、正常範囲の下限は1ml/10分とおおよそ決められているが、上限は決められ
 ていない。しかし個々の施設において上限の目安値は決められていると思われる。
 筆者らの施設では12ml/10分とおおよそ決めている。唾液量検査時は必ず口腔内に貯
 留している唾液を吐唾してから始めなければならない。そうでないと仮性を真性と
 誤診する可能性がある。
  心因性が疑われれば、うつ病自己評価尺度(SDS)などの心理検査を行う。口腔内
 の異常感、例えば自発性異常味覚症、舌痛症などを含めた口内異常感は、うつ病、
 特に軽症うつ病の身体症状である可能性がきわめて高い。口内異常感症では症状が
 重複して現れることが稀ではないので、口の中の苦味、舌の痛みなどがないかを聴
 取することも重要である。
  また、唾液中の菌検査も重要な検査の一つである。口腔内に唾液が多すぎても少
 なすぎてもカンジダの増殖を助長する。口腔内に唾液が多くてもカンジダの増殖す
 ることが多いことを銘記する必要がある。
  さて治療法であるが、唾液過多を主訴として病院を受診する症例は真性・仮性を
 問わず、難しいことが多い。唾液過多を訴えた症例に安静時唾液量検査を行っても、
 当科の基準である12mlを超えた症例は実際きわめて少数である。筆者は真性と思わ
 れる症例でも、ある程度の嚥下障害、心因性要素が含まれていると考えている。さ
 らに、心因性と思われる症例であっても、ある程度唾液量が増加している可能性も
 あり、軽い嚥下障害の関与も否定できない。よって筆者は典型例を除いて複合性疾
 患として、おおよそ似た治療を行っている。
  ご質問の症例は冒頭に示した典型例ではなく、唾液腺外来などでしばしば遭遇す
 る複合性の過多症と思われるので、筆者の治療法を記してその回答とする。
  唾液は立位で多く分泌され、坐位、仰臥位の順に低下する。暗くすればさらにそ
 の量は低下することが知られている。この事実を利用して患者に対応を工夫しても
 らう。また、唾液が多いと訴える患者は常に視線を落とし、唾液を拭いているが、
 この体位では唾液は常に前へ流れることになり、唾液が多いことをなおさら実感し
 てしまう。そこで、患者には視線を上げ、顎を上げることを勧めている。こうする
 ことにより唾液は後方に流れ、唾液の多いことを実感することが少なくなる。常に
 口などを拭く患者には、拭くことによりさらに唾液分泌が刺激されたり敏感になる
 ことで症状を悪化させるものであるということを根気よく説明することにしている。
  唾液過多が口内異常感症の一症状であることもあるので、それが疑われる症例で
 あれば選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)を投与するのを躊躇しない。また、
 唾液の菌検査でカンジダの増殖が確認されれば、その治療を行う。根本治療ではな
 いが口腔内の不快感が減じ、思わぬ効果のある例がある。問診で食事中に症状が軽
 快することがわかれば、キャンディ、ガムを勧めることもある。真性唾液過多症が
 明確であれば、分泌抑制薬を使用することもある。その場合は試験的にアトロピン
 を注射して効果を判定しておくとよい。効果があればロートエキスを投与する。
  他に放射線治療法がある。放射線唾液腺炎を起こして唾液量を減ずる方法である
 が、経験はない。
  手術方法としては、顎下腺を摘出して耳下腺の導管を扁桃近くに移行する手術が
 あるが、これも経験はない。溢れ出る唾液過多症の例では、神経切断よりはまだ良
 心的な方法として選択されてもよいと考えている。
                     (関西医大香里病院ENT 井野千代徳)




子どものレントゲン検査に関わる誤解と迷信(ASAHI medical 2006;5月号:84)
   X線検査による被曝で問題が起こりうるとすれば、以下の4つの場合である。
@ 1. 最終月経から4〜10週の妊娠初期に、胎児の被曝量が100ミリシーベルトを超え
   た場合、先天性奇形児の生まれる可能性が自然発生率よりも高くなる。
   ※胎児が被曝する可能性が最も高い注腸検査でも、胎児被曝量は10ミリシ
    ーベルト。胸部撮影では0.1ミリシーベルト以下に過ぎない。
   ※当院では小児撮影台に介添え用防護ついたてを備え付けている。測定実
    験を行ったところ、介添え者の被曝線量はゼロだった。
   ※撮影技師の被曝線量は、防護衣を着用すればゼロ、防護衣未着用でも
     0.003ミリシーベルト(自然放射線半日分)だった。
@ 2. 赤色骨髄への被曝量が200ミリシーベルトを超えた場合、白血病になる可能性
   が自然発生率よりも高くなる。
   ※赤色骨髄が被曝する可能性が最も高い注腸検査でも骨髄被曝量は3ミリシ
    ーベルト程度。
@ 3. 子どもをつくる可能性がある人が、生殖腺(睾丸または卵巣)に1000ミリシ
   ーベルト以上被曝すると、遺伝病の発生率が自然発生率の2倍になる。
@ 4. 生殖腺に一度に3000ミリシーベルト以上被曝すると不妊症になる。
   ※一般的なX線検査でこのような大量被曝をすることはありえない。
  以上のように、一般的なレントゲン検査に用いられるX線量は自然放射線と比べ
 ても決して多すぎる量ではないし、障害が起こる可能性のある線量よりもはるか
 に少ない。まして直接X線を浴びるわけではない介添え者が浴びるX線量は、全く
 問題ない。
  あり得ない危険性を恐れて必要な撮影を拒否し、結果として治療を遅らせること
 は、子どもを守るどころか医療上の重大な不利益につながる。また、保護者を同室
 させなかったために子どもがおびえて暴れ、撮影がうまくいかず、静断に支障を来
 たすような検査画像しか得られなければ、それも子どもにとっては不利益以外の何
 ものでもない。我々にとって大切なことは、「患者以外は撮影室に入れない。特に
 妊婦には入室させない」というような決まり事(マニュアル)を「無条件に守る」
 ことではなく、患者にとって今必要なことを「状況に応じて考え、安全に実行する 」
 ことだと思われる。(大分こども病院放射線科技師・広津雅治氏)







◎微量元素について(NIS、No.4400(H20/8/23)、pp.92-93)
  我が国では厚生労働省健康増進法施行規則16条により、亜鉛(Zn)、セレン
 (Se) 、クロム(Cr)、鉄(Fe)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、ヨウ素(I)
 が微量元素とされている。
 1. 亜鉛(Zn)
   所要量:1.2〜12mg/日、許容上限接収量:30mg。
   体内存在量が約2000mgと言われ、歯、骨、肝、腎、筋肉などに存在している。
  そのほとんどがタンバタ質などの高分子と結合しており、また多種の生体内酵素
  にも含まれ、その活性、代謝に閑与している。主に膵液中に排泄されるため、腸
  痩管理中の患者などでは欠乏症に注意が必要である。最近では、様々な疾患の発
  癌や増悪の背景に存在するといわれる活性酸素種の発生を抑制する抗酸化物質と
  して注目されている。銅とともに細胞質中に存在する活性酸素種消去能を担うス
  ーパーオキサイドディスムターゼ(Cu, Zn-SOD)の活性に関与し、さらにそれ自
  身が膜結合部位に存在するCu+やFe2+と置換されることにより、これら遷移金属
  イオン依存性のラジカル反応を阻害する抗酸化能を有している。
 2. セレン(Se)
   所要量:15〜60μg/日、許容上限摂取量:250μg。
   体内存在量は10〜15mgと言われ、全身の組織に広く分布しており、毛髪、爪か
  らも検出される。他の組織に比べ、肝および腎に高濃度に存在する。生体内抗酸
  化酵素であるグルタチオンペルオキシダーゼ(GSH-Px)の活性中心として、また
  それ自身が炎症性サイトカインであるTGFβ1を減少させ、GSH-Px, atalaseの
  mRNA発現を増加させることで、酸化ストレスを軽減する抗酸化物質として亜鉛同
  様に注目されている。
 3. クロム(Cr)
   所要量:15〜35μg/日、許容上限摂取量:250μg。
   体内存在量は約5mgと言われ、主として肝、脾臓、軟部組織、骨などに分布し、
  主に尿中に排泄される。最近では、酸化ストレス下におけるTNFα(炎症性サイ
  トカイン)の分泌を抑制して過酸化脂質の産生を抑制させること、またインスリ
  ンレセプター数を増加させ、インスリンレセプターキナーゼ活性を高めてインス
  リン感受性を増高させ、種々の糖尿病の病態を改善させることが注目されている。
 4. 銅(Cu)
   所要量:0.3〜1.8mg/日、許容上限摂取量:9mg。
   体内存在量は約80mgと言われ、毛髪、腎、肝、骨格筋や血液に存在し、特異的
  なタンバタ質と結合した銅酵素として作用する。食物中の銅は上部空腸で吸収さ
  れ、門脈を経由して肝に運ばれる。肝で輸送タンバタであるセルロプラスミンと
  結合し血液中に分泌され、胆汁中に排泄される。
   生体内での役割としては、ヘモグロビンを合成するために不可欠な元素である
  ことが知られている。さらには活性酸素種であるスーパーオキシドアニオンを消
  去するスーパーオキサイドディスムターゼ(Cu, Zn-SOD)や、ミトコンドリアに
  おける呼吸鎖関連酵素のシトクロムオキシデーゼなどの活性中心である。
 5. マンガン(Mn)
   所要量:0.003〜4mg/日、許容上限摂取量:10mg。
   体内存在量は約12mgと言われ、生体内組織にほぼ一様に分布しているが、特に
  細胞内のミトコンドリア内に多い。マンガンは胃酸によって2価として溶け、腸
  管細胞の酸化機構で3価となって吸収される。銅と同様に胆汁中に排泄されるた
  め、胆汁うっ滞性肝障害など胆汁の流出障害を認める患者については過剰症に注
 意を要する。ミトコンドリア内に存在して生体内の酸化ストレスを除去するスー
 パーオキサイドディスムターゼ(Mn-SOD)の活性に必須である。
 6. ヨウ素(I)
   所要量:40〜150μg/日、許容上限摂取量:3mg。
   体内存在量は約15mgと言われ、ヨウ素イオンは胃と小腸でほぼ100%が吸収され
  る。その70〜80%は甲状腺にあり、チロキシン(T4)、トリヨードチロニン(T3)
  などの甲状腺ホルモンの構成要素として用いられ、その他は腎臓から尿中へ、一
  部は糞便、呼気、汗、乳汁中に排泄される。
 7. ヒ素(舶)
   ヒ素は地殻中に広く分布し、火山活動などにより自然に、また鉱石、化石燃料
  の採掘や産業活動に伴って人為的に環境に放出される。環境中に放出されたヒ素
  は大気、水、土壌と生物圏を循環するため、あらゆる生物がヒ素を含有している。
   単体のヒ素およびほとんどのヒ素化合物は、人体にとって有害である。一方で、
  ヒ素化合物は人体内にもごく微量が存在しており、生存に必要な微量必須元素で
  あると考えられている。ただし、これは一部の無毒の有機ヒ素化合物の形でのこ
  とである。低毒性の、あるいは生体内で無毒化される有機ヒ素化合物にはメチル
  アルソン酸やジメチルアルシン酸などがあり、ヒジキやワカメなどの海草類に多
  く含まれる。人体に必要な量はごく微量で、自然に摂取されると考えられ、また
  少量の摂取でも毒性が発現するため、特に所要量は規定されていない。
 8. 鉛(Pb)
  鉛は人の栄養に関して必須なものとして所要量の規定はない。しかし、微量の
 鉛はラットにおいて成長維持、生殖、血液産生に不可欠であると報告されている。
  健常人における鉛の体内分布は骨に最も多く分布し、約90%といわれている。
 その他、石灰化組織に沈着しやすく、歯牙中のカルシウムと置換して存在する。
 職業などによる特殊な鉛曝露がない成人では、経口的に約300μg/日、大気からは
 気道的に約30μg/日程度の鉛を摂取していると考えられる。しかし、体内に吸収
 される鉛は経口摂取で約8%、経気道的に14〜45%で、そのうち8%程度は気道に沈着
 するとされる。吸収された鉛は主に肝臓、腎臓に運ばれ、胆汁を介して糞便中に
 排泄されたり尿中に排泄される。その他、微量ではあるが、汗、毛髪、皮膚脱落
 とともに排泄される。
 9. カドミウム(Cd)
  カドミウムは金属の採掘、精練の際の副産物で空気中に放出したものが水中、
 土壌に堆積し、様々な食品を経由して人体に取り込まれる。したがってすべての
 食品中に存在し、その含有量は食品によって異なる。野菜、穀類、獣肉、魚肉中
 には0.005〜0.06ppmと比較的低濃度で、獣、魚類の肝臓などでは1ppm程度、さら
 に貝類、イカの肝臓などでは100ppm以上の高濃度で含有される場合がある。食品
 衛生法によるとカドミウム浪度が0.4ppm以上の米は販売禁止とされている。
  人体におけるカドミウムの吸収は、主に消化管と呼吸器を経由して行われ、消
 化管からの吸収率は1〜6%、呼吸器からは2.5〜20%程度といわれている。
  体内に吸収されたカドミウムは全身の臓器に運ばれ、中でも標的細胞である腎
 で抗酸化酵素であるメタロチオネインを誘導し、そのSH基と結合することでその
 毒性が抑制される。しかし、過剰なカドミウムは腎障害を惹起すると考えられて
 いる。健康成人では50%は腎に、15%は肝に、20%は筋肉に存在しており、生物学
 的半減期も10〜30年と非常に長いため、臓器中のカドミウム濃度は加齢とともに
 高くなることが知られている。
  また、体内に蓄積されたカドミウムは主に尿中に排泄されることから、尿中カ
 ドミウムは体内蓄積量および腎臓中波度を示す指標であると考えられている。カ
 ドミウムは必須微量元素としての所要量の規定はないが、動物実験においてはカ
 ドミウム欠乏によって低体重児出産や流産の増加、筋力低下が見られており、哺







◎発達障害の各論(『精神科セカンドオピニオン2』より、pp.229-235)
  (精神遅滞単独のものはこの範疇に含まない)
  1. 広汎性発達障害(PDD;pervasive developmental disorder)
  1) 対人関係が薄く(共感性が乏しい)、社会性の発達が良くない。
  2) コミュニケーションの障害がある。
  3) 興味・活動が限られ、強いこだわりがある。反復的な行動(常同行動)が
   みられる。
  4) 想像力の障害(様々な情報を統合し推測することが困難)がある。
  (PDDの人は喜怒哀楽の感情を他人と共有すること、他人の考えを察知すること、
  他人に合わせて行動すること、先の見通しをつけることを苦手とする。他人が
  自分をどう考えているかが気になり、付き合い方がわからない場合も多い。知
  的水準の問題から社会生活上も困難が生じ、情報をうまく頭で整理することが
  出来ない。純粋な記憶力はむしろ過剰であることが殆どで、そのために苦痛な
  記憶をどんどんためこんでタイムスリップ現象やフラッシュバックを起こし易
  い。感覚的に非常に敏感で、音・臭い・触覚などの刺激に弱く、薬も少量で効
  きすぎてしまったり、逆にいくら飲んでも無反応だったりすることがある)。
  2. 小児自閉症(chilohood autism)
  1) 広汎性発達障害の特徴をすべて持っている。
  2) 小児期に既に顕在化している。
  3) 精神遅滞を合併することが多い。
  3. アスペルガー症候群
  1) 広汎性発達障害の特徴をもつが、一部は認められないこともある。
  2) 思春期や青年期に顕在化することが多く、後発性である。
  3) 知的能力は普通か、むしろ高い。(特性として記憶力がいい)。
  4. 注意欠陥・多動性障害(AD/HD;attention deficit/hyperactivity disorder)
  1) 注意集中困難、注意力の散漫、集中力の欠如がある。
   (好きなことには熱中するが、飽きっぽい)。
  2) 多動、衝動性、時に興奮性や暴力性をもつ。
  3) 自己中心的で反省しない傾向が強い。
  4) 社交的・外交的で時に対人依存的な特徴を持つ。
  (AD/HDの人はコミュニケーションを好む上、ひらめきの鋭さ、社会的な正義感、
  反抗心などがよい方向に作用した結果、社会的成功を収めることも少なくない)。
  5. 学習障害(LD;learning disorder)
  1) 生活上の能力低下はないが、学校での種々の内容を学ぶのに困難がある。
  2) 学力や能力に偏りが強いことが多い。
  (全般的な知能発達の遅れはないが聞く、話す、読む、書く、計算する、推論す
  るといった能力の習得・使用に著しい困難を示す。一部の能力のみが偏ってい
  るのであって知的発達全体が遅れている分けではない)。
  6. 発達性強調運動障害(DCD;developmetal coodination disorder)
  1) 同時並行する動作やバランスを必要とする行動や内容に困難がある。
  2) 一つの物事であれば集中して行うことができる。
  (動きの強調性がうまくとれず、不器用さが目立ち、バランス感覚が悪く、スポ
  ーツが苦手、作業が遅い、書字が下手といった特徴を持つ。日常生活に影響し
  ていじめのきっかけとされる場合がるため、病的要因として押さえておく必要
  がある)。
  7. 精神遅滞(mental retardation)
  1) 学力にとどまらず生活能力全体に低下があり、自立するのが困難である。
  2) 広汎性発達障害や他の発達障害を合併することが多い。
  (診断には心理発達テストを行い、IQ<35を重度、35〜49を中等度、50〜69を軽度
  としている。70〜85は境界領域とされ状況によっては自立可能)