◎無症状胆嚢結石 (無症状胆石症) をどうする?

 ◇胆石症の頻度
   エコーによる集団検診で 4 〜12%、解剖で 16.4%、無症状胆石症は集
   団検診で 55%程度。病院受診者で 20%程度

 ◇無症状胆石症は 10 〜 20年 の経過で 10 - 20% が有症化する。

 ◇胆嚢癌の発生
   胆嚢癌の 50 〜 80% に結石を合併、胆嚢結石の 2 〜 3% に胆嚢癌を合
   併。ただし無症状胆石症の胆嚢癌の発生率は 0 〜 1% だろう。
   純コレステロール胆石に胆嚢癌の合併が多いとされ、直径 3cm以上の胆
   石症は直径 1cm以下のものに比べ発癌しやすいとされている。

 ◇どうする?
   無症状胆嚢結石はエコーで観察しつつ、胆嚢壁や胆嚢機能に異常がみら
   れたら胆嚢癌の合併をも考慮して腹腔鏡下胆嚢摘出術を第一選択する。








◎消化吸収障害・吸収不良症候群・低栄養状態

1.分類
 1). I型:本態性吸収不良症候群
  (1). セリアック・スプルー (Celiac sprue)
     本邦では数例・小麦粉 (グルテン) アレルギー・小腸絨毛の萎縮・全
     栄養素の吸収障害

  (2). β-リポ蛋白欠損症
     アポ蛋白-β の合成障害・遺伝性・カイロミクロンができない


 2). II型:症候性吸収不良症候群
  (1). 腸管実効吸収面積減少型吸収不良症候群
   a. 腸管術後障害
    ※短腸症候群:残存小腸が 1m以下・在宅中心静脈栄養法の適応
    ※回腸終末部切除:ヴィタミンB12、胆汁酸などの吸収障害・胆汁酸
             の胆汁酸の大腸流入による下痢・逆流性小腸炎
   b. 腸管の広範な病変
    ※小腸広範病変、回腸終末部病変:腸結核・クローン・アミロイドー
     シス後天性免疫不全症候群
   c. 小腸原虫症
    ※ランブル鞭毛虫症等
   d. 血管性
    ※放射線性腸炎、慢性腸間膜血流不全
   e. 薬剤性
    ※ネオマイシン (粘膜障害) 、コルヒチン (細胞内輸送障害) 、
     PPI (ヴィタミンB12 吸収阻害)

  (2). 腸管運動亢進
    ※カルチノイド:セロトニン放出のため腸管の運動亢進し消化吸収不
            良を起こす

  (3). 小腸細菌叢の異常増殖 (腸内細菌異常増殖症・盲係締症候群)
     小腸内容物の鬱滞により腸内細菌叢の異常増殖し消化吸収不良を起
     こす
    ※腸管癒着・小腸狭窄・偽性腸閉塞・盲係締の存在・強皮症・小腸憩
     室症胃酸の低下・胃切除 (B-II)・アミロイドーシス等
    ※脂肪吸収障害、胆汁性下痢、ヴィタミンB12 吸収障害、粘膜障害を
     起こす

  (4). 内分泌異常
    ※糖尿病 (胃排泄時間延長)・甲状腺機能亢進 (小腸通過時間短縮)


 3). III型: 消化吸収障害性吸収不良症候群
  (1). 食物と消化液分泌のタイミング不調:胃切除 (B-II) など
  (2). 乳化障害:胃切除 (B-I) など
  (3). 膵液分泌不全:膵切除後・慢性膵炎
  (4). 消化酵素活性化障害:エンテロキナーゼ欠損症 (トリプシノーゲン活
               性化不全)
  (5). 消化酵素不活化
  (6). 小腸内水分過多
  (7). 胆汁分泌不全:肝臓細胞障害、胆汁鬱滞等
  (8). 胆汁酸プールの減少


 4). IV型:刷子縁膜病
      刷子縁膜水解酵素の活性低下あるいは酵素欠損、吸収上皮細胞膜
      上の輸送担体の欠損による。
    ※スクラーゼ欠損症、乳糖不耐症、ハートナップ病、ブルー・ダイ
     パー症候群


2. 疫学
膵外分泌障害 (30-40%) > クローン (10%) > 小腸切除 (10%) > 膵切除 (10%)
 スプルーは少ない。50% は手術後の消化吸収障害である。


3. 診断
 1). 既往歴と症状
  (1). 50% は手術後の消化吸収障害である
  (2). 下痢・脂肪便・体重減少・貧血・無力倦怠感・腹部膨満・浮腫・消化管出血
  (3). テタニー・骨軟化症 (脂肪酸がカルシウムと結合して排出されるため)
  (4). 出血傾向 (脂溶性ヴィタミンの吸収障害でヴィタミンK 欠乏)

 2). 血液生化学検査
  (1). 貧血・低蛋白血症・低アルブミン血症・低コレステロール血症・血清鉄低下
  (2). 大球性貧血:ビタミンB12、葉酸の吸収障害
  (3). PT延長 (肝機能障害がない):ビタミンK吸収障害
  (4). 低カルシウム、低リン、ALP上昇:ビタミンD 吸収障害
  (5). 低カリウム:慢性下痢
  (6). 低蛋白血症:蛋白質の消化吸収障害?・蛋白漏出性胃腸症?・蛋白摂取不足?
   a. 蛋白質の消化吸収障害、蛋白摂取不足では RTP (rapid turnover protein、
     レチノール結合蛋白・トランスフェリン・プレアルブミン) が容易に
     低下する。
   b. 蛋白漏出性胃腸症では著明な低蛋白血症があっても RTP は比較的保たれる
  (7). 低r-gl 血症:腸管リンパ組織過形成


4. 検査法
 1). 吸収試験
  (1). 脂肪の吸収試験
   a. ズダンIII染色
   b. 便中脂肪量の推定
   c. 胆汁酸吸収試験:ウルソデオキシコール酸を経口投与し血清胆汁酸分画測定

  (2). 糖質の吸収試験
   a. D-キシルロース試験
   b. 乳糖負荷試験
   c. グルコース負荷試験
   d. 呼気水素試験

  (3). 蛋白質の吸収試験
   a. 糞便中窒素量測定
   b. 膵外分泌機能試験 (PFD)
   c. α1-AT のクリアランス測定:低蛋白血症の鑑別に重要
     蛋白漏出性胃腸症では内因性蛋白である α1-AT が便中へ排出され
     ることを利用


 2). X線を用いた検査
  (1). 小腸造影:小腸の狭窄・拡張・癒着、盲管の存在、巨大憩室、短腸症
          候群
     腫瘍、クローン病
     消化管運動異常(強皮症・アミロイドーシス・糖尿病)
     強皮症:食道・十二指腸の拡張
     スプルー:粘膜異常
     腸リンパ管拡張・Whipple:ケルクリングひだの拡張
     アミロイドーシス:初期は顆粒状、進行すると竹の節状変化

  (2). 腹部CT
     ガスと腸液の貯留:腸内細菌異常増殖症
     小腸壁の肥厚:リンパ腫
     リンパ節肥大:リンパ腫・Whipple
     後腹膜腫瘍


 3). 内視鏡検査
    スプルー:絨毛萎縮・顆粒変化 (正常な) の減少
    Whipple:脂肪の転送障害による顆粒状変化、黄色調変化
    腸リンパ管拡張:白色絨毛


 4). 病理学的検査
    スプルー:絨毛萎縮
    Whipple:絨毛破壊・上皮内脂肪蓄積
          PAS 陽性物質沈着マクロファージ
    α-chain病:形質細胞の浸潤
    アミロイドーシス:アミロイド沈着
    腸リンパ管拡張:絨毛内・粘膜下層に著明なリンパ管拡張原虫の診断


5. 消化吸収障害・栄養障害の治療
 ※消化吸収障害の判定
  高 度:糞便中脂肪量が 30g/日
  中等度:11-29g/日
  軽 度:6-10g/日

 ※栄養障害の判定
  高 度:血清蛋白・血清コレステロールがともに異常に低い
  中等度:高度と軽度の中間
  軽 度:血清蛋白・血清コレステロール正常下限または一方が少し低い

 1). 食事療法:消化吸収障害が軽度の時
    低脂肪・高蛋白 (1.5g/kg/d)・高エネルギー (40-50Kcal/kg/d)

 2). 補液・輸血・各種栄養素・ビタミンの非経口投与

 3). 経腸栄養:栄養障害が中程度以上の時、消化吸収能がある程度保たれて
        いれば栄養チューブを用いて 40-50Kcal/kg/d を投与。
  a. 成分栄養剤:アミノ酸・ブドウ糖またはデキストリン・電解質・ビタミン
   ・微量元素
   ・長期にわたれば脂肪乳化製剤 (必須脂肪酸)
  b. 半消化態栄養剤:カゼイン・デキストリン・米油 (や ヤシ油)
  c. 高カロリー (エネルギー) 輸液法

 4). 特殊療法
  a. 二糖類吸収療法:ラクターゼ欠乏症・乳糖不耐症
   ・乳糖含有食品の制限、またはラクターゼ製剤を 1g/乳糖10g で投与
  b. 小腸内細菌異常増殖症
   ・テトラサイクリン 1.0g/日、またはメトロニダゾール 1.0g/日
   ・効果は一時的なので根治のために手術できる場合は考える。
  c. 膵性消化障害
   ・吸収不良症候群に対しては消化酵素製剤を常用量の 3 〜 5倍量を投与
   ・例えばパンクレアチン 30-40g/日 が必要、過酸には制酸剤を投与
  d. 胆汁酸性下痢 (回腸終末部切除等)
   ・胆汁酸を吸着するコレスチラミンを 10-15g/日 を投与
   ・脂肪転送障害 (腸リンパ管拡張) には長鎖脂肪酸を制限し、中鎖脂肪酸
    を投与








ヘリコバクター・ピロリ (Helicobacter pylori)

1. 疫学、感染ルート
 a. ヒトにおいて最も頻度の高い慢性感染症の一つ、小児期に感染し成人にな
   るとともに陽性率が減少。
 b. 全世界に広がり、全ての年齢層の胃・十二指腸疾患と関係。
 c. 水系感染が主体で上水道の普及とともに減少、文明国で減少。


2. 胃粘膜障害の機序 (異所性化生性胃粘膜上でも増殖、腸上皮化生部には存せず)
  強いウレアーゼ活性、活性酸素、サイトトキシン、サイトカインが関与。
  但し、十分に分かった分けではない。


3. ヘリコバクター・ピロリ感染と病態との関連
 a. ヒトの慢性活動性胃炎と密接に関連
 b. 本菌の除菌により胃消化性潰瘍の再発が抑制される。
 c. 本菌と胃癌との関連は今後の課題。
  ◇若年者胃癌との関連が指摘されている
  ◇胃悪性リンパ腫 (MALT lymphoma) との強い関連性の報告


4. 除菌治療
  ◇ PPI + アモキシシリン (またはクラリスロマイシン)
  ◇最も最近の短期治療法
    PPI + クラリスロマイシン + ファシジンの常用量を 1W併用。
    90% 以上の除菌率
  ◇ PPI + クラリス + アモキシシリン (またはフラジール) が最近の主流。


5. その他
 a. H.P の検出
  ・正常       : 3.8 %
  ・びらん性胃炎   :55 %
  ・萎縮性胃炎    :97 %
  ・胃癌 (MALToma) :95 %
  ・胃潰瘍      :93.8%
  ・十二指腸潰瘍   :93.3%

 b. H.P は胃粘膜にしか寄生しない:バレット食道・胃粘膜化生部の DU・メッケル
   胃粘膜化生の生じた直腸・(胃でも腸上皮化生部には存在せず)

 c. H.P 感染 --> 表層性胃炎 --> 萎縮性胃炎 --> 腸上皮化生が自然歴か?

 d. H.P と胃癌 (直接証明は H9/10月現在 出来ていない。)
  ・2 〜 6倍の胃癌発症率
  ・H.P蔓延地域と胃癌発症率が相関
  ・胃癌 の穂殆どに H.P の検出
  ・早期癌の手術後に除菌すると胃癌発症が押さえられる

 e. H.P とリンパ腫 (感染率 85% のインドにはリンパ腫が少ないという矛盾もある)
  ・HP抗体陽性ではリンパ腫が増加。
  ・胃リンパ腫で H.P 検出率が多い。

 f. 除菌治療適応
   胃潰瘍・十二指腸潰瘍・萎縮性胃炎・早期癌・MALToma は除菌すべきだろう。








胆嚢ポリープ性病変の鑑別診断 (特に超音波診断について)

※エコーの導入により胆嚢ポリープ性病変は 7%位の頻度で認められる
※1cm 以上の病変は必ず精査を行い手術適応を決める
※エコーで広基性隆起があれば、胆嚢癌、過形成性ポリープ、腺筋腫症を考える。
 胆嚢壁肥厚があれば癌。
  (以下の順に頻度が高い)

1. コレステロールポリープ
※胆嚢頚部や体部に好発し多発性。
※1cm 前後の大きさになると cholesterol polyp with hyperplasia の形態をとる
  ◇肉眼的
   ・黄色の桑実状表面、糸状の細い茎を有する有茎性ポリープ
  ◇エコー
   ・糸状の細い茎を有する有茎性ポリープで表面は不規則な桑実状内部エ
    コーは高エコーの粒子の集合。
   ・cholesterol polyp with hyperplasia では内部に点状高エコーの混
    在した等 〜 低エコー腫瘤となり、過形成性ポリープや腺腫との鑑別
    が必要
   ※※大きさが 5mm以下の有茎性ポリープで表面不規則、内部高エコー
     のものはコレステロールポリープと考えてよい。

2. 過形成性ポリープ
 ◇肉眼的
   亜有茎性、表面は平滑ないし結節状。化生性の粘膜過形成から成るもの
   は丸みのある表面平滑な顆粒状隆起
 ◇エコー
   一定の所見はないが比較的小さいにも関わらず無茎性であったり、表面
   に丸みのある不整像を認める。

3. 肉芽腫性ポリープ

4. 癌・腺腫・腺腫内癌
 ※※表面が結節状でやや丸みがあり内部が均一な低エコーのものは腺腫・腺
   腫内癌を考える (過形成性変化を伴うコレステロールポリープとの鑑別
   が必要)
 (1). 胆嚢腺腫
  a. 幽門腺型
  b. 腸型
  c. 胃・腸型
   ◇胃型では径の増大とともに癌化率が高くなる (15mm以上の 90%に癌化)
   ◇肉眼的
    ・有茎性ないし亜有茎性、類円形、表面は結節状
   ◇エコー
    ・有茎性の丸みを帯びたポリープ、表面平滑又は結節状、内部エコー
     パターンはやや低エコーで均一
 (2). 隆起型胆嚢癌
   ◇肉眼的
    ・有茎性ないし亜有茎性、類円形、表面は結節状
    ・茎がやや太く亜有茎性のものは癌である可能性が高い
    ・広基性のものは殆ど癌、胆嚢壁肥厚があれば癌
    ・周囲に高さ 2mm未満の低い隆起を伴っていればほぼ癌
   ◇エコー
    ・有茎性の丸みを帯びたポリープ、表面平滑又は結節状、内部エコー
     パターンはやや低エコーで均一 (胆嚢腺腫とほぼ同様)

5. 炎症性ポリープ








大腸微小腺腫 (5mm以下のポリープ) の自然史

(1). 中等度以下の異型度の微小腺腫の 90%程度は 3か月の経過観察では大きさ
   の変化がない。さらに 1年放置しても大きさは不変か僅かに縮小 (16% 程
   度) するだろう。
   ただし10%位は中等度以下の異型度でも発育すると考えねばならない。

(2). 中等度以下の異型度の微小腺腫のなかには完全に退縮するものもあ (13% 程度)

(3). 高度異型腺腫以上の異型度の高い病変は 3か月で全て発育する。
   m癌は平均 約1mm/月 程度の発育をする。

(4). 中等度以下の異型度の微小腺腫で発育したもの (10%位) は 1 〜 3か月の
   うちに急に発育した。retrospective study と比較すると、成長は比較
   的急速におこりある程度の大きさになると急に成長が止まることが示唆さ
   れる。(年間増大率はせいぜい 33%)

(5). 中等度以下の異型度の腺腫は異型度進展して高度異型以上の異型度になる
   ことがある

(6). 中等度以下の異型度の腺腫は上記 (5). でなければ消失しやすい。

(7). 450 〜 620日位のうちに発生する腫瘍は、7.7年以上前から発生・放置さ
   れていたと考えられる初診の腫瘍と比べて形態分布の割合が異なり、表面
   型と中間型の割合が高く隆起型の割合が少ない。これは表面型と中間型の
   腫瘍の中には隆起型に進展してゆくものがあることを示唆する。さらに表
   面型と中間型の腫瘍の一部は消失する可能があることも示唆している。

(8). 腺腫は 1年間放置すると 1.3% が癌化し 12.7% が消失し 86% は腺腫のま
   まであろう。

(9). 正常上皮からの 1日当たりの腺腫の発生数は 0.75個/日、癌の発生数は
   0-0.016個/日 (0-2.9個/年) で大腸腫瘍が発生して初診までの推定年数
   は 約13 〜 14年前後である。

(10). 癌は正常粘膜から発生する (de novo) か、腺腫から異型度進展して発生
   するかいずれかであろう。従って Adenoma-Carcinoma sequence
   theory はやはり指示される。
   癌は腺腫由来が9割、de novo が 1割として真実とはそんなに掛け離れ
   ないであろう。






慢性下痢をみる疾患と頻度

 1).過敏性腸症候群
   慢性下痢の70〜80%がこれによる
 2).非特異性炎症性腸疾患,潰瘍性大腸炎,Crohn病
   慢性下痢の10〜20%
 3).腫瘍性疾患
   慢性下痢の5〜10%を占める

 1.新生物
  (1).悪性腫瘍
   a.大腸癌の中でも特に直腸、S状結腸癌が多い
   b.リンパ腫
   c.胃癌
   d.膵癌
  (2).ホルモン産生腫瘍
    カルチノイド、Zollinger-Ellison症候群、WDHA症候群
  (3).良性腫瘍
    絨毛腺腫、大腸ポリポーシス

 2.感染症、寄生虫疾患
  a.腸結核
  b.アメーバ赤痢
  c.Giardia症
  d.日本住血吸虫症
  e.糞線虫症

 3.薬剤性下痢
  下剤、マグネシウムを含む制酸剤、抗生物質、ジギタリス、キニジン、降
  圧利尿剤、血糖降下剤、抗結核剤、副交感神経刺激剤、5-FU、メトソレ
  キセート、コルヒチン

 4.術後性下痢
  胃切除、胃腸吻合、短腸症候群、盲管症候群、膵切除

 5.消化吸収不良疾患
  小腸憩室、乳糖不耐症、蛋白漏出性胃腸症、celiac sprue、慢性膵炎、
  膵嚢胞性線維症

 6.全身性疾患
  甲状腺疾患、Addison病、糖尿病、アミロイドーシス、アレルギー性疾患
  Behcet病、腎不全

 7.その他
  放射線腸炎、アルコール過飲、大腸憩室(右側結腸憩室症)

 ※鑑別のポイント
  a.過敏性腸症候群
   ・精神的緊張時に起こる腹痛と下痢.特に食直後に起こりやすい.排ガ
    ス、排便で軽快する
   ・下痢が長期におよんでも体重減少や栄養障害をみない
   ・諸検査成績に異常を認めない.注腸X線検査で、大腸のハウストラの細
    小化をみる

  b.腸管悪性腫瘍
   ・直腸、S状結腸癌では、便柱の外側に血液付着、深部結腸癌では、潜
    血反応陽性
   ・注腸X線検査で腸管内の腫瘤陰影
   ・内視鏡検査、生検で確定診断

  c.潰瘍性大腸炎
   ・若年者に多く、下痢で発症し、後に粘血下痢状となる
   ・中等度以上では、貧血、発熱、赤沈亢進、CRP陽性、白血球増多、血
    小板増多
   ・注腸X線検査で、直腸から連続性にハウストラの消失、棘状突出像、
    偽ポリポージス像.内視鏡検査では、粘膜は易出血性、毛細血管像が不
    透見、びらん、潰瘍、偽ポリープを認める

  d.Crohn病
   ・若年者に多く、腹痛、貧血、肛門病変の合併、ツ反陰性
   ・X線造影
    小腸、大腸に粘膜の敷石状所見、縦走潰瘍、病巣の非連続性、裂溝、
    瘻孔形成、非対称性の狭窄
   ・内視鏡所見
    縦走潰瘍、敷石状所見、偽ポリープ、生検で非乾酪性肉芽腫

  e.腸結核
   ・ツ反陽性、結核性疾患の既往歴
   ・小腸、大腸のX線検査:不整形潰瘍、輪状狭窄
   ・糞便の結核菌培養.生検組織で乾酪性肉芽腫、結核菌証明

  f.消化吸収不良症候群
   ・脂肪便、糞便の脂肪染色(Sudan鮟染色)で脂肪滴証明
   ・貧血、低蛋白血症、低コレステロール血症
   ・消化管手術などの既往

 ※どうしても診断がつかないとき試みること
  a.先ずは悪性腫瘍を見逃がさないように心がける
   便潜血反応の再検、2日連続で施行し、陽性なら小・大腸のX線造影検
   査、全大腸内視鏡検査
  b.全身性疾患、内分泌疾患のチェック.
  c.不明なら過敏性腸症候群として治療.経過観察中も便潜血反応を繰り返し
   行う







舌痛を訴える疾患

 1.器質的変化を伴うもの
  (1).炎症
    ウイルス感染症、梅毒、結核、カンジダ症、地図状舌、アフタ、ベー
    チェット症候群、多型性紅斑、紅斑症、扁平苔癬、天疱瘡、類天疱瘡
    など
  (2).腫瘍
    悪性腫瘍、白板症など
  (3).外傷
    咬傷、熱傷、機械的刺激(不良補綴物、歯牙鋭縁などによる)
  (4).刺激物によるもの
    たばこ、アルコール、香料(ニッケ、ハッカ等)など
  (5).貧血
    鉄欠乏性貧血、悪性貧血
  (6).口腔乾燥症
    シェーグレン症候群、ミクリッツ病、糖尿病、加齢、薬物性
  (7).ビタミン欠乏症
    ビタミンB2、ビタミンB6、ニコチン酸欠乏症(ペラグラ)
  ※二次的にビタミンB群の欠乏を来すもの
   白血病、再生不良性貧血、肝硬変、血小板減少症性紫斑病、顆粒球減少
   症、中毒(水銀、鉛)

 2.器質的変化を伴わないもの
  (1).神経痛
    三叉神経痛、舌咽神経痛
  (2).ガルバニズム
  (3).顎関節疾患や扁桃疾患の関連痛
  (4).舌痛

 3.外見よりの鑑別
  (1).びらん、潰瘍を主徴
    ウイルス感染症、梅毒、結核、悪性腫瘍、アフタ、ベーチェット症候
    群、外傷
  (2).水泡を主徴
    ウイルス感染症、天疱瘡、類天疱瘡など
  (3).紅斑(びらんを伴うものも含む)を主徴
    多型滲出性紅斑、紅斑症
  (4).白斑を主徴
    白板症、扁平苔癬、悪性腫瘍、ニコチン酸欠乏症(ペラグラ)






口腔粘膜の診断(疾患による潰瘍の違い)

  アフタ 褥創性潰瘍 結核性潰瘍 梅毒性潰瘍 舌 癌
自覚症状 強い痛み 軽度接触痛 強い接触痛 少ない 腫脹、疼痛
形 状 円形又は類円形 不定型、陥凹や噴火口状 不定型、穿掘性 類円形、すり鉢型
無痛性腫瘤が先行
不定、堤防状
カリフラワー状隆起
穿掘性
辺 縁 明 瞭
周囲に紅斑
不規則
辺縁やや隆起、発赤
潜蝕性 やや堤防状
浸潤硬結
ときに亀裂
隆 起
潰瘍辺縁の硬結が強い
底 面 浅く平坦
黄白色の苔状物
平 坦
白色〜黄色白の膜様物で被覆
浅く平坦
顆粒状肉芽
粘液膿で被覆
深 い
豚脂状苔状物で被覆
深浅不定
石の目状で粗面イボ状
出血性 なし なし 易出血性 なし 易出血性
その他 所属リンパ節
腫脹 (-)
多発性、周期性のことあり
所属リンパ節
腫脹 (-)
所属リンパ節腫脹
他の部位の結核病変
所属リンパ節の無痛性腫脹 所属リンパ節の無痛性腫脹
確定診断 再発の繰り返し
基礎疾患否定
原因の発見
除去
細菌検査
組織検査
梅毒血清検査 細胞診
組織検査







小児の膵炎の原因

 a.Congenital obstructive lesions
  ・Pancreas divism
  ・Annular pancreas
  ・Choledochal cyst
  ・Choledochocele
  ・Duodenal duplication
  ・Absence of pancreatic duct
  ・Stenosis of ampulla of Vater
  ・Periampullary diverticulum
  ・Anomalous choledochopancreeaticoductal junction

 b.Acquired obstructive lesions
  ・Pseudocyst
  ・Gallstones
  ・Beenign or malignant tumor
  ・Post-traumatic lesions(from abdominal injury or child abuse)
  ・Lesions due to parasitic infection

 c.Hereditary disorders
  ・Hereditary pancreatitis
  ・Cystic fibrosis
  ・Hyperparathyroidism
  ・Hyperlipoproteinemia
  ・Mitochondrial disorder
  ・α1-antitrypsin deficiency
  ・Hemochromatosis

 d.Multisystem disease
  ・Reye's syndrome
  ・shock
  ・Kawasaki's disease
  ・Inflammatory bowel disease(Crohn's disease or ulcerative colitis)
  ・Schonlein-Henoch purpura
  ・SLE
  ・Disorders associated with malnutrition or resumption of feeding
  ・sarcoidosis

 e.Infection
  ・Sepsis
  ・viral infections(measles, mumps, EV-virus, coxackie-B,
   hepatitis-A.B,influenza, or echo viruses)
  ・Mycoplasma pneumoniae infection

 f.Drug or toxins
  ・Alcohol
  ・Prescribeed medications
  ・Toxins due to hyperalimentation

 g.Metabolic disease
  ・Hypercalcemia
  ・Uremia
  ・Hypertriglyceridemia

 h.Types of pancreatitis due to other causes
  ・Juvenile tropical pancreatitis
  ・Fibrosing pancreatitis
  ・Postoperative pancreatitis
  ・Post-transplantation paancreatitis
  ・Idiopathic recurrent pancreeatitis







年長児の直腸出血の原因

 ・Anal fissure
 ・Infectious diarrhea
 ・Juvenile polyps
 ・Lymphonodular hyperplasia
 ・Inflammatory bowel disease
 ・Hemorrhoids
 ・Pseudomembranous colitis
 ・Meckel's diverticulum
 ・Allergic colitis
 ・Intussusception
 ・Vascular malformations
 ・Dieulafoy's vascular malformations
 ・Intestinal duplication
 ・Schonlein-Henoch purpura
 ・Hemolytic-uremic syndrome
 ・Vasculitis, including SLE
 ・Polyposis syndromes
 ・arteriovenous malformations
 ・Tumors






口腔内粘膜炎の鑑別診断

  1. 外因物質への反応
    1) Drugs
    2) 口腔内衛生用の製品
    3) 食物
    4) 歯科用金属物質
  2. アフタ性口内炎と関連する病態
    1) アフタ性口内炎
    2) 単純ヘルペスウイルス感染症
    3) ヘルペス様アフタ性口内炎
    4) Major aphthous stomatitis
  3. 自己免疫疾患
    1) 扁平苔癬
    2) 類天疱瘡
    3) 尋常性天疱瘡
    4) 慢性潰瘍性口内炎
    5) Epidermolysis bullosa acquisita(後天性表皮水疱症)
    6) Linear IgA disease(線状IgA病)







キャンピロバクター腸炎の合併症

  1. 腹部合併症
    ・胆嚢炎
    ・膵炎炎
    ・偽虫垂炎
    ・腹膜炎
    ・潰瘍性大腸炎やクローン病への上乗せ感染
    ・腸閉塞
    ・腸重積
  2. 腹部外合併症
    ・ギラン-バレー症候群
    ・HUS
    ・菌血症
    ・反応性関節症(ライター)
    ・骨髄炎
    ・髄膜炎
    ・ぶどう膜炎
    ・心筋炎
    ・溶血性貧血





十二指腸狭窄あるいは閉塞の原因

  1. 先天性疾患
    ・Web
    ・輪状膵
    ・十二指腸前門脈(Preduodenal portal vein)
    ・総胆管嚢腫
    ・傍十二指腸ヘルニア(Paraduodenal hernia)
  2. 炎症性またはアレルギー性疾患
    ・クローン病
    ・セリアック・スプルー
    ・好酸球性胃腸炎
    ・サルコイドーシス
    ・血管炎

  3. ・腺癌
    ・リンパ腫
    ・膵頭部癌
  4. 膵疾患
    ・急性膵炎
    ・仮性膵嚢胞
    ・慢性膵炎
  5. 感染症
    ・膿瘍
    ・結核
  6. その他
    ・消化性潰瘍
    ・NSAIDへの反応
    ・炎症性癒着
    ・十二指腸血腫
    ・上腸間膜動脈症候群
    ・Bouveret's 症候群
    ・Brunner腺過形成
    ・特発性後腹膜線維症


      




膵管腔狭小化(stricture)の鑑別診断

  1. Neoplasms
    1. Ductal adenocarcinoma
    2. Intraductal papillary mucinous tumor
  2. Inflammation
    1. Acute pancreatitis
    2. Drug-induced pancreatitis
      ・Induced by angiotensin-converting-enzyme
       inhibitors
      ・Induced by thiazides
    3. chronic pancreatitis
      ・Alcoholic
      ・Idiopathic(今では殆どの例が遺伝子異常または
       自己免疫疾患)
      ・Genetic
       Mutation in the cystic fibrosis gene(CFTR)
       Mutation in the pancreatic secretory trypsin-
       inhibitor gene (5PINK1)
       Mutation in the trypsinogen gene
      ・Autoimmune
       Associated with other diseases(e.g, Sjogren's
       syndrome, Primary sclerosing cholangitis,Primary
        biliary cirrhosis, or inflammatory bowel disease)
       Isolated,With possible subsequent development of
       another autoimmune disease
  3. Anatomical
  4. Pancreas divisum






呑気症状の診断と治療(島田章:NIS、No.4151(2003/11/15)、p89)
    古来、緊張しながら事のなりゆきをみつめる時「固唾を呑む」という表現が用い
  られてきた。呑気症(aerophagia)の本態はここにいい尽くされている感すらある
  のである。古い引用になるが、1957年に池見は次のように記載している。
    「神経質な人は不安、緊張、恐怖(特に胃癌等の恐怖)の状態にある時、よくげ
  っぷを頻発することがある。彼らは、胃の不快感、心配ごとや胃病への恐怖心等に
  よって起こる胸がつまるような感じ、胃のもたれた感じ等を軽くするために、さか
  んにげっぷを試みる癖がある。げっぷ自体は空気を吐き出す運動のようであるが、
  げっぷの直後に反射的に大量の空気が呑み込まれることが多い。したがって、げっ
  ぷを繰り返しているうちに、かえって胃腸の中に、空気が充満してくることがある。
  そうなると充満した空気による腹の圧迫感・胸苦しさ等を軽減するためにますます
  げっぷを繰り返すことになり、ここに一種の悪循環が形成される」。
   このような典型的な呑気症をみることは昨今少なくなったようである。ここでは
  呑気症状を一般的な症候と狭義の呑気症とに分け、新しい知見を踏まえながら少し
  論じたいと思う。
 (1)FD概念の登場
    1998年に日本消化器病学会にてFD(functional dyspepsia、機能性胃腸症とか機
  能性ディスペプシアと訳されている)の治療ガイドラインが作成された。それによ
  ると、器質的病変を認めないにもかかわらず、痛みや胃部不快感などの上腹部症状
  が続く場合、今日では積極的にFDと診断し、病型別に治療戦略を行うことが望まし
  いとしている。
   呑気症状との関係ではFDの一病型である運動不全型(dysmotility-like)が注目
  される。この病型は胃もたれ、早期満腹感(early satiety)、腹部膨満感、悪心・
  嘔気等の胃部不快感がもっぱらの症状で、げっぷや呑気が訴えられることも少なく
  ない。
   胃の運動機能の障害には、胃排出能遅延、胃受容性弛緩(accommodation)の障害
  、胃膨満への知覚過敏等が知られている。このうち胃受容性弛緩は、食物が胃内に
  入った時に胃底部が弛緩し、食物貯留を維持する作用である。胃の拡張刺激に対す
  る知覚過敏とともに、もしそれが障害されると、早期満腹感、食後の痛み、体重減
  少やげっぷ等が引き起こされやすくなる。摂食時、食物とともに意外に多量の空気
  が嚥下されている。ある研究では一回の嚥下に伴い8~22ccの空気が胃内に入り、そ
  の速度は毎秒17cmという。胃の運動機能が正常に働くことは、楽しい食事には不可
  欠である。
 (2)狭義の呑気症
   Rome IIは呑気症を、稀な疾患、頻回の空気嚥下とげっぷ、食事とは関係のない無
  意識の行為、誤った学習によるものと定義している。そして、次のような診断基準
  を定めている。1)空気嚥下が客観的に観察されること、2)やっかいなげっぷの繰り
  返し。これらが少なくとも三か月以上続くことが必要である。
   実際の症例では、慢性的な精神的緊張の中で、さまざまな自律神経症状とともに
  頻回のげつぷを長時間にわたって示すことがある。気にすればするほどげっぷが強
  くなり、治療に難渋することも多い。ただRome IIの診断基準の1)は必ずしもこだわ
  る必要はないように思われる。
 (3)治療
   呑気症状一般は、運動機能改善薬に比較的よく反応する。イトプリドやモサプリ
  ド等に制酸剤、消化剤等を加えるとよい。情動ストレスがからんでいる場合、少量
  (100~200mg)のスルピリドが有効である。狭義の呑気症はしっかりとした精神的治
  療が必要であり、抗うつ剤、抗不安薬を併用する。β遮断薬が効を奏する時もある。







薬剤性大腸炎(偽膜性腸炎、急性出血性大腸炎)
    (内科 1995;75:1053:6月増大号『内科疾患の診断基準、病型分類・重症度』)
    薬剤投与に起因する大腸を中心とした急性炎症を指し、抗生物質に起因するもの
  がもっとも多く、そのほかでは非ステロイド性消炎鎮痛薬によるものが多い。
  methotrexate、5-FU、Cytarabineなどの抗悪性腫瘍薬、経口金製剤などの重金属剤、
  Cyclosporinなどの免疫抑制薬、経口避妊薬などによるものも報告されている。
   抗生物質起因性大腸炎は主に偽膜性大腸炎と急性出血性大腸炎に大別される。
  偽膜性大腸炎はリンコマイシン系、セフェム系で生じることが多く高齢者や全身
  消耗性疾患患者に好発する。下痢・腹痛・発熱が比較的緩徐に発症し治癒は遷延す
  る。黄白色、丘状の偽膜形成が直腸・S状結腸を中心にみられ全大腸に及ぶことも
  ある。治癒遷延例では vancomycin、metronidazoleの投与を行う。出血性大腸炎
  は合成ペニシリン剤で生じることが多く、若年者に多い。腹痛・下痢・血便が急激
  に発症し、薬剤の中止によって短期間に治癒する。発赤・浮腫・びらん・アフタ様
  病変が横行結腸を中心に深部結腸に区域性にみられる。
   薬剤性大腸炎の発症機序として、抗生剤によるものでは腸内細菌叢変化の役割が
  重視されている。偽膜性大腸炎では90%以上にClostidium difficileが証明され、
  菌交代により異常増殖したC. difficileとその菌体外毒素によって惹起されるとの
  説が有力である。急性出血性大腸炎では糞便中からKlebsiella oxytocaが高率に
  検出されるが腸管毒性は有しないことから本症の原因としては否定的で、アレルギ
  ー反応による機序が想定されている。
   消炎鎮痛薬による腸炎は mefenamic acid、indomethacin、diclofenac sodium
  など多くの起因薬剤があり、発赤・びらん・潰瘍などが深部結腸を中心に全大腸・
  回腸に生じる。プロスタグランジン合成阻害による腸粘膜障害が原因として指摘さ
  れている。経口避任薬、vasopressin、血圧降下剤に起因する大腸炎ではS状結腸や
  下行結腸に縦走潰瘍を形成し、虚血性の機序も有すると考えられる。







ゾリンジャー・エリソン症候群(ガストリン産生腫瘍)
   (内科 1995;75:1052:6月増大号『内科疾患の診断基準、病型分類・重症度』)
   Zollinger-Ellison症候群は、ガストリン産生腫瘍からの過剰なガストリン分泌
  によって、胃ECL細胞および壁細胞の機能亢進が起こり著明な胃酸分泌亢進状態と
  なる疾患である。
   本症候群では、著しい過酸のために、十二指腸および胃に難治性再発性の消化性
  潰瘍が好発する。さらに十二指腸内腔が酸性状態となるため、膵消化酵素の活性が
  十分に発現せず、上腹部痛とともに下痢を主訴として発症することが多い。診断に
  は高ガストリン血症と酸分泌の亢進を証明し、本症候群の診断を確定するとともに、
  ガストリン産生腫瘍の部位の判定を行うことが必要となる。また本症候群の約25%に
  多発性内分泌腺腫症I型(MEN-I型)の合併が認められるため、下垂体腺腫や原発性
  副甲状腺機能亢進症の合併の有無の検索も重要である。
   1. 診断
      過酸例(基礎酸分泌量(BAO)≧15mEq/時、基礎酸分泌量(BAO)/刺激後酸
     分泌量(MAO)≧0.6)で血清ガストリンが200pg/ml以上あれば本症候群が疑わ
     れ、1000pg/ml以上あれば確診としてよい。血清ガストリンが200〜1000pg/ml
     の例では、セクレチン負荷テストや試験食負荷テストが必要となる。Zollinger-
     Ellison症候群では、セクレチン負荷によって血清ガストリンが上昇し、試験食
     負荷ではガストリンの上昇が認められない。
   2. ガストリン産生腫瘍の局在診断
      ガストリン産生腫瘍の90%は膵頭部および十二指腸に発生する。とくにMEN-I
     型に伴うものでは、十二指腸に発生するものが多い。局在診断には、従来のCT、
     MRI、超音波検査、血管造影検査とともに、最近ではガストリノーマのソマトス
    タチン受容体をイメージングする目的で、123I-Tyr3-octreotideシンチグラムの
    使用が可能になりつつある。さらにガストリンの分泌部位を検出する目的で、
    経皮経肝的門脈採血法や選択的動脈内セクレチン注入法が用いられている。ガス
    トリン産生腫瘍の60%は悪性であり、腫瘍を切除しえた例の5年生存率が非切除例
    のそれを上回る。したがって治療にはプロトンボンプ阻害薬で胃酸分泌を抑制す
    るとともに、腫瘍の切除を原則とする。







WDHA症候群
   (内科 1995;75:1052:6月増大号『内科疾患の診断基準、病型分類・重症度』)
   WDHA(watery diarrhea,hypokalemia,achlohydria)症候群はその名のとおり、
  水様性下痢、低K血症、無酸症を主症状とする非インスリン産生(非β細胞性)
  膵島腫瘍につけられた名前であるが、単にwatery diarrhea症候群といわれること
  もある。本症候群はこのような症例を記載したVerner、MorrisonにちなんでVerner-
  Morrison症候群、あるいは症状からpancreatic choleraなどの名前で呼ばれること
  もある。本症候群は膵島腫瘍から産生されるVIP(vasoactive intestinal peptide)
  の作用に起因すると考えられており、その腫瘍はVIPomaと呼ばれている。通常患者
  の血中あるいは腫瘍中のVIPは高値をとるが、VIP以外の物質が下痢の原因となって
  いる可能性も捨てられていない。たとえば、VIPomaは同一の前駆体からVIPのほか、
  PHM(peptide histidine methionine)を産生するが、これもVIPファミリーペプチ
  ドに属し、同様の生理活性を有していることから、下痢の発現に寄与している可能
  性がある。本症例の診断は上記の典型的な症状と、血中VIPレベルの測定によって
  確定しうる。患者の血中のVIPは大分子型のことも多く、そのレベルと症状は必ず
  しも相関しない。また画像診断としては通常の超音波検査や CT、MRIのほかに、
  ソマトスタチン誘導体による放射線診断も有望視されている。VIPomaは悪性の割合
  が71~80%と高いので、可能な限り手術切除が望ましいが、不可能な場合にはソマト
  スタチン誘導体(octreotide、サンドスタチン)の注射によって症状の緩和が得ら
  れることが報告されている。また肝転移などの進行した腫瘍に対してstreptozotocin
  や5-FUによる化学療法もある程度奏功するとされている。







慢性特発性腸管偽閉塞症
     (内科 1995;75:1054:6月増大号『内科疾患の診断基準、病型分類・重症度』)
    慢性特発性腸管偽閉塞症chronic idiopathic intestinal pseudoobstruction
  (CIIP)は、器質的閉塞や二次的に症状を引き起こす疾患がなく、腸閉塞症状を
  繰り返す疾患群である。消化管のmyopathyおよびneuropathyによる運動異常が原因
  とされ、家族性に発症することもある。症状は腹痛を伴う腹部膨満、鼓腸、嘔気、
  嘔吐を呈し機械的閉塞と類似する。細菌増殖による下痢が頻回にみられ、排便で
  症状が軽減する。尿閉や水腎症など尿路系異常を生じることがある。診断は機械的
  腸閉塞や続発性偽腸閉塞症を除外することが必要である。また、消化管造影検査で
  胃、十二指腸の拡張、小腸全体の拡張と運動異常、大腸の拡張とハウストラの消失
  などの所見を認める。
    治療には消化管運動改善薬や細菌増殖に抗生物質を投与する。イレウス管による
  吸引減圧や、IVHによる栄養改善を行う場合もある。手術療法は効果はあまり期待
  できない。







セリアック病・スプルー症候群の組織学的鑑別診断(NEJM 2005;352:400)
  Conditions that can cause a flat duodenal mucosa
  ・Peptic injury
  ・Tropical sprue
  ・lnfectious gastroenteritis
  ・Eosinophilic gastroenteritis
  ・Collagenous sprue
  ・Giardiasis
  ・Autoimmune enteritis
  ・Radiation enteritis
  ・AIDS enteritis
  ・Zollinger-Ellison syndrome
  ・lschemic enteritis
  ・Crohn's disease
  ・Microvil1ous incllusion disease
  ・Common variable hypogammaglobulinemia
  ・Graft-versus-host disease
  ・Food sensitivities(cow's milk,soy)
  ・Drug effets
  ・Lymphoma







潜在性消化管出血の鑑別

(Differential Diagnosis of Occult Gastrointestinal Bleeding,NEJM 1999;341:40)
1.Mass lesions
 ・Carcinoma(any sites)
 ・Large(>1.5cm) adenoma(any site)
2.Inflammation
 ・Erosive esophagitis
 ・Ulcer(any site)
 ・Cameron lesions
 ・Erosive gaastritis
 ・Celiac disease
 ・Ulcerative colitis
 ・Crohn's disease
 ・Colitis(nonspecific)
 ・Idiopathic cecal ulcer
3.Vascular disorders
 ・Vascular entasia(any site)
 ・Portal hypertensivee gastropathy or colopathy
 ・Watermelon stomach
 ・Varices(any site)
 ・Hemangioma
 ・Dieulafoy's vascular malformation(large superficial artery undeerlying a
   small mucosal defeect)
4.Infectiou disease
 ・Hookworm
 ・Whipworm
 ・Strongyloidiasis
 ・Ascariasis
 ・Tuberculous enterocolitis
 ・Amebiasis
5.Surreptitious bleeding
 ・Hemoptysis
 ・Oropharyngeal bleeding(including epistaxis)
6.Other causes
 ・Hemosuccus pancreaticus
 ・Hemobilia
 ・Long-distance running
 ・factitious cause







急性下痢症からの検出病原菌(食中毒菌を除く)(NIS、No.3978(200/7/22)、P43)
  Escherichia coli(41%)>Klebsiella pneumoniae(15%)
  >Citrobacter freundii(10%)>Enterobacter aerogenes(6.5%)
  >Klebsiella oxytoca(4%)>Morganella morganii(2.5%)
  >Pseudomonas aeruginosa(1.4%) >Hafnia alvei(0.7%)>Proteus属(1.4%)
                            (なお非検出は6.4%)







急性下痢症からの食中毒菌検出(NIS、No.3978(200/7/22)、P44)
  Vibrio parahemolyticus(25%)>Canpylobacter jejuni(20%)
  >Aeromonas hydrophila (18%)>Salmonella sp(14%)
  >Aeromonas sobria(10%)>Presiomonas shigelloides(3%)
  > Vibrio chorerae non OI(1%)>Vibrio flubialis(1%)
  >Yersinia enterocolitica(1%)







直腸周囲膿瘍の原因(NEJM 2000;343:796)
  1.Cryptglandular infection
  2.Crohn's disease
  3.Tuberculosis
  4.Actinomycosis
  5.Carcinoma
  6.Lymphoma
  7.Leukemia
  8.Lymphogranuloma venereum
  9.Pelvic inflammation
 10.Trauma(e.g. operative trauma,trauma related to enema,or impalement)
 11.Foreign body
 12.Radiation







原因別にみた大腸炎の型(NEJM 2000;343:796)
  1.Imflammatory bowel disease
   a.Ulcerative colitis
   b.Crohn's disease
  2.Ischemic colitis
  3.Diversion colitis
  4.Collagenous colitis
  5.Radiation colitis
  6.Infectious colitis
   a.Bacterial
    ・Salmonella
    ・Shigella
    ・Campylobacter
    ・Yersinia
    ・Escherichia coli O157:H7
    ・Clostridium difficile
    ・Mycobacterium
   b.Viral
    ・Cytomegalovirus(in an immunocompromised host)
    ・Herpes virus(in an immunocompromised host)
   c.Parasitic
    ・Ameba
    ・Schistosoma







小児の下痢を伴う栄養障害の鑑別診断(NEJM 2001;345:276-281)
  1. Restrictive diet
  2. Transport defect(e.g., glucose-galactose malabsorption)
  3. Anatomical defect(e.g.,intestinal atresia,or gastroschisis)
  4. Chronic or severe hepatobiliary disease
  5. Exocrine pancreatic insufficiency
  6. Cystic fibrosis
  7. Giardia lamblia infestation
  8. Cryptosporidium infestation
  9. Escherichia coli infection
 10. Immunodeficiency syndrome
 11. Crohn's disease
 12. Eosinophilic gastroenteropathy
 13. Autoimmune enteropathy







慢性膵炎診断基準(日本膵臓学会2001)
<慢性膵炎の臨床診断基準>
  慢性膵炎の臨床診断基準は、腹痛や腹部圧痛などの臨床症状あるいは膵外・内分
 泌機能不全にもとづく臨床症候がみられる症例に適用する。しかし、慢性膵炎のな
 かには、無痛性あるいは無症候性の症例も存在するので、そのような症例に対して
 は、より厳格に臨床診断基準を適用し。期間をおいて複数回検査する。
  診断基準の各項目は検査手順のおよその順序に列記するが。各項目はそれぞれ独
 立したものである。
1. 慢性膵炎の確診例(definite chronic pancreatitis)
  1a) 腹部超音波検査(US)において、音響陰影を伴う膵内の高エコー像(膵石
    工コー)が抽出される。
  1b) X線CT検査(CT)において、膵内の石灰化が描出される。
  2) 内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)像において、つぎのいずれかを認める。
    (i)膵に不均等に分布する、不均−(*1)な分枝膵管の不規則(*2)な拡張。
    (ii)主膵管が膵石:非陽性膵石:蛋白栓などで閉塞または狭窄しているとき
       は、乳頭側の主膵管あるいは分枝膵管の不規則な拡張。
  3) セクレチン試験において、重炭酸塩濃度の低下に加えて、膵酵素分泌量と
    膵液量の両者あるいはいずれか一方の減少が存在する。
  4) 生検膵組織。切除膵組織などにおいて、膵実質の減少、線維化が全体に散在
    する。膵線維化は不規則であり、おもに小葉間に観察される。小葉内線維化
    のみでは慢性膵炎に適合しない。
     このほか、蛋白栓・膵石と、膵管の拡張・増生・上皮化生、嚢胞形成を伴
    う。
2. 慢性膵炎の準確診例(probable chronic pancreatitis)
  1a) USにおいて、膵内の粗大高エコー、膵管の不整拡張。辺緑の不規則な凹凸が
    見られる膵の変形、のうち−つ以上が描出される。
  1b) CTにおいて。辺緑の不規則な凹凸が見られる膵の変形が描出される。
  2) MRCPにおいて膵全体に不均−に分布する分枝膵管の不整な拡張。または主膵
    管の狭窄より十二指腸乳頭側の主膵管および分枝膵管の不整な拡張がみられ
    る。
  3) ERCP像において、主膵管のみの不規則な拡張、非陽性膵石、蛋白栓のいずれ
    かが観察される。
  4a) セクレチン試験において、重炭酸塩濃度の低下のみ。あるいは膵酵素分泌量
    と膵液量が同時に減少する。
  4b) BT-PABA試験における尿中PABA排泄率の低下(*3)と便中キモトリプシン活性
    の低下を同時に2回以上認める。
  5) 膵組織像において、線維化がおもに小葉内にあるが膵実質脱落を伴う病変、
    ランゲルハンス島の孤立。仮性嚢胞のいずれかが観察される。
解説1.
  USまたはCTによって描出される 1)膵嚢胞、2)膵腫瘤ないし腫大。および 3)膵管
 拡張(内腔が2mmを超え、不整拡張以外)は膵病変の検出指標として重要である。
 しかし。慢性膵炎の診断指標としては特異性が劣る。従って(1),2),3)の所見を認
 めた場合にはERCPを中心とし。各種検査により確定診断に努める。
  ERCP像の読影は。過剰に加圧されず、分枝膵管まで造影されている膵管像につい
 て行われることが望ましい。
  セクレチン試験の方法や正常値については。日本消化器病学会膵液測定検討小委
 員会の最終報告(日消誌84:1920-1987)に準ずる。また膵外分泌機能検査は膵病
 変の質的診断能が劣ることに注意する。
解説2.
  (*1) "不均"とは、部位により所見の程度に差があることをいう。
  (*2) "不規則"とは、膵蕾径や膵哲壁の平滑な連続性が失われていることをいう。
  (*3) BT-PABA試験(PFD試験)における尿中PABA排泄率の低下とは、6時間排泄率
    70%以下をいう。
解説3.
  MRCPについては以下、
   1) 磁場強度1.0テスラ(T)以上、傾斜磁場強度15mT/m以上、シングルショット
     高速SE法で撮像する。
   2) 上記条件を満足できないときは背景信号を経口陰性
     造影剤の服用で抑制し、膵管の摘出のためセクレチン投与、呼吸同期撮像
     を行う。
注1. 本臨床診断基準で確診、準確診に合致しないことのある膵臓の慢性炎症には
   次のものがある。
     ・慢性閉塞性膵炎
       明らかな膵管閉塞・狭窄部の上流の膵管系に拡張した分枝膵管が限局
      して存在する。
     ・膵管狭窄型慢性膵炎
       膵管系全体が狭窄を示し。自己免疫異常の関与が疑われる。病態につ
      いては今後検討を要する。
注2. 上腹部痛・圧痛が持続または再発継続しており、血清膵酵素の異常を伴う症
    例を臨床上慢性膵炎の疑診例(possible chronic pancreatitis)と−時的に
   呼ぶことができる。ただしこれらの症例は膵に関する各種検査に異常をみる
   ことがあるが、慢性膵炎確診、準確診に該当しないものである。
注3. 腫瘤形成性膵炎
    形態上腫瘡を形成する膵炎を認める。多くは慢性膵炎確診、準確診に合致する
   が、該当しない例も認められる。







慢性膵炎以外で膵外分泌不全を来す疾患(日内雑誌 2002;91:715)
1. 原発性膵外分泌不全
  (1)膵形成不全(膵欠損症)
  (2)先天性膵低形成
  (3)Shwachman-Diamond症候群
  (4)Johanson-Bilzzard症候群
  (5)成人型膵脂肪沈着症・膵萎縮
  (6)リバーゼ単独欠損症
  (7)膵切除
2. 二次性膵外分泌不全
  (1)小腸粘膜疾患:CCK分泌不全
  (2)ガストリノーマ:小腸内で消化酵素失活
  (3)Billroth II法吻合:消化管ホルモン分泌不全
  (4)工ンテロキナーゼ欠損症
  (5)Kwashiorkor:蛋白カロリー異栄養症






単純X線撮影で消化管異物像として描出される薬物
          (鵜飼卓氏ら『救急中毒ケースブック』医学書院、p.9、1986)
 1. 砒素剤
 2. ブロムワレリル尿素(ブロバリン)
 3. 蒼鉛(ビスマス)
 4. カリウム製剤(KCl)
 5. 鉄剤
 6. ヨード剤
 7. カルシウム剤
 8. 金製剤






蛋白漏出性胃腸症
(榎村・吉岡『病名・文献検索辞典』世界保健通信社.1985,1st ed.,p17)
  血漿アルブミンが胃腸粘膜から腸管腔に漏出する疾患で低アルブミン血症を生
 じ食欲不振、下痢、貧血、腹水、浮腫を主症状とする。巨大敏壁胃、クローン病、
 腸リンパ管拡張症、小腸潰瘍、アレルギー性胃腸炎、潰瘍性大腸炎、ポリポージ
 ス、結核、悪性腫瘍、うっ血性心不全、胃切除後症候群、アミロイドーシス、盲
 管症候群などに続発する。消化吸収試験を行いレ線や小腸生検で主病を決定し抗
 生物質、サラゾピリン、抗プラスミン剤、免疫抑制剤、アルブミン補液などで加
 療する。






腸リンパ管拡張症
(榎村・吉岡『病名・文献検索辞典』世界保健通信社.1985,1st ed.,p17)
  主として小腸の粘膜固有層および粘膜下組織に著明なリンパ管の拡大がみられ
 全身浮腫と低蛋白血、リンパ球減少で発見される。蛋白漏出性胃腸症、本態性低
 蛋白血症の主因となり小児や青年層にみられ希に先天性のものもある。ベーチェ
 ット病、収縮性心膜炎、肝硬変、アミロイドーシス、胆石症、胆嚢炎、胃切除、
 膵炎、膵癌などに伴う場合もあり原因は判明していないが、高蛋白食や副腎皮質
 ステロイド剤で改善のみられることもありリンパ-静脈吻合術も試みられる。







◎地図状舌について(NIS 2007、No.4340(H19/6/30)、pp.91-92)
  1. 舌背・舌縁・舌尖に多く生じ、中央が淡紅色、周囲が白色の境界明瞭な斑として
  認められ徐々に拡大。舌苔を伴わない。
  2. 常に変化している。移動性紅斑舌とも呼ばれる。
  3. 多くは慢性経過。治っても再発する。稀にアトピー患者では口蓋・頬粘膜・歯肉
  にも生ずる。溝状舌を合併することも多い。
  4. 通常は疼痛はない。軽い味覚異常、しみる感じ、ピリピリ感あり。
  5. 小児に多く15%程度にみられる。成人では1〜2%で女性に多い。
  6. 原因:遺伝的素因、神経性障害、自律神経失調症、ビタミンB欠乏などが報告さ
  れているが原因不明。喘息・鼻炎・気管支炎などとの関連性? 。
  7. 有効な治療法はない。無症状の場合は放置。痛みがあれば口内炎に準じる治療。







◎組織学的胃炎と内視鏡的(形態学的)胃炎について(『ロハス・メディカル』(H20.7.7)、国立国際医療センター消化器科 小早川雅男)
 1. 炎症とは何か?
   本来「胃炎」とはどういった病態を表すものなのか。最も適切な病名と
  いうものは、その病態を最も適切に表現しているべきである。「胃炎」と
  いうからには、胃の炎症でなければならない。では炎症とは何であろうか。
  古代ローマのCelsusは、炎症とは「発赤」・「腫脹」・「発熱」・「疼痛」
  を伴うものと定義している。この概念は現代医学にも通ずるものであり、
  例えば転倒による外傷が化膿してしまった場合を想像すれば納得するであ
  ろう。近代に入ると顕微鏡が発明されたことにより病理学が盛んとなり、
  炎症とは組織内への炎症細胞浸潤が主体であることが解明された。すなわ
  ち顕微鏡で観察し、本来は存在しないはずの炎症細胞が組織内にあれば、
  その臓器の名前を冠し、例えば肺であれば肺炎、肝臓では肝炎といったよ
  うに病名が定義される。同様に胃に対しても胃の組織内に本来そこに有る
  べきはずのない炎症細胞の浸潤があれば「胃炎」ということになる。自己
  免疫性疾患という例外もあるが、一般に炎症とは細菌、ウイルス、異物な
  どが体内に侵入した場合、それを排除しようとする生体防御反応である。
  細菌であれば主に炎症細胞の一つである多核白血球が、ウイルスであれば
  リンパ球がその役割を果たす。また、細菌感染でも急性の炎症が持続し慢
  性化してくるとリンパ球の浸潤が増加する。これらのことは、現在では病
  理学の一般常識と言ってよいであろう。
 2. 組織学的胃炎の分類の変遷について
   「胃炎」については、1936年にSchindlerが胃鏡による観察と切除した
  胃を顕微鏡で観察することによって急性胃炎と慢性胃炎(表層性胃炎、萎
  縮性胃炎、肥厚性胃炎)の組織学的な分類を提唱しており、これが胃炎の
  分類の基本とされている。この時代において胃炎の原因は全くの不明であ
  ったが、既に「組織学的胃炎」という病態があることが分かっていた。慢
  性胃炎では、急性期の活動性を示す多核白血球と慢性炎症であるリンパ球
  の浸潤が同時に起こっており、その原因については長い間不明とされてき
  た。しかし、1980年代になりWarrenとMarshallが胃の中にピロリ菌が生息
  しているのを発見し、現在では多核白血球の浸潤のある慢性活動性胃炎の
  ほとんどがピロリ菌の持続感染による感染性の胃炎であることが判明して
  いる。ピロリ菌の発見以後は、慢性胃炎をピロリ菌感染に主眼をおいて分
  類していこうと、世界消化器病学会でシドニー分類が提唱され、現在では
  その改訂版が全世界で使用されている。
 3. 内視鏡的(形態学的)胃炎について
   我が国では内視鏡検査が盛んだが、「組織学的胃炎」を内視鏡での外観
  (形態)で判断しようとした場合、様々な問題がある。胃は胃酸を分泌し
  ていることから、胃粘膜は常に酸による化学的な刺激を受けている。また、
  食物によって擦れたりするなどの物理的な刺激も受けている。このような
  ことから、ピロリ菌の感染による慢性胃炎がなく無症状の人にも、胃粘膜
  に「ビラン」と呼ばれる粘膜傷害や、「ヘマチン」という粘膜出血などが
  しばしば観察される。現在でも多くの医師が「ビラン」や「ヘマチン」が
  あっただけで組織学的な対比を行うことなく、「内視鏡で胃炎が確認され
  た」「あなたは胃炎があります」と診断している。しかし、「ビラン」や
  「ヘマチン」は決して組織学的な胃炎に特徴的なものではなく、症状にも
  関連性はほとんどない。内視鏡での形態で判断した胃炎は、「内視鏡的胃
  炎」もしくは「形態学的胃炎」と呼ばれるが、これが「組織学的胃炎」と
  必ずしも一致していないという問題点がある。
   しかしながら、ピロリ菌感染による「組織学的胃炎」の有無や、程度、
  範囲などについてある程度推測することも可能である。「組織学的胃炎」
  があれば、炎症の一般的な形態的特徴である「発赤」、「腫脹」が胃粘膜
  にも出現する。また、炎症の結果に生じた「胃粘膜の萎縮」(胃の老化現
  象)も観察することが出来きる。このような組織学的胃炎に特徴的な胃粘
  膜の形態の変化を注意深く観察すれば、「組織学的胃炎」をある程度正確
  に診断することもできる。
 4. まとめ
   胃炎は「組織学的胃炎」を基に病態的に定義されるべきだが、現時点に
  おいて、「組織学的胃炎」と「内視鏡的胃炎」とは必ずしも一致する概念
  ではない。しかし、内視鏡的に組織学的胃炎を推測することはある程度可
  能であり、今後、内視鏡の発達している我が国が中心となって、ピロリ菌
  感染による組織学的な胃炎を考慮した内視鏡検査での記載、分類方法を確
  立して普及していかなければならないと考える。







◎直腸出血の鑑別診断 (NEJM2009;360:1242)
 1. Upper gastrointestinal tract sources (10% of cases)
  1) Peptic ulcer disease (duodenal source more often than
             gastric source)
  2) Vascular anomaly
  ・Arteriovenous malformation
  ・Angiodysplasia
  ・Dieulafoy's lesion
  3) Duodenal diverticulosis
  4) Aortoduodenal fistula
  5) Duodenal neoplasms
  ・Adenocarcinoma
  ・Lymphoma
  ・Gastrointestinal stromal tumor
  ・Metastatic disease (melanoma)
 2. Small bowel sources (5% of cases)
  1) Aortoenteric fistula
  2) Vascular anomalies 
  ・Arteriovenous malformation
  ・Angiodysplasia
  ・Dieulafoy's lesion
  3) Jejunoileal diverticulosis
  4) Meckel's diverticulum
  5) Neoplasms
  ・Adenocarcinoma
  ・Lymphoma
  ・Gastrointestinal stromal tumor
  ・Leiomyoma or leiomyosarcoma
  ・Metastatic disease (e.g., melanoma or breast, lung,
   ovarian, or colon cancer)
  ・Carcinoid
  ・Hemangioma
  6) Mesenteric varices
  7) Ulcerative diseases
  ・Crohn's disease
  ・Ulcerative jejunoileitis
  ・Vasculitis
  ・Drug-related (nonsteroidal antiinflammatory drugs or
   potassium chloride)
  ・Inflammatory bowel disease
 3. Colorectal sources (85% of cases)
  1) Diverticulosis
  2) Vascular anomaly
  ・Arteriovenous malformation
  ・Angiodysplasia
  ・Dieulafoy's lesion
  3) Radiation colopathy
  4) Colitis
  ・Ischemic
  ・Infections
  ・ldiopathic (inframmatory bowel disease)
  5) Hemorrhoids
  6) Rectal varices
  7) Ulcers not related to inflammatory bowel disease
  ・Stercoral
  ・Vasculitis
  ・Drugs (non steroidal antinflammatory drugs or potassium chloride)
  8) Neoplasm
  ・Adenocarcinoma   
  ・Lymphoma
  ・Metastatic disease
  ・Gastrointestinal stromal tumor
  ・Hemangiomas







◎膵腫瘍性嚢胞について(日本臨床内科医会雑誌 2009;24(2):268-270)
  1. 膵漿液性嚢胞腫瘍(serous cystic neoplasm ; SCN)
  ・腺房中心細胞あるいは細膵管上皮から発生
  ・内容液は無色透明で漿液性'
  ・肉眼的には蜂巣状に小嚢胞が集簇した形態が典型的(microcystic adenoma)
  ・蜂巣状集簇部を大きな嚢胞が取り囲み分葉状あるいはクローバー状の辺縁形
  態を有することがある。充実型・大嚢胞型もあり形態は多様。
  ・生物学的悪性度は低い
  ・診断:蜂巣の小嚢胞を確認、多結節性、主膵管の拡張はない。
  ・MCNとの鑑別困難な例もあるが一般的に画像診断は容易。
  2. 膵粘液性嚢胞腫瘍(mucinous cystic neoplasm ; MCN)
  ・大部分が女性の膵体尾部に好発。男の報告はきわめて稀。
  ・肉眼所見は球形または類円形で厚い線維性共通被膜につつまれる単房性また
  は多房性のオレンジ状の腫瘍。多房性の場合は嚢胞腔内に嚢胞腔がある。
  ・内溶液は粘液性ないし粘血性
  ・腫瘍と膵管の交通はないことが多く、膵管拡張や腫瘍の膵管内進展は認めな
  い。
  ・被覆上皮は粘液産生性高円柱上皮で異型度に応じて腺腫、境界型、腺癌に
  分類される。
  ・粘液性嚢胞腫瘍と腺癌の区別は困難であり、画像診断で MCNと診断したら
  切除が原則
  3. 膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary-mucinou neoplasm ; IPMN)
  ・粘液産生性の腫瘍細胞が分泌する粘液貯留による膵管拡張を特徴とする膵管
  上皮系腫瘍。比較的高齢の男性の膵臓頭部に発生
  ・分類
   1) 主膵管型:主膵管が全長にわたって円筒状に著名に拡張。悪性転化の
    頻度が明らかに高いとされている。エコーで嚢胞状円筒状の主膵管拡
    張。悪性度が高いので手術の適応。
   2) 分岐型:分岐膵管がブドウの房状に拡張し、多房性嚢胞状の形態。
    エコー上隔壁を有する分葉状多房性に描出され全長にわたり膵管拡張
    あり。
   3) 混合型:上記両者の混合
  ・腫瘍の上皮成分は粘液性細胞の乳頭状増殖。粘液産生や増殖の程度は様々
  ・adenoma-carcinoma sequenceが存在し進行は緩やかだが悪性化してIPMN
  由来の浸潤癌に進展する。
  ・IPMNは(すべての型で)その経過中に異時性あるいは同時性に通常型の膵管
  癌を高率に合併すると近年いわれだした。注意深い経過観察が重要。