咽頭喉頭異常感症

※0.2% 以下ではあるが下咽頭癌の様な致命的疾患が含まれており、見逃しを
 何としても避けねばならぬ。

※耳鼻咽喉科の外来患者の約5% が咽頭喉頭異常感を訴える。


◇原因
 ○50% の患者は訴えのある部位とは少し離れた所に慢性炎症を認める。その
  部分を治療すると、訴えは著明に改善。

 ○精神的な原因のあるものは 6% 程である。
 ○過長茎状突起などの形態異常はわずか3%にしかすぎない。


◇一次スクリーニング (患者を選抜)
 ○塩化リゾチーム (270mg/d、ノイチーム・レフトーゼ) とメダゼパム
   (15mg/d、セレミット・ノブリウム・レスミット) を 2週間投与し異常感
  が改善しなければ、高危険度群 (約18%) とする。

 ※高危険度群に対しては悪性腫瘍の発見を目指して精検を進める。


◇二次スクリーニング:慢性副鼻腔炎等、特定疾患をターゲットとするもの
 ○慢性副鼻腔炎をターゲットとする場合:新マクロライドを 2W投与

 ○慢性甲状腺炎をターゲットとする場合:レボチロキシンを 2W投与
 ○喉頭アレルギーをターゲットとする場合:アゼラスチンを 2W投与
 ○鬱状態をターゲットとする場合:ドスレピンを 2W投与

※いずれも診断的治療に属する。効果あれば治療を続け効果なければ
 もう一度初心に帰り考え直す。








更年期障害の診断 (私案、1985年)

※注意:とりあえず一か月は何らかの基礎疾患があるものと考え、患者の訴え
    を良く聞いて慎重に検査等で対処すること。初めから先入観を持って
    はならない。


 1. 大症状 (0.75点) : 冷え性・のぼせ・ほてり・動悸
 2. 中症状 (0.5 点) : 肩こり・頭痛・頭重感・腰痛・倦怠感・憂鬱
 3. 小症状 (0.3 点) : 物忘れ・腹痛・眩暈・耳鳴り・不眠・食欲不振・発汗
            吐き気・知覚異常・筋肉痛・口の渇き・視力異常・排
            尿異常
 4. その他 (0.1 点) : 説明のつかない不定愁訴

判定:4.5点以上  possible
   3 〜 4.4点 border line
   3点未満   impossible


※更年期障害の主要症状
A. 自律神経失調症
  熱感 (顔面紅潮・ほてり 、冷感 (悪寒)、発汗、動悸 (頻脈)、徐脈、頭痛・
  頭重感、知覚異常、睡眠障害、耳鳴り、眩暈


B. 精神症状
  神経過敏、憂鬱、抑鬱、怒りっぽい、気力減退、記憶力減退


C. 身体症状
 (1). 皮膚・分泌系症状
    かゆみ、蟻走感、口渇感、流涎

 (2). 運動器系症状
    肩こり、腰痛、関節痛、筋肉痛

 (3). 泌尿・生殖器系症状
    頻尿、排尿痛、残尿感、性交障害、外陰部掻痒、帯下異常感

 (4). 消化器系症状
    食欲不振、悪心、嘔吐、便秘、下痢、腹痛

 (5). その他
    疲労倦怠感等








子供の心身症

(1). 年齢による心身症の特徴
 1. 乳幼児
   吐乳・下痢・便秘等消化器症状や発育障害等の全身的反応

 2. 幼児期
   躾と関連、軽微な症状の反復。頻尿・夜尿・どもり・神経性習癖等

 3. 学童期
   生活や行動上の問題を伴いやすく、チック・歩行障害・抜毛症・心因性
   発熱などがある。

 4. 思春期
   自律神経失調状態がふえる。起立性調節障害・過敏性腸症候群・過換気
   症候群・神経性食欲不振症などがある。


(2). 原因
   母親の長期不在・母親の愛情不足・両親の不和や離婚・親の死・災害へ
   の遭遇・先生や友人への不信・先生の交代・転校による友人や先生との
   別れ異性との破綻・疎外やいじめ・学業不振や過重・課外活動等集団生
   活への不適合・過保護や過干渉


(3). 前駆症状
 1. 体力低下・元気がない・疲れ易い。

 2. 情緒不安定・抑鬱・無気力傾向。

 3. 記憶力・判断力・集中力の低下、学習への意欲がなくなる。

 4. 基本的生活習慣の乱れ、帰宅が遅い、外泊する。

 5. 家族との接触を避け部屋に閉じこもる。

 6. 社会的・対人的行動の逸脱。

 7. 特に母親に甘えたり、反抗したりする。








心因性の視力視野異常

1. 特徴
 a. 8 〜14歳の女児に多い。

 b. 初診時裸眼視力は 0.1 〜 0.4
 c. 主訴の大部分は視力障害だが自覚的というより学校健診で発見。
 d. レンズ打ち消し法 (レンズの組み合わせで、裸眼視力と同じになる) で簡
   単に矯正できる。

 e. 視野測定
   らせん状視野狭窄、求心性視野狭窄、水玉様視野を呈する。

 f. 色覚検査で非定型的反応を示す。
 g. 他の症状の合併
   難聴・頭痛・腹痛・嘔気・嘔吐・下痢・発熱など。

2. 原因・誘因
 a. 親の過剰期待。あるいは親にかまって貰えないことへの不満。

 b. 離婚、母子家庭、死別、単身赴任、家族の病気、同胞に対する嫉妬。
 c. 精神的未発達、患者の人格の問題
 d. 友人関係のこじれ
 e. その他
   肥満、事故、身体的ハンディキャップ等








仮面様鬱病の診断 (私案、1985年)

※注意:とりあえず一か月は何らかの基礎疾患があるものと考え、患者の訴え
    を良く聞いて慎重に検査等で対処すること。初めから先入観を持って
    はならない。

※特に、心臓弁膜疾患 (AS・AR・MS・MPS 等)、肺気腫・糖尿病・中毒、代
 謝異常 (肝性脳症・尿毒症等) 、精神病等、基礎疾患+仮面様鬱病の場合が多
 く存在する。慢性疲労症候群にも注意。

判定:以下の項目のうちどれでも 5項目以上あれば possible 、3 〜 4項目な
   ら probable

 1. 何らかの誘因
 2. 睡眠障害
 3. 午前中の不快感
 4. 疲労感・倦怠感
 5. 頭痛・頭重感
 6. 眩暈・動悸・吐き気・肩こり
 7. 食欲不振








月経症状

A. 局所症状:骨盤内臓器の充血や鬱血で生ずる
 (1). 下腹部重圧感、膨満感

 (2). 仙骨部の緊張感
 (3). 下肢に放散する牽引感
 (4). 尿意頻数

B. 全身症状:自律神経失調症により生ずる
 (1). 頭痛・片頭痛

 (2). 顔の熱感・ほてり、発汗、むくみ
 (3). 心悸亢進
 (4). 憂鬱、興奮、イライラ、倦怠感、神経過敏
 (5). 食欲不振、悪心、嘔吐、唾液異常分泌 (口渇)、嗜好の変化
 (6). にきび








不定愁訴の種類 (45例・重複あり)

 肩こり(73.3%)、熱感と冷感(68.8%)、腰痛(64.4%)、頭痛・頭重感
  (46.6%)、気分不快 (憂鬱・倦怠・不安等) (42.2%)、しびれ・知覚異常
  (40.0%)、眩暈・ふらつき(24.4%)、性交痛・性欲減退(22.2%)、動悸・胸
 内圧迫感(20.0%)、 咽頭喉頭不快感(15.5%)、その他(24.4%)







インポテンスの治療

◇内服薬
 トラゾドン (抗うつ剤):副作用 (眠気・ふらつき・頭痛) が多いので、はじ
            め 25-50mg/day 投与して慣れてから性交日に
            100-200mg投与
            PGE1

◇陰茎海綿体内注射
 塩酸パパベリン・PGE1








女性化乳房・gynecomastia

(1). 女性化乳房の原因
 1. 思春期・老年期の生理的肥大

 2. 先天的
   KLeinfelter症候群

 3. 薬剤性 (エストロゲン・ジギタリス・スピロノラクトン・サキオジール
       スルピリド 等)

 4. 基礎疾患 (睾丸腫瘍・副腎腫瘍・肺疾患・肝硬変等)

 5. 特発性

※殆ど放置して何ら差し支えない、美容上・痛みが強い時のみタモキシフェン
 を投与する。外科的切除は癌の疑いがある時のみ。


(2). 女性化乳房を起こす病態
 1. 乳腺組織における free estrogen 増加
  a. estrogen 産生増加
  b. sex hormone binding globulin (SHBG) の置換による free
    estrogen 増加
  c. estrogen の代謝異常
  d. 外因性の estrogen または estrogen 類似物質の投与

 2. 乳腺組織における free androgen 減少
  a. androgen 産生の減少
  b. androgen の代謝亢進
  c. sex hormone binding globulin (SHBG) への androgen 結合の増加

 3. androgen 受容体の機能異常

 4. 乳腺組織の estrogen 感受性亢進

 5. 特発性








神経性食欲不振症 (AN) (一部神経性過食症 (BN))・摂食障害

※AN と BN は相互移行的、重複的な病態である。両者を一括して摂食障害と
 いう。

A. 神経性食欲不振症の診断基準
 1. 標準体重の -20% 以上のやせ

 2. 食行動の異常 (不食、大食、隠れ食いなど)

 3. 体重や体型について歪んだ知識 (体重増加に対する極端な恐怖など)

 4. 発症年齢:30歳以下

 5. 無月経 (女性)

 6. やせの原因となる器質的疾患がない
   (備考:1・2・3・5 は既往歴も含む。6項目全てを満たさぬ場合は疑診
    例。)

 注釈 1:3か月以上持続、通常 -25% 以上やせている。-20 は目安。
     初期のケースでは -20% を満たす必要はない。

 注釈 2:経過中は大食になることも多い。大食にはしばしば自己誘発性嘔吐
     や下痢、利尿剤乱用を伴う。そのた食物貯蔵・盗食を伴う。また過
     度に活動する傾向あり。

 注釈 3:極端なやせ願望。ボディ・イメージの障害あり。本人は病的だと
     思ってない。 (本人の希望体重や、その体重を維持するための言動
     に注目)

 注釈 4:稀に 30歳を越える。殆どは 25以下で思春期に多い。

 注釈 5:性器出血がホルモン投与によってのみ起こる場合は無月経とする。
     その他身体症状:うぶ毛密生、徐脈、便秘、低血圧、低体温、浮腫
             など

 注釈 6:精神分裂病による奇異な拒食、うつ病による食欲不振、単なる心因
     反応を鑑別。


B. 治療への導入
 1. 患者には「治療なんか必要ない」という気持ちと「このままではいけない
   治したい」という気持ちが共存する。

 2. 内科的検査を勧める
   甲状腺機能、CBC、総蛋白・分画、肝機能、腎機能、総コレステロール、
   成長ホルモン測定。

 3. 「やりたいことが、一杯あると思うが、メシと睡眠が足りてなければ
    どうにもならない、体力が続くか心配だ。寝たきりになってもいい
    か。」などと判断を伝える。


C. 外来か入院か (以下の事項を考慮して決定。入院を強制しないこと。)
 a. 標準体重の 30% 以上のやせが 3か月以上続く

 b. 重篤な代謝障害あり (自己嘔吐、下剤乱用も含む)
   体温 36度以下、収縮期血圧 70以下、血清K2.5 より低下、BUNは
   30以上。

 c. 重篤なうつ状態や自殺企画

 d. 激しい過食傾向

 e. 明かな精神病

 f. 劣悪な家族環境、失敗した治療歴。


D. 治療法 : 特効的な療法はない
 1). 身体的治療
  1. 薬物療法
   a. 一般的
     スルピリドを 150 - 300mg/日。抗鬱作用、食欲中枢作用。
   b. 性格のかたくなな症例
     クロルプロマジン37.5 - 75mg/日、又はチオリダン30 - 60mg/日
   c. 強迫観念 (「・・・しなければ食べられない」などの) に対して
     プロマゼパム (レキソタン) を 4 - 15mg/日。抗不安薬効果を期待
   d. うつ状態に (過食後にうつ状態になることあり)
     イミプラミン (トフラニール) 30 - 75mg/日。
     トラゾドン (レスリン、デジレル) 50 - 300mg/日。過食に有効?

  2. 食事療法
    1000cal 程度から始めて数週おきに 200Cal ずつ増量。
    クリニミールやサスタジェンなども比較的抵抗がない。

  3. 輸液 (通常の水分補給)
    脱水 (血清Na が見かけ上、上昇) の是正。

  4. ED
    鼻腔栄養は恐怖や嫌悪感を起こす事があり注意。

  5. IVH

  6. 無月経の治療
    体重が標準体重の 80% 以上に回復して、女性として世に出ようとす
    る気持ちが芽生えた上で治療する。
     (普通に食べる様になれば月経が自然に再来する場合がある)


 2). 心理的治療法 (★印は最も有効とされている)
  1. カウンセリング

  2. 環境調整
    入院、家族との面接など

  3. ★誤った食習慣をやめて新しい食習慣を形成
     (行動療法、最も注目されている)
   イ. オペランド条件付け (報酬学習)  : 体重が増えれば外泊を許すなど
   ロ. 自己統制法 (自分で目標を定める) : 報酬学習を自分で決める

  4. 認知行動療法

  5. 交流分析 (精神分析的方法)
    対人関係の調整。

  6. 芸術療法

  7. 箱庭療法
    言語外の方法で自己を表現し再統合する。

  8. ★家族療法
    家族の病理の調整。


E. 転帰 (目安)
  治癒 : 44% (186/418)
  軽快 : 39% (162/418)
  不変 : 14% ( 58/418)
  死亡 : 3% ( 12/418)








夏バテ

 夏から秋前半にかけて全身倦怠・違和感・易疲労・食欲不振・下痢・体重減
 少・寝汗・冷や汗・息切れ・手足のほてり等を訴える。

◇臨床検査
  血圧・検尿・検便・CBC・ESR・血液生化学・ECG・胸部 X線・肝炎ウイ
  ルス・甲状腺機能検査・心因の有無

◇治療:睡眠
  糖質過多にならない。蛋白質の摂取 (ウナギ…)
  ビタミンB1 (肉体労働)
  心因があればトランキライザー・抗うつ剤
  清暑益気湯・補中益気湯
★治りが悪ければ検査を繰り返す。







排尿障害

 ※下部尿路に分布する自律神は交感神経はTh11〜L2。副交感神経はS2〜4
  を下位中枢としており、骨盤神経叢で合流したのち、膀胱および尿道に分
  布。
  仙髄副交感神経は主として膀胱排尿筋を支配、胸腰髄交感神経は主として
  内尿道括約筋を支配しているため、これの障害は排尿筋の収縮障害と尿道
  括約筋不全を招く。

 A.原因
  1.直腸癌根治術後排尿障害
   中直腸動脈近傍の手術的処置のところで起こる
  2.子宮癌根治術後排尿障害
   基靭帯の処置のあたりで骨盤神経叢を損傷






パーキンソン病の自律神経症状

  1. 消化管障害
    便秘、消化管蠕動異常、イレウス、巨大結腸症、腸捻転、逆流性食道炎
    咽頭喉頭機能障害
  2. 膀胱障害:蓄尿障害、排尿障害
  3. 起立性低血圧症、食事性低血圧、低血圧
  4. 発汗障害、体温調節障害
  5. 流涎
  6. 脂顔
  7. 疼痛
  8. 陰萎
  9. 網状皮疹








Partial androgen deficiency in aging male(PDAM、男性更年期障害)に対する
質問票(Morley JE,et al:Validation of a screening questionnaire for
androgen deficiency in aging males.Metabolism 49:1239-1242,2000.)
  1. 性欲(セックスをしたいという気持ち)の低下がありますか?(yes、no)
  2. 元気がなくなってきましたか?(yes、no)
  3. 体力あるいは持続力の低下がありますか?(yes、no)
  4. 身長が低くなりましたか?(yes、no)
  5. 「日々の楽しみ」が少なくなってきたと感じますか?(yes、no)
  6. 物悲しい気分・不機嫌ですか?(yes、no)
  7. 勃起力は弱くなりましたか?(yes、no)
  8. 最近、運動する能力が低下したと感じますか?(yes、no)
  9. 夕食後、うたたねをすることがありますか?(yes、no)
  10. 最近、仕事の能力が低下したと感じていますか?(yes、no)

判定: 1. あるいは 7. の答えが"yes"の場合、または1~10の答が3つ以上"yes"
の場合 PDAM があるとされている。
(日本語訳試案:札幌医大、日内雑誌 2003;92(9):1698-1699)







Aging males symptoms' rating scale (判定については2003年現在検討中)
(Heinemann LAJ.et al: The aging males' symptomas(AMS) rating scale:
cultural and linguistic validation into English.Aging males 4:
14-22,2001)

1. 総合的に調子が思わしくない(健康状態、本人自身の感じ方)
   (なし    軽い    中等度   重い    非常に重い)
2. 関節や筋肉の痛み(腰痛、関節痛、手足の痛れ、背中の痛み)
3. ひどい発汗(思いがけず突然汗がでる。緊張や運動とは関係なくほてる)
4. 睡眠の悩み(寝つきが悪い。ぐっすり眠れない。寝起きが早く疲れがとれない。
浅い睡眠、眠れない)
5. よく眠くなる。しばしば疲れる
6. いらいらする(当り散らす。ささいなことにすぐはらを立てる。不機嫌になる)
7. 神経質になった(緊張しやすい。精神的に落ち着かない。じっとしていられない)
8. 不安感(パニック状態になる)
9. からだの疲労や行動力の減退(全般的な行動の低下、活動の減少、余暇活動に
  興味がない。達成感がない。自分をせかせないとなにもしない)
10. 筋力の低下
11. ゆううつな気分(落ち込み、悲しみ、涙もろい、意欲がわかない、気分のむら、無用感)
12. 絶頂間は過ぎたと感じる
13. 力尽きた。どん底にいると感じる
14. ひげの伸びが遅くなった
15. 性的能力の衰え
16. 早朝勃起(朝立ち)の回数の減少
17. 性欲の低下(セックスが楽しくない。性交の欲求がおきない)
(日本語訳試案:札幌医大、日内雑誌 2003;92(9):1698-1699)







身体表現性障害について(日医雑誌 2004;131:SC-37~40(p64-65の間))
1.定義
  身体表現性障害(somatoform disorders)は、検査結果や身体所見では十分説明
  できない身体症状を慢性に訴える一群の疾患の総称である。「身体表現性」とは、
  心理社会的なストレスや要因が患者の自覚なしに、すなわち無意識に身体症状とし
  て表現されているという意味である。このように心理的ストレスや葛藤が身体症状
  として表れることを身体化(somatization)と呼ぶが、これは誰もが経験するもの
  である。
  日常臨床において、検査や身体所見では十分説明できない、さまぎまな身体的な
  訴えをする患者は多い。こうした患者は従来、不定愁訴、自律神経失調症、心身
  症、心臓神経症、胃腸神経症、心気症、ヒステリー、心因性の身体症状、気の持ち
  よう、何でもない、などと診断されていた。こうした訴えに対しては、身体症状が
  前景に出たうつ病や各種の不安障害との錐別がまず必要となるが、身体症状だけを
  主に訴える場合は身体表現性障害の可能性を考慮すべきである。現在、検査で症状
  を十分説明できるだけの所見がない身体的な訴えが持続する、さまざまなタイプの
  患者を、身体表現性障害としてまとめている。プライマリ・ケアではなじみの少な
  い疾患名であるが、身体症状を執拗に訴え、頻回に不必要な検査や治療を求めるた
  め、適切な診断と対応が求められる精神疾患の一つである。
2.特徴
  1)検査や身体所見で十分説明できない身体症状
  2)身体的訴えは多彩で、慢性に持続
  3)医学的な保証に納得しない
  4)心理社会的な要因の関与はむしろ否定する
  5)執拗に検査や治療を求める(ポリサージャリー、ドクター・ショッピング)
  3.身体化の心理的メカニズム(推定)
  1)身体感覚の増幅
   身体感覚にとらわれることによって症状が強くなる
  2)誰かが身体の病気になることによる家族関係の安定
  3)疾病利得
   ・無意識に抑圧された葛藤が表出される(−次的な疾病利得)
   ・症状によって、現実に患者が欲しているものを得る(二次的な疾病利得)
  4)解離
   ・いわゆる転換ヒステリーでみられる偽神経学的な症状
   ・無意識の心理的なプロセス
4.身体表現性障害の患者に多い身体愁訴と関連する症候群
  1)消化器症状:嘔吐、腹痛、嘔気、鼓腸、下痢、消化不良
  2)偽神経学的症状:健忘、嚥下困難、失声、聾、複視、盲、失神、歩行困難
    けいれん発作、脱力、排尿困難
  3)関連する症候群
   ・漠然とした食物アレルギー
   ・非定型的な胸痛
   ・側頭顎関節症候群
   ・低血糖様症状
   ・慢性疲労症候群
   ・漠然としたビタミン欠乏症
   ・月経前症候群
   ・多種類の化学物質過敏症
  4)痛み:全身の痛み、四肢の痛み、腰痛、関節痛、排尿痛、頭痛
  5)心・呼吸器症状:安静時の息切れ、動悸 胸痛 めまい
  6)生殖器症状:性器の灼熱痛、性交時痛、月経痛、月経不順、月経過多
   妊娠中の嘔吐
  5.身体表現性障害のサブタイプ(DSM-IVによる)
   ・身体化障害:かつてヒステリー、プリカ症候群といわれたもの
   ・鑑別不能型身体表現性障害:すくなくとも6か月以上続く。最も多い。
   ・転換性障害:いわゆる神経症状を示す転換ヒステリー
   ・疼痛性障害:いわゆる慢性疼痛症
   ・心気症:従来の心気神経症
   ・身体醜形性障害:身体的外観の欠陥へのとらわれ
   ・特定不能の身体表現性障害
6.診断のポイント
  検査や身体所見で十分説明できない身体症状的な訴えが持続する場合、まずは
  頻度の多いうつ病や不安障害の鑑別が必要となる。その後は各身体表現性障害の
  サブタイプの鑑別診断が必要となる。転換性障害conversion disorderの診断は
  慎重でなければならない。
    従来、ヒステリーと診断された患者の10〜30%にてんかん、多発性硬化症、脳炎、
  脳腫瘍などの脳器質疾患、SLEや重症筋無力症、梅毒、結核、甲状腺機能亢進症・
  甲状腺機能低下症、副甲状腺機能亢進症、副甲状腺機能低下症、ポルフイリン症、
  低血糖などの器質性疾患の誤診であることが指摘されている。転換性障害は除外
  診断ではなく、その特徴から積極的に診断すべき疾患であり専門医への紹介が必
  要である。
    多数の身体症状を示す身体化障害の場合は、偽神経学的症状を呈する転換性障
  害とは異なり、器質疾患の見逃しは少ない。プライマリ・ケアの現場で多いのは
  鑑別不能型の身体表現性障害と心気症、疼痛性障害である。
    虚偽性障害は詐病とは異なり、病人の役割を好み、故意に症状を捏造し、実際
  に頻回に検査や手術、投薬を受けるため、合併症のリスクも高い。







心身症の分類(日医雑誌 2004;131:SC-43)
1. 器質的疾患の中にみられる心身症
  ・気管支喘息(cough variant asthmaを含む)、慢性閉塞性肺疾患
  ・本態性高血圧症、冠動脈疾窓(狭心症、心筋梗塞)
  ・胃・十二指腸潰瘍、急性胃粘膜病変(AGML)、慢性胃炎、潰瘍性大腸炎
  ・神経性食欲不振症、甲状腺機能亢進症、糖尿病
  ・痙性斜頸
  ・(小児科)気管支喘息、消化性潰瘍、神経性食欲不振症、バセドウ病
   糖尿病、アトピー性皮膚炎
  ・(皮膚科)アトピー性皮膚炎、円形脱毛症、汎発性脱毛症、接触皮膚炎
  ・腹部手術後愁訴(腸管癒着症、ダンピング症候群)、頻回手術症
  ・関節リウマチ、頸腕症候群、痛風
  ・老人性膣炎、外陰潰瘍
  ・アレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎、口内炎
  ・顎関節症
2. 機能的疾患としての心身症(外科領域には皆無と考える)
  ・過換気症候群、喉頭痙攣
  ・本態性低血圧症(特発性)、起立性低血圧症、一部の不整脈、レイノー病
  ・過敏性腸症候群、胆道ジスキネジー、心因性嘔吐、びまん性食道痙攣
   食道アカラシア
  ・(神経性)過食症、pseudo-Bartter症候群、愛情遮断性小人症
  ・筋収縮性頭痛、片頭痛、書痙、眼瞼疲労、味覚脱失、自律神経失調症
   舌の異常運動、振戦、チック
  ・(小児科)過換気症候群、憤怒痙攣、過敏性腸症候群、反復性腹痛
   (神経性)過食症、周期性嘔吐症、遺糞症、起立性調節障害
  ・慢性蕁麻疹、多汗症、日光皮膚炎、湿疹、皮膚掻痒症(陰部、肛囲、外耳道など)
  ・全身筋痛症、結合織炎症候群、腰痛症、肩こり、外傷性頸部症候群(むち打
   ち症を含む)、他の慢性疼痛性疾患、更年期障害、機能性子宮出血、婦人自
   律神経失調症、術後不定愁訴、月経痛、月経前症候群、月経異常
  ・眩暈症(メニエ−ル病、動揺病)、嗅覚障害
  ・牙関緊急症、口腔乾燥症、三叉神経痛、舌喉神経痛、特発性舌病症
   頻回手術症
3. 神経症的な要因の強い心身症(内分泌・代謝系、皮膚科、整形には皆無と考える)
  ・神経性咳嗽
  ・神経循環無力症
  ・反すう、呑気症(空気嚥下症)、ガス貯留症候群、神経性腹部緊満症
  ・その他の慢性疼痛、自律神経失調症、めまい、冷え性、しびれ感、異常知覚、運動麻痺
  ・(小児科)呑気症、めまい、夜驚症、心因性発熱
  ・形成術後神経症
  ・マタニティーフルー
  ・耳鳴り、心因性難聴、咽喉頭異常感症、嗄声、心因性失声症、吃音
  ・義歯不適応症、補綴後神経症、口腔・咽頭過敏症







不眠症、睡眠障害について(睡眠導入剤ハンディマニュアル、日本ベーリンガー
インゲルハイム.改定第4版.2004)
1. チェック項目
  1)不眠の状態
    睡眠開始の障害かまたは維持の障害かの確認
  2)不眠の持続期間
    一過性および短期の不眠か、長期の不眠かの確認
  3)生活リズム
    就寝および起床時刻、残業、交代勤務、育児など
  4)精神的要因
    精神的なショック、精神的ストレスなどの有無
  5)身体的要因
    睡眠を妨げている基礎疾患の有無
  6)服用中の薬剤
    アミノフイリン製剤、ステロイド剤、エフェドリンなど
  7)睡眠環境
    寝室の騒音、明るさ、温度など
  8)嗜好品
    アルコール・コーヒー・紅茶やタバコの1日量など
2. 分類と治療
  1)入眠障害
    a. 症状 
      床についてから眠るまでに、通常、1時間以上の時間を要する場合を
      いう。不眠の訴えの中で最も多い症状であり、3時間以上というケース
      も少なくない。
    b. 原因
     入眠を妨げている基礎疾患や寝室の環境、ストレス性の要因などが明
     らかでない場合は、「不眠恐怖症」によるものが多い。「むずむず脚症
     候群」や「周期性四肢運動障害」、「睡眠相後退症候群」が原因となっ
     ていることもある。
    c. 治療
      基礎疾患および環壊要因による入眠障害の場合は、その治療ならびに
      改善を行う。また、カフェインを多く含む嗜好品や喫煙にも注意を払う
      必要がある。
       入眠障害のみを訴える場合、半減期の短い超短時間型(ハルシオン、
      アモバン、マイスリー)および短時間型(レンドルミン、リスミー、ロ
      ラメット=エバミール)の睡眠導入剤が適応となる。適切な服薬指導およ
      び生活指導とともに、症状の観察を行う。半減期の短い睡眠導入剤は、
      連用後に急に服薬を中止すると反跳現象を起こすおそれがあるので、半
      量に減らしたり、隔日投与にしてから中止させる。
  2)中途覚醒
    a. 症状
      夜中に何度も目が覚めたり、その後は朝まで眠れなくなる場合をいう。
      夜間の覚醒時刻、覚醒回数には個人差がある。
    b. 原因
      睡眠を妨げている基礎疾患や騒音など不眠の原因が明らかでない場合
      は、精神生理学的要因によるものが多い。また、加齢とともに睡眠自体
      が浅くとぎれがちになるが、「睡眠時無呼吸症候群」や「周期性四肢運
      動障害」が原因となっている場合もある。
    c. 治療 
      基礎疾患や騒音などが原因の場合は、その治療ならぴに改善を行う。
      また、大きなイビキをかく場合や、家族の訴えなどから「睡眠時無呼吸
      症候群」や「周期性四肢運動障害」が疑われる場合は、専門医による検
      査が必要となる。
      中途覚醒に対しては、短時間型および中間型(ベンザリン=ネルボン
      、ユーロジン、エリミン、サイレース=ロヒプノール)の睡眠導入剤が
      適応となる。
      適切な服薬指導と生活指導を行い、症状の改善がみられれば、漸減、
      離脱を試みる。
  3)熟眠障害
    a. 症状
      睡眠時間の割には熟眠感が得られず、覚醒時に睡眠不足を訴えるもの。
      悪夢をみるケースが多い。
    b. 原因
      睡眠を妨げている基礎疾患や環境要因などが明らかでない場合は、精
      神生理学的要因あるいは薬物やアルコールの常用が原因の場合などが考
      えられる。また、「睡眠時無呼吸症候群」や「周期性四肢運動障害」に
      よっても覚醒時の睡眠不足と日中の強い眠気が起こる。
    c. 治療 
      基礎疾患や睡眠環境が原因の場合は、その治療ならぴに改善を行う。
      また、アルコールも摂取量が増すにつれ睡眠を妨げるため、減量および
       禁酒を促すのがよい。
      中途覚醒と同様に、短時間型および中間型の睡眠導入剤が適応となる。
      適切な服簗指導と生活指導を行い、症状の改善がみられれば、漸減、
      離脱を試みる。
  4)早朝覚醒
    a. 症状
      明け方近くに目が覚め、そのまま朝まで眠れないというケース。
    b. 原因
      高齢者の場合は、夜早く眠るなどの生活習慣と加齢に伴う生理的睡眠
      パターンの変化によるものであることが多い。また、うつ病の特徴的な
      症状でもあり、覚醒時に強い抑うつ感を訴える。
    c. 治療  
      高齢者には、生活習慣と加齢に伴う不眠であることを説明し、寝室に
      多くの光が差し込まないような工夫を試みるとともに、夜の就寝時刻を
      遅くさせる。なお、必要に応じて短時間型あるいは中間型の睡眠導入剤
      を用いる。高齢者の場合は、ベンゾジアゼピン系睡眠導入剤に対する感
      受性が高まると同時に、肝臓での代謝能が低下するため、成人量の1/2か
      ら投与を開始するなどの注意が必要である。
      また、抑うつ症状が著しく、うつ病が疑われる場合は、心療内科ある
      いは精神科などへの受診を促す。
3. 特異な睡眠異常および睡眠時随伴症
  (1)睡眠呼吸障害
    睡眠に関連して生じる呼吸障害の総称であり、閉塞性または中枢性睡眠時
    無呼吸症候群(両者の混合型も含む)、上気道抵抗症候群の3種類がある。
      1)閉塞性睡眠時無呼吸症候群
        a. 症状 
          日中の眠気、大きなイビキ、睡眠時の窒息感やあえぎ呼吸、夜間
          の頻尿、覚醒時の倦怠感、覚醒時の口渇など。
        b. 原因 
          上気道の閉塞による無呼吸が睡眠中に頻回に起こり、睡眠が分断
          され、動脈血酸素飽和度の低下をきたす。肥満、上気道の狭小化、
          下顎の後退、口蓋扁桃の肥大(小児)などが原因となっている。
        c. 治療 
          横臥位睡眠、CPAP(持続陽圧呼吸療法:睡眠中に特殊なマスクを
          つけて上気道内を陽圧に保つ方法)や、マウスピース様の歯科装具
          によって、睡眠中に下顎の後退を防ぐ方法などが行われている。睡
          眠薬やアルコールは無呼吸を悪化させるため、原則として禁止する。
       2)中枢性睡眠時無呼吸症候群
         a. 症状 
           中途覚醒、睡眠中のあえぎやうなり声および窒息感、睡眠中の頻
           繁な体動、睡眠中のチアノーゼ、日中における強い眠気や疲労感、
           倦怠感など。
         b. 原因 
           睡眠時に鼻と口からの換気が停止し、それと同時に、胸部と腹部
           の呼吸運動停止や減弱が起こって、通常、酸素飽和度の低下を伴う。
         c. 治療 
           閉塞性睡眠時無呼吸症候群の治療に使われるCPAP、アセタゾール
           アミドやクロミプラミンによる薬物療法が行われる。
       3)上気道抵抗症候群
         a. 症状 
           日中の眠気、頻繁な中途覚醒(ただし、無呼吸や低呼吸、動脈血
           酸素飽和度低下は出現しない)。
         b. 原因 
           睡眠中に呼吸努力が亢進することにより覚醒反応が生じ、睡眠を
           分断する。
         c. 治療 上述のG日泉田などが有効である。
  (2)むずむず足症候群
     就寝時において、下肢を中心に蟻が走っているようなむずむずするなど
     の不快感が走るため、睡眠が障害される症候群をいう。
       a. 症状 
         感覚異常のため、足を動かしたいという強い欲求がある。落ち着
         きのない運動や安静臥床状態で症状が発現・増悪し、四肢を動かす
         ことにより症状が改善する。症状は必ず夕方〜夜間に増悪する。
       b. 原因 
         家族内発症(常染色体優性遺伝)、妊娠、鉄欠乏性貧血、フェリ
         チン低下、慢性腎不全、胃切除後、うっ血性心不全、関節リウマチ、
         パーキンソン病、多発性神経炎、脊髄疾患、葉酸欠乏、ビタミンB欠乏など。
       c. 治療 
         原疾患の治療、薬物治療としてクロナゼパム、中枢ドパミン作動
         薬(パーキンソン病治療薬)、オピオイドなどが投与されている。
  (3)周期性四肢運動障害
      夜間睡眠中に片側または両側の足関節に背屈運動などの周期的な不随意
      運動が反復して生じるために睡眠感の障害を生じる。
         a. 症状  
           睡眠中に下肢ががくんとする、足がぴくぴくするなどの不随意運
           動が起こっているにもかかわらず、患者本人はこのような症状を自
           覚しないことが多く、不眠を訴えて来院する。
         b. 原因  
           睡眠中に下肢の運動障害が周期的に起こるため、中途覚醒、睡眠
           の質低下による日中の眠気、倦怠感を生じる。入眠障害を来すこと
           もある。
         c. 治療  
           むずむず脚症候群の治療に準ずる。
  (4)睡眠相後退症候群
      生体リズムの遅れにより、睡眠時間帯が極端に遅くなっていることを特
      徴とする症候群をいう。
         a. 症状  
           夜の就寝後、なかなか眠ることができず、朝3〜4時ころになって
           やっと眠れるようになり、朝に起床できず、目覚めるのが午後にな
           ってしまう。無理やり起こしても昼ごろまで眠気、倦怠感、頭重感
           があり、社会生活に支障を来すが、午後や夕方になるとすっきり目
           覚めてくる。
         b. 原因  
           不規則な生活習慣を続けたことが原因となっていることが多い。
           二次的に登校拒否やひきこもりが起こる。うつ病や統合失調症でも
           同様の症状を呈するため、鉦別診断が必要となる。
         c. 治療  
           治療初期はできるだけ、原因究明と治療後のフォローアップを兼
           ねる意味で、一定期間は専門医療機関での入院治療が望ましい。
           規則正しい生活改善や時間療法(毎日の就寝時刻を3時間ずつ遅ら
           せ、望ましい時刻に就床、起床できるようになった時点で固定する)
           、高照度光療法(起床後1時間2500ルクスの光を照射する)を行う。
           また、薬物治療として、ビタミンB12とペンゾジアゼピン系睡眠導
           入剤の併用やメラトニン投与などを行う。
  (5)レム(REM)睡眠行動障害
      何らかの原因によって、レム睡眠中に骨格筋の抑制が働かなくなり、夢
      の中での行動がそのまま異常行動となって現れる。
          a. 症状  
            暴力的、抗争的で不快な夢をみる場合が多く、夢の内容に一致し
            て激しい寝言や叫び声をあげる。また、徘徊したり、隣に寝ている
            配偶者を殴ったり、けるなどの暴力的行動を認める。さらに、近く
            にある家具や柱などにぶつかって患者本人が外傷を負うことも多い。
          b. 原因
            約40%が二次性であり、神経疾患や薬物により引き起こされる。
            パーキンソン病、脊髄小脳変性症、シャイ・ドレーガー症候群など
            の脳幹部の疾患で高頻度にみられる。残りの約60%は原因不明の特発
            性で、50〜60歳以降の男性に多くみられる。
          c. 治療  
            寝室の障害物を片付ける、ベッドの使用を中止し、マットなどを
            使用してより低い位置に寝るようにするなど寝室環境の改善を試み
            る。また、薬物療法としては、クロナゼパムの就寝前投与を行う。
            クロナゼパムが無効の場合はイミプラミンを就寝前に投与するが、
            両薬とも投与中は副作用の出現に注意が必要である。
            なお、特発性の場合にメラトニンの投与を試み、有効性が認めら
            れている。
4. 睡眠導入剤のタイプ
  超短時間型、短時間型、中間型は上記した。長時間型は日中に不安がある睡
  眠障害に使われる。ベノジール、ソメリン、ドラールがある。
5. 特に留意すべき副作用
  睡眠導入剤を含めてベンゾジアゼピン系の薬剤は、比較的安全性が高く(単
  独大量服用での死亡例はないとされている)、世界で最も広く使用されている
  薬剤の一つであるが、次のような問題点が指摘されている。
    1) 持越し効果
      服薬の効果が翌朝以棲まで持続し、眠気、ふらつきなどが出現するもので、
      特に高齢者に出やすい。持越し効果の著しい場合は、減量あるいは作用時間
      の短いものに置き換える。
    2) 精神運動機能
      作用時間の長い薬剤は日中の持越し効果のため、熟練、習熟を要する精神
      作業能力を低下させる可能性があり、車の運転や危険を伴う作業は避けさせ
      るべきである。
    3) 健忘
      アルコールとの併用で服薬直後、夜間覚醒時、覚醒後一定時間の出来事に
      ついての健忘が現れることがあるが、適正な服薬による限りほとんど問題と
      ならない。
    4) 反跳現象
      服薬によってほば満足すべき睡眠が得られるようになった段階で、突然服
      薬を中止すると反跳性の不眠が現れる場合がある。消失半減期の短い薬剤ほ
      ど出現しやすい。
    5) 奇異反応
      高力価の薬剤を高用量、それもアルコールと併用した場合、不安・焦燥に
      よる攻撃的な奇異反応を起こす場合があるが、臨床用量での適正使用による
      限りまれなものである。
    6) 筋弛緩作用
      高齢者の場合、夜間トイレに立つ機会が多く、筋弛緩作用の強い薬剤では、
      ふらつきによる転倒、骨折のおそれがあるので注意を要する。
    7) 呼吸抑制
      閉塞性肺疾患を伴う高齢者などの場合、呼吸抑制がみられることがあるの
      で注意を要する。
    8) 催奇性
      妊婦および妊娠の可能性がある婦人に対しては、催奇性の問題を考慮し投
      薬を避ける。
    9) アルコールとの相互作用
      睡眠導入剤で特に問題となる副作用のほとんどは、アルコールとの併用に
      よるものであり、患者への十分な指導が必要である。
    10) 肝機能障害、黄疸
      重大な副作用として肝機能障害・黄疸が現れることがあるので、異常が現
      れた場合には、直ちに投与を中止し、適切な処置を行う。







外傷後ストレス障害診断基準(PTSD、Posttraumatic Stress Disorder)
(高橋三郎他訳:DSM-IV精神疾患の分類と診断の手引き(1995):p.169(医学書院)より引用)

 A. 患者は、以下の2つが共に認められる外傷的な出来事に暴露されたことがある。
  (1)実際にまたは危うく死ぬまたは重傷を負うような出来事を、1度または数度、
     または自分または他人の身体の保全に迫る危険を、患者が体験し、目撃し、
     または直面した。
  (2)患者の反応は強い恐怖、無力感または戦慄に関するものである、
  [注]子供の場合はむしろ、まとまりのないまたは興奮した行動によって表現され
     ることがある。
 B. 外傷的な出来事が、以下の1つ(またはそれ以上)の形で再体験され続けている。
  (1)出来事の反復的で侵入的で苦痛な想起で、それは心像、思考、または知覚を
     含む。
  [注]小さい子供の場合、外傷の主題または側面を表現する遊びを繰り返すことが
     ある。
  (2)出来事についての反復的で苦痛な夢。
  [注]子供の場合は、はっきりとした内容のない恐ろしい夢であることがある。
  (3)外傷的な出来事が再び起こっているかのように行動したり、感じたりする
     (その体験を再体験する感覚、錯覚、幻覚、および解離性フラッシュバック
     のエピソードを含む、また、覚醒時または中寺時に起こるものを含む)。
  [注]小さい子供の場合、外傷特異的な再演が行われることがある。
  (4)外傷的出来事の1つの側面を象徴し、または類似している内的または外的き
     っかけに暴落された場合に生じる強い心理的苦痛。
  (5)外傷的出来事の1つの側面を象徴し、または類似している内的または外的き
     っかけに暴露された場合の生理学的反応性。
 C. 以下の3つ(またはそれ以上)によって示される、(外傷以前には存在していな
   かった)外傷と関連した刺激の持続的回避と、全般的反応性の麻痺。
  (1)外傷と関連した思考、感情または会話を回避しようとする努力。
  (2)外傷を想起させる活動、場所または人物を避けようとする努力。
  (3)外傷の重要な側面の想起不能。
  (4)重要な活動への関心または参加の著しい減退。
  (5)他の人から孤立している、または疎遠になっているという感覚。
  (6)感情の範囲の縮小(例:愛の感情を持つことができない)。
  (7)未来が短縮した感覚(例:仕事、結婚、子供、または正常な−生を期待し
     ない)。
 D. (外傷以前には存在していなかった)持続的な覚醒亢進症状で、以下の2つ(ま
   たはそれ以上)によって示される。
  (1)入眠または睡眠維持の困難
  (2)易刺激性または怒りの爆発
  (3)集中困難
  (4)過度の警戒心
  (5)過剰な驚愕反応
 E. 障害(基準B、C、およびDの症状)の持続期間が1か月以上。
 F. 障害は、臨床的に著しい苦痛または、社会的、職業的または他の重要な領域に
   おける機能の障害を引き起こしている。
→該当すれば特定せよ:
  急性:症状の持続期間が3か月未満の場合
  慢性:症状の持続期間が3か月以上の場合
→該当すれば特定せよ:
  発症遅延:症状の始まりがストレス因子から少なくとも6か月の場合。







低血圧の分類と症状
A.低血圧の分類
 1.本態性低血圧症
  a.無愁訴性低血圧
  b.愁訴性低血圧
 2.二次性低血圧
  a.内分泌性(アジソン、低カリウム血症、甲状腺機能低下)
  b.心臓、血管性(AS、不整脈など)
  c.神経性(糖尿病性、Shy-Drager症候群)
  d.薬剤性(利尿剤、降圧剤、抗精神薬など)
  e.循環血漿量の減少(低ナトリウム血症、低蛋白血症、脱水症など)
B.本態性低血圧の症状
 1.精神症状:脱力感、易疲労感、めまい、耳鳴り、不眠など
 2.循環器症状:前胸部圧迫感、動悸、息切れ、四肢冷感など
 3.消化器症状:上腹部膨満感、食欲不振、悪心、嘔吐など
 4.その他:頻尿、性機能不全など







体温(junior、Vol386、10号、1999)
A.健常人腋窩温
  1.10〜50歳(3094人)の統計値
   36.89+-0.342でほぼ正規分布(男子:36.92+-0.31、女子:36.85+-0.37)で
   男子が有意に高い
  2.65歳以上
   36.66+-0.42(男子:36.55+-0.41、女子:36.72+-0.42)
  3.18〜20歳女子(242例)
   36.67+-0.36(舌下温:36.96+-0.28)
B.直腸温、口腔温などとの違い
  1.直腸温は口腔に比べて0.4〜0.6度、腋窩に比べて0.8〜0.9度高い
  2.放射赤外線温度計(鼓膜温)では健常人で36.88+-0.46で口腔温とほぼ等しいが
   外耳道の形態や剛毛で約5%が測定不能
C.正常体温の変動因子
  1.早朝を最低として昼間を最高とする約1度の変動という日内リズム
  2.女性は黄体期では約0.3度高体温
  3.代謝活動に関して小児は高体温気味
  4.年齢、体型、入浴、食事などが影響







群発頭痛の治療
  A.群発頭痛発作時の頓挫療法
   1.純酸素吸入(100%酸素、7L/分15分間、フェイスマスク)
   2.スマトリプタン(イミグラン)3mg皮下注(1日2回まで、1時間以上の間隔で)
  B.群発頭痛の予防
   1)発作型群発頭痛
     1.カルシウム括抗薬(ベラパミル)(ワソラン80-120mg/日)
     2.副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン40mgより開始漸減)
     3.酒石酸エルゴタミン(カフェルゴット1mg就寝前)
     4.炭酸リチウム(リーマス300mg/日から漸増600-900mgを維持)
   2)慢性型群発頭痛
     1.カルシウム括抗薬(ベラパミル)(ワソランG80-120mg/日)
     2.炭酸リチウム(リーマス300mg/日から漸増600-900mg維持)
      (慢性型に有効)
     欧米ではカルシウム括抗薬を軸に他剤を併用する場合が多い。







◎周期性嘔吐症の特徴的症状・所見とその頻度(NIS 2006;4311(H18/12/9):60)
 1. 発症年齢:平均5.2歳
 2. 発作による休学期間:20日/年、輸液を必要とする(50%)
 3. 嘔吐の特徴:
  ピーク時6回/時間、胆汁性(76%)、血性(32%)
  発症・消失:急激な発症(30分前までは元気)と消失(4時間後に飲食可能)
  持続期間:24時間(2時間〜10日)
  周期性:周期が一定(47%)、通常2〜4週間ごと
  発症時間:夜間または早朝
  症状が毎回同じ:98%
  誘因:感染(41%)、精神的ストレス、緊張(34%)、食事性(チョコレート、
    チーズ、グルタミン酸など)(26%)、月経(13%)
 4. 随伴症状
   (発作時はACTH、コルチゾール、カテコラミン、ADHの分泌が亢進する。
   これはcorticotropin releasing facter(CRF)分泌亢進による)。
  自律神経症状:倦怠感(91%)、蒼白(87%)、発熱(29%)、流涎過多(13%)
  胃腸症状:腹痛(80%)、嘔気(76%)、食欲不振(74%)、下痢(36%)
  神経症状:頭痛(40%)、羞明(32%)、音声恐怖(28%)、めまい(22%)
 5. 予後:2〜3年で治癒(思春期前に治癒)、片頭痛への移行(27%)
 6. 片頭痛の家族歴:82%
 7. 治療薬:イミグラン(経口25〜50mg、体重40kg以上)、ゾフラン(鎮吐、0.15
    〜0.4mg/kgを6~8時間毎)、カイトリル(鎮吐、静注:40μg/kg、4〜6
    時間後に追加可能、2回まで)、ワイパックス(鎮静、抗不安、鎮吐、
    小児:0.05〜0.1mg/kg、6〜8時間毎、成人:1〜2mg/kg)、ウインタミン
    (鎮吐、2.2〜4.0mg/kg/日)
 8. 予防薬:インデラール(小児:0.6〜1.5mg/kg/日、成人:80mg/日〜160mg/日)
    ペリアクチン(経口:0.25〜0.4mg/kg/日)、トリプタノール(経口:
    0.2〜0.4mg/kg/日、寝る前一回、徐々に増量して最高1.5mg/kg/日)
    フェノバール(片頭痛、経口:2〜3mg/kg/日、分3)、テグレトール
   (片頭痛、経口:5〜10mg/kg/日、分2)、エリスロシン(モチリン
    作用・胃運動亢進、経口:20mg/kg/日、分3)
    デパケン(経口:20mg/kg/日、分2〜3)







◎周期性嘔吐症の鑑別診断と診断のための検査(NIS 2006;4311(H18/12/9):60)
 1. 消化器疾患:疑性閉鎖症、潰瘍性食道炎、胃潰瘍、胃giardiasis、十二指腸
     翼状贅片、回転異常、重複嚢胞、上部腸間膜圧迫、Crohn病、
     胆石症、慢性膵炎、慢性虫垂炎
  ・血液:CBC、ESR、肝機能(特にALT(GPT))、アミラーゼ、リパーゼ
  ・尿/便:便潜血
  ・X線その他:EGD、UGl、腹部CT、腹部エコー
 2. 神経疾患/耳鼻咽喉疾患一慢性副鼻腔炎、頭蓋内圧亢進
  ・X線:副鼻腔CT 頭部CTまたはMRI、EEG
 3. 腎疾患一閉塞性急性水腎症、nephrolithiasis
  ・尿:UA、尿Ca/Cr比
  ・X線:腎エコー
 4. 代謝/内分泌疾患一代謝異常症(脂肪酸代謝異常症、回転異常、ミトコンドリア
      異常、尿素サイクル異常症、急性間欠性ポルフィリア、
      ケトーシスを来す疾患)、内分泌疾患(Addison病、糖尿病、色色素症、視床下部疾患)
  ・血液:電解質、血糖、カテコラミン、pH、HC03-、カルニチン、乳酸、アンモ
    ニア、アミノ酸、ACTH、ADH
  ・尿:ケトン体、有機酸、カルニチン
 5. その他一過患 うつ病、不安症 妊娠
  ・血液:HCG
  ・尿:中毒物質
  ・心理テスト







◎恐怖性姿勢めまい(phobic postual vertigo、PPV)について(日本医事新報Junior 2008;473:pp.19-23)
 1. PPVは我が国ではまだ十分に認知されていないが、外来でしばしば遭遇する
  めまいの原因疾患である。
 2. 短時間のめまい、ふらつきが立位や歩行時に発作性に生じる。
 3. 発作を極端に恐れ、回避しようとするために日常生活の制限が著しい。
 4. 半数の患者に不安障害、うつ病や強迫性障害がみられる。
 5. 半数弱の患者に先行疾患(特にBPPVなどの前庭機能障害)を認める。
 6. 特に高齢者ではデコンディショニングが生じやすく、早期の介入が必要である。







◎神経性食思不振症の合併症(NEJM 2008;350:1280)
 1. Gastrointestinal
  1) Gastric dilatation and rupture
  2) Delayed gastric emptying
  3) Decreased intestinal motility
  4) Constipation
  5) Rectal prolapse
  6) Elevated liver aminotransferase levels
  7) Elevated serum amylase levels
  8) Superior mesenteric artery syndrome
 2. cardiovascular
  1) Sinus bradycardia
  2) Decreased left ventricular forces
  3) Orthostatic hypotension
  4) Orthostatic changes in pulse
  5) Mitral-Valve prolapse
  6) Prolonged QT inteerval corrected for heart rate
  7) Increased vagal tone
  8) Pericardial effusion
  9) Congestive heart failure
 10) Arrhythmia
 3. Hematologlc
  1) Anemia
  2) Leukopenia
  3) Thrombocytopenia
 4. Endocrine and metabolic
  1) Delayed puberty
  2) Arrested growth
  3) Osteopenia or osteoporosis
  4) Hypothermia
  5) Euthyroid sick syndrome
  6) Amenorrhea
  7) Refeeding syndrome
  8) Electrolyte disturbances involving sodium, magnesium, chloride,
   potassium, glucose, or phosphorus
  9) Decreased serum testosterone and estradiol
 10) Hypercholesterolemia
 11) Hypercortisolism
 4. Renal
  1) Increased blood urea nitrogen
  2) Calculi
 5. Neurologic
  1) Cortical atrophy
  2) Enlarged ventricles
  3) Peripheral neuropathy
 6. Dermatologic
  1) Xerosis
  2) Hypertrichosis
  3) Acne
  4) Alopecia