薬物性肝障害(薬物性肝炎) の治療

◇激症化
  胆汁鬱滞型は黄疸が著明でも激症化することは少ない。肝臓細胞障害型は
  注意が必要、症状や血清ビリルビン・トランスアミナーゼ・ChE・血液凝
  固因子・LCAT で評価する。血清ビリルビンの著明な上昇、PT やヘパプ
  ラスチンテストの著明な低下、肝性脳症の出現は激症化の有力な指標。

◇CH50 が急上昇する。

◇一般的治療
 糖質に富む消化の良い食事。脂肪を 30 〜 40g に制限
 輸液:5 〜 10% ブドウ糖 500 〜 1000cc。胆汁鬱滞で PT 延長例は
    ビタミンK をくわえる。
 強力ミノファーゲンC 40ml が著効することがある。

◇薬物療法
 1. 副腎皮質ホルモン
    胆汁鬱滞:30 〜 40mg のプレドニゾロンで開始、5日おきに5mg ず
    つ減らす。無効であれば早期に中止。

 2. ウルソデオキシコール酸
    胆汁鬱滞:150 〜 600mg/日

 3. フェノバルビタール
    遷延する胆汁鬱滞:60 〜 200mg/日 を 2週間投与

 4. コレスチラミン
    皮膚のかゆみに有効、抗ヒ剤と併用
    (クエストラン:一回 9.0g を水100ml に溶かし、一日 2 〜 3回服用)

 5. アミノエチルスルフォン酸 (タウリン)
    3g/日、ウルソデオキシコール酸と併用

 6. セクレチン
    副腎皮質ホルモンやフェノバルビタール無効例に100 〜 150U をブド
    ウ糖 250ml に溶かして点滴

※アセトアミノフェン肝障害 (肝炎):しばしば急性肝不全を起こす。

◇薬物
 アルピニー・アンヒバ・カロナール・PL (1.0g) 中にも150mg 入ってい
 る。
 内服の常用量は 0.9 〜 1.5g/day 。

◇薬物療法
 できるだけ早い時期より、アセチルシステイン (17.62% の吸入液:アセテ
 イン・ムコフィリン・サテリット・ARB液) を140mg/Kg 経口投与。
 以後一時間ごとに70mg/Kg を繰り返し投与 (血中濃度をモニターする)。
 シメチジンも有用








肝臓病・肝疾患・ウイルス性肝炎

※肝疾患を有しない一般人のウイルス保有率は B型 1.7% 、C型 1.2%

※総人口に対するウイルス保有率は B型 2.0% 、C型 1.4%

※B型キャリアー:200万人 (肝癌発生:4000人/年・200人/10万/年)

※C型キャリアー:144万人 (肝癌発生:21000/年・1500/10万/年)
(両者なしの肝癌発生率は16人/10万/年)
 (注). HBV と HCV はウイルス学的には全く異なるウイルスである

◇A型肝炎での注意すべき病態
 (1). 劇症肝炎10% 強は A型肝炎。
 (2). 腎不全を合併 (通常は劇症肝炎の経過中)
 (3). 胆汁鬱滞を呈し、慢性化する場合がある。
 (4). 骨髄抑制 (単独減少又は汎血球減少)

◇B型肝炎
※HBV キャリアの多くは成人期に一過性の肝臓障害を起こし鎮静化する。
 鎮静化した例はその後肝障害をみることなく肝臓癌も発生しない。
 しかし約10% は肝障害が持続して慢性肝炎から肝硬変へと進行。

※持続感染者の肝臓癌発症率は一般人口の発症率と比べて約200倍高い。
 また C型と異なって、肝硬変に至らなくても、どの段階でも肝臓癌発症の可
 能性がある。(従って C型肝炎の様な血小板数を用いた予測は困難)

※肝障害の有無に関わらず癌化する。

※HBV 陽性慢性肝炎からの肝臓癌発症率は 5年間で 3.9% といわれる。

※HBV 陽性肝硬変からの肝臓癌発症率は 5年間で 14.2% といわれる

※HCV 抗体陽性でもウイルスは極めて多いものから少ないものまである。
 またウイルス量は CPH や CAH といった肝臓の病態とも無関係。
 またトランスアミナーゼの値とも関係ない。

※HCV 抗体価の低い例ではウイルスの全く認められない治癒状態のものが殆ど
 でウイルスを持っていても量は少ない。
(1). 成人発症の B型肝炎の慢性化は極めて稀、B型慢性肝炎の多くは出産時の
   母子間垂直感染に起因 (現在では予防手段が取られている)
   ※予防:抗HBs ヒト免疫グロブリンを出生時と生後 2カ月に、HBワクチ
       ンを生後 2、3、5カ月に投与

(2). B型慢性肝炎患者で GOT・GPT が急に上昇した場合は肝炎の急性増悪を考
   える。
   死亡する可能性もある。

(3). HBs 抗原陽性者に免疫抑制療法を行う場合、変異株 HBV の急激な増殖に
   よる。
   強い肝障害を起こし死の転機を伴うことがある。

(4). HBe 抗原から HBe 抗体へと seroconversion する際に肝障害を生ず。
   変異株 HBV の出現による為である。変異株 HBV の増殖がそのまま減少
   すれば HBe 抗体陽性の無症候性 HBs 抗原キャリアとなり、多くは病気に
   なることなく経過。しかし変異株 HBV が増殖を続けると慢性肝炎、肝硬
   変、肝臓癌へと移行、稀に激症化。

(5). HBc 抗体と HBs 抗体
   HBc 抗体は B型肝炎ウイルス感染にて惹起され、感染抗体と呼ばれる。
   ウイルスの排除に関わらず一般に極めて高力価であるが、中和抗体ではな
   い。通常生涯持続。HBs 抗体は感染したウイルスが完全に排除された時
   のみ検出され、その力価は通常比較的低値である。HBs 抗体が感染終了
   後の時間経過とともに力価が低下したり検出できなくなることは稀ではな
   い。
   HBs 抗体(-) で HBc 抗体(+) の例は、遠い過去の HBV 感染及びウイルス
   完全排除を示唆する。


※B型肝炎ワクチン
◇対象は一応 HBsAb 陰性者

◇遺伝子組み換えワクチンには酵母菌を用いたものと、chinese hamstar
 ovarial cell (CHO) を用いたものがあり、前者は陽転率 100% である (後
 者は陽転率 96%) が 獲得抗体価は後者が高い。

◇獲得抗体価が高いと HBsAb 陽性の期間が長い、全体的にみてほぼ 4年で半
 数が獲得抗体を消失。

◇B型肝炎は二度なし病だから獲得抗体を消失しても再感染の成立はない。
 消失後長年たち微量の B型肝炎ワクチンを接種すると前より高抗体価の反応
 あり。

◇陽転せぬ例は三回接種後、三か月以上経過して、ワクチンの種類を換えてか
 つ倍量 (遺伝子組み換えワクチンで 1ml・20μg) を一度に接種。


◇C型肝炎
※急性肝炎として発症、60 〜 80% は慢性化、急性のまま治癒することは少な
 い。

※持続感染者の肝臓癌発症率は一般人口の発症率と比べて 500 〜 1000倍高
 い。

※HCV 感染から肝臓癌発症まで約 30年と考えられる。

※HCV 陽性慢性肝炎からの肝臓癌発症率は 5年間で 10.5% といわれる。
  (CPH :平均 9.8年、CAH2a :8.1年、CAH2b :6.1年)

※HCV 陽性肝硬変からの肝臓癌発症率は5年間で 21.5% といわれる
(1). 日本の慢性肝炎・肝硬変・肝臓癌のいずれも 8割が C型肝炎ウイルスによ
   る。

(2). 輸血後急性肝炎の殆どは C型肝炎ウイルスによる。

(3). 感染の殆どは成人後で、輸血・入れ墨・覚醒剤・針治療で感染し母子感染
   は殆どない。(性行為感染は論争中)

(4). C型慢性肝炎の自然治癒は殆どない (0.4%/年程度)

(5). C型肝炎ウイルスの感染から年月が経つにつれて肝臓病は進行し 20年前後
   で肝硬変、30年前後で肝臓癌になる。
   (C型肝硬変の場合の発癌率:5000 〜 7000人/10万人/年)

(6). C型慢性肝炎患者で GOT・GPT が急に上昇した場合でも急性増悪により死
   亡する可能性は殆どない。

(7). HCV 感染状態で血小板数が 10万/μl 以下である場合、概ね肝硬変と考え
   て良い。一方血小板数が 20万/μl以上の時は肝組織の変化は軽微。
  ※血小板数が17万前後なら組織像はC P H (慢性遷延性肝炎) 程度で肝臓癌
   発生率は 0.5%/年、10年後でも 5% 前後。血小板数が 13万前後になる
   と組織像は CAH2b 程度と推定され、肝臓癌発生率は 3.0%/年、10年
   後で 30% 前後となる。

  ※血小板数
 
推定病期
 
推定肝癌発生率
(10年で)
推定IFN著効率
 
   20万以上   正常
   17万前後   CPH 5%    40%    
   15万前後   CAH2a 15%    30%   
   13万前後   CAH2b 30%    20%   
   10万以下   LC 70%    10%   


 ○CPH (chronic persistent hepatitis)
   炎症細胞浸潤が Glisson 鞘に止まり限界板の破壊 (peacemeal
    necrosisの見られない状態)
 ○CAH2a
   限界板の破壊はあるが小葉内の線維化が軽い。
 ○CAH2b
   線維化が進み小葉改築傾向あり。

(8). 治療においては GPT 80 以下を目指して、多薬併用療法も有意義である。
   (強ミノC・小柴胡湯・UDCA・(プロトポルフィリン) を適当に組み合わ
   す)

(9). C型肝炎の肝外病変
 ○クリオグロブリン血漿
 ○腎障害
 ○晩発性皮膚ポルフィリン症
 ○自己免疫性疾患

※HCV マーカーの検査と意義
1. 感染者のスクリーニング:第2 〜 3世代マーカーで、過去の感染者もキャリ
              アも全例検出可能

2. HCV 陽性例:過去の感染者とキャリアを区別する必要あり
 (1). キャリアであることの証明
  a. 間接的証明 (キャリアは 60 〜 70% だろう)
   ○HCV 抗体陽性のカットオフ値から推測
   ○HCV コア抗体値の測定
  b. 直接的証明:HCV-RNA の存在を証明 (PCR 法・アンプリコア法)

 (2). HCV キャリアに対して、インターフェロン治療の効果を予測
   (血中の HCV 定量・HCV-RNA 量の定量:量が少なければ IFN 効果大)
  a. b−DNAプローブ法
  b. アンプリコア-N法
  c. HC Vコア抗原量の測定
  d. コンペティティブ PCR 法
※血中 HCV 量は GPT の動きに先行して増減する (HCV 量の推定)

 (3). その他重要なインターフェロン治療の効果を予測する検査
    (血清群:ゲノタイプの分別)
  a. セログループ
  b. PCR 法によるゲノタイプ決定

3. インターフェロン投与中の検査
  一回投与翌日に b−DNA プローブ法で、7・14日目はアンプリコア-N法で
  それぞれ陽性・陰性を測定、排除出来る例は早期に陰性化する。
  インターフェロン投与中にGPT の上昇をみたらHC V-RNAの有無の検査が
  重要

※HC Vキャリア妊婦の授乳
 (1). 肝機能とHC V-RNAの測定を行う。

 (2). HCV-RNA 陽性の妊婦で 5 〜 10% が母子感染するかも知れない。
    (十分な研究はなく、報告により大きな違いがある。経路も不明。)

 (3). 現在のところ母子間関係を犠牲にしてまで断乳しなければならないとい
    う学問的根拠は乏しい。

◇D型肝炎
 (1). 遺伝子は単鎖のRNAウイルス (ヒトに感染するウイルスで最も小さい)
    で自らがコードしたδ抗原に囲まれ、さらにこれが HBs 抗原に覆われ
    ている。(1.7Kb)

 (2). ヒトへの感染にあたり、必ず B型ウイルスを必要とする。

 (3). 非経口感染、血液・体液を介する。

 (4). もともと地中海沿岸に蔓延、本邦では H7年現在稀。

 (5). B型肝炎より一般に重症、激症化率も高い。慢性化すれば D型肝炎に特
    徴的な臨床像はない。

◇ E型肝炎
 (1). 遺伝子は単鎖の RNA ウイルス (7.2Kb)

 (2). 疫学や臨床は A型肝炎に似る。感染力は A より弱い。

 (3). 飲料水や食物を介して経口感染、肝臓で増殖、胆汁を介して糞便中に排
    泄。

 (4). A より重症化率が高い、妊婦は 10 〜 20% が死亡。慢性化しない。

◇ G型肝炎ウイルス
 (1). ヒト患者血清から抽出された塩基数 約9000 の RNA ウイルス (フラビ
    ウイルス科)

 (2). HCV との核酸レベルでの相同性は 26% 。

 (3). マーモセットに感染するがチンパンジーには感染しない。

◇ GB型肝炎ウイルス
 (1). ヒト患者血清から抽出された塩基数 約9200 の RNA ウイルス (フラビ
    ウイルス科)

 (2). HCV との核酸レベルでの相同性は 46.3% 。

 (3). マーモセットに感染する。

◇肝臓癌
 (1). 約70% が C型肝炎ウイルス感染者で 約20% が B型肝炎ウイルス感染者

 (2). 27/120000 (0.23%) の発生率

◇非B ・非C型慢性肝炎 (1995年において)
 (1). 非B ・非C型慢性肝炎の存在頻度
    慢性肝疾患の 3 〜 5% (0 〜 10%) とする報告が多い。

 (2). 組織学的所見等
    ウイルス性慢性肝炎様所見もあれば胆管炎様もある。
    年齢・男女比・輸血歴・家族歴等臨床像は C型に酷似する。

 (3). 長期経過:全く不明といわざるを得ない。








グルタミンの話 (血中アンモニアの移動、尿素サイクル、グルタミンサイクル)
 肝性脳症、高アンモニア血症、BCAA の使い方、糖新生他

※人体に悪いのは遊離型アンモニア (NH3) で、それを処理するために尿素サイ
 クルとグルタミンサイクルが用意されている。

※尿中窒素の 80% は尿素由来で、さらに腎は余分な NH3 をグルタミンサイク
 ルより NH4+ として尿中に排泄する。(細胞膜は NH3 を通さないので NH4+
 として排泄)

※尿素サイクルは肝臓に存在し、グルタミンサイクルは主に肝臓、筋肉、腎
 臓、脳に存在する。(グルタミンサイクルは PH 調節をも担っている)

○尿素サイクル
  2HCO3- + 2NH4+ ------> H2NCONH2 + CO2 + 3H2O
   (原料となる bicarbonate とアンモニアはアミノ酸の異化による)

○グルタミンサイクル
  グルタミンをグルタミン酸に分解する過程で NH3 が出来る。
  この回路はアンモニアを尿中に排泄するためのサブサイクルと考えられて
  いたが PH 調節などに関与する重要なサイクルである。

1. グルタミン
              グルタミン合成酵素
   NH3+ グルタミン酸 ---------------------> グルタミン
  (-NH2 が一つ、アミノ基)      (-NH2 が二つ、アミノ基とアミド基)

2. BCAA (分枝鎖アミノ酸) を中心にみた蛋白代謝   (※90g/日 摂取した蛋白質のうち 10g は便に、80g は尿に排出される勘定)

原料        代謝による変化
  筋肉   BCAA ----------> アラニン、グルタミン (血中の50%)
  腸管   グルタミン ------> アラニン (血中の50%)、 (+NH3)
  肝臓   アラニン --------> 肝臓でグルコース生成に供される。
                 (生成グルコースの50% はアラニンから)
  腎臓   グルタミン ------> アラニン (腸管内の1/10)、セリン
  脳    BCAA ----------> グルタミン ( --> 血中へ放出)

 ※注意:BCAA から生じたグルタミン、アラニンは腸管、肝臓、腎臓でその
     後の代謝の原料となっている。

 ※注意:肝性脳症時は肝臓における糖新生がダメージを受けており BCAA の
     投与過剰により高アラニン血症を呈する。さらに尿素サイクルも傷
     つき NH3の蓄積がおこり、結果として高グルタミン血症が生じる。
     (この時、腎でのグルタミンサイクルによりNH3が合成され、それは
      NH4+として尿中に排泄される。)

3. 糖新生について
 a. 糖新生は肝臓と腎臓のみで行われる。
 b. 成人は 144g/日 のグルコースを消費。
c. 体内のグルコースは血糖の 5g と肝臓内貯蓄のグリコーゲン (グルコース
   換算で 70g) に過ぎない。
 d. 144 - (5 + 70) = 69g のグルコースは糖新生または、摂取しなければ
ならない。
 ※注意:筋肉には 120g のグルコースがあるが G-6-PD がないため糖新生
     できぬ

4. 急性肝炎と劇症肝炎

   periportal hepatocyte
 
perivenous hepatocyte
(中心静脈近傍の細胞)
 代謝サイクル 尿素サイクル優位 グルタミンサイクル優位
 強いダメージ 劇症肝炎のとき 急性肝炎のとき
 予後 不良 良好


5. 肝臓外 (特に筋肉)のグルタミンサイクルの意義
 a. 動静脈のアンモニア濃度の差が少ない人はグルタミン生成能力が低く
   (NH3 を使ってグルタミンを合成出来ない)、動静脈ともに血中アンモニ
   ア濃度は高くこういうときは BCAA 投与の意義はない。

 b. グルタミン生成能力が高く動静脈のアンモニア濃度の差 (動 > > 静) が大
   きい人には BCAA 投与を行ってもいい。

 c. グルタミン合成酵素はアシドーシス側で活性が高く、アシドーシスになる
   とグルタミンサイクルによるアンモニア処理が優位になり、結果尿素サイ
   クルで必要な HCO3- を節約してアシドーシスを補正する方向に働く。

6. BCAAの問題点
 a. アラニンを多く含むアミノレバンは、不都合である。
 b. グリシンは肝機能が正常なら直ちにアンモニアに変化するアミノ酸である
   からこれも不都合である。








肝炎の劇症化とその予知 (昭和大学藤が丘病院、与芝真氏らの研究より)

1. 一般常識
 a. 急性肝炎は一般には予後の良い疾患。急性期、食欲のない時期に多少の輸
   液とビタミン剤投与で十分自然治癒する。

 b. B型急性肝炎の 2% 、肝炎全体の 0.5% は劇症化する。

 c. HB キャリアや慢性 B型肝炎も劇症化する (化学療法、免疫抑制療法後
   等)。

 d. 経過の速いほど予後は良好で、緩慢なほど予後不良。
  イ. 経過の緩慢な肝細胞破壊が緩徐な代わりに遷延する。
  ロ. HB キャリアや 非A非B では重症化例でも症状が緩やかであり、しかも
    肝細胞破壊の進行が緩徐は場合は代償機能が働くせいか、相当程度肝
    細胞破壊が進行しても脳症など肝不全症状が顕在化せず。

2. 劇症化の予知の実際
 a. PT < 40% の 3/4 は劇症化する。

 b. 予知式 (Z):Z > 0 の時劇症化率が高くなる。
   Z = -0.89 + 1.74P + 0.056Q - 0.014R
    P:原因ウイルスにより値が異なる
     1点:HAVまたは急性感染の HBV (自然回復傾向が強いから)
     2点:慢性感染の HBV、非A非B (C、Gを含む)
    Q:総ビリルビン値 (mg/dl)
    R:コリンエステラーゼ値 (U/l) (= X)
     Ch-E の換算:Ch-E は単位が異なることが多く以下の式で換算
       X = (413 (Y - A) + 135 (B - Y))/(B - A)
         A:各施設の下限値
         B:各施設の上限値
         Y:各施設の測定値
  ※PT50% 乃至 HPT40% で Z > 0 となった時、劇症化に対する治療を考
   慮した方が良い。








劇症肝炎の基本的治療方針

 A.肝予備能の見方と考え方
  a.直接ビリルビン/総ビリルビン比(D/T比)
   直接ビリルビンがどんどん減るのが問題。劇症型でない急性肝炎では
   D/T比は大体0.7以上ある。つまり急性肝炎で黄疸がでるのは抱合能より
   排泄能が冒された為で、肝不全が進行すると抱合能が冒されてくる。
   見た目の黄疸は同じでも、ビリルビン代謝異常の内容が全く違う。D/T
   比が0.09あたりから昏睡で死亡する。
  b.BUNが下がるほど重症
   ウレアサイクルで作るBUNの値が下がれば下がる程肝臓機能が低下している。

 B.基本的治療方針
  1).肝補助の強化により回復しうるもの
   ・A型劇症肝炎の大部分
   ・B型劇症肝炎(急性感染)の大部分
   ・HCVマーカー陰性の非A非B型劇症肝炎の一部
   ・E型劇症肝炎
   ・中毒性肝障害(パラセタモーる中毒など)

  2).肝補助と同時に原病対策の必要なもの
   a.インターフェロン+ステロイド+サイクロスポリン
    ・A型劇症肝炎の一部(ウイルス増殖が持続する場合)
    ・B型劇症肝炎の一部(ウイルス増殖が持続する場合)
    ・HBキャリアの急性発症
    ・C型劇症肝炎(重感染を含む)
    ・HCVマーカー陰性の非A非B型劇症肝炎の大部分
    ・B+D型劇症肝炎
   b.ステロイド+サイクロスポリン
    ・自己免疫性肝炎の劇症化
    ・アレルギー性薬剤性肝炎
   c.D-ペニシラミン
    ・ウイルソン病の劇症化








非アルコール性脂肪性肝炎(NASH、NASH)の診断と治療

 非アルコール性脂肪性肝炎(nonalcoholic steatohepatitis;NASH)は肝細胞へ
の脂肪蓄積に炎症が加わった状態であり、炎症の結果生じる肝障害を伴うことから、
単なる脂肪蓄積症、いわゆる脂肪肝とは異なる病態とされている。
 概念が提唱され、臨床的に注目されてからの期間が短いため、明確な成績は示され
ていないが、成人病検診での脂肪肝頻度は高く、その一部にはNASHが包含されている
と考えられるため、頻度は決して稀でないと思われる。欧米では肥満患者の、40〜
100%にNASHを認めるとの報告があり、C型慢性肝炎、アルコール性肝障害に次いで
頻度が高い肝疾患とされている。なお、NASH以外の病名、fatty liver hepatitis
alcohol-like liver disease,pseudoalcoholic liver disease,diabetic hepatitis
などの名称も用いられている。
 NASHの原因は不明であり、その診断に当たっては、他の慢性肝疾患を惹起する原
因、肝炎ウイルス、自己免疫性肝疾患、アルコール、薬物による肝障害、wilson病や
ヘモクロマトーシスなどの蓄積症を除外する。ただし、TTウイルスとNASHの関連を
指摘している報告もある。
 典型的NASH症例は、中年の肥満した女性で高血糖を示すことが欧米では指摘されて
いる。高脂血症も認められるが、必須の所見ではない。しかし、最近では過体重の児
童や男性にも認められ、また必ずしも過体重を伴わないなど、当初指摘された特徴は
あいまいになりつつある。
 肥満、糖尿病、小腸バイパス術後などの状態では高頻度に栄養性脂肪肝の合併が認
められるが、NASHに進展する例は一部の症例に限られており、NASHの発症にはこれ
ら因子に加えて第二、第三の要因が存在するとされている。急激な減量や女性ホルモ
ン服用との関連およびTNF-αなどのサイトカインの関与も指摘されている。最近で
は、NASHから肝硬変、さらには肝細胞癌へと進展した症例も報告されている 。
NASHにおける肝線維化は40%以内の症例で、肝硬変は5〜10%の症例で認められる
とされている。
 診断に有用な症状は通常呈さず、軽度の血清ALT(GPT)、AST(GOT)の上昇が
診断のきっかけである。非アルコール性であるがγ-GTPは中等度の上昇を示す場合が
多い。超音波検査、CT検査等の画像診断で肝の脂肪化を認め、非アルコール性でかつ
肝障害が認められた場合にはNASHを疑う。診断に留意すべき事項についてはReid ら
の報告(Reid AE:Gastroenterology 121:710,2001)を参考にされたい。
 確定診断には肝生検が必須である。肝生検ではアルコール性肝障害に類似した線維
化、実質の壊死、炎症を認め、時にMallory小体を認める。なお、肝硬変に進展した
場合、小結節性であり、脂肪化は目立たなくなる。
 現時点で特異的な治療法はない。しかし、本症に多く認められる肥満、高血糖、高
脂血症などの是正は図られるべきであり、ことに肥満がある場合は減量が第一であ
る。これらNASH発症に関わると考えられる要因に基づく所見が認められない場合に
は、低脂肪の食事を指導する。また、非アルコール性ではあるがアルコールは禁止する。






妊娠時反復性黄疸

Reccurrent jaundice of pregnancy、Reccurrent intrahepatic cholestasis of
pregnancy.
 妊娠特に特有の黄疸で、北欧諸国においては比較的多くみられ、肝炎に次ぐ頻度であ
るが、わが国では比較的まれ。
 特徴としては、妊娠後半期に全身の掻痒感をもって始まる黄疸で、分娩後、自然に消
退するが、次回妊娠時に再発する。経口避妊薬内服でも類似の現象がみられることがあ
り、妊娠時に増量したsteroid hormon、特に黄体ホルモンによる毛細胆管の障害によ
るた考えら札ている。

  1. 肝生検
     肝内胆汁うっ滞が認められるが肝細胞の障害はない。
  2. 検査所見
     血清bilirubin値が上昇するが、殆ど5mg/dl以下で、直接型が大部分である。Al-phosphatase上昇。総cholesterol上昇(500〜600mg/dl)、GQT・GPT軽度上昇。血清Albumin減少、α1・α2・β-gl.の上昇(γ-gl正常、膠質反応正常)。BSP排泄遅延し45分値で10〜25%。
  3. 予後
     母児ともに良好とされるが、未熟産、羊水混濁、胎児死亡の報告もあるのでnon-stress testなど胎児胎盤盤機能の監視が必要。
  4. 症状
     躯幹、四肢の掻痒感をもってはじまり、1〜2週後に黄疸が現われる。掻痒のみで黄疸を認めないこともあり、pruritus gravidarumとして、本症の"forme fruste"とみるものもある。発熱、悪心、嘔吐、食欲不振、腹痛などを欠き、全身状態良好な点が肝炎と対照的である。
  5. 治療
     特別な治療を必要としない。掻痒が強いときは,cholestyramin 10mgが有効であるという。







薬物性肝障害の判定基準
(内科 1995;75:1078:6月増大号『内科疾患の診断基準、病型分類・重症度』)
1. 薬物の服用開始後(1〜4週)*に肝機能障害の出現を認める。
2. 初発症状として発熱・発疹・皮膚掻痒・黄疸などを認める(2項目以上を陽性
  とする)。
3. 末梢血液像に好酸球増加(6%以上)、または白血球増加を認める*。
4. 薬物感受性試験(リンパ球培養試験・皮膚試験)が陽性である。
5. 偶然の再投与により、肝障害の発現を認める。
  *:1)の期間についてはとくに限定しない。3)の末梢血液像については、初期
  における検索が望ましい。
確診:1. 4.または1. 5.を満たすもの。
疑診:1. 2.または1. 3.を満たすもの。







薬物性肝障害の臨床病型
(内科 1995;75:1077:6月増大号『内科疾患の診断基準、病型分類。重症度』)
1. 肝機能検査異常のみ
  1) ミクロソームの酵素誘導による 
    ・臨床病理学的事項:臨床所見なし。γ-GTPとALPの上昇。肝細胞スリガラス
    状変化     
    ・薬物の例:フェニトイン、ワーファリン         
  2) 高ビリルビン血症 
    ・臨床病理学的事項:黄疸はまれ。血中ビリルビン濃度の増加。種々の炎症性
    変化を伴った肝細胞壊死、ALT>5N。     
    ・薬物の例:flavaspidic acid、novobiocin、rifampicin
2. 急性肝細胞壊死
  1) 巣状壊死  
    ・臨床病理学的事項:lobular hepatitis、ウイルス肝炎に類似。
    ・薬物の例:isoniazid、cloxacillin、halothane(mild)         
  2) bridging necrosis  
    ・臨床病理学的事項:portal-portal結合、portal-central結合を伴う
    肝細胞壊死。     
    ・薬物の例:isoniazid、alpha-methyldopa、phosphorus
  3) 帯状壊死
    ・臨床病理学的事項:肝細胞の帯状壊死。     
    ・薬物の例:paracetamol、halothane(severe)、Phosphorus 
  4) 広範性壊死
    ・臨床病理学的事項:劇症肝炎。     
    ・薬物の例:halothane(fatal)、valproic acid、NSAIDs、ecarazine hydrochloride
3. 脂肪肝
  1) 急性脂肪化 
    ・臨床病理学的事項:小滴性脂肪沈着、ライ症候群に類似。ときに大滴性、
    通常びまん性、ときに帯状の脂肪沈着。肝炎ないし
    肝不全の臨床像。     
    ・薬物の例:tetracycline、valproicacid、corticosteroids、NSAIDs、
    L-aSParaglnaSe         
  2) Steatohepatitis 
    ・臨床病理学的事項:アルコール性肝炎に類似。慢性肝疾患の臨床像。  
    ・薬物の例:Perhexiline maleate、amiodarone
4. 肉芽種形成
    ・臨床病理学的事項:種々の程度のlobular hepatitis、胆汁うっ滞、胆管周囲炎。
    ・薬物の例:hydralazine、allopurinol、carbamazepine
5. 急性胆汁鬱滞
  1) 肝炎を伴わない 
    ・臨床病理学的事項:炎症なし、胆汁うっ滞。ALP>2N。
    ・薬物の例:oral contraceptive steroid、anabolic androgens
  2) 肝炎を伴う 
    ・臨床病理学的事項:小葉内と門脈域の炎症を伴う。胆汁うっ滞。ALPと
同様にALT(GPT)上昇。     
    ・薬物の例:chlorpromazine、erythromycin estolate、flucloxacillin
  3) 胆管障害を伴う 
    ・臨床病理学的事項:胆管上皮、細胞の破壊性病変、急性胆管炎様の臨床像。
    ・薬物の例:flucloxacillin、chlorpromazine、
     4,4'-diaminodiphenylmethane         
6. 慢性胆汁鬱滞(3か月以上の胆汁うっ滞)
  1) 胆管消失症候群 
    ・臨床病理学的事項:小胆管数の減少、線推化、PBCと類似した臨床像。
    抗ミトコンドリア抗体(-)。     
    ・薬物の例:chlorpromazine、flucloxacillin、amitriptyline 
  2) 硬化性胆管炎 
    ・臨床病理学的事項:PSCに類似。     
    ・薬物の例:intra-arterial 5-fluorodeoxyuridine
7. 慢性肝実質障害(3か月以上持続する肝機能障害)
  1) 慢性活動性肝炎 
    ・臨床病理学的事項:門脈域炎、bridging necrosis、肝硬変。慢性肝疾患
の臨床的、生化学的所見。肝不全も出現。     
    ・薬物の例:alpha-methyldopa、nitrofurantoin、dantrolene  
  2) 線維化と肝硬変 
    ・臨床病理学的事項:門脈圧亢進、肝機能検査異常。     
    ・薬物の例:methotrexate、hypervitaminosis A
8. 血管病変
  1) 類洞拡大 
    ・臨床病理学的事項:腫瘍部とその周辺の変化。肝腫大のみ。     
    ・薬物の例:oral contraceptive steroid         
  2) Peliosis hepatis 
    ・臨床病理学的事項:類洞の破壊性病変。血液の糊状貯留化。     
    ・薬物の例:anabolic androgens
  3) non-cirrhotic portal hypertension 
    ・臨床病理学的事項:門脈と類洞域の線推化。脾腫。食道静脈瘤。     
    ・薬物の例:vinylchloride、hypervitaminosis A、azathioprine 
  4) hepatic venous outflow obstruction 
    ・臨床病理学的事項:Budd-Chiari症候群、静脈閉塞症。     
    ・薬物の例:6-thioguanine、oral contraceptive steroid、Pyrrolizidine alkaloids         
  5) nodular regenerative hyperplasia 
    ・臨床病理学的事項:軽度の線維化と再生、門脈圧亢進。     
    ・薬物の例:azathioprine、actinomycin D
  6) 他の血管障害 
    ・臨床病理学的事項:門脈静脈血栓。肝動脈病変。閉塞性門脈疾患。     
    ・薬物の例:oral contraceptive steroid  
9. 肝腫瘍
  1) 血管腫 
    ・臨床病理学的事項:無症候性。     
    ・薬物の例:?vascularity increased by oral contraceptive steroid 
  2) focal nodular hyperplasia(FNH) 
    ・臨床病理学的事項:過誤腫     
    ・薬物の例:oral contraceptive steroid have trophic effect
  3) 肝腺腫 
    ・臨床病理学的事項:肝細胞の良性腫瘍。     
    ・薬物の例:oral contraceptive steroid、androgens         
  4) 肝細胞癌 
    ・臨床病理学的事項:肝細胞の悪性腫瘍。     
    ・薬物の例:oral contraceptive steroid、androgens         
  5) まれな癌 
    ・臨床病理学的事項:hepatoblastoma、cholangiocarcinoma、carcinosarcoma     
    ・薬物の例:oral contraceptive steroid
  6) 血管肉腫 
    ・臨床病理学的事項:類洞壁細胞から出たと思われる悪性腫瘍     
    ・薬物の例:arsenic、vinylchloride、thorium dioxide  
  7) epithelioid hemangioendothelioma 
    ・臨床病理学的事項:肝非実質細胞の非分化性腫瘍。     
    ・薬物の例:oral contraceptive steroid  







特発性門脈圧亢進症診断の手引き
(内科 1995;75:1095:6月増大号『内科疾患の診断基準、病型分類・重症度』)
I. 概念
  脾腫、貧血、門脈圧亢進を示し、しかも原因となるべき肝硬変、
  肝外門脈・肝静脈閉塞、血液疾患、寄生虫症、肉芽腫性肝疾患、
  先天性肝線維症などを証明しえない疾患をいう。
II. 主要症状
  1. 脾腫
  2. 門脈圧亢進症状としての副血行路形成(吐血・腹壁皮下静脈怒張など)
  3. 貧血
III. 診断上参考になる検査所見
  1. 血液検査:一つ以上の有形成分の減少(骨髄像で幼若細胞の相対的増加を
    伴うことが多い)。
  2. 肝機能検査:正常ないし軽度異常。
  3. X線検査、内視鏡検査:しぼしば上部消化管の静脈瘤を認める。
  4. 超音波検査:脾腫大、脾静脈径の増大を認め、肝実質エコーに異常なく
    肝表面は平滑である。超音波ドプラー法では門脈本幹径の増大、血液量
    の増加傾向がみられる。
  5. 腹部CT、肝シンチグラム:肝の萎縮は目立たないことが多い。
    脾腫大あり、骨髄描写はまれ。
  6. 肝静脈カテーテル法:肝静脈閉塞なし、閉塞肝静脈圧は正常または軽度の
    上昇。
  7. 逆行性門脈造影:肝内門脈の造影性不良
  8. 肝静脈造影:しばしば肝静脈枝相互間吻合と、しだれ柳様所見を認める。
  9. 門脈造影:肝内門脈枝の走行異常、分岐異常などがみられることが多い。
    肝外門脈に閉塞なし。
  10. 門脈圧測定:圧亢進を認める。
  11. 腹腔鏡、術中肝表面観察:肝硬変所見なし、大きな隆起と陥凹を示し、
    全般に波うち状を呈する例が多い。
  12. 肝生検、剖検:肝硬変所見なし、門脈末梢枝のつぶれを伴う肝線維化を
    特徴とする。うっ血、寄生虫などの所見なし。
■診断の基準
1. 疑い例
TT II.の二つ以上があり、III.の1、2、4〜8の検査のいずれかにより
   肝硬変症の疑いが少なく、かつ血液疾患を除外した場合。
2. 確診例
  前記疑診の所見に加えて、III.の3、10のいずれかにより門脈圧亢進
  所見を認め、III.の4、6〜9、11、12の中のいくつかの検査によりI.に
  あげた疾患を除外しえたもの。







肉芽腫性肝炎・肝肉芽腫癌、肉芽腫性肝疾患
(榎村・吉岡『病名・文献検索辞典』世界保健通信社.1985,1st ed.,p23)
生体に有害な侵襲が加わったとき間葉系細胞の異常反応によって増殖性炎症が
おこる。サルコイドーシス、結核、梅毒、真菌症、サルモネラ、腸管-門脈系感染症
などが多く、時にブルセラ、結節性紅紅斑、ベリリウム中毒、ヒストプラスマ症、
回虫症、住血吸虫症、ランブリア、アメーバ、チフスなどの感染、伝染性単核症、
細網症、ホジキン病、白血病、骨髄癆、結節性多発動脈炎(PN)、ウェジナー
肉芽腫、レフレル症候群、野兎病などがあげられる。肝内に結節が発生しリンパ球
にかこまれて中心は乾酪ないし壊死化する。時々発熱し紅斑症、赤沈促進、ALPの
上昇がみられるほかには肝機能にも大した異常はみられず生検で診断できる場合が
多い。不明熱の原因として重視される。







バッド・キアリ症候群(Budd-Chiari症候群)
(内科 1995;75:1114:6月増大号『内科疾患の診断基準、病型分類・重症度』)
肝後性門脈圧亢進症の代表的疾患である Budd-Chiari症候群はその成因、病態
ともに通常の門脈圧亢進症と異なっており、その診断治療にさいしては特殊な対応
を必要とされる。本項ではその診断のポイントを中心に述べる。
1. 概念
  1990年厚生省特定疾患門脈血行異常症調査研究班による診断の手引によれば
  「肝静脈3主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞ないし狭窄、もしくはこの両者の併
  存によって門脈圧亢進などの症状を示す疾患をいう」とされるが、先天性、血栓、
  静脈炎、腫瘍、梅毒などの原因で肝静脈閉塞、肝部下大静脈閉塞が発生し、腹水、
  腹壁静脈怒張、下腿浮腫・静脈瘤、門脈圧亢進症状(食道静脈癖、脾腫、貧血)、
  うっ血性肝硬変症などを示す疾患である。
2. 診断
  上記の症状で本症が疑われたら、肝静脈カテーテル法によって下大静脈造影と
  圧測定を行う。下大静脈圧の上昇と肝部下大静脈の狭窄や閉塞があれば、肘静脈
  からさらにもう1本のカテーテルを挿入し、閉塞部上下よりの挟撃造影を行って
  閉塞の範囲や形態、肝静脈開存の有無などを観察し、病型や治療法を決定する。
  近年では超音波ドプラーやMRIなどによってより詳細な情報を得ようとする試み
  もなされている。
3. 病型
  杉浦の分類では、・・・
    Ia:肝部下大静脈に膜様閉塞があり、肝静脈は1本以上開存。
    Ib:膜様閉塞があり、肝静脈も閉塞。T
    II:肝部下大静脈の広範な閉塞。T
    III:膜様閉塞と下大静脈の広範な狭窄。
  T IV:肝静脈のみの閉塞(本来のBudd-Chiari病)。
4. 診断のポイント
  肝部下大静脈閉塞が80%以上を占める本邦では、その9割は下肢静脈瘤と腹壁
  静脈怒張を合併しており、とくに難治性静脈瘤に遭遇したさいには本症を疑って
  必要な検査を行うことが肝要である。







新生児期の肝障害(周産期医学 1980,臨時増刊特集号,Vol.10,No.11,p.1844)
A. 分娩外傷
  1. 肝破裂
  2. 肝被膜下出血
B. 新生児肝壊死
  1. 経臍静脈輸液に関係するもの
  2. 先天性心疾患(とくに左心系)に伴うもの
    a)左室形成不全
    b)大動脈縮窄
    c)その他
  3. 各種感染症(下記)によるもの
  4. 原因不明
C. 感染症
  1. 新生児肝炎
  2. ウイルス肝炎(A、B、非A非B)
  3. 出生前ないし周生期全身性感染症
    a)風疹ウイルス
    b)サイトメガロウイルス
    c)コクサッキーBウイルス
    d)エコーウイルス
    e)単純性へルペスウイルス
    f)アデノウイルス
    g)トキソプラズマ
    h)梅毒
    i)その他
  4. 敗血症に伴った肝障害
  5. 尿路感染症に伴った肝障害
  6. 肝膿瘍
D. 代謝異常に伴った肝障害
  1. ガラクトース血症
  2. チロジン症
  3. 遺伝性果糖不耐症
  4. α1アンチトリプシン欠乏症
  5. 乳児Gaucher病
  6. 嚢胞性線維症
  7. 高カロリー翰液
  8. その他
E. 特発性肝内胆汁うっ滞症
  1. 進行性乳児肝内胆汁うっ滞症(致死性家族性肝内胆汁うっ滞症)
    a)家族性(広義のByler病)
      i)Amish系のもの(狭義のByler病)
      ii)非Amish系のもの
      b)散発性
 2. 良性反復性(または再発性)肝内胆汁うっ滞症
   (Sunmerskill病)
 3. リンパ性浮腫を伴う遺伝性反復性肝内胆汁うっ滞症
 4. 肝内胆管閉塞症(肝内胆管減少症)
   a)特発性一他臓器の合併症のないもの
   b)末梢性肺動脈狭窄などを伴ったもの
     (“Alagille症候群”を含む)
   c)Zellweger症候群の一部
   d)その他
F. 新生児間接型高ビリルビソ血症後の“濃縮胆汁症候群”
G. 消化管閉窄または狭窄に伴った黄疸
  1. 先天性幽門狭窄症に伴った間接型高ビリルビン血症
  2. 腸管閉塞に伴った閉塞型黄疸
H. 薬物による肝障害
I. 先天性肝硬変
J. 先天性肝線維症
K. 先天性胆道拡張症
  1. 総胆管、肝管
  2. 肝内胆管
  3. Carolli病
L. 先天性胆道閉鎖症
M. 肝腫瘍
N. その他







針刺し事故によるHCV感染とC型肝炎発症(NIS 2004;4201:90)
針刺し事故によりHCV感染が成立する可能性を規定する因子として、針先から
受傷者(事故者)に移行したHCV量(患者体液中のHCV-RNA濃度×移行した体液量)
が最も重要であることはいうまでもないが、そのほかに、針先に接触した組織の
易感染性(健常皮膚、傷のある皮膚、粘膜、皮下組織、肝臓の順に高くなるとさ
れる)、採血後の放置時間、組織中のpH、RNase量などにも影響を受ける。
  針刺し事故の受傷者におけるHCV感染成立率に関しては、諸家の報告により1.2
〜10%とかなり差がみられる。・・・特に、血液透析施設において高率であること
は、使用される針径が太いために移行するウイルス量が多く、かつ、真皮を通過
して皮下組織に到達するリスクが高いことが関連しているものと考えられる。
  針刺し事故後に急性C型肝炎が発症した場合、まず血中HCV-RNAが上昇し、最短
で10日日にはPCR法で検出可能となる。数週間遅れて血清ALT(GPT)が上昇して、
正常上限の10倍以上となる。発黄ないし肝炎症状(倦怠感、食欲不振など)を呈
する症例は20%以下にすぎない。その時期にはHCV抗体価が軽度陽性となるが、カ
ットオフ比はたかだか一桁と低値である。肝炎が遷延化し慢性肝炎に移行する症
例ではHCV抗体価が次第に漸増するのに対し、自然治癒例では徐々に漸減する。
  ・・・清澤ら(Ann Internal Med 1991;115:367)は、HCV抗体陽性患者からの
針刺し受傷者110名を少なくとも6か月以上追跡調査し、4名(3.6%)が肝炎を発症
し、うち3名(2.7%)はHCV抗体が陽性化したが、残り1名は陰性のままであったこ
と、かつ肝炎未発症の106名では全例HCV抗体は陽性化しなかったことを報告して
いる。
  また、袖山ら(Arch Internal Med 1993;153:1565)も、非A非B慢性肝炎患者か
らの針刺し受傷者90名を少なくとも6か月間追跡調査し、3名(3.3%)が肝炎を発
症し、うち2名(2.2%)がHCV抗体およびHCV-RNAが陽性化したこと、肝炎未発症の
87名では全例HCV抗体は陰性のままであったことを報告している。したがって、針
刺し事故後にHCV抗体が陽性化する場合には、程度の差はあれ、肝障害、すなわち
肝炎を発症するものと考えてよいと思われる。







E型肝炎の診断と治療(NIS 2005;No.4219(H17/3/5):109)
 1. E型肝炎ウイルスは便口感染する。ヒトでは急性肝炎を起こす。劇症型あり。
 2. HEVは人畜共通感染し豚、シカ、イノシシなどの肉や内蔵が感染源
 3. 少なくとも4種類の遺伝子型(日本ではIII、IV型が多い)。
   ・I型 :アジア、アフリカ
   ・II型 :メキシコ
   ・III型:アメリカ
   ・IV型 :中国・台湾
 4. 潜伏期は2~7週間と推定。発熱、倦怠感、食欲不振、嘔気、嘔吐などで発症
   妊娠第3期に罹患すると高率(10~20%)に劇症化、予後不良。
 5. 通常1~2か月で鎮静化。慢性化しない。
 6. 診断:血中HEV抗体、HEV-RNA測定
   ・IgM-HEV抗体は急性期から回復早期にかけて陽性(E型急性肝炎)
   ・IgG-HEV抗体はIgM-HEV抗体に少し遅れて陽性。急性期に陽性となり、回復早期
    に高力価となる。このIgGクラスの抗体は感染後長期間陽性となる。
   ・HEV-RNAは肝炎発症前後で検出。これが検出されれば E型急性肝炎がより確実。
 7. 治療は保存的。安静、補液。劇症化に注意。







肝臓のFNH(focal nodular hyperplasia)について
  肝実質の限局性虚血性障害に対する代償性再生説や血栓形成や血管内膜過形成に
 基づく肝細胞増殖が病因と考えられている。ピルによる増殖が促進される可能性も
 ある。肝硬変のない肝臓に生じ、多くは皮膜下に限局化した孤立性腫瘤として見ら
 れる。欧米では女性に多いが、日本では性差、好発年齢なし。エコーでは様々なエ
 コーレベルを示し、lowまたはisoechoicなものが多い。
  なおエコーでadenomaとの区別は難しく、adenomaはピルとの関係が深い。FNHは
 殆ど無症状であるが adenomaでは腹痛、腹部不快感、肝腫大などの症状所見がある。







熱帯エリアにおける胆道閉塞の鑑別診断(NEJM 2006;354:1298)
 1. Stone-related disease
   1) Pigmented stone-associated disease
    ・Chronic hemolysis(malaria, sickle cell, and other
                  hemoglobinopathies)
    ・Recurrent pyogenic cholangits(sometimes called
      Oriental cholangiohepatitis)with o rwithout hepatobiliay
      parasitosis
   2) Nonpigmented stone-associated disease
   3) Salmonella-associated cholelithiasis
 2. Ductal disease
   1) Viral cholangitis
   2) AIDs-associated cholangitis
   3) Cholangiocarcinoma
   4) Hepatobiliary parasitosis(ascariasis,liver flukes)
   5) Granulomatous disease(tuberculosis, paragonimiasis)
 3. External compression
   1) Hepatocellular carcinoma
   2) Tuberculous periportal lymphadenitis
   3) Other mass lesions found in patients in tropical areas
     (hydatid disease with biliary fistulization or ductal
       compression)







バッド・キアリ症候群(Budd-Chiari syndrome)の原因(NEJM 2006;354:2170)
 1. Myeloproliferative disorders (50% of cases)
   1) Polycythemia vera
   2) Essential thrombocythemia
 2. cancer (hepatocellular, adrenal, renal carcinomas: direct spread or
    production of erythropoietin)
 3. Hypercoagulable states (factor V Leiden, prothrombin gene mutation
    G20210A, antiphospholipid antibody, antithrombin III deficiency,
    protein C deficiency, protein S deficiency, paroxysmal nocturnal
    hemoglobinuria)
 4. Oral contraceptive pills or pregnancy
 5. Behcet's disease
 6. Hepatic infections (abscess, echinococcal cyst)
 7. Membranous webs of inferior vena cava (congenital or acquired)
 8. Idiopathic(up to 20% of cases)
   1) Occult myeloproliferative disorder
   2) JAK2 mutations







◎ de novo 肝炎について(H21/4/16、福山内科会講演会、山本和秀先生)
 1. HBeAg(-)で HBsAb(+)またはHBcAb(+)でもウイルスは残存している。
 2. 抗癌剤やリツキシマブ(CD20抗体)でウイルスの再活性化
 3. 劇症肝炎を起こし予後不良
 4. HBV-DNAをモニタする。
 5. 核酸アナログの予防投与も必要