動物別感染症重要度分類
★★★★★ ★★★★ ★★★ ★★
1. 霊長類 エボラ,マールブルグ Bイウルス,黄熱 赤痢,サル痘結核,
デン(出血)熱
amebiasis
  糞線虫,
ジルジア
エシニア,
キンピロバクター
2. げっ歯類
(鼠属、節足
動物など侵
入動物)
  ラッサ,ペスト,HPS
HFRS,クリミア,
コンゴ,
黄熱
日本脳炎,LCM
トリパノソーマ,
デングマラリア,
リフトバレー
Q熱,サルモネラ,
ツツガムシ,
ライム,
レプトスピラ,
日本紅斑熱
発疹熱,
鼠咬
症,回帰熱,
発疹チフス
リーシュマニア症,
広東住虫線虫症
エルシニア
キャンピロ
バクター
3. 食肉類(イヌ 狂犬病
ネコなど)
狂犬病   レプトスピラライム,
野兎エキノコッカス
トリパノソーマ
仮性結核,
トキソプラズマ
リーシュマニア症
トキソカラ
パスツレラ
アライグマ
回虫,
糞線虫
翼手(コウモ 狂犬病リ) 狂犬病 リッサ,ヘンドラ,
ニパウイルス
     
鳥類   西ナイル
クリミア・コンゴ
オウム病
ライム病
  クリプトコックス
両生類・ハ虫類     サルモネラ    
4. 家畜 狂犬病 炭疽
クリミア・コンゴ
リフトバレー,結核,
リステリアO-157,
サルモネラ,
エキノコッカス
レプトスピラQ熱
ライム
鼻疽
ブルセラ
トキソプラ
ズマ
クリプトス
ポリジウム
ジアルジア
エルシニア
類丹毒
キャンピロ
バクター
肝蛭







トキソプラズマ症(NIS、No4174(2004/4/24)、p110)
1. 現状
  トキソプラズマ症はトキソプラズマ(Toxoplasma gondii)の感染により起こ
  る典型的な日和見感染症である。ヒトへの感染経路は、ネコの糞便に排出される
  オーシストとの接触、または汚染土壌との接触やブタ、ウシ、ヒツジの感染食肉
  (シスト)の生肉(調理不足)の摂食であり、代表的な人畜共通感染症である。
   ヒトトキソプラズマ症は先天性トキソプラズマ症(経胎盤感染)と後天性トキ
  ソプラズマ症に分類される。後天性トキソプラズマ症では、一般に免疫健常患者
  でリンパ節腫脹のみの場合は予後良好である。しかし、検査上免疫異常が認めら
  れなくても、リンパ節炎以外の臨床症状(特に肺炎、心筋炎、脳炎)を呈した症
  例では重篤、予後不良である。
  また、ヒトトキソプラズマ症が確定診断された場合でも、本症が日和見感染症
  であることから、サイトメガロウイルスや結核などの混合感染や悪性腫瘍の存在
  を疑うことが重要である。AIDSなど免疫不全患者の顕性感染(脳炎、肺炎、心筋
  炎など)やトキソプラズマ感染臓器移植(特に心、肺)に伴う急性播種性感染、
  および化学療法中に副作用発症(Stevens-Johonson症候群)症例では一般に予後
  不良である。
  先天性トキソプラズマ症では、典型型(胎児・新生児における水頭症、網脈絡
  膜炎、精神神経・運動障害)、遅発型(成人までに痙攣、網脈絡膜炎、運動・精
  神発育不全など)、および最近その存在が確認された胎児・新生児非感染型〔子
  宮内胎児発育遅延(IUGR)、生後発育不全など〕があり、一般には難治性である。
  成人のトキソプラズマ感染率は3~10%で、典型的な先天性トキソプラズマ症は、
  出生数の1~5%程度と推計される。
2.診断
  トキソプラズマ症はPCRや原虫の同定により確定診断するが、陽性率はトキソ
  プラズマが細胞内寄生原虫であるため高くはない。トキソプラズマ抗体測定法は
  補助診断であり、画像診断・臨床症状などで総合的に判定される。難治性や免疫
  不全症例および先天性症例は専門家への相談が必要である。







特発性細菌性腹膜炎 spontaneous bacterial peritonitis(SBP)
(内科 1995;75:1113:6月増大号『内科疾患の診断基準、病型分類・重症度』)
特発性細菌性腹膜炎は、明らかな感染源を認めず急激に発症する細菌性腹膜炎
である。腹水を伴う肝硬変に合併しやすく、アルコール性肝硬変に多いが、いず
れの肝硬変にも合併しうる。本症の発症後に敗血症、肝不全など予後不良となる
ことが多く重篤な合併症の一つとみなされている。
  臨床症状は、腹痛、発熱、下痢が多く、腸音の減弱、黄疸の増強、腹水の増量
などを呈することがある。原因は、血中補体の低下、好中球機能の低下、オプソ
ニン活性の低下など宿主側の防御機構の低下、腸管の物理的損傷などが考えられ
ている。起炎菌は、好気性グラム陰性菌が多く、そのうち大腸菌がもっとも多く、
Klebsiellaがそれに次ぐ、残りはグラム陽性球菌である。診断は早期には症状が
乏しく困難な症例もあるが、腹水、腹痛、腹膜刺激症状、発熱、下痢、などの症
状を呈する場合には、本症を念頭において腹水の検査が重要である。腹水は膿性
腹水を里することがあり、腹水の培養を行うと同時に、腹水の多核白血球数が診
断と治療効果の評価に重要である。多くの例で腹水の多核白血球数は250〜500以
上となる。また腹水のpHの低下(7.35以下)、乳酸値の上昇(39mg/dl以上)、
タンパク濃度の低下(1mg/dl以下)などが参考となる。
治療は抗生物質であるが、腎毒性の少なく腹水への移行のよいセファロスポリ
ン系抗生剤、ペニシリンが第一選択である。治療の目標は腹水中の菌の陰性化、
多核白血球数を250以下とすることである。
鑑別診断は続発性腹膜炎が重要で、消化管穿孔、虫垂炎、胆嚢炎などは外科的
治療の適応となる。SBPの合併症には、敗血症、ショック、肝性脳症、消化管出血
DIC、腎不全などがある。合併症があると予後がきわめて不良となるためそれぞれ
の病態に対する迅速で適切な治療が必要となる。







劇症型A群溶連菌感染症
(内科 1995;75:1271:6月増大号『内科疾患の診断基準、病型分類・重症度』)
劇症型A群溶連菌感染症 streptococcal toxicshock-like syndrome(TSLS)は
A群溶連菌による突発性の敗血症病態である。1980年代中期に本病態の存在が確
認され、1993年には米国防疫センター(CDC)の研究者らにより診断基準案が提示
された。CDCの診断基準案は
    1)A群溶連菌による敗血症
    2)低血圧(成人では収縮期圧90mmHg以下、小児では各年齢の正規分布で下側5%
      に相当する圧以下)および
    3)多臓器不全症候群(MOF)の3病態を診断根拠としている。MOFとして腎不全、
      肝不全、播種性血管内凝固症候群(DIC)、成人型呼吸窮迫症候群(ARDS)
      に、皮膚疹および壊死性軟部組織炎を加えた点に特徴がある。
TSLSの敗血症は著明で診断自体は容易であるが、突然発病し、病態の進行が電撃
的であるため培養の結果を得る前に不幸な転帰を取る症例も多い。
A群溶連菌は浸潤性の強い菌であり、免疫不全をきたす基礎疾患をもつ症例の、
とくに外傷部に感染すると広範な軟部組織壊死(丹毒)と敗血症を起こすことがあ
る。TSLSは特別な合併症をもたない症例に発症し、急激に進行することが特異であ
り、CDCの診断基準にはこの2点を追加すべきと考える。TSLSの発病機序は不明であ
る。現時点では直接本疾患に関与する突然変異株は発見されておらず、患者から分
離された菌はペニシリン系抗菌薬に良好な感受性を示した。またTSLSの二次発病や
集団発病はまれであり、菌のみならず宿主側にも発病因子が存在すると考えられる。
TSLSは敗血症とショックが共通するが、MOF症状は各症例で異なり多彩な病態を
呈す。このため重症度を一概に分類できないが、早期の病態の把握は救命のために
も必要である。われわれの施設ではA群溶連菌による咽頭炎、筋痛および低血圧を
指標として早期診断基準案を作成して対応している。







ハンタウイルス肺症候群
(内科 1995;75:1271:6月増大号『内科疾患の診断基準、病型分類・重症度』)
1993年6月から合衆国南西部を中心に、突然に高熱、筋肉痛、頭痛で発症して数日
以内に原因不明の急性呼吸不全を生じる症例が相次いで報告された。既知の細菌、
ウイルス、毒性物質などに関する検査所見はいずれも陰性であった。合衆国・防疫
センター Centers for Disease Control and Prevention(CDC)は1993年1月以降
に発症した症例の対象に基準を作成して、ニュー・メキシコ州、アリゾナ州、コロ
ラド州、ユタ州の医師に基準を満たす症例の州保健担当局への報告を要請した。こ
のように収集された臨床検体の検討から、この疾患が新しいハンタウイルスによる
ことが明らかになった。
  ハンタウイルスはネズミに媒介される negative sense single-stranded RNA
virusで、腎症候性出血熱(HFRS)の原因となる。HFRSは約2〜3週間の潜伏期間の
後、悪寒、発熱、筋肉痛、頭痛、結膜充血、皮下出血などの症状を呈するが、一般
的には予後良好で約1週間で回復する。発症数日以内に急性腎不全、ショック、
肺水腫を合併した場合の致死率はきわめて高い。重症型HFRS(Hantaan virus感染
症)は致死率5〜15%、Puumala virus感染症の致死率は1%以下である。
  新たに判明した疾患はハンタウイルス肺症候群(HPS)と命名された。当初は致死
率78%と報告された。HPSにおいてウイルスは肺、腎、心、膵、副腎および骨格筋の
血管内皮に広く分布していることが示されたが、肺の外には血管透過性亢進は認め
られなかった。肺では間質への軽度のリンパ球浸潤を認めるが肺
胞腔と間質への好中球浸潤は軽微であり、肺胞上皮傷害、硝子膜形成も軽度であっ
た。1994年12月までに合衆国21州から合計98例のハンタウイルス肺症候群が報告さ
れており、罹患した患者の年齢は12歳から69歳、平均35歳で52例(54%)が男性で
あった4。抗ウイルス薬リバビリンが有効であったとする報告がある。







ブルセラ症(日本医師会雑誌(臨時増刊) 1999;122:166-167)
1. 病原体・毒素
  ヒトに感染を起こすのは4種類(Brucella abortus、B.melitensis、B.suis、B.canisである。
  ブルセラはグラム陰性の球形に近い小桿菌で、莢膜、芽胞、鞭毛をもたず、
  その発育は非常に遅い。そのため、通常の培養は少なくとも4週間は経過観察
  の必要がある。主な病原性は細胞壁のリポ多糖で、これが好中球などの貪食に
  耐性を示し、そのため、脾臓、リンパ節などでの細胞内増殖を許すこととなる。
2. 潜伏期
  2〜3週間。
3. 診断と治療
  1) 臨床症状
    a. ブルセラ症は全身症状を呈し、あらゆる臓器に感染を起こすことで
      知られている。その症状に特異的なものはなく、発熱、発汗、疲労、
      体重減少、うつ状態などの症状がみられる。身体所見では、
      発熱(数週間〜数か月続くことがある)、リンパ節腫脹、肝脾腫大がみられる。
    b. 臓器別の特徴
        ・骨関節系
           最もよくみられる合併症で、腸骨坐骨関節炎、膝および肘関
           節炎、椎間板炎、骨髄炎、滑膜包炎などを起こす。
        ・消化器系
           悪心、嘔吐、体重減少。
        ・呼吸器系
           きわめてまれであるが、咳、労作呼吸困難がみられる。
        ・泌尿器系
           精巣炎が最もよくみられる。
        ・神経系
           うつ状態、髄膜炎がみられるが頻度は2%以下である。
        ・心血管系
           心内膜炎が最も重要な合併症で、ブルセラ症による死亡原因
           の大半を占める。頻度は2%以下である。
  2) 検査所見
    通常の血液検査で特異的な所見はない。
  3) 確定診断と鑑別診晰
    a. 確定診断
      血液、骨髄その他の組織からの病原体の分離・同定が必要。また
      病原体に対する抗体を血清凝集反応(1:160倍以上の力価)または
      酵素抗体法、補体結合反応(CF、急性期と寛解期で4倍以上の力価
      上昇)で検出することが必要。近年ではPCRなども用いられている。
    b. 鑑別診断
      血液培養でMoraxellaやHaemophilusと誤認されることがあり注意
      を要する。他の不明熱との鑑別が必要(マラリア、腸チフス、結核、
      野兎病、悪性疾患、膠原病など)。
  4) 治療
    ドキシサイクリン100mg 1日2回を6週間+ストレプトマイシン1g筋注
    1日1回2週間または、ドキシサイクリン100mg 1日2回+リファンピン
    600〜900mg 1日1回を6週間。心ない膜炎、骨髄炎などでは外科的処置
    も必要なことが多い。再発は抗生剤の服用期間が短かかったり、外科
    的処置が適切になされなかった場合に起こる。
4. 2次感染予防・感染の管理
  家畜のブルセラ症コントロールが最重要(わが国では撲滅済み)、また
  現病歴で海外旅行、実験室内事故を確認する必要がある。ヒトの有効なワク
  チンは開発中である。







ワイル病またはワイル症候群(レプトスピローシス)・Canicola熱
(メルクマニュアル第16版、p149-150、メディカルブックサーヴィス)
約170種の血清型が同定きれている。ある1つの血清型のレプトスピラが様々な
症候群を起こすし、数種の血清型のレプトスピラが1つの症候群(例、無菌性
髄膜炎)を起こすこともある。
1. 疫学           
  レプトスピラ症は多くの家庭内または野生の動物宿主に起こる人獣共通
  感染症であり、不顕性の病気から致命的な疾患まで様々である。動物が数
  か月にわたりレプトスピラを尿中に排出し続ける保菌状態が存在する。人
  の感染症は感染動物の尿や組織に直接触れたり、汚染した水や土壌との接
  触により間接的に起こる。通常、すりむけた皮膚や、外部に曝された粘膜
  (例、結膜、鼻粘膜、口腔粘膜)が人への侵入口となる。感染はどの年齢
  でも起こり、その75%以上は男性である。レプトスピラ症は職業病例、農夫
  や下水、屠殺場で働く人)でありうるが、米国におけるほとんどの患者は、
  レクリエーション活動中にたまたま曝されたものである(例、汚染した水
  の中で泳ぐ)。犬やラットも、他の一般的な可能な感染源である。米国で
  は毎年40から100例が報告きれており、主に夏の終わりから秋の始めに発生
  している。特徴的な臨床所見がないため、おそらく、もっと多くの症例が
  診断されず報告されていない。
2. 臨床所見
  潜伏期間は2から20日(通常7から−13日)。特徴的な二相性を示す。
    1) レプトスピラ血症期(4~9日)
       ・突如始まり、頭痛、激しい筋肉痛、悪寒、発熱(しばしば
        39度以上)をきたす。
       ・結膜溢血は特徴的(3~4日目に出現)、脾腫・肝腫はまれ。
    2) 第二期または「免疫」期
       ・一旦解熱して6から12日目に、血清中の抗体出現に関連して
        第二期または「免疫」期が始まる。
       ・発熱および、以前の症状がぶり返し、髄膜炎の徴候が現れる
        こともある。7日日以降にCSF液を採取すると、少なくとも50%
        の患者には細胞増加症が明らかとなる。まれに虹彩毛様体炎、
        視神経炎、そして末梢ニューロパチーが起こる。妊娠中に
        感染した場合は、回復期であっても、流産を起こすことがある。
    3) ワイル症候群
        レプトスピラ症の劇症形で、黄疸を伴い、通常高窒素血症、出血
        貧血、意識障害、持続的な発熱を示す。発病は軽症のものさと同じ
        だが、3から6日日に肝実質および腎の機能不全の徴候が現れる。
        腎異常には蛋白尿、膿尿、血尿、高窒素血症が含まれる。出血所見
        は、毛細血管の損傷によるものである。血小板減少症が起こりうる。
        肝臓の損傷はわずかで、しかも完全に治癒する。  
    4) 無菌性髄膜炎
        どの血清型でも起こりうる。CSF中の細胞数は10から1000/μL
        (通常500以下)で、単核細胞が優勢である。CSF中のグルユース値
        は正常、蛋白は100mg/dL以下である。
        無菌性髄膜炎の患者の多くには、有意な肝および腎の疾患を示す
        所見はみられない。死亡率は、無黄疸患者では0である。黄疸をきた
        した場合、死亡率は5~10%であるが、60歳以上の患者では、その率は
        さらに高い。
4. 臨床検査所見
  WBC数はたいていの症例で正常かわずかに増加する。症状の重い黄疸のある
  患者は50000に達することもある。白血球増加症15000以上は肝臓が侵されて
  いることを示す。70%を超える好中球の存在が、レプロスピラ症をウイルス
  疾患から鑑別する助けになる。
  黄疸のある患者では、血管内溶血により、激しい貧血が起こる。血清ビリ
  ルビン値は、通常では20mg/dL以下であるが、重い感染の場合40mg/dLにまで
  達する。BUNは通常10mg/dL以下である。これらの所見は、肝臓・腎臓が侵され
  ていることを示す。
5. 診断と鑑別診断
  診断は病原体の証明、または血清テスト陽性により確定する。培養と血清学
  的検査に供する急性期の血清検体をとるため、病気の初期に採血せねばならな
  い。病気の第一期に、血液、尿、CSFを採取し Fletcher、EMJHもしくはTween80-
  アルブミン培地に植えるとレプロスピラが分離される。1週目以降では、培養
  または暗視野顕微鏡観察により尿中にレプロスピラがみつかるもこともある。
  BACTEC460システム(Johnson研究所)を用いた放射線測定法を用いれば、わ
  ずか2から5日の培養後にヒト血中のレプロスピラを検出できる。回復期の血清
  検体は、平板または顕微鏡的凝集検査、間接螢光抗体(IFA)テスト、さらに
  感度も特異性も高い、酵素結合免疫的度測定法(ELISA)や、Dot-ELISA法を含
  む血清学的検査に用いるために病気の3から4週日に採取すべきである。
    1) 鑑別診断
       髄膜炎、脳髄膜炎、インフルエンザ、肝炎、急性胆嚢炎、腎不全が含
       まれるべきである。一般的に無菌性髄膜炎の原因となる腸内ウイルスに
       ついては、通常二相性の病気の経過はみられない。このような病歴は
       レプロスピラ症もしくは、おそらくはサイトメガロウイルス感染を示唆
       する。レプロスピラに曝されるような疫学的状況で起こったFUO患者すべ
       てについてレプロスピラ症の可能性を考慮するべきである。







リウマチ熱診断の手引きのための改訂Jomes基準
(内科 1995;75:1276:6月増大号『内科疾患の診断基準、病型分類・重症度』)
<大症状>
 ○心炎
  ○多関節炎
  ○舞踏病
  ○輪郭状紅斑
  ○皮下結節
<小症状>
  1) 臨床症状
   ○リウマチ熱、または、リウマチ性心疾患の既往
   ○関節痛
   ○発熱
  2) 検査
   ○急性期反応
     ESR、CRP、白血球増多
   ○PR間隔延長

        +

先行する溶連菌感染を裏づける証明(ASOまたは、他の溶連菌抗体の増加、
すなわちA群溶連菌の咽頭培養陽性、猩紅熱の最近の罹患)

■大症状が二つあるか、あるいは、大症状一つと小症状二つがあり、かつ先行
する溶連菌感染の証明がなされれば、リウマチ熱である確率は高い。溶連菌
感染の証明がない場合、ずっと以前の感染の長期潜伏期間ののちに、リウマ
チ熱がはじめて発見されたような状態を除いては、診断は疑わしくなる(たと
えば、Sydenham's choreaあるいは、low gradeの心炎)。







リウマチ性心炎の診断基準
(内科 1995;75:1277:6月増大号『内科疾患の診断基準、病型分類・重症度』)
リウマチ性心炎は、ほとんど常に有意な雑音を伴うものである。それゆえ、
下記の他の所見があっても、有意な雑音を伴わない場合には、リウマチ性心炎
と診断するには、注意すべきである。
(1)雑音
  1. リウマチ熱、あるいはリウマチ性心疾患の既往のないもので、有意な
    心尖部収縮期雑音、心尖部拡張中期雑音、心基部拡張期雑音のあるもの。
  2. リウマチ熱、あるいはリウマチ性心疾患の既往のあるもので、これらの
    雑音の性状に、明らかな変化が現れるか、あるいは有意な雑音が新たに
    現れたもの。
(2)心拡大
   リウマチ熱の既往歴のないもので、明らかな心の拡大のあるもの、また
   は、リウマチ性心疾患の既往があるもので、心臓の大きさの顕著な増加が
   みられるもの。
(3)心膜炎
   摩擦音、心膜液貯留あるいは明らかな心電図所見によって、心願炎の
   症状のみられること。
(4)うっ血性心不全
   小児あるいは若年者で、他に認むべき原因がなくてみられること。







感染性心内膜炎の診断基準
(内科 1995;75:1258:6月増大号『内科疾患の診断基準、病型分類・重症度』)
A. 確定診断
  1. 病理学的基準
    微生物:疣贅中、塞栓、心臓内腫瘍内より培養上ないし組織学的に証明されるあるいは
    病理組織:活動性心内膜炎を示す組織により確認された疣贅ないし心臓内膿瘍の存在
2. 臨床的基準
   1)主要基準
       ◆ 感染性心内膜炎に対する血液培養陽性
        2回の別々の血液培養より感染性心内膜炎として典型的な微生物
        viridans streptococci*・Streptococcus bovis、HACEK grpup**、
       あるいは市井感染で原病巣の認められないStaphylococcus aureus
       またはenterococci、
       あるいは
       持続する血液培養陽性で、(1)12時間以上間隔の開いた血液培養また
       は(2)少なくとも最初と最後のあいだが1時間以上開いた3回のすべて
       ないし4回以上のほとんどの血液培養から感染性心内膜炎を起こしう
       る微生物が証明される
       ◆ 心内膜が侵された所見
        感染性心内膜炎としての陽性心エコー所見
          a)心臓内に腫瘤を認め、それが弁ないしその支持組織上に
           存在、逆流性ジェットの通り道に存在ないし、移植された
           材質上に存在し解剖学的にほかに説明のつかないもの
            または
          b)膿瘍
            または
          c)新たな人工弁の部分的裂開
            ないしは
        新たな弁に起因した逆流の出現(すでに存在していた心雑音の
        増大ないし変化は含めない)
   2)副基準
   ・素因:素因となりうる心臓の状態ないし静脈内への薬剤の投与
   ・発熱:38度以上
   ・血管現象:大きな動脈の塞栓、敗血症性肺梗塞、mycotic aneurysm、
           脳出血、眼瞼結膜出血、Janeway病変
   ・免疫現象:糸球体腎炎、Osler結節、Roth斑、リウマチ因子
   ・微生物学的所見:血液培養陽性だが下注***に示したように主要基準
               を満たさないもの、ないし感染性心内膜炎を起こし
               うる微生物の活動性感染を示す血清学的所見
   ・心エコー:感染性心内膜炎に合致する所見だが主要基準を満たさないもの****
   ■このうち主要基準二つ、ないし主要基準一つと副基準三つ、ないし
  副基準五つを満たすもの
B. 可能診断 
 “確定診断”には達しないが“除外診断”ではない感染性心内膜炎に合致する
  所見をもつもの
C. 除外診断
  ・明らかに感染性心内膜炎とは違う診断が確定しているもの
  ・ 4日以内の抗生物質治療で感染性心内膜炎の所見が鎮静化してしまったもの
  ・ 4日以内の抗生物質治療後の手術ないし剖検で感染性心内膜炎の病理学的所見
  ・のみられないもの

*   :HACEK group:Haemophilus spp.,Actinobacillus actinomicetemcomitans,
    Cardiobacterium homnis,Eikenella spp. and Kingella kingae
**  :nutritionally variant streptococciを含む
***  :coagulase-negative staphylococciの1回のみ陽性、通常感染性心内膜炎を起
     こさない微生物は除く。
**** :たとえば感染性心内膜炎に合致する新たな弁の穿孔、結節性の弁肥厚など。







鼠径リンパ肉芽腫症(LGV)
(メルクマニュアル第16版、pp260-261、メディカルブックサーヴィス)
1. 病因
  LGVは、トラコーマ、封入体性結膜炎、尿道炎、および子宮頸管炎の原因とな
  る病原体とは異なる有限数の免疫型のChlamydia Trachomatisによって起こる。
  この疾患はほとんど熱帯と亜熱帯地域で見出されるが、まれに米周でも起こる。
2. 症例と徴候
  3から12日以上の潜伏期間の後、小さい一過性の硬化しない小疱性病変が形成
  され、速やかに潰瘍化し、早く治癒して見過ごされてしまうことがある。ふつう
  最初の症状は、一側性の圧痛を伴った鼠径リンパ節腫大で、それは進行すると深
  部組織に付着し上を覆う皮膚に炎症を起こす。大きく圧痛のある流動性膿瘍にな
  る。多数の洞が現れ、化膿性、または血性内容物を分泌する。結局、癒痕を形成
  して治癒するが洞は存続あるいは再発しうる。
  患者は、発熱、倦怠、頭痛、関節痛、食欲不振、そして嘔吐を訴える。背部の
  痛みは女性によくみられ、女性では最初の病変は子宮頸部あるいは腟上部に生じ
  ることがあり、直腸周囲と骨盤リンパ管の拡張と化膿をもたらす。女性あるいは
  男性同性愛者の直腸壁が侵されると、血性化膿性直腸分泌物を伴う潰瘍性直腸炎
  になることがある。
  慢性炎症はリンパ管を閉塞し、浮腫、潰瘍、瘻孔形成を導く。大きな・ポリー
  プ状腫瘤が生じ、巨大に膨れてついには性器の象皮病になることもある。直腸の
  狭窄は女性と男性同性愛者に見出される。
3. 診断
  臨床的診断は、抗体価の上昇が示されるCF試験によって確定される。微小免疫
  螢光(micro-IF)検査では、型特異的抗体を測定し、抗体のさまざまな血清型を
  識別できる。しかし交差反応がよくみられる。比較的少数の検査室では、細胞培
  養での分離が可能である。膿中のChlamydiaの染色にモノクローナル抗体を用い
  た市販の免疫螢光法キットによって特異的試験の利用が高まっている。もしmicro
  -IFと細胞培養試験が利用できなければ、病歴全体、
  臨床所見、補体結合抗体の高いまたは上昇した力価から診断は可能である。







国内で遭遇する確会が多いと予測される主な蠕虫疾患、蠕虫種とメモランダム
(伊藤亮:日本医師会雑誌 2004;131:1722)
以下*印は外来で特に遭遇する機会が多いと予測される蠕虫種
1. 消化管寄生蠕虫症ならびに蠕虫種
  1) 線虫症
    回虫*:胆管迷人、雌雄異体、単数寄生、検便、有機野菜?
    鞭虫*:発展途上国帰り、検便、有機野菜?
    鈎虫 :発展途上国帰り、貧血、検便、有機野菜?
    ぎょう虫*:小児神経症、家族感染、肛門周囲セロテープ検査
    アニサキス*:海産魚介類の摂取半日以内の急性腹症、内視鏡検査、血清検査
    施尾線虫*:ホタルイカの生食、皮膚爬行症、好酸球増多、血清検査?
    顎口虫各種*:ライギョ・ドジョウその他の生食、皮膚爬行症、好酸球増多、
             血清検査?
    旋毛虫:クマ肉の生食、外国ではブタ・クマ・ウマ肉の生食など、浮腫、
         発熱、筋肉痛、好酸球増多、血清検査?
    糞線虫*:経皮感染、熱帯・亜熱帯、日和見感染、ステロイド療法、
          検便(虫卵ではなく幼虫ならびに成虫検出)
2) 吸虫症
  肺吸虫*各種:サワガニ・モクズガニ・イノシシ肉などの生食、好酸球増多、
  画像診断、喀啖検査、検便、血清検査、胸水検査
  肝吸虫*:フナなどの生食、検便、胆汁検査
  横川吸虫*:アユ・シラウオの生食、検便
  棘口吸虫:ドジョウの生食、検便
3) 条虫症
  広節裂頭条虫*:マス・サケの生食、長い虫体が肛門から垂れ下がり気付く
  マンソン裂頭条虫:ヘビ・カエルなどの生食、広節裂頭条虫同様1m弱の比較
              的小形の虫、稀
  大複殖門条虫:イワシの生食、自然排虫されたときに受診する例が多い、
            検便、治療不要(自然排虫)?
  無鈎条虫*:牛肉の生食、1〜5cmに伸縮する扁平の虫(片節)が能動的に
         肛門から排出、感染者は大概これで自覚
  アジア条虫:アジア各地の辺境地域でのブタの内臓生食、無鈎条虫同様に
          自発的に排出(形態学的な鑑別不可)
  有鈎条虫*:ブタ肉の生食、自発的な排出は不明、全世界的流行、検便?
          糞便内抗原検査、糞便内DNA検査、虫卵は嚢虫症の感染源
  有線条虫:ヘビ・カエルなどの生食(東海地方に比較的多発)、粟粒大の
         虫体(片節)が排便時に見つかる
         イヌ条虫(瓜実条虫):イヌノミの誤飲(ペットからの感染、2~3mmから
         10mmぐらいの虫体(片節)が排泄される
2. 消化管以外の臓器寄生蠕虫症ならびに蠕虫種
  1) 線虫症
    フイラリア各種:昆虫媒介、現在国内に土着のフイラリア症なし
    バンクロフト糸状虫:熱帯・亜熱帯アジア、象皮病、乳び尿、
                 血液検査(ミクロフィラリア)、血清検査、尿検査
    マレー糸状虫:熱帯・亜熱帯アジア、血液検査(ミクロフィラリア)
             血清検査、検尿
    回旋糸状虫:アフリカ、中南米帰り、血清検査
    ロア糸状虫:アフリカ帰り、血清検査
    イヌ糸状虫:肺尖部の円形腫瘤として見つかることが多い、血清検査
  2) 吸虫症:住血吸虫症(経皮感染)
    日本住血吸虫:アジアで流行、肝疾患、血便、大腸検査で偶然見つかる
              陳旧性の症例が少なくない、好酸球増多、検便、血清検査
    マンソン住血吸虫:アフリカ・中近東・南アメリカ、肝疾患、軽症例多い、
    検便、血清検査
    ビルハルツ住血吸虫:血尿、勝胱癌? アフリカ帰り、検尿
3) 条虫症
  嚢虫症:有鈎条虫*
       有鈎条虫症患者から排泄された虫卵の経口感染、画像診断、血清検査
       脳嚢虫症、眼嚢虫症、皮下嚢虫症
       エキノコックス症
  多包条虫*:多包虫症、キツネから排泄された虫卵の経口感染、
         北海道・中国、画像診断、血清検査
  単包条虫*:単包虫症、国内分布なし、輸入症例、イヌから排泄された
         虫卵の経口感染、画像診断(蜂の巣状)、血清検査
  マンソン孤虫症:マンソン裂頭条虫の幼虫寄生、移動性、無痛性の皮下腫瘤
            が主、脳・眼への寄生も少なくない、ゲテモノ食い(ヘビ・カエルなど)、好酸球増多、画像診断、血清検査







炭疽(anthrax、羊毛選別者病)について
(メルクマニュアル第16版、pp.96-97、メディカルブックサーヴィス)
特に反芻動物における感染性の高い病気で、動物やその排泄物に触れることで
人間に伝播する。
1. 病因と疫学
  原因菌である炭疽菌は大きく、G(+)で通性嫌気性、莢膜をもつか桿菌である。
  芽胞は破壊しにくく、土壌や動物の排泄物の中で何10年も生き続ける。人間の
  感染はふつう経皮的であるが、汚染された肉を摂食して起こったこともある。
  不利な状況(例、急性の気道感染の時)では、吸入した胞子は肺炭疽(羊毛選
  別者病)という、しばしば致命的な病気になることがある。
  炭疽は重要な動物の病気であるにもかかわらず、現在は人間ではまれで、感
  染したヤギ、牛、羊、馬やその排出物に曝された加工製品や農業産物を防ぐ公
  衆衛生的規制のない国で主に起こる。
2. 症状、徴候および診断
  職業歴が最も大切である。菌は培養で明らかになるが、皮膚の病変部の塗沫、
  炭疽では咽頭ぬぐい液や痰のグラム染色で実証される。直接の培養が不成功の
  時は、菌はマウスへの接種で分離されることがある。
  培養期間は12時間から5日(一般的に3から5日)と様々である。皮膚型病変は、
  多くみられる末梢性の紅斑、小胞、硬結を伴って腫脹した赤茶色の丘疹として
  現れる。のち、中心部に潰瘍が、漿液血液性の参出と黒い焼痂の形成を伴って
  現れる。局所リンパ節炎が現れる。時に倦怠、筋肉痛、頭痛、発熱、悪心、嘔
  吐を伴う。
  肺炭疽は縦隔のリンパ節において、急速な芽胞の増加のあとで起こる。激し
  い出血性壊死性のリンパ節炎が起こり、隣接の縦隔構造へ広がっていく。漿血
  性滲出、肺浮腫、胸水が起こる。初期症状は潜行性で、インフルエンザに似て
  いる。熱が上昇し、1から2日以内に激しい呼吸困難が起こり、その後チアノー
  ゼ、ショック、昏睡に至る。出血性の髄膜脳炎が起こることがある。胸部レ線
  によって、びまん性の斑状の浸潤がわかる。縦隔は大きくなった出血性のリン
  パ節のために広がる。
  胃腸炭疽は、現在では非常にまれで、咽頭や腸粘膜に傷があって、腸壁へ浸
  入が起こりやすい時に、汚染された肉を摂取すると起こる。外毒素は出血性壊
  死を起こし、排出性腸間膜リンパ節へ至る。致死性の毒を持つ敗血症に結果と
  して至る。
3. 予防と治療
  培養濾液からなるワクチンが、危険性の高い(獣医、検査技師、輸入された
  ヤギの毛の処置を行う織物工場の従業員)人々に用いられる。
  皮膚型病変の治療は、プロカインペニシリンG60万単位筋注で1日2回7日間の
  投与で、全身の広がりを防ぎ、嚢胞を次第に消失させてゆく。テトラサイクリ
  ン2g/日を経口で4回に分けて投与(小児は20mg/kg/日を4回に分割)すること
  も効果的である。エリスロマイシンがかわりに使われることもある。
  肺炭疽には、早期にペニシリンG2000万単位/日の持続静注治療が救命につな
  がる。ペニシリンGは成人ではストレプトマイシン500mg/日を8時間毎に筋注、
  また小児では25mg/kg/日と併用されてきた。ステロイドが有効なこともあるが
  適切とは評価されていない。もし、治療が遅れれば(ふつう診断が誤ってしま
  うため)、死へ至ることが多い。







抗結核薬の種類と耐性判定薬剤濃度について(耐性判定薬剤濃度(単位mcg・ml))
 ・INH:1日当たり0.2-0.5g(誘導体の場合にはこれに相当する量)を連日投与する。
     1日1回又は2回内服する。必要に応じ筋肉内注射、静脈内注射又は局所注射 とする。(0.2)
 ・RFP:l日当たり0.45gを連日役与する。
     1日1回、原則として早朝の空腹時に内服する。必要に応じ局所注射とする。(40)
 ・SM :1日当たり1.0gを週2日投与する。連日投与の場合は、1日当たり0.5-0.75g とする。        
     1日1回筋肉内に注射する。必要に応じ局所注射とする。(10)
 ・EB :1日当たり0.5-0.75gを連日投与する。
     1日1回又は2回内服する。(2.5)
 ・KM :1日当たり2.0gを過2日、又は1日当たり1.0gを週3日投与する。
     1日2.0g投与の場合は朝夕2回、1日1.0g投与の場合は1回、筋肉内に注射する。必要に応じ局所注射とする。(20)
 ・TH :始めは1日当たり0.3g、その後漸次増量して0.5-0.75gを連日投与する。
     1日2回又は3回内服する。必要に応じ座薬とする。(20)
 ・EVM:1日当たり1.0gを、始めの3カ月間は連日、その後は週2日または3日、投与する
      1日1回筋肉内に注射する。必要に応じ局所注射とする。(20)
 ・PZA:1日当たり1.5-2.0gを連日投与する。1日1回又は2回内服する。(ー)
 ・PAS:1日当たり10-15gを連日投与する。1日2回又は3回内服する。(0.5)必要に応じ局所注射とする。
 ・CS :1日当たり0.5gを連日投与する。1日2回内服する。(30)

 ※備考
  1.この表に掲げる抗結核薬の種類のうち、THとはエチオナミド又はプロチオナ
   ミドを、CSとはサイクロセリンをいう。
  2.抗結核薬の投与量は、この表に掲げる成人の基準投与量を参考とし、患者の
   年齢、体重などの条件を考慮して決定する。
  3.この表に掲げる耐性判定薬剤濃度において結核菌が完全耐性を示す場合には、
   原則としてこの表に掲げる順に従い、使用する抗結楔薬の種類を変更する。
   但し、TH及びCSについては、耐性検査の成績と治療効果が必ずしも一致しない
   ことに留意する。







ビルディング関連疾患(Building-related illness)
                indoorsourse     agent or exposure 
  1.感染症
   a.レジオネラ症・ 冷暖房・空調・加湿器   Legionella pneumophilia
     Pontiacdisease   portable water
   b.インフルエンザ様  human source      呼吸器系ウイルス
     風邪
   c.結核          human source      Mycobacterium tuberculosis
  2.免疫系異常
   a.過敏性肺蔵炎    humidifier         色々な細菌、真菌
     humidifier fever                アクチノミセス
             冷暖房・空調・加湿器  アスペルギルス、ペニシリウム
                               多種の有機生物
  3.アレルギー
    皮膚炎、鼻炎、喘息  埃・衣服など    かび、繊維、真菌、ダニ
                                動物性アレルゲン
                 humidifier       原因不明
  4.鼻炎
    蕁麻疹、喉頭浮腫   カーボンレス・
                   コピー・ペーパー  Alkylphenol novolac resin
  5.刺激
   皮膚炎、気道刺激   天井板         グラスファイバー
                 タバコ、排気ガス    CO、NO2など
                 など燃焼産物







特殊病態下肺炎のエンピリック治療(NIS、No.3993(H12/11/4)、P17)
1.インフルエンザ流行時:肺炎球菌、インフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌
  -->ペニシリン系薬、β-ラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリン系薬、フルオロキノ
   ロン系薬
2.慢性呼吸器疾患・感染反復:肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ、緑膿菌
  -->経口フルオロキノロン系薬、β-ラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリン系薬
3.脳血管障害、誤嚥性肺炎、口腔病変、閉塞性病変(肺癌など):嫌気性菌
  -->クリンダマイシン、β-ラククマーゼ阻害剤配合ペニシリン系薬、
4.糖尿病:肺炎球菌、グラム陰性桿菌(クレブシエラほか)
  -->第3世代セフェム薬、カルバペネム系薬
5.温泉旅行、循環式風呂:レジオネラ属菌
  -->マクロライド系薬、フルオロキノロン系薬、リファンピシン
6.鳥類との節食:オウム病クラミジア
  -->テトラサイクリン系薬
7.家畜や妊娠している猫との接触:Q熱コクシエラ
  -->テトラサイクリン系薬
8.長期ステロイド投与中、HIV感染症のリスクファクターのあるヒト:カリニ、結核
                           、サイトメガロウイルス
  -->原因微生物の同定とともに複数の病原体を想定したエンピリック治療を始める







日本における感染症類型の考え方
A.1類感染症
  1.性格          
    感染力、羅患した場合の重篤性などに基づく総合的な観点からみた危険性がき
   わめて高い感染症
  2.主な対応・措置
   ・原則入院
   ・消毒などの対物措置
   ・建物への措置。通行制限などの措置(例外的に発動〉
   ・患者を診断したすべての医師に届出義務
B.2類感染症
  1.性格
    感染力、罷患した場合の重篤性などに基づく総合的な観点からみた危険性が
   高い感染症
  2.主な対応・措置
   ・病原体の有無、症状の有無などの状況に応じて入院
   ・消毒などの対物措置
   ・患者を診断したすべての医師に届出義務
C.3類感染症  
  1.性格
    感染力、罷患した場合の重篤性などに基づく総合的な観点からみた危険性は
   高くないが、特定の職業への就業によって感染症の集団発生を起こしうる感染症
  2.主な対応・措置
   ・特定職種への就業制限
   ・消専などの対物措置
   ・患者を診断したすべての医師に届出義務
D.4類感染症
  [全数把握対象]
  1.性格
    1類から3類感染症までの危険性は有さないが、発生動向を把握する必要があり、
   かつ発生数が比較的少ない感染症
  2.主な対応・措置
   ・患者を診断したすべての医師に届出義務
  [定点把握対象]
  1.性格
    1類から3類感染症までの危険性は有さないが、発生動向を把握する必要があり、
   かつ発生数が比較的多い感染症
  2.主な対応・措置
   ・全国に設けた定点観測医療機関で患者が診断された場合に届出







感染症類型に含まれる感染症
A.1類感染症
  ・エボラ出血熱
  ・クリミア・コンゴ出血熱
  ・ペスト
  ・マールブルグ病
  ・ラッサ熱
B.2頬感染症
  ・コレラ
  ・細菌性赤痢
  ・腸チフス
  ・バラチフス
  ・ポリオ(急性灰白髄炎)
  ・ジフテリア
C.3類感染症  
  ・腸管出血性大腸菌感染症
D.4類感染症
 [全数把握対象]
  ・アメーバ赤痢
  ・ウイルス性肝炎
  ・エキノコックス症
  ・黄熟
  ・オウム病
  ・回帰熱
  ・Q熱
  ・狂犬病
  ・クリプトスポリジウム症
  ・クロイツフェルト・ヤコブ病
  ・劇症型溶連菌感染症
  ・複天性免疫不全症候群
  ・コクジシオイデス症
  ・ジアルジア症
  ・腎症候性出血熱
  ・髄膜炎菌性髄膜炎
  ・先天性風疹症候群
  ・炭疽
  ・ツツガムシ病
  ・デング熟
  ・日本紅斑熱
  ・日本脳炎
  ・乳児ボツリヌス症
  ・梅毒
  ・破傷風
  ・バンコマイシン耐性腸球菌感染症
  ・ハンタウイルス肺症候群
  ・Bウイルス病
  ・ブルセラ症
  ・発疹チフス
  ・マラリア
  ・ライム病
  ・レジオネラ症
 [定点把握対象]
  ・咽頭結膜熱
  ・インフルエンザ
  ・A群溶連菌咽頭炎
  ・感染性胃腸炎
  ・急性出血性結膜炎
  ・急性脳炎
  ・クラミジア肺炎
  ・細菌性髄膜炎
  ・水痘
  ・性器クラミジア症
  ・性器ヘルペスウイルス感染症
  ・成人麻疹
  ・尖形コンジローム
  ・手足口病
  ・伝染性紅斑
  ・突発性発疹
  ・百日咳
  ・風疹
  ・ペニシリン耐性肺炎球菌感染症
  ・ヘルパンギーナ
  ・マイコプラズマ肺炎
  ・麻疹(成人麻疹を除く)
  ・無菌性髄膜炎
  ・メチシリン耐性ブドウ球菌感染症
  ・薬剤耐性緑膿菌感染症
  ・流行性角結膜炎
  ・流行性耳下腺炎
  ・淋菌感染症







感染症の病原体の有無、症状の有無に応じた法定入院、法定就業制限の考え方
                   法定入院     法定就業制限
 1類感染症
    疑似症患者           ○          ○
    有症状病原体保有者     ○          ○
    無症状病原体保有者     ○          ○
 2類感染症
    疑似症患者           △*         ×
    有症状病原体保有者     ○          ○
    無症状病原体保有者     ×          ○
 3類感染症
    疑似症患者           ×          ×
    有症状病原体保有者     ×          ○
    無症状病原体保有者     ×          ○
 4類感染症
    疑似症患者           ×          ×
    有症状病原体保有者     ×          ×
    無症状病原体保有者     ×          ×

  注意(△*):コレラ、細菌性赤痢、腸チフスおよぴパラチフスは法定入院の対象。
        ポリオおよぴジフテリアは法定入院の対象外







薬剤耐性菌と治療薬(日内雑誌2001;90:1792)
 1.メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)
 2.メチシリン耐性表皮ブドウ球菌(MRSE)
   バンコマイシン、ティコプラニン、アルベカシン
 3.ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)
   カルバペネム薬、バンコマイシン
   ペニシリン薬あるいはセフェム薬の増量投与
 4.広域β-ラクタマーゼ産生菌(ESBL)
   (クレブシエラ属、大腸菌、シトロバクターなど)
   カルバペネム薬
 5.カルバペネマーゼ産生菌
   (緑膿菌、バクテロイデス・フラジリス、ステノトロフオモナス・マルトフィ
    リア、セラチア)
   ミノサイクリン
 6.バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)
  リネゾリド
  プリスチナマイシン(キヌプリスチン/ダルフォブリスチン)







MRSA尿路感染症の診断・治療
A.分類
 1.術後創感染症
 2.尿路感染症
  1)単純性尿路感染症:基礎疾患なし
  2)複雑性尿路感染症:基礎疾患あり
    a.カテーテル留置
      院内感染の意味合いが強い。医療従事者や外尿道口より侵入。
    b.カテーテル非留置
      前立腺疾患、神経因性膀胱、尿路結石、高齢者に多く、排尿痛、頻尿
     残尿感の程度は軽微。無症状のこともある。腎盂腎炎や膿腎症では発熱。
     感染は主に外尿道口から逆行性に尿路に侵入。
B.複雑性尿路感染症の起炎菌
  G(-)菌(緑膿菌)=60〜70%、ブドウ球菌は全体の約15%で、この80%強がMRSA。
C.抗菌剤の効果の現況
  1)ペニシリン、セフェム、カルバペネム、キノロンには殆ど100%耐性
  2)テトラサイクリンは約50%が耐性
  3)アルベカシン(ABK)、テイコプラニン(TEIC)には10%が耐性
  4)バンコマイシンは、いまのところ低感受性株のみ
D.治療
  1)基礎疾患のあるものは、基礎疾患の治療なしには完治しない。
  2)VCMの静注が効果。感受性があればMINOの経口や静注が効く。
  3)カテーテル留置例では留置している間は治癒は望めない。
  4)菌交代現象があるので、無症状であれば抗菌剤を使用しないのが原則。
   カテーテルを抜去して、無菌的間欠導尿が最良の方法だろう。
   膀胱洗浄は尿路感染症の治療にはならない。
  5)MRSA尿路感染症は多量のMRSAを含み院内感染の感染源となる。扱いには厳重に
   注意すべきである。







骨盤腹膜炎診断のポイント(日経メディカル、2001年、11月号より)
 1. 16〜50歳の女性
 2. 約70%は月経中ないしは月経終了後5日以内に発症する
 3. 発症早期(24時間以内)に両側の下腹部痛となる
 4. 発症早期に高熱となることが多い
 5. 下腹部痛が激しい割には全身状態が比較的良好で、消化器症状が軽い
 6. 反跳圧痛は強いが、筋性防御は軽い傾向がある
 7. 直腸診で子宮預部を動かすと激しく痛がる







Fitz-Hugh-Curtis syndrome(クラミジアまたは淋菌感染症、骨盤腹膜炎の亜型)
                            (日経メディカル、2001年、11月号より)

 1. 骨盤腹膜炎の亜型で、骨盤腹膜炎の5〜10%にみられる
 2. 骨盤腹膜炎の起炎菌(淋菌、クラミジア)による肝周囲炎である
 3. 感染経路はリンパ行性、血行性、直接波及が考えられていて、−致した見解
   がない
 4. 右上腹部痛、発熱などで受診し、胆嚢炎、腎孟腎炎と誤診されることが多い
 5. 受診時には下腹部の所見が乏しいことが多い
 6. 腹腔鏡で肝表面被膜と壁側腹膜にviolin-string adhesionと称される癒着が
   特異的とされている
 7. 抗クラミジア抗体価の測定と婦人科受診による子宮頚管粘膜のクラミジア抗原
   検査が必要である
 8. 治療は淋菌に対する抗菌薬(セフトリアキソンなど)だけでなく、クラミジア
   に対する抗菌薬(テトラサイクリンあるいはニューキノロン)の併用が必要と
   なる。







リステリア感染症(Listeria monocytogenes、嫌気性、G(-)桿菌)
            (日本臨牀、内科から病理へ、第3集、1980、P584(3882))

  1. 髄膜脳炎(特に小児と40歳以上の成人)ー通常の化膿性髄膜炎と全く区別でき
   ない。(約35%)
  2. インフルエンザ様の低グレードのsepticemia
  3. 伝染単核球症のような症状群を呈す
  4. 大人のsepticemiaではしばしば中耳炎、咽頭炎、扁桃炎、副鼻腔炎を合併して
   おり、これが髄膜脳炎に波及
  5. 肺炎
  6. リステリア心内膜炎
  7. 限局性膿瘍
  8. 皮膚のfi疹や膿疱
  9. リステリア結膜炎
 10. 尿道炎
 11. 習慣性流産
 12. 小児では、精神薄弱・知能低下
 13. 成人の精神障害
 14. (しばしば糖尿病や慢性アルコール中毒に合併、日和見感染も)







先行感染病原体別の臨床的特徴(日内雑誌 2001;90:2415)
  1. キャンピロバクター腸炎後Guillain-Barre症候群
   ・Guillain-Barre症候群の約3割を占め、最も高頻度
   ・前駆症状が(水様性)下痢
   ・四肢遠位部優位の筋力低下
   ・顔面神経麻痺などの脳神経麻痺をきたしにくい
   ・腱反射が保たれることがある
   ・電気生理学的に軸索型障害パターン
   ・血清中IgG抗ガングリオシド抗体が高頻度に検出される
   ・後遺症をきたしやすい
  2. サイトメガロウイルス感染後Guillain-Barre症候群
   ・Guillain-Barre症候群の約1割を占め、2番目に多い
   ・若い女性に多い
   ・顔面神経麻痺を呈することが多い
   ・手袋・靴下型の感覚障害がみられる
   ・電気生理学的に脱髄型障害パターン
   ・血清中IgM抗GM2抗体が高頻度に検出される







激症型溶連菌感染症(米国疾病管理センター、1993)
 1. A群連鎖球菌の検出(以下AまたはB)
   A. 皮膚が正常ならば無菌部分(血液、CSF、胸水、腹水、生検組織、手術創など)
    から検出
   B. 皮膚が正常でも菌の存在する部位(咽頭、喀啖、腟、皮膚表面など)から検出
 2. 臨床症状(以下AおよびB)
   A. 成人では収縮期血圧90mmHg以下の低血圧、小児では各年齢の血圧正規分布で
    下側確率分布5%に相当する値以下
   B. 以下の2項目を満たす臨床所見
    1) 腎障害
    2) 凝固障害
    3) 肝障害
    4) ARDS
    5) 落屑を伴う全身性の紅斑様皮膚発赤疹
    6) 軟部組織壊死、壊死性筋膜炎および筋炎を含む。

  ※ 1.のA及び2.を満たすと診断が確定。1.のB及び2.を満たし、他の疾患を否定
    すると疑いが高い。







ネコからヒトに感染する病原体(NEJM 2005;353:1391)
  1. Bacterialinfections
    ・Bartonella henelae (cat scratch disease, bacillary angiomatosis)
    ・Yersinia pestis (bubonic, pneumonic plague)
    ・Coxiella burnetii ("poker player's pneumonia" from infected
               parturient cats)
    ・Bacillus anthracis (cutaneous anthrax)
    ・Bordetella bronchiseptica
    ・Francisella turarensis
    ・Leptospira species
    ・Pasteurella multocida
    ・Enteric pathogens
     Campylobacter
     Salmonella species
  Z  Yersinia species
  2. Fungal infections
    ・Microsporum species
   ・Sporothrix schenckii
   ・Filamentous fungi
  3. Parasitic infections
   ・Toxocara species
    ・Toxoplasma gondii
    ・Ancyclostoma species
    ・Giardia lamblia
    ・Cryptosporidium parvum
  4. Viral infections
    ・Rabies
    ・Orthopoxvirus(cowpox)







深在性真菌症の診断方法(Medical tribune 2005/12/8 感染症版より)
  わが国の深在性真菌症の診断・治療ガイドラインより引用、改変した。さまざま
 な領域の深在性真菌症を対象としており、わが国で使用可能な補助診断法を採用し
 た点に特徴がある。
  (1)どのような患者が深在性真菌症の高リスクグループか
    好中球減少、抗菌薬使用、ステロイド使用、エイズ、GVHD、長時間手術、
    ICU在室日数、人工呼吸器使用、中心静脈カテーテル使用、多発外傷、広範
    囲熟傷、高APACHE(急性生理学異常・慢性度によ重症度評価システム)スコ
    アなど
  (2)どのような場合に深在性真菌症を疑うか
    臨床所見:広域抗菌薬不応性発熱、ショック、咳、血痰、胸痛、呼吸困難、
          頭痛、意識障害、腹部鈍痛、黄疸、視力障害など
    一般検査所見:白血球増加、CRP上昇、肝機能異常など
  (3)真菌感染症の確定診断のために何を検査するか
    ・確定診断法
     組織検査(生検):食道、肺、肝臓、副鼻腔、脳など
     培養検査(無菌部位よりの真菌培養):血液、髄液、胸水、腹水など
    ・補助診断法
      眼底検査:カンジダ眼内炎
      画像診断:胸部CTのhalo sign、air-crescent sign、胸部CT、MRI、
           超音波で小型・末梢性の標的様の肝脾膿瘍、Bull's eyeなど
      培養検査(非無菌部位のcolonization):消化管、気道など
      血清診断:β-グルカン、カンジダ抗原、D-アラビニトール、ガラクト
           マンナン、グルクロノキシロマンナンなど
      遺伝子診断:PCR法によるカンジダ、アスペルギルスDNA検出など
        (医薬ジャーナル Vol.39, No.12, 2003年12月号より引用・改変)






インフルエンザ(および類似疾患)と解熱薬(NIS 2006;No.4276(H18/4/8):92-93
  インフルエンザ罹患時に使用すべきでない解熱薬の第一はアセチルサリチル酸
 である。これはReye症候群との関連性が指摘され、現在小児科領域で使用される
 ことはきわめて少ない。しかし川崎病でアセチルサリチル酸を使用している小児
 がインフルエンザに罹患した場合などでは問題となるが、成人で循環器疾患や脳
 血管疾患において血小板凝集抑制目的でアセチルサリチル酸を服用している患者
 も多く、その使用量はともかくとして、インフルエンザ罹患時に症状を悪化させ
 るとの報告はみられていない。
  また、インフルエンザ脳症との関連が疑われるジクロフェナクナトリウム(ボ
 ルタレン)、メフェナム酸(ポンタール)も使用を控える必要がある。しかし、
 これらの解熱薬が禁忌となりうるのは主に小児で、時にジクロフェナクナトリウ
 ムなどは高齢者や若年の女性などに使用すると過度の低体温や血圧低下を認める
 ことがあり、注意を要する。つまり、今のところ成人では脳症などの発症はきわ
 めて稀であることを考えれば、絶対禁忌とはならないと考えられる。
  スルピリンは注射剤があり、確実な解熱効果もあるが、ショックなどの副作用
 もあり、インフルエンザのみでなく他の感染症においても、どうしても使用しな
 ければならない緊急事態以外での使用は控えるべきである。
  もちろんステロイドも解熱効果があるが、感染症であるので解熱目的には使用
 禁忌であると考える。
  その他、臨床上注意を要するのは総合感冒薬である。特に医家向けのPL顆粒の
 中にはアセトアミノフェンとサリチルアミドが混合されているので、注意する必
 要がある。
  その他の解熱薬について成人では特に絶対禁忌はないと考えるが、小児ではア
 セトアミノフェンの使用が推奨される。これは成人でも同様である。ただ、アセ
 トアミノフェンも過量に使用すると肝機能障害をもたらすことがあるので注意す
 べきである。
  インフルエンザ類似の症状を示すが、迅速診断による抗原検査で陰性の場合の
 解熱薬使用の可否については、まず臨床診断の精度を中心に述べる。
  筆者らも成人での迅速診断の有用性を報告している。また、三田村も同様に小
 児の有効性を報告している。キットにより若干の差を認めるが、いずれも感度・
 特異度とも臨床診断に有用であることは間違いない。しかし、ウイルス量が少な
 い発症早期や採取検体不良などで結果が陰性となり、後日の再検査で陽性になる
 ことも経験するところである。では一般の医師の臨床診断精度はといえば、最近
 報告があり、医師の判断だけでは特異度は92%であるが、感度は29%程度である。
 また、発熱(37.8℃以上)と咳の臨床症状で診断した時では、おのおの92%と40%
 であった。一方、迅速診断(PCR法)ではその中間であった。しかし、いずれも
 発症から受診までの時間の長短があり、発症2日以内に限定すると医師の臨床診断
 だけでも感度は大きく上がるとしている。本邦での臨床診断精度もほぼ同様であ
 ろう。
  経験からいえば、インフルエンザの流行期で、かつ地域に流行があり、発熱(
 38℃以上)と感冒様症状があればインフルエンザである確率が高い。そこで、迅
 速診断が陰性でも前記の条件を満たす場合にはインフルエンザの可能性が高い。
 つまり、インフルエンザ流行下で臨床医がインフルエンザを疑う時には、たとえ
 迅速診断キットで陰性の結果であってもインフルエンザである可能性があるので、
 解熱薬についてもインフルエンザ感染として対応するべきである。
  そこで、緊急に解熱しなければならない場合を除き、安全性が高く、他のウイ
 ルス性疾患でも使用可能で、かつ小児および成人でも使用できるアセトアミノフェ
 ンを頓用で処方し、対応を行うほうがよいと考える。

(加地正英:久留米大学医学部附属医療センター リウマチ・膠原病センター講師)







頚部リンパ節結核(いわゆる"るいれき")について(NIS 2006;No.4277:94-95)
  わが国の結横の統計によると、2004年の新登録活動性結核患者は約3万人、うち
 80%は肺結核、20%は肺外結核である。この比率は長年変わらない。頚部リンパ節
 結核は肺外結核の約3分の1であるので全結核の6%、実数として1800例前後であろ
 うか。本症は男性に比し女性に多いが、その理由は明らかでない。
  発生機序は肺の初感染に関与した肺門リンパ節の病巣から早期に生じた喉頭あ
 るいは咽頭の軽微な病巣からリンパ行性に転移して起こり、腫大したリンパ節が
 互いに癒着するのが特徴的で、この型が最も多い。稀に肺尖病巣から胸膜内リン
 パ管を通して頭部に転移することがある。
  いま一つは、近年頻度はそれほど多くはなくなったが初感染に引き続く血行性
 転移であって、肺門リンパ節から縦隔、さらに上向性ルートをたどり、いくつか
 のリンパ節が急速に群をなして冒され、数珠状あるいは塊状となる。リンパ節は
 乾酪壊死に陥り、膿瘍化して皮膚に穿孔することも稀ではない。・・・
  治療経過についてであるが、化学療法中の頚部リンパ節の反応は実にさまざま
 であり、肺結核のそれとは異なり理屈に合わない経過をみることがある。一側の
 頚腺は縮小しつつあるのに他側のそれは逆に腫大したり、治療終了を考えた矢先
 に別の箇所のリンパ節が新たに腫大してくるなど、きわめて執拗な経過をたどる
 こと々、筆者も若い女性患者でしばしば経験した。
  基本的には、化学療法の病変組織に対する効果はその病巣の病期病相(stage)
 によって異なるのであって、肺結核の場合も治療開始時すでに硬化に傾いている
 乾酪巣では形態学的にもそれほど変化はみられず、新しい乾酪巣や洞化した新し
 い空洞では乾酪物質は軟化融解し、気管支開口部より内容物が排除され、次第に
 縮小し治癒に向かうのであるが、リンパ節病巣も例外ではない。ただ、リンパ節
 では開口部がないため内容物が排除されず内庄が高まり、リンパ節自体が膨化し、
 ついには皮膚へ穿孔する場合がある。肺結核の場合はX線写真でその過程をみる
 ことができるが、リンパ節は視診・触診でしか知りえず、深部の個々のリンパ節
 の反応が把握できないのが難点である。
  治療中の膨化排膿は治療が有効に作用している証拠であって、悪化と考えなく
 てよく、処方の変更の必要もない。ただ、流出膿に対する菌検査、特に薬剤感受
 性検査は念のため実施しておくことが必要である。菌検査ではおそらく塗抹陰性
 か陽性であっても貧弱な菌がみられる程度で、培養では陰性であろう。リンパ節
 内は酸素分庄が低く、lowlmetabolicなpersistersの名残りであって重視しなく
 てよい。
  治療期間は肺結核に準じてINH、RFP、SM、EB併用を2か月、その後INH、RFPを6
 〜7カ月でよいが、多くの臨床医は計12カ月治療が無難としている。・・・
  リンパ節結核に対する治療目的の広範な外科的侵襲は勧められない。メスを入
 れるのは確定診断時の生検のみにしたい。
  生検創や瘻孔が治りにくいのは結核病巣の肉芽の程度に差があるのだろう。・・・・・。







◎感染性胃腸炎・感染性下痢症・食中毒について(福山臨床資料より、H18/8/19)

原因菌 潜伏期間 血便 粘液便 水様便 下痢 嘔吐 発熱 腹痛
カンピロバクター 2-5日   38.0
サルモネラ菌 8-48時間  
腸炎ビブリオ 12時間   激しい 38.0 上腹部
ぶどう球菌 1-6時間       強い 疝痛性
ウエルシュ菌 10時間          
セレウス菌 12時間          
赤痢菌 1-3日 強い 強い     急激 しぶり腹痛
エルシニア 2-11日       右下腹部
病原大腸菌
腸管出血性 3-5日 強い   強・頻回   激しい 微熱  
腸管病原性 3-16時間      
腸管侵入性 12-48時間 重症○ 重症○    
毒素原性 12-72時間            
腸管凝集性 10-30時間       少ない