細菌性食中毒

(1). 食中毒起因菌:
    腸炎ビブリオ・サルモネラ・病原大腸菌・ブドウ球菌・ボツリヌス
    菌・ウェルシュ菌・セレウス菌・Campylobacter jejuni/coli・
    Yersinia enterocolitica・NAG ビブリオ・Viblio mimicus・
    Viblio fluvialis・Aeromonas hydrophlia・Aeromonas sobria
    ・Plesiomonas shigelloides
  サルモネラ:患者数 : 48.2% (件数 : 28.9%)
  腸炎ビブリオ:患者数 : 19.6% (件数 : 31.6%)
  病原大腸菌:患者数 : 10.8% (件数 : 4.7%)
  ブドウ球菌:患者数 : 6.1% (件数 : 10.2%)

(2). 症状

 1. 感染型:食品や体内で大量の細菌が増殖し消化管に作用、通常発熱あ
  り。

潜伏期 原因食 症状
a. 腸炎ビブリオ 8 〜 20時間 魚介類とその加工品 熱・腹痛・嘔吐・下痢
b. サルモネラ 12時間前後
(6 〜 48時間)
肉・卵・サラダ 熱・腹痛・嘔吐・下痢
c. 病原大腸菌 1 〜 3日 特定の物はない 熱・腹痛・下痢
d. Campylobacter 2 〜 10日 鶏肉 熱・腹痛・下痢


 2. 毒素型:細菌が産生した毒素が消化管に作用、通常発熱なし。

潜伏期 原因食 症状
a. ブドウ球菌 30分 〜 6時間 乳製品・カマボコ 腹痛・嘔吐・下痢
b. ボツリヌス 数 〜 36時間 いずし・キャビア 頭痛・眩暈・悪心・嘔吐
眼筋麻痺・末梢神経麻痺

(3). 診断
 1. 詳細な病歴の聴取、接種食物の種類、他の人の症状、症状 (特に発熱)
   (感染型と毒素型は明確に区別できないので発熱の有無は参考程度とす
   る)
 2. 海外渡航に既往:赤痢・コレラ等
 3. 鑑別診断:非感染性炎症性腸炎 (クローン・潰瘍性大腸炎等)・放射線
  腸炎・抗生剤の副作用 (偽膜性腸炎・MRSA腸炎等)

(4). 各論
 1. 腸炎ビブリオ:魚介類とその加工品、7 〜 9月、8 〜 20時間の潜伏
          熱・腹痛・嘔吐・水様下痢。心臓毒性をもつので注意
  ★治療:CP・TC・ノルフロキサシンで治療。

 2. サルモネラ:ほ乳類・鳥類に広く分布。主にゲルトネル菌(S.enterit-
         idis)・ブタコレラ菌 (S.typhimurium)。6 〜 48時間の
         潜伏。熱・腹痛・悪心・嘔吐・下痢、ニワトリ・ウシ・
         ブタの食肉とネズミ・ハエ・ゴキブリの媒介。鶏卵によ
         るサルモネラ汚染が多い。
  ★治療:ホスフォマイシン・ST合剤・ノルフロキサシンで治療。

 3. 病原大腸菌:
   毒素原性大腸菌 (ETEC):エンテロトキシン・大量の水様下痢
   腸管病原性大腸菌 (EPEC):粘液便
   腸管組織侵入性大腸菌 (EIEC):赤痢様症状
   腸管付着性大腸菌 (EAEC):水様下痢
   腸管出血性大腸菌 (EHEC):Vero 毒素産生・出血性腸炎・HUS や
                TTP の合併
  ★治療:ニューキノロン・ABPC・ホスフォマイシン・アミノグルコシ
      ド

 4. Campylobacter:イヌ・ネコ・ブタ・ニワトリに感染。食肉・牛乳・
           飲料水。2 〜 10日の潜伏期。sepsisに注意。
  ★治療:CP・TC

 5. ブドウ球菌:エンテロトキシンは耐熱性。3時間前後の潜伏。乳製品・
         カマボコ・おにぎり・弁当が冷蔵庫で古くなったものか
         ら感染することが多い。経過は一般に良好。

 6. ボツリヌス:嫌気性グラム陽性桿菌・芽胞を形成して土壌・河川・海
         岸に分布。環境が整うと増殖して強力な神経毒素を産生
         、神経接合部のアセチルコリンの遊離を阻害する。
         発熱なし・消化器症状・視力低下・複視・眼瞼下垂・瞳
         孔散大・球麻痺・呼吸困難・運動麻痺・腱反射消失等の
         症状。ハム・ソーセージ・いずし等が原因
  ★治療:抗毒素血清。人工呼吸。抗生剤は無効。








梅毒の診断

(1). STS:沈降反応 (ガラス板法・VDRL 法)、RPR 法 (rapid plasma
     reagin test:cardiolipin を抗原賭する方法)

(2). TPHA

(3). FTA-ABS:上記 2者に加えてこれを併用する事。
 ※患者への対処
 1. 無治量で RPR (+)・TPHA (-):
    時期をおいて再検
    BFP (生物学的偽陽性が含まれている可能性)

 2. 無治量で RPR (+)・TPHA (+):
    駆梅療法を行う。髄液も調べる。

 3. 治療歴あり・RPR (+)・TPHA (-):
    時期をおいて再検
    後で TPHA (+) とならないときは BFP を考えて検索

 4. 治療歴あり・RPR (+)・TPHA (+):
    RPR (+) でもTPHA (+)との間に著しい解離があれば BFP を考えて
    検索

 5. 治療歴あり・RPR (-)・TPHA (+):
    血清学的瘢痕治癒








結核の治療

(1). RFP (アプテシン 3T・9-12M) + IHMS (ネオイスコチン 6T・9-12M)
   + EB (3T・3M)

(2). SM (0.5-1.0g・毎日 X 3M -> その後 0.5g・週2回) を12か月 + IHMS
   (ネオイスコチン・12M)

 ★なおタリビットは若干効果あり








非定型抗酸菌症 (NTM or AM)

※非定型抗酸菌とは Mycobacterium 属から結核菌群と癩菌 (M.leprae)
 など特殊栄養要求菌を除いた好酸菌種を一括したもの。
 臨床診断名としては
 (1). M.avium complex 症 (M.aviumとM.intracellulare)
 (2). M.kansasii 症とする。

※二大非定型抗酸菌症
 (1). AIDS合併非定型抗酸菌症:全身播種型
 (2). non-AIDS非定型抗酸菌症:慢性肺感染症

1. 診断基準 (慢性肺感染症)
 a. レ線像で新たに空洞を含む病巣または乾酪性と思われる病変が出現し
   た場合
  イ. 一か月以内に三日間の喀啖培養検査を行って同一菌種の病原性好酸
    菌を二回以上証明する。
  ロ. 毎月一回の喀啖培養検査で三か月以内に同一菌種の病原性好酸菌を
    二回以上証明する。
   (レ線像で新たに空洞を含む病巣または乾酪性と思われる病変が出現し
    上記イ・ロが同時に観察されれば感染症と考える。排菌量は100集
    落以下でもよい)
 b. 既に硬化した硬化巣空洞・硬化壁空洞、または排菌原と考えられる気
   管支拡張症など既存病巣のある場合。
   0.6か月以内に月一回の定期的喀啖培養検査で同一菌種の病原性好酸菌
   を三回以上証明する。なお三回以上の排菌の中で一回以上は100集落
   以上を示す必要あり。またそれは臨床症状の変化 (レ線像・発熱・血痰
   ・咳・痰等)と関連すること。

2. 診断上の注意
 a. 肺結核類似の有空洞肺慢性感染症
 b. 咳・痰・繰り返す血痰・喀血・時に発熱。無症状も多い。
 c. 菌の分離が直ちに感染症とはつながらない。
 d. 非定型抗酸菌は水や土壌など自然の中に棲息しており M.avium
   complex は牛・豚等家畜の好酸菌症の原因菌である。
 e. 人から人への明かな証拠がない (結核菌は人から人への明かな感染)
 f. 非定型抗酸菌は毒力が弱いと考えられており日和見感染の傾向が強い。

3. 非定型抗酸菌症の原因菌種
 ○M.avium complex : 79% (M.avium・M.intracellulare)
 ○M.kansasii   : 16%
 ○M.szulgai    : 0.8%
 ○M.xenopi    : 0.0%
 ○M.fortuitum   : 1.5%
 ○M.gordonae   : 0.5%
 ○M.chelonae   : 3.5%

4. M.avium complex 症 (MAC症) (M.aviumとM.intracellulare)
 a. 最も発生頻度が高い、年齢は 51 〜 71才、男女比はほぼ同じ
 b. 肺結核の既往歴あり。また COLD・気管支拡張症・肺線維症に合併。
 c. 基礎疾患としての DM・ステロイド長期投与・腎炎に関係しない。
 d. 殆どの抗結核剤に耐性を示すが治療は、SM・KM・EVM の注射の内一
   剤と RFP・EB・INH・TH・PZA の 2 〜 3剤を組合わせる。
   しかし改善するのは約 1/3 の例。
 e. 40% はレ線が悪化するとともに序々に症状も悪化、数年でその 5% は
   死亡しそれらは悪性と称した方がいい。(35%は難治性)
 f. 外科療法や、SPFX (スパルフロキサシン) やマクロライド系抗生剤に
   期待

5. M.kansasii 症
 a. 圧倒的に男性に多い。年齢は 50才台
 b. 治療は抗結核療法に準じ INH + RFP + (SM または EB) の 3剤で殆ど
   改善
   治療期間も12か月で十分だろう。








市中肺炎の起炎菌

S.pneumoniae > H.inflenzae (g-negative) ; mycoplasma > viral inf.
> S.aureus ; regionella








高齢者肺炎・嚥下性肺炎

(1). 在宅発症が多い。

(2). 誘因は上気道感染、誤嚥によるものは加齢とともに増加

(3). 高齢者肺炎は器質化しやすく、長期化しやすい。

(4). 高齢者では喉頭の位置の下降 (頚椎の1/2 〜 2/3 の高さの下降) 、唾
   液分泌低下、喉頭蓋の機能低下、嚥下中枢の機能低下が主たる原因で
   嚥下性肺炎を起こしやすくなる。

(5). 種々の病態
 1). メンデルソン症候群 (= ARDS)
 2). 誤嚥性肺炎:microaspiration による、胃切除後嚥下性肺炎
 3). 瀰満性嚥下性細気管支炎:高齢者で突然喘息様呼吸困難発作で来院。

(6). 治療 (empirical therapy)
 a. 60歳以下の肺合併症のない肺炎はマクロライドとテトラサイクリンが
   第一選択
 b. 65歳以上での高齢者肺炎や肺合併症のある肺炎は第二世代セファロス
   ポリンまたはトリメトプリム・スルファメトキサゾール合剤または
   β-ラクタム・β-ラクタマ - ゼ阻害剤合剤 + エリスロマイシン (マク
   ロライド)
 c. 特に緑膿菌の感染を合併していれば
   クラリスロマイシン (エリスロシン) + シプロフロキサシン (= シプロ
   キサン) がいい。
   (具体的にはクラリス (200mg) 1T またはエリスロシン (200mg) 3T
   +ニューキノロンをCRP・ESRに関係なくダラダラと症状をみて投与)








慢性難治性呼吸器感染症

※マクロライド系抗生剤の有効性あり。(14-環系マクロライドは biofilm
 を壊す)
 (但しエリスロマイシンとクラリスロマイシンのみ)

 ○フルクトース- 6 - リン酸からアルジネート (biofilm の元) を生成す
  る酵素を抑制。

 ○免疫複合体が組織に沈着し、好中球の遊走を促しそれがライソゾームや
  スーパーオキサイドを活性化させ組織破壊する。

 ○使用方法
  a. クラリス (200mg) 1T/日 又はエリスロシン 3T/日 を投与。
    際限なし。
  b. case by case でダラダラ投与が現況。CRP・ESR 等炎症の指標は
    関係なし。
  c. 効果は早くて 1か月、大体 3か月で現われる。
  d. クラリス・エリスロシンは緑膿菌やブドウ球菌を排出され易くする
  e. 薬剤耐性については、今の所不明。
  f. 今迄全く難治性のものではニューキノロンを 1W 併用。(特に緑膿菌
    に効果)

※メディカマイシン・ジョサマイシンでは効果がない。








肺炎球菌健常人の 30 〜 70% で鼻咽頭に常在する

(1). グラム陽性通性嫌気性菌:ストレプトコッカス科・レンサ球菌属
   レンサ球菌属:肺炎球菌 (St.pneumoniae)
   A群レンサ球菌 (St.pyogenes):猩紅熱・リウマチ熱・急性腎炎
                 伝染性膿痂疹
   B群レンサ球菌 (St.agalactiae):新生児髄膜炎・敗血症・口腔内常在
                 菌

(2). 肺炎・気管支炎:ウイルス性上気道感染に続発、大葉性肺炎、
           胸水(25%)。

(3). 中耳炎・副鼻腔炎:ウイルス性上気道感染に続発、中耳炎は小児に多い

(4). 髄膜炎
   起炎菌
   a. 〜 2か月まで:大腸菌・B群レンサ球菌 (St.agalactiae)
   b. 3か月以上 5歳まで:インフルエンザ菌・肺炎球菌
               (St.pneumoniae)
   c. 6歳以上:肺炎球菌 (St.pneumoniae)

(5). 菌血症:肺炎球菌肺炎の 20 〜 30%、髄膜炎の 80% で生じる

(6). 治療:経口で ABPC・AMPC・第二世代セフェム
      静脈投与では PCG・CTX・CTRX

(7). 肺炎球菌ワクチン (ニューモバックス):再接種は禁忌

(8). ペニシリン耐性肺炎球菌
 1. 分類 (PCG に対する感受性により分類)
  a. ペニシリン感受性肺炎球菌 (PSSP)
  b. ペニシリン低感受性肺炎球菌 (PISP)
    通常のβ-ラクタムで治療可能
  c. ペニシリン耐性肺炎球菌 (PRSP)

 2. 臨床的意義
  a. 市中感染が問題となる。
  b. 経口薬剤で治療効果なし。再発・長期化・重症化
  c. 多剤耐性肺炎球菌である。(セフェム・TC・マクロライド抵抗性)

 3. 多剤耐性肺炎球菌の薬剤感受性
  a. β-ラクタムに耐性を有す。
    EM・CLDM・MINO・ST 合剤・ニューキノロンにも耐性。
  b. カルバペネム系の PAPM・IPM は効果あり。
  c. VCM は一考の価値あり








難治性慢性感染症

1. 慢性呼吸器感染症:COLD・DPB・気管支拡張症に好発
  原因菌:緑膿菌 (15.6%) > インフルエンザ菌 (11.4) > 黄色ブドウ球菌
  (7.6) > 肺炎球菌 (6.2)
  (緑膿菌は入院も外来も同じ、インフルエンザ菌は外来に多い)

2. 慢性尿路感染症:尿路結石・VUR・神経原性膀胱・腫瘍等に多発
  原因菌:
  a. 複雑性腎盂腎炎:緑膿菌 (25.2%) > プロテウスグループ (17.1) >
            セラチア(16.2) > 大腸菌 (14.3)
  b. 複雑性下部尿路感染症:大腸菌 (25.1) > プロテウスグループ(18.3)
               > 緑膿菌 (17.1%) > セラチア (13.1)
 ※緑膿菌の治療:三世代セフェム・ペネムの一部・カルバペネム
         アミノグリコシド・ニューキノロン等

3. 慢性皮膚感染症 (褥創)








麻疹

※麻疹抗体検査:HI または ELISA法で行う。

※成人への麻疹ワクチン接種:むしろ積極的に行うべき。結果としての抗体
              価は 64倍程度に軽度上昇するのみ。

※感染の機会が (麻疹児と接触) あってから 5日以内ならガンマグロブリン
  (受動免疫、他人のもので効果は一時的) 投与が有効。ガンマグロブリン
 で発症を阻止できれば 3か月後に予防接種 (能動免疫、自分のもので効果
 は一生もの、例外あり)を施行。

※麻疹ウイルスと自己免疫疾患:SLE・自己免疫性肝炎・MS・MG
 a. 急性期麻疹感染で少なからず肝機能障害を認める。
 b. SSPE を代表して慢性持続性感染がありうる。
 c. 急性感染でも ANA 等自己抗体が陽性に出る事がある。






動物別感染症重要度分類
★★★★★ ★★★★ ★★★ ★★
1. 霊長類 エボラ,マールブルグ Bイウルス,黄熱 赤痢,サル痘結核,
デン(出血)熱
amebiasis
  糞線虫,
ジルジア
エシニア,
キンピロバクター
2. げっ歯類
(鼠属、節足
動物など侵
入動物)
  ラッサ,ペスト,HPS
HFRS,クリミア,
コンゴ,
黄熱
日本脳炎,LCM
トリパノソーマ,
デングマラリア,
リフトバレー
Q熱,サルモネラ,
ツツガムシ,
ライム,
レプトスピラ,
日本紅斑熱
発疹熱,
鼠咬
症,回帰熱,
発疹チフス
リーシュマニア症,
広東住虫線虫症
エルシニア
キャンピロ
バクター
3. 食肉類(イヌ 狂犬病
ネコなど)
狂犬病   レプトスピラライム,
野兎エキノコッカス
トリパノソーマ
仮性結核,
トキソプラズマ
リーシュマニア症
トキソカラ
パスツレラ
アライグマ
回虫,
糞線虫
翼手(コウモ 狂犬病リ) 狂犬病 リッサ,ヘンドラ,
ニパウイルス
     
鳥類   西ナイル
クリミア・コンゴ
オウム病
ライム病
  クリプトコックス
両生類・ハ虫類     サルモネラ    
4. 家畜 狂犬病 炭疽
クリミア・コンゴ
リフトバレー,結核,
リステリアO-157,
サルモネラ,
エキノコッカス
レプトスピラQ熱
ライム
鼻疽
ブルセラ
トキソプラ
ズマ
クリプトス
ポリジウム
ジアルジア
エルシニア
類丹毒
キャンピロ
バクター
肝蛭







トキソプラズマ症(NIS、No4174(2004/4/24)、p110)
1. 現状
  トキソプラズマ症はトキソプラズマ(Toxoplasma gondii)の感染により起こ
  る典型的な日和見感染症である。ヒトへの感染経路は、ネコの糞便に排出される
  オーシストとの接触、または汚染土壌との接触やブタ、ウシ、ヒツジの感染食肉
  (シスト)の生肉(調理不足)の摂食であり、代表的な人畜共通感染症である。
   ヒトトキソプラズマ症は先天性トキソプラズマ症(経胎盤感染)と後天性トキ
  ソプラズマ症に分類される。後天性トキソプラズマ症では、一般に免疫健常患者
  でリンパ節腫脹のみの場合は予後良好である。しかし、検査上免疫異常が認めら
  れなくても、リンパ節炎以外の臨床症状(特に肺炎、心筋炎、脳炎)を呈した症
  例では重篤、予後不良である。
  また、ヒトトキソプラズマ症が確定診断された場合でも、本症が日和見感染症
  であることから、サイトメガロウイルスや結核などの混合感染や悪性腫瘍の存在
  を疑うことが重要である。AIDSなど免疫不全患者の顕性感染(脳炎、肺炎、心筋
  炎など)やトキソプラズマ感染臓器移植(特に心、肺)に伴う急性播種性感染、
  および化学療法中に副作用発症(Stevens-Johonson症候群)症例では一般に予後
  不良である。
  先天性トキソプラズマ症では、典型型(胎児・新生児における水頭症、網脈絡
  膜炎、精神神経・運動障害)、遅発型(成人までに痙攣、網脈絡膜炎、運動・精
  神発育不全など)、および最近その存在が確認された胎児・新生児非感染型〔子
  宮内胎児発育遅延(IUGR)、生後発育不全など〕があり、一般には難治性である。
  成人のトキソプラズマ感染率は3~10%で、典型的な先天性トキソプラズマ症は、
  出生数の1~5%程度と推計される。
2.診断
  トキソプラズマ症はPCRや原虫の同定により確定診断するが、陽性率はトキソ
  プラズマが細胞内寄生原虫であるため高くはない。トキソプラズマ抗体測定法は
  補助診断であり、画像診断・臨床症状などで総合的に判定される。難治性や免疫
  不全症例および先天性症例は専門家への相談が必要である。







特発性細菌性腹膜炎 spontaneous bacterial peritonitis(SBP)
(内科 1995;75:1113:6月増大号『内科疾患の診断基準、病型分類・重症度』)
特発性細菌性腹膜炎は、明らかな感染源を認めず急激に発症する細菌性腹膜炎
である。腹水を伴う肝硬変に合併しやすく、アルコール性肝硬変に多いが、いず
れの肝硬変にも合併しうる。本症の発症後に敗血症、肝不全など予後不良となる
ことが多く重篤な合併症の一つとみなされている。
  臨床症状は、腹痛、発熱、下痢が多く、腸音の減弱、黄疸の増強、腹水の増量
などを呈することがある。原因は、血中補体の低下、好中球機能の低下、オプソ
ニン活性の低下など宿主側の防御機構の低下、腸管の物理的損傷などが考えられ
ている。起炎菌は、好気性グラム陰性菌が多く、そのうち大腸菌がもっとも多く、
Klebsiellaがそれに次ぐ、残りはグラム陽性球菌である。診断は早期には症状が
乏しく困難な症例もあるが、腹水、腹痛、腹膜刺激症状、発熱、下痢、などの症
状を呈する場合には、本症を念頭において腹水の検査が重要である。腹水は膿性
腹水を里することがあり、腹水の培養を行うと同時に、腹水の多核白血球数が診
断と治療効果の評価に重要である。多くの例で腹水の多核白血球数は250〜500以
上となる。また腹水のpHの低下(7.35以下)、乳酸値の上昇(39mg/dl以上)、
タンパク濃度の低下(1mg/dl以下)などが参考となる。
治療は抗生物質であるが、腎毒性の少なく腹水への移行のよいセファロスポリ
ン系抗生剤、ペニシリンが第一選択である。治療の目標は腹水中の菌の陰性化、
多核白血球数を250以下とすることである。
鑑別診断は続発性腹膜炎が重要で、消化管穿孔、虫垂炎、胆嚢炎などは外科的
治療の適応となる。SBPの合併症には、敗血症、ショック、肝性脳症、消化管出血
DIC、腎不全などがある。合併症があると予後がきわめて不良となるためそれぞれ
の病態に対する迅速で適切な治療が必要となる。







劇症型A群溶連菌感染症
(内科 1995;75:1271:6月増大号『内科疾患の診断基準、病型分類・重症度』)
劇症型A群溶連菌感染症 streptococcal toxicshock-like syndrome(TSLS)は
A群溶連菌による突発性の敗血症病態である。1980年代中期に本病態の存在が確
認され、1993年には米国防疫センター(CDC)の研究者らにより診断基準案が提示
された。CDCの診断基準案は
    1)A群溶連菌による敗血症
    2)低血圧(成人では収縮期圧90mmHg以下、小児では各年齢の正規分布で下側5%
      に相当する圧以下)および
    3)多臓器不全症候群(MOF)の3病態を診断根拠としている。MOFとして腎不全、
      肝不全、播種性血管内凝固症候群(DIC)、成人型呼吸窮迫症候群(ARDS)
      に、皮膚疹および壊死性軟部組織炎を加えた点に特徴がある。
TSLSの敗血症は著明で診断自体は容易であるが、突然発病し、病態の進行が電撃
的であるため培養の結果を得る前に不幸な転帰を取る症例も多い。
A群溶連菌は浸潤性の強い菌であり、免疫不全をきたす基礎疾患をもつ症例の、
とくに外傷部に感染すると広範な軟部組織壊死(丹毒)と敗血症を起こすことがあ
る。TSLSは特別な合併症をもたない症例に発症し、急激に進行することが特異であ
り、CDCの診断基準にはこの2点を追加すべきと考える。TSLSの発病機序は不明であ
る。現時点では直接本疾患に関与する突然変異株は発見されておらず、患者から分
離された菌はペニシリン系抗菌薬に良好な感受性を示した。またTSLSの二次発病や
集団発病はまれであり、菌のみならず宿主側にも発病因子が存在すると考えられる。
TSLSは敗血症とショックが共通するが、MOF症状は各症例で異なり多彩な病態を
呈す。このため重症度を一概に分類できないが、早期の病態の把握は救命のために
も必要である。われわれの施設ではA群溶連菌による咽頭炎、筋痛および低血圧を
指標として早期診断基準案を作成して対応している。







ハンタウイルス肺症候群
(内科 1995;75:1271:6月増大号『内科疾患の診断基準、病型分類・重症度』)
1993年6月から合衆国南西部を中心に、突然に高熱、筋肉痛、頭痛で発症して数日
以内に原因不明の急性呼吸不全を生じる症例が相次いで報告された。既知の細菌、
ウイルス、毒性物質などに関する検査所見はいずれも陰性であった。合衆国・防疫
センター Centers for Disease Control and Prevention(CDC)は1993年1月以降
に発症した症例の対象に基準を作成して、ニュー・メキシコ州、アリゾナ州、コロ
ラド州、ユタ州の医師に基準を満たす症例の州保健担当局への報告を要請した。こ
のように収集された臨床検体の検討から、この疾患が新しいハンタウイルスによる
ことが明らかになった。
  ハンタウイルスはネズミに媒介される negative sense single-stranded RNA
virusで、腎症候性出血熱(HFRS)の原因となる。HFRSは約2〜3週間の潜伏期間の
後、悪寒、発熱、筋肉痛、頭痛、結膜充血、皮下出血などの症状を呈するが、一般
的には予後良好で約1週間で回復する。発症数日以内に急性腎不全、ショック、
肺水腫を合併した場合の致死率はきわめて高い。重症型HFRS(Hantaan virus感染
症)は致死率5〜15%、Puumala virus感染症の致死率は1%以下である。
  新たに判明した疾患はハンタウイルス肺症候群(HPS)と命名された。当初は致死
率78%と報告された。HPSにおいてウイルスは肺、腎、心、膵、副腎および骨格筋の
血管内皮に広く分布していることが示されたが、肺の外には血管透過性亢進は認め
られなかった。肺では間質への軽度のリンパ球浸潤を認めるが肺
胞腔と間質への好中球浸潤は軽微であり、肺胞上皮傷害、硝子膜形成も軽度であっ
た。1994年12月までに合衆国21州から合計98例のハンタウイルス肺症候群が報告さ
れており、罹患した患者の年齢は12歳から69歳、平均35歳で52例(54%)が男性で
あった4。抗ウイルス薬リバビリンが有効であったとする報告がある。







ブルセラ症(日本医師会雑誌(臨時増刊) 1999;122:166-167)
1. 病原体・毒素
  ヒトに感染を起こすのは4種類(Brucella abortus、B.melitensis、B.suis、B.canisである。
  ブルセラはグラム陰性の球形に近い小桿菌で、莢膜、芽胞、鞭毛をもたず、
  その発育は非常に遅い。そのため、通常の培養は少なくとも4週間は経過観察
  の必要がある。主な病原性は細胞壁のリポ多糖で、これが好中球などの貪食に
  耐性を示し、そのため、脾臓、リンパ節などでの細胞内増殖を許すこととなる。
2. 潜伏期
  2〜3週間。
3. 診断と治療
  1) 臨床症状
    a. ブルセラ症は全身症状を呈し、あらゆる臓器に感染を起こすことで
      知られている。その症状に特異的なものはなく、発熱、発汗、疲労、
      体重減少、うつ状態などの症状がみられる。身体所見では、
      発熱(数週間〜数か月続くことがある)、リンパ節腫脹、肝脾腫大がみられる。
    b. 臓器別の特徴
        ・骨関節系
           最もよくみられる合併症で、腸骨坐骨関節炎、膝および肘関
           節炎、椎間板炎、骨髄炎、滑膜包炎などを起こす。
        ・消化器系
           悪心、嘔吐、体重減少。
        ・呼吸器系
           きわめてまれであるが、咳、労作呼吸困難がみられる。
        ・泌尿器系
           精巣炎が最もよくみられる。
        ・神経系
           うつ状態、髄膜炎がみられるが頻度は2%以下である。
        ・心血管系
           心内膜炎が最も重要な合併症で、ブルセラ症による死亡原因
           の大半を占める。頻度は2%以下である。
  2) 検査所見
    通常の血液検査で特異的な所見はない。
  3) 確定診断と鑑別診晰
    a. 確定診断
      血液、骨髄その他の組織からの病原体の分離・同定が必要。また
      病原体に対する抗体を血清凝集反応(1:160倍以上の力価)または
      酵素抗体法、補体結合反応(CF、急性期と寛解期で4倍以上の力価
      上昇)で検出することが必要。近年ではPCRなども用いられている。
    b. 鑑別診断
      血液培養でMoraxellaやHaemophilusと誤認されることがあり注意
      を要する。他の不明熱との鑑別が必要(マラリア、腸チフス、結核、
      野兎病、悪性疾患、膠原病など)。
  4) 治療
    ドキシサイクリン100mg 1日2回を6週間+ストレプトマイシン1g筋注
    1日1回2週間または、ドキシサイクリン100mg 1日2回+リファンピン
    600〜900mg 1日1回を6週間。心ない膜炎、骨髄炎などでは外科的処置
    も必要なことが多い。再発は抗生剤の服用期間が短かかったり、外科
    的処置が適切になされなかった場合に起こる。
4. 2次感染予防・感染の管理
  家畜のブルセラ症コントロールが最重要(わが国では撲滅済み)、また
  現病歴で海外旅行、実験室内事故を確認する必要がある。ヒトの有効なワク
  チンは開発中である。







ワイル病またはワイル症候群(レプトスピローシス)・Canicola熱
(メルクマニュアル第16版、p149-150、メディカルブックサーヴィス)
約170種の血清型が同定きれている。ある1つの血清型のレプトスピラが様々な
症候群を起こすし、数種の血清型のレプトスピラが1つの症候群(例、無菌性
髄膜炎)を起こすこともある。
1. 疫学           
  レプトスピラ症は多くの家庭内または野生の動物宿主に起こる人獣共通
  感染症であり、不顕性の病気から致命的な疾患まで様々である。動物が数
  か月にわたりレプトスピラを尿中に排出し続ける保菌状態が存在する。人
  の感染症は感染動物の尿や組織に直接触れたり、汚染した水や土壌との接
  触により間接的に起こる。通常、すりむけた皮膚や、外部に曝された粘膜
  (例、結膜、鼻粘膜、口腔粘膜)が人への侵入口となる。感染はどの年齢
  でも起こり、その75%以上は男性である。レプトスピラ症は職業病例、農夫
  や下水、屠殺場で働く人)でありうるが、米国におけるほとんどの患者は、
  レクリエーション活動中にたまたま曝されたものである(例、汚染した水
  の中で泳ぐ)。犬やラットも、他の一般的な可能な感染源である。米国で
  は毎年40から100例が報告きれており、主に夏の終わりから秋の始めに発生
  している。特徴的な臨床所見がないため、おそらく、もっと多くの症例が
  診断されず報告されていない。
2. 臨床所見
  潜伏期間は2から20日(通常7から−13日)。特徴的な二相性を示す。
    1) レプトスピラ血症期(4~9日)
       ・突如始まり、頭痛、激しい筋肉痛、悪寒、発熱(しばしば
        39度以上)をきたす。
       ・結膜溢血は特徴的(3~4日目に出現)、脾腫・肝腫はまれ。
    2) 第二期または「免疫」期
       ・一旦解熱して6から12日目に、血清中の抗体出現に関連して
        第二期または「免疫」期が始まる。
       ・発熱および、以前の症状がぶり返し、髄膜炎の徴候が現れる
        こともある。7日日以降にCSF液を採取すると、少なくとも50%
        の患者には細胞増加症が明らかとなる。まれに虹彩毛様体炎、
        視神経炎、そして末梢ニューロパチーが起こる。妊娠中に
        感染した場合は、回復期であっても、流産を起こすことがある。
    3) ワイル症候群
        レプトスピラ症の劇症形で、黄疸を伴い、通常高窒素血症、出血
        貧血、意識障害、持続的な発熱を示す。発病は軽症のものさと同じ
        だが、3から6日日に肝実質および腎の機能不全の徴候が現れる。
        腎異常には蛋白尿、膿尿、血尿、高窒素血症が含まれる。出血所見
        は、毛細血管の損傷によるものである。血小板減少症が起こりうる。
        肝臓の損傷はわずかで、しかも完全に治癒する。  
    4) 無菌性髄膜炎
        どの血清型でも起こりうる。CSF中の細胞数は10から1000/μL
        (通常500以下)で、単核細胞が優勢である。CSF中のグルユース値
        は正常、蛋白は100mg/dL以下である。
        無菌性髄膜炎の患者の多くには、有意な肝および腎の疾患を示す
        所見はみられない。死亡率は、無黄疸患者では0である。黄疸をきた
        した場合、死亡率は5~10%であるが、60歳以上の患者では、その率は
        さらに高い。
4. 臨床検査所見
  WBC数はたいていの症例で正常かわずかに増加する。症状の重い黄疸のある
  患者は50000に達することもある。白血球増加症15000以上は肝臓が侵されて
  いることを示す。70%を超える好中球の存在が、レプロスピラ症をウイルス
  疾患から鑑別する助けになる。
  黄疸のある患者では、血管内溶血により、激しい貧血が起こる。血清ビリ
  ルビン値は、通常では20mg/dL以下であるが、重い感染の場合40mg/dLにまで
  達する。BUNは通常10mg/dL以下である。これらの所見は、肝臓・腎臓が侵され
  ていることを示す。
5. 診断と鑑別診断
  診断は病原体の証明、または血清テスト陽性により確定する。培養と血清学
  的検査に供する急性期の血清検体をとるため、病気の初期に採血せねばならな
  い。病気の第一期に、血液、尿、CSFを採取し Fletcher、EMJHもしくはTween80-
  アルブミン培地に植えるとレプロスピラが分離される。1週目以降では、培養
  または暗視野顕微鏡観察により尿中にレプロスピラがみつかるもこともある。
  BACTEC460システム(Johnson研究所)を用いた放射線測定法を用いれば、わ
  ずか2から5日の培養後にヒト血中のレプロスピラを検出できる。回復期の血清
  検体は、平板または顕微鏡的凝集検査、間接螢光抗体(IFA)テスト、さらに
  感度も特異性も高い、酵素結合免疫的度測定法(ELISA)や、Dot-ELISA法を含
  む血清学的検査に用いるために病気の3から4週日に採取すべきである。
    1) 鑑別診断
       髄膜炎、脳髄膜炎、インフルエンザ、肝炎、急性胆嚢炎、腎不全が含
       まれるべきである。一般的に無菌性髄膜炎の原因となる腸内ウイルスに
       ついては、通常二相性の病気の経過はみられない。このような病歴は
       レプロスピラ症もしくは、おそらくはサイトメガロウイルス感染を示唆
       する。レプロスピラに曝されるような疫学的状況で起こったFUO患者すべ
       てについてレプロスピラ症の可能性を考慮するべきである。







リウマチ熱診断の手引きのための改訂Jomes基準
(内科 1995;75:1276:6月増大号『内科疾患の診断基準、病型分類・重症度』)
<大症状>
 ○心炎
  ○多関節炎
  ○舞踏病
  ○輪郭状紅斑
  ○皮下結節
<小症状>
  1) 臨床症状
   ○リウマチ熱、または、リウマチ性心疾患の既往
   ○関節痛
   ○発熱
  2) 検査
   ○急性期反応
     ESR、CRP、白血球増多
   ○PR間隔延長

        +

先行する溶連菌感染を裏づける証明(ASOまたは、他の溶連菌抗体の増加、
すなわちA群溶連菌の咽頭培養陽性、猩紅熱の最近の罹患)

■大症状が二つあるか、あるいは、大症状一つと小症状二つがあり、かつ先行
する溶連菌感染の証明がなされれば、リウマチ熱である確率は高い。溶連菌
感染の証明がない場合、ずっと以前の感染の長期潜伏期間ののちに、リウマ
チ熱がはじめて発見されたような状態を除いては、診断は疑わしくなる(たと
えば、Sydenham's choreaあるいは、low gradeの心炎)。







リウマチ性心炎の診断基準
(内科 1995;75:1277:6月増大号『内科疾患の診断基準、病型分類・重症度』)
リウマチ性心炎は、ほとんど常に有意な雑音を伴うものである。それゆえ、
下記の他の所見があっても、有意な雑音を伴わない場合には、リウマチ性心炎
と診断するには、注意すべきである。
(1)雑音
  1. リウマチ熱、あるいはリウマチ性心疾患の既往のないもので、有意な
    心尖部収縮期雑音、心尖部拡張中期雑音、心基部拡張期雑音のあるもの。
  2. リウマチ熱、あるいはリウマチ性心疾患の既往のあるもので、これらの
    雑音の性状に、明らかな変化が現れるか、あるいは有意な雑音が新たに
    現れたもの。
(2)心拡大
   リウマチ熱の既往歴のないもので、明らかな心の拡大のあるもの、また
   は、リウマチ性心疾患の既往があるもので、心臓の大きさの顕著な増加が
   みられるもの。
(3)心膜炎
   摩擦音、心膜液貯留あるいは明らかな心電図所見によって、心願炎の
   症状のみられること。
(4)うっ血性心不全
   小児あるいは若年者で、他に認むべき原因がなくてみられること。







感染性心内膜炎の診断基準
(内科 1995;75:1258:6月増大号『内科疾患の診断基準、病型分類・重症度』)
A. 確定診断
  1. 病理学的基準
    微生物:疣贅中、塞栓、心臓内腫瘍内より培養上ないし組織学的に証明されるあるいは
    病理組織:活動性心内膜炎を示す組織により確認された疣贅ないし心臓内膿瘍の存在
2. 臨床的基準
   1)主要基準
       ◆ 感染性心内膜炎に対する血液培養陽性
        2回の別々の血液培養より感染性心内膜炎として典型的な微生物
        viridans streptococci*・Streptococcus bovis、HACEK grpup**、
       あるいは市井感染で原病巣の認められないStaphylococcus aureus
       またはenterococci、
       あるいは
       持続する血液培養陽性で、(1)12時間以上間隔の開いた血液培養また
       は(2)少なくとも最初と最後のあいだが1時間以上開いた3回のすべて
       ないし4回以上のほとんどの血液培養から感染性心内膜炎を起こしう
       る微生物が証明される
       ◆ 心内膜が侵された所見
        感染性心内膜炎としての陽性心エコー所見
          a)心臓内に腫瘤を認め、それが弁ないしその支持組織上に
           存在、逆流性ジェットの通り道に存在ないし、移植された
           材質上に存在し解剖学的にほかに説明のつかないもの
            または
          b)膿瘍
            または
          c)新たな人工弁の部分的裂開
            ないしは
        新たな弁に起因した逆流の出現(すでに存在していた心雑音の
        増大ないし変化は含めない)
   2)副基準
   ・素因:素因となりうる心臓の状態ないし静脈内への薬剤の投与
   ・発熱:38度以上
   ・血管現象:大きな動脈の塞栓、敗血症性肺梗塞、mycotic aneurysm、
           脳出血、眼瞼結膜出血、Janeway病変
   ・免疫現象:糸球体腎炎、Osler結節、Roth斑、リウマチ因子
   ・微生物学的所見:血液培養陽性だが下注***に示したように主要基準
               を満たさないもの、ないし感染性心内膜炎を起こし
               うる微生物の活動性感染を示す血清学的所見
   ・心エコー:感染性心内膜炎に合致する所見だが主要基準を満たさないもの****
   ■このうち主要基準二つ、ないし主要基準一つと副基準三つ、ないし
  副基準五つを満たすもの
B. 可能診断 
 “確定診断”には達しないが“除外診断”ではない感染性心内膜炎に合致する
  所見をもつもの
C. 除外診断
  ・明らかに感染性心内膜炎とは違う診断が確定しているもの
  ・ 4日以内の抗生物質治療で感染性心内膜炎の所見が鎮静化してしまったもの
  ・ 4日以内の抗生物質治療後の手術ないし剖検で感染性心内膜炎の病理学的所見
  ・のみられないもの

*   :HACEK group:Haemophilus spp.,Actinobacillus actinomicetemcomitans,
    Cardiobacterium homnis,Eikenella spp. and Kingella kingae
**  :nutritionally variant streptococciを含む
***  :coagulase-negative staphylococciの1回のみ陽性、通常感染性心内膜炎を起
     こさない微生物は除く。
**** :たとえば感染性心内膜炎に合致する新たな弁の穿孔、結節性の弁肥厚など。







鼠径リンパ肉芽腫症(LGV)
(メルクマニュアル第16版、pp260-261、メディカルブックサーヴィス)
1. 病因
  LGVは、トラコーマ、封入体性結膜炎、尿道炎、および子宮頸管炎の原因とな
  る病原体とは異なる有限数の免疫型のChlamydia Trachomatisによって起こる。
  この疾患はほとんど熱帯と亜熱帯地域で見出されるが、まれに米周でも起こる。
2. 症例と徴候
  3から12日以上の潜伏期間の後、小さい一過性の硬化しない小疱性病変が形成
  され、速やかに潰瘍化し、早く治癒して見過ごされてしまうことがある。ふつう
  最初の症状は、一側性の圧痛を伴った鼠径リンパ節腫大で、それは進行すると深
  部組織に付着し上を覆う皮膚に炎症を起こす。大きく圧痛のある流動性膿瘍にな
  る。多数の洞が現れ、化膿性、または血性内容物を分泌する。結局、癒痕を形成
  して治癒するが洞は存続あるいは再発しうる。
  患者は、発熱、倦怠、頭痛、関節痛、食欲不振、そして嘔吐を訴える。背部の
  痛みは女性によくみられ、女性では最初の病変は子宮頸部あるいは腟上部に生じ
  ることがあり、直腸周囲と骨盤リンパ管の拡張と化膿をもたらす。女性あるいは
  男性同性愛者の直腸壁が侵されると、血性化膿性直腸分泌物を伴う潰瘍性直腸炎
  になることがある。
  慢性炎症はリンパ管を閉塞し、浮腫、潰瘍、瘻孔形成を導く。大きな・ポリー
  プ状腫瘤が生じ、巨大に膨れてついには性器の象皮病になることもある。直腸の
  狭窄は女性と男性同性愛者に見出される。
3. 診断
  臨床的診断は、抗体価の上昇が示されるCF試験によって確定される。微小免疫
  螢光(micro-IF)検査では、型特異的抗体を測定し、抗体のさまざまな血清型を
  識別できる。しかし交差反応がよくみられる。比較的少数の検査室では、細胞培
  養での分離が可能である。膿中のChlamydiaの染色にモノクローナル抗体を用い
  た市販の免疫螢光法キットによって特異的試験の利用が高まっている。もしmicro
  -IFと細胞培養試験が利用できなければ、病歴全体、
  臨床所見、補体結合抗体の高いまたは上昇した力価から診断は可能である。







国内で遭遇する確会が多いと予測される主な蠕虫疾患、蠕虫種とメモランダム
(伊藤亮:日本医師会雑誌 2004;131:1722)
以下*印は外来で特に遭遇する機会が多いと予測される蠕虫種
1. 消化管寄生蠕虫症ならびに蠕虫種
  1) 線虫症
    回虫*:胆管迷人、雌雄異体、単数寄生、検便、有機野菜?
    鞭虫*:発展途上国帰り、検便、有機野菜?
    鈎虫 :発展途上国帰り、貧血、検便、有機野菜?
    ぎょう虫*:小児神経症、家族感染、肛門周囲セロテープ検査
    アニサキス*:海産魚介類の摂取半日以内の急性腹症、内視鏡検査、血清検査
    施尾線虫*:ホタルイカの生食、皮膚爬行症、好酸球増多、血清検査?
    顎口虫各種*:ライギョ・ドジョウその他の生食、皮膚爬行症、好酸球増多、
             血清検査?
    旋毛虫:クマ肉の生食、外国ではブタ・クマ・ウマ肉の生食など、浮腫、
         発熱、筋肉痛、好酸球増多、血清検査?
    糞線虫*:経皮感染、熱帯・亜熱帯、日和見感染、ステロイド療法、
          検便(虫卵ではなく幼虫ならびに成虫検出)
2) 吸虫症
  肺吸虫*各種:サワガニ・モクズガニ・イノシシ肉などの生食、好酸球増多、
  画像診断、喀啖検査、検便、血清検査、胸水検査
  肝吸虫*:フナなどの生食、検便、胆汁検査
  横川吸虫*:アユ・シラウオの生食、検便
  棘口吸虫:ドジョウの生食、検便
3) 条虫症
  広節裂頭条虫*:マス・サケの生食、長い虫体が肛門から垂れ下がり気付く
  マンソン裂頭条虫:ヘビ・カエルなどの生食、広節裂頭条虫同様1m弱の比較
              的小形の虫、稀
  大複殖門条虫:イワシの生食、自然排虫されたときに受診する例が多い、
            検便、治療不要(自然排虫)?
  無鈎条虫*:牛肉の生食、1〜5cmに伸縮する扁平の虫(片節)が能動的に
         肛門から排出、感染者は大概これで自覚
  アジア条虫:アジア各地の辺境地域でのブタの内臓生食、無鈎条虫同様に
          自発的に排出(形態学的な鑑別不可)
  有鈎条虫*:ブタ肉の生食、自発的な排出は不明、全世界的流行、検便?
          糞便内抗原検査、糞便内DNA検査、虫卵は嚢虫症の感染源
  有線条虫:ヘビ・カエルなどの生食(東海地方に比較的多発)、粟粒大の
         虫体(片節)が排便時に見つかる
         イヌ条虫(瓜実条虫):イヌノミの誤飲(ペットからの感染、2~3mmから
         10mmぐらいの虫体(片節)が排泄される
2. 消化管以外の臓器寄生蠕虫症ならびに蠕虫種
  1) 線虫症
    フイラリア各種:昆虫媒介、現在国内に土着のフイラリア症なし
    バンクロフト糸状虫:熱帯・亜熱帯アジア、象皮病、乳び尿、
                 血液検査(ミクロフィラリア)、血清検査、尿検査
    マレー糸状虫:熱帯・亜熱帯アジア、血液検査(ミクロフィラリア)
             血清検査、検尿
    回旋糸状虫:アフリカ、中南米帰り、血清検査
    ロア糸状虫:アフリカ帰り、血清検査
    イヌ糸状虫:肺尖部の円形腫瘤として見つかることが多い、血清検査
  2) 吸虫症:住血吸虫症(経皮感染)
    日本住血吸虫:アジアで流行、肝疾患、血便、大腸検査で偶然見つかる
              陳旧性の症例が少なくない、好酸球増多、検便、血清検査
    マンソン住血吸虫:アフリカ・中近東・南アメリカ、肝疾患、軽症例多い、
    検便、血清検査
    ビルハルツ住血吸虫:血尿、勝胱癌? アフリカ帰り、検尿
3) 条虫症
  嚢虫症:有鈎条虫*
       有鈎条虫症患者から排泄された虫卵の経口感染、画像診断、血清検査
       脳嚢虫症、眼嚢虫症、皮下嚢虫症
       エキノコックス症
  多包条虫*:多包虫症、キツネから排泄された虫卵の経口感染、
         北海道・中国、画像診断、血清検査
  単包条虫*:単包虫症、国内分布なし、輸入症例、イヌから排泄された
         虫卵の経口感染、画像診断(蜂の巣状)、血清検査
  マンソン孤虫症:マンソン裂頭条虫の幼虫寄生、移動性、無痛性の皮下腫瘤
            が主、脳・眼への寄生も少なくない、ゲテモノ食い(ヘビ・カエルなど)、好酸球増多、画像診断、血清検査







炭疽(anthrax、羊毛選別者病)について
(メルクマニュアル第16版、pp.96-97、メディカルブックサーヴィス)
特に反芻動物における感染性の高い病気で、動物やその排泄物に触れることで
人間に伝播する。
1. 病因と疫学
  原因菌である炭疽菌は大きく、G(+)で通性嫌気性、莢膜をもつか桿菌である。
  芽胞は破壊しにくく、土壌や動物の排泄物の中で何10年も生き続ける。人間の
  感染はふつう経皮的であるが、汚染された肉を摂食して起こったこともある。
  不利な状況(例、急性の気道感染の時)では、吸入した胞子は肺炭疽(羊毛選
  別者病)という、しばしば致命的な病気になることがある。
  炭疽は重要な動物の病気であるにもかかわらず、現在は人間ではまれで、感
  染したヤギ、牛、羊、馬やその排出物に曝された加工製品や農業産物を防ぐ公
  衆衛生的規制のない国で主に起こる。
2. 症状、徴候および診断
  職業歴が最も大切である。菌は培養で明らかになるが、皮膚の病変部の塗沫、
  炭疽では咽頭ぬぐい液や痰のグラム染色で実証される。直接の培養が不成功の
  時は、菌はマウスへの接種で分離されることがある。
  培養期間は12時間から5日(一般的に3から5日)と様々である。皮膚型病変は、
  多くみられる末梢性の紅斑、小胞、硬結を伴って腫脹した赤茶色の丘疹として
  現れる。のち、中心部に潰瘍が、漿液血液性の参出と黒い焼痂の形成を伴って
  現れる。局所リンパ節炎が現れる。時に倦怠、筋肉痛、頭痛、発熱、悪心、嘔
  吐を伴う。
  肺炭疽は縦隔のリンパ節において、急速な芽胞の増加のあとで起こる。激し
  い出血性壊死性のリンパ節炎が起こり、隣接の縦隔構造へ広がっていく。漿血
  性滲出、肺浮腫、胸水が起こる。初期症状は潜行性で、インフルエンザに似て
  いる。熱が上昇し、1から2日以内に激しい呼吸困難が起こり、その後チアノー
  ゼ、ショック、昏睡に至る。出血性の髄膜脳炎が起こることがある。胸部レ線
  によって、びまん性の斑状の浸潤がわかる。縦隔は大きくなった出血性のリン
  パ節のために広がる。
  胃腸炭疽は、現在では非常にまれで、咽頭や腸粘膜に傷があって、腸壁へ浸
  入が起こりやすい時に、汚染された肉を摂取すると起こる。外毒素は出血性壊
  死を起こし、排出性腸間膜リンパ節へ至る。致死性の毒を持つ敗血症に結果と
  して至る。
3. 予防と治療
  培養濾液からなるワクチンが、危険性の高い(獣医、検査技師、輸入された
  ヤギの毛の処置を行う織物工場の従業員)人々に用いられる。
  皮膚型病変の治療は、プロカインペニシリンG60万単位筋注で1日2回7日間の
  投与で、全身の広がりを防ぎ、嚢胞を次第に消失させてゆく。テトラサイクリ
  ン2g/日を経口で4回に分けて投与(小児は20mg/kg/日を4回に分割)すること
  も効果的である。エリスロマイシンがかわりに使われることもある。
  肺炭疽には、早期にペニシリンG2000万単位/日の持続静注治療が救命につな
  がる。ペニシリンGは成人ではストレプトマイシン500mg/日を8時間毎に筋注、
  また小児では25mg/kg/日と併用されてきた。ステロイドが有効なこともあるが
  適切とは評価されていない。もし、治療が遅れれば(ふつう診断が誤ってしま
  うため)、死へ至ることが多い。