原発性高脂血症の分類

(1). 原発性高カイロミクロン血症:12時間絶食後の血清中カイロミクロンの存在
 A. 家族性リポ蛋白リパーゼ (LPL) 欠損症
  1). リポ蛋白リパーゼ (LPL) 欠損を証明(ヘパリン静注後血漿等で)
  2). アポリポ蛋白 C-II (アポ C-II) が存在
  3). 高脂肪食で TG が著しく増加、炭水化物では TG が著しく増加しない
 ★診断基準:1) があれば確診、2) かつ 3) のみなら疑診

 B. アポ C-II 欠損症
  1). 血漿アポ C-II の欠損を証明
  2). 高脂肪食で TG が著しく増加、炭水化物では TG が著しく増加しない
  3). 正常血漿、アポ C-II 添加で LPL 活性が出現
 ★診断基準:1) があれば確診、2) かつ 3) のみなら疑診

 C. 原発性V型高脂血症
  1). 高カイロミクロン血症に加えて VLDL の増加を証明
  2). 高脂肪食、高炭水化物負荷で TG が著しく増加
  3). LPL 欠損、アポ C-II 欠損、アポ E 異常を認めない
 ★診断基準:1) 、2) 、3) で確診
  4). その他の高カイロミクロン血症

(2). 原発性高コレステロール血症
 A. 家族性高コレステロール血症(大部分は単因子と考えられている)
  ※大項目
  1). 原則として血清コレステロール値 260mg 以上で IIa または IIb の表現型
  2). 腱黄色腫または皮膚結節黄色腫が存在
  3). LDL レセプター活性低下ないし種々の異常あり。
  ※小項目
  1). 眼瞼黄色腫
  2). 若年性(< 50才)角膜輪
  3). 若年性(<50才)虚血性性心疾患
 ★診断基準:確診:大項目のうち 2個以上(第一度近親者に確診があれば大項目
          1個のみ)
       疑診:大項目の 1個と小項目 1個以上

 B. 家族性複合型高脂血症
  ※大項目
  1). IIb、IIa、IV型の表現型のいずれか
  2). 第一度近親者に IIb、IIa、IV型のいずれかの高脂血症が存在し、本人を含
    め少なくともIIb 、IIa型が存在
  3). 家族性高コレステロール血症を除外し得る
  ※小項目
  1). 多くは血清コレステロール値 300mg 以下
  2). 経過中に IIa ←→ IIb ←→ IV型と表現型が変化し得る
  3). 思春期以降に高脂血症が増悪する
  4). 腱黄色腫を伴わない
 ★診断基準:大項目の全てを満たす場合確診 (小項目は参考)

 C. 特発性高コレステロール血症
   高コレステロール血症 (IIa または IIb) を示す例で、家族性高コレステロール
   血症、家族性複合型高脂血症を除外し得る

(3). 内因性高 TG 血症
 A. 家族性 IV型高脂血症
  ※大項目
  1). IV型の表現型を示す
  2). 第一度近親者に IV型が存在し他の表現型が存在しない
  ※小項目
  1). 肥満、高インシュリン血症を伴う
  2). 多くは成人発症
  3). 血清 48時間静置で血清の白濁を認め、上層にクリーム層を認めない
 ★診断基準:大項目が 2つそろえば確診 (小項目は参考)

 B. 特発性高 TG 血症
   IV型高脂血症を示す例で家族性 IV型高脂血症、家族性複合型高脂血症を除外
   し得る

(4). 家族性 III型高脂血症
  ※大項目
  1). 血清コレステロール、TG がいずれも高値
  2). 血漿リポ蛋白の電気泳動で VLDL から LDL への連続性の broad βパター
    ンを示す
  3). アポ蛋白質の等電点電気泳動でアポE の異常 (E2/2 、E 欠損等) を証明
  ※小項目
  1). 黄色腫 (ことに手掌線状黄色腫)
  2). 血清中のアポ E 濃度増加 (アポ E/T-ch ≧ 0.05)
  3). VLDL-ch/T-ch ≧ 0.25
  4). LDL-ch の減少
  5). ASO・虚血性心疾患等の動脈硬化性疾患を伴う
 ★診断基準:確診:大項目の 3個全て揃う時
       疑診:大項目の 2個と小項目 1個以上

(5). 原発性高 HDL コレステロール血症
  ※HDL コレステロール値が 100mg/dl 以上で、その家族歴が明瞭であれば家
   族性高 HDL コレステロール血症と言う


●遺伝性(家族性)高脂血症の主な特徴

  成因 リポ
蛋白型
血清脂質 頻度 遺伝
形式
小児期
高脂血
黄色腫 膵炎 粥状
硬化
○家LPL欠損 LPL欠 I TG>1000 1/100万 常劣 (+) (+) (+) (-)
○家アポ
 C-II欠損
アポ
C-II欠
I or V TG>1000 極稀 常劣 (+) (+) (+) (-)
○家III型 アポE
異常
III TC>390,
TG>890
1/2.5万 常劣? (-) (-) (-) (+)
○家高コレ LDLレセ
欠損
IIa or
IIb
ホモ
TC>500
1/100万 常優 (+) (+) (-) (+)
ヘテロ
TC>250
1/500 常優 (+) (-) ~
(±)
(-) (+)
○家IV型 不明 IV TG>270 1/100? 常優? (-) (-) (-) (+)
○家複合型 アポB
合成亢進
IIa,IIb
IV
TC≦300 1/100? 常優 (-) ~
(+)?
(-) (-) (+)
○家高HDL CETP欠損   HDL≧100 ? 長寿症候群








高脂血症・高 TG 血症・高コレステロール血症

※ LDL = T - ch - HDL - TG/5 (TG = 400 まで)  ★通常 LDL が 160mg/dl 以上あれば治療の対象。(DM・肥満・HT あれば
  130mg を基準)

※頻度:男 (IV > IIb = IIa) 女 (IIa > IIb > IV);I.III.V は希

※分類 (注意 α= HDL;pre-β= VLDL;β= LDL)

※遺伝性:家族性高カイロミクロン血症 (リポ蛋白リパーゼ欠損症)
     家族性高コレステロール血症 (LDL - レセプター欠損症)
     (いずれもホモ接合型は 100万人に一人)

※動脈硬化に関連したリポ蛋白 (Lp(a)) は更年期に増える傾向あり、エストロゲン
 補充療法で Lp(a) は減少する。

  I型:高カイロミクロン血症・クリーム状・発疹性黄色腫・腹部症状・肝脾腫・
     網膜脂血症・リポ蛋白リパーゼ低下・幼児期発症・常染色体劣性

 IIa型:高 LDL 血症・清澄・角膜輪・結節性または腱黄色腫・虚血性心疾患・高
     尿酸血症 (±)・成人、青年期発症・常染色体優性
    ※家族性高コレステロール血症 (LDL - レセプター欠損症)

 IIb型:高 LDL 血症・高 VLDL 血症・混濁・角膜輪・結節性または腱黄色腫・虚
     血性心疾患・肝脾腫 (±)・耐糖能低下 (±)・高尿酸血症 (±)・成人発症
     ・常染色体劣性
    ※日本人では若い女子に多い、コレステロールのみ増加

 III型:高 ILDL (β- VLDL) 血症・混濁・角膜輪 (±)・結節性または腱黄色腫・
     発疹性黄色腫 (±)・虚血性心疾患・肝脾腫 (±)・耐糖能低下・高尿酸血
     症 (±)・成人発症・常染色体劣性
    ※閉塞性動脈硬化症は III型 = 高レムナントリポ蛋白血症と関連が深い。

 IV型:高 VLDL (pre-β) 血症・混濁・虚血性心疾患・発疹性黄色腫 (±)・腹部
     症状 (±)・肝脾腫 (±)・網膜脂血症 (±)・耐糖能低下・成人発症・遺伝
     不明
    ※日本人では男子及び更年期以後の女子に多い
    ※内因性高トリグリセリド血症 (肝臓で合成された TG を運ぶ VLDL が増
     加)
    ※ヘテロ接合型のリポ蛋白リパーゼ欠損症

  V型:高カイロミクロン血症・高 VLDL (pre-β) 血症:I型 + IV型
    クリーム状・ 虚血性心疾患 (±)・発疹性黄色腫・腹部症状・肝脾腫・網膜
    脂血症・耐糖能低下・リポ蛋白リパーゼ正常〜低下・成人発症・遺伝不明
    ・高インシュリン血症
    ※ヘテロ接合型のリポ蛋白リパーゼ欠損症

※診断
 ◇リポ蛋白電気泳動法 (α= HDL;pre-β= VLDL;β= LDL)
  ろ紙電気泳動で α → pre-β → β → カイロミクロンの順に分離

  I型:高カイロミクロン血症
     HDL・VLDL・LDL は正常またはやや減少
     コレステロール↑・TG↑ (T-ch/TG < 0.2)
     リポ蛋白リパーゼ活性低下
     ※遺伝性=家族性高カイロミクロン血症 (リポ蛋白リパーゼ欠損症)

 IIa型:高 LDL (β) 血症
     正常
     コレステロール↑・TG → 〜↑ (T-ch/TG > 1.5)
    ※日本人女子ではこの型が最も多い
    ※遺伝性=家族性高コレステロール血症 (FH) (LDH - レセプター欠損症・
     ヘテロ接合型)

 IIb型:高 LDL (β) 血症・高 VLDL (pre-β) 血症
     コレステロール↑・TG → 〜↑ (T-ch/TG 比は不定)
    ※日本人では若い女子に多い、コレステロールのみ増加

 III型:高 ILDL (β- VLDL) 血症 (またはレムナントリポ蛋白増加)
     (※レムナントリポ蛋白 = IDL 、β- VLDL 、カイロミクロンレムナント)
     コレステロール↑・TG↑ (T-ch/TG は約1.0)
    ※なお、レムナントとはクズ・名残り・残りの意味である
    ※閉塞性動脈硬化症は III型 = 高レムナントリポ蛋白血症と関連が深い

 IV型:高 VLDL (pre-β) 血症
    コレステロール → 〜↑・TG↑ (T-ch/TG 比は 0.2 〜 0.5)
    ※日本人では男子及び更年期以後の女子に多い
    ※内因性高トリグリセリド血症 (肝臓で合成された TG を運ぶ VLDL が増
     加)
    ※ヘテロ接合型のリポ蛋白リパーゼ欠損症

  V型:高カイロミクロン血症・高 VLDL (pre-β) 血症:I型 + IV型
    コレステロール↑・TG↑ (T-ch/TG 比は 0.15 〜 0.6)
    ※ヘテロ接合型のリポ蛋白リパーゼ欠損症

※ TG:T-ch について
    カイロミクロン (18:1)・VLDL (5:1)・IDL (1:1)・LDL (0:1)

※二次性リポ蛋白異常症 (一般的には II型が多い)
 糖尿病:I・Ia・IIb・III・IV・V
 甲状腺機能低下症:IIa・IIb・III
 ネフローゼ症候群:IIa・IIb
 脂肪肝:IIb・IV
 Zieve:IIb
 急性膵炎:I・V
 多発性骨髄腫:IV・V
 痛風:IIa・IIb・III・IV・V
 下垂体機能低下症:IV・V
 SLE:I・V
 Macroglobulinemia:I・II・III・V
 胆道閉塞:II・II + Lp-X
 糖原病:III・IV・V
 尿毒症:IIb・IV
 経口避妊薬:IV・V
 肥満:IIa・IIb・IV

 ★続発性高脂血症は脂質の合成亢進か処理障害をもたらす。

(1). 高コレステロール血症
 ◇治療薬一覧
  (1). コレステロール吸収抑制
    ハイゼット、ソイステロール (ソーヤ・レシチン)、メリナミド (アルテス)
    軽度の IIa に有効
  (2). 脂肪組織より脂肪酸放出抑制
    ニコチン酸誘導体:ニコチン酸、トコフェロール、ニコモール、ニセリト
             ロール
             IIa・IIb・IV・V に有効
  (3). LPL 活性化 (VLDL- TG 異化亢進)
    クロフィブラート誘導体、デキストラン硫酸ナトリウム(MDS 、IV・Vに
    有効)、ニコチン酸誘導体、パンテチン (軽度のIIa・IIb・IV)
  (4). 脂肪酸の代謝促進
    ニコチン酸誘導体、パンテチン
  (5). LDL-c・HDL-c の異化亢進
    エラスターゼ、クロフィブラート誘導体
  (6). コレステロール合成阻害
    プロブコール (IIaに最も適応)、クロフィブラート誘導体 (IIb・III・IV・
    V)、プラバスタチン、シンバスタチン (IIa・IIb・III)
  (7). 胆汁酸吸収阻害
    コレスチラミン (家族性を含む重症の IIa に有効)、精製大豆レシチン、
    ポリエンフォスファチジルコリン (EPL 、軽度の IIb)
  (8). 胆汁酸排泄促進
    酪酸リボフラビン、リノール酸エステル
  (9). EPA
    肝における TG、VLDL の合成抑制 (中等までの IIb・IV・V)

 ◇治療
  a. 基礎疾患の究明 (糖尿病・ネフローゼ・甲状腺機能低下・アルコール・胆汁
    鬱滞 他)
  b. 先ず単剤より始める (高 TG 血症があればベザトール (総タンパク低下に注
    意))
  c. メバロチン (5 〜 20mg/d)・プロブコール (心電図:QT 延長に注意)ベザト
   ール他何でも良い。
  d. 効果不十分ならコレスチラミン (クエストラン 8 〜12mg/d) の併用

  e. 更に不十分ならプロブコール (心電図:QT 延長に注意) を加えて三者併用療
    法を行う。
  f. 副作用に注意
   ※HMG-CoA 還元酵素阻害剤 (腎機能障害のある場合、特に注意)
   1. 筋炎
     フィブラート系薬剤
     ニコチン酸
     免疫抑制剤 (サイクロスポリン)
   2. CPK 増加・高カリウム血症
     ACE 阻害薬
   3. 横紋筋融解症
     エリスロマイシン
    ※ベザフィブラート製剤と横紋筋融解症
     クレアチニン:2.5mg を越える場合投与してはならない
     全身筋肉痛・倦怠感・脱力感に注意
    ※胆石がある場合にフィブラート系を使う時はウルソ又はケノコールを併
     用して良く観察する。
  g. 食餌療法
   1. カロリー制限
   2. 動物性脂肪を必要脂肪量の 30% 以下にする
   3. 摂取コレステロールを 300mg/d 以下にする (例、100g 中)
     牛肉 (100mg) 、牛肝 (300mg) 、あさり(75mg) 、エビ (220mg) 、タ
     コ (135mg) 、チーズ (110mg) 、牛乳 (11mg) 、卵黄 (1800mg)
   4. PS 比(多価不飽和脂肪酸/飽和脂肪酸)が高い方が良い
     多価不飽和脂肪酸 :EPA・リノール酸・リノレン酸
     飽和脂肪酸 :パルミチン酸・ステアリン酸
    ※牛脂やバターは低く、コーン油は高い

(2). 高 TG 血症 (高トリグリセリド血症)
 1. 高中性脂肪血症は動脈硬化を促進するか? またどのような時治療すべきか?
  a. コレステロールが正常なら中性脂肪が正常でも、150 〜 300mg でも冠動
    脈狭窄に差がない。
  b. コレステロールと中性脂肪が共に高値ならコレステロール単独高値の時より
    冠動脈狭窄が進展している。
  c. 中性脂肪が 200mg/dl 以上の例が LDL-コレステロール 160mg/dl 以上の
    例に合併した時虚血性心臓病の発症率が高い。
  d. LDL- コレステロールの高い時、LDL/HDL 比が高い時は高 TG 血症は明か
    に冠動脈狭窄の危険因子として作用している。
 2. 治療:フィブラート系・ニコチン酸系製剤が有効
  ※糖尿病やコレステロールが高い時、正常 (200mg/dl) を目指して治療する
   べきだ。
  a. カロリー制限・アルコール制限が有効
  ※なおレムナントリポ蛋白を低下させるには、フィブラート系・HMG-CoA 還
   元酵素阻害剤が用いられる。
 3. 高 TG 血症 (高トリグリセリド血症) の食事療法
  I型:高カイロミクロン血症、通常 TG は 1000mg/dl 以上
    ※食事療法:脂肪制限 (25g/日 以下)
          中鎖脂肪酸の投与。
 IIb型:高 LDL 血症・高 VLDL 血症、通常 TG は 200 〜 800mg/dl
    ※食事療法:脂肪制限 (総カロリーの 25% 以下)
          コレステロール制限 (300mg/日 以下)
          P/S 比:1.0 〜 2.0
          ω3 系多価不飽和脂肪酸を増加
          食物繊維を増加
          カロリー制限 (標準体重 X 30Kcal/日)
          糖質制限 (総カロリーの 40 〜 45%)
          砂糖の制限 (40g/日 以下)
          アルコール制限 (25g/日 以下)
 III型:高 ILDL (β-VLDL) 血症・高レムナントリポ蛋白血症
     通常 TG は 250 〜 300mg/dl (食事療法は IIb型と同じ)
    ※食事療法:脂肪制限 (総カロリーの 25% 以下)
          コレステロール制限 (300mg/日 以下)
          P/S 比:1.0 〜 2.0
          ω3 系多価不飽和脂肪酸を増加
          食物繊維を増加
          カロリー制限 (標準体重 X 30Kcal/日)
          糖質制限 (総カロリーの 40 〜 45%)
          砂糖の制限 (40g/日 以下)
          アルコール制限 (25g/日 以下)
 IV型:高 VLDL (pre-β) 血症、通常 TG は 200 〜 800mg/dl
    ※食事療法:脂肪制限 (総カロリーの 30%以下)
          カロリー制限 (標準体重 X 30Kcal/日)
          糖質制限 (総カロリーの 40 〜 50%)
          砂糖の制限 (40g/日 以下)
          アルコール制限 (25g/日 以下)
  V型:高カイロミクロン血症・高 VLDL (pre-β) 血症
    通常 TG は 1000mg/dl 以上
    ※食事療法:脂肪制限 (総カロリーの 25%以下)
          カロリー制限 (標準体重 X 30Kcal/日)
          糖質制限 (総カロリーの 40 〜 50%)
          砂糖の制限 (40g/日 以下)
          アルコール禁止

(3). 高脂血症の検査

  I. 随時 T-ch・TG・HDL-ch 測定 → (secondary) → 血糖・HbA1c・T-p・尿酸
    │                     肝機能検査・甲状腺検査
    ↓                            |
  II. アルコールを中止した上で                 |
    空腹時 T-ch・TG・HDL-ch 測定                |
    リポ蛋白電気泳動                      |
    アポ蛋白定量                       ↓
    (時に必要に応じて RLP-Chol.Lp(a) 測定)         家族調査
    |                            |
    ↓                            |
 III. LPL                            |
    LCAT                           |
    アポ E phenotype                     |
    |                           |
    ↓                           |
  IV. 遺伝子解析 ←――――――――――――――――――――――┘







血管障害の危険因子

 (1). 男であること
 (2). 比較的若年の冠動脈疾患の家族歴
 (3). 1日 10本以上の喫煙
 (4). 高血圧症
 (5). 高コレステロール血症
   低 HDL-コレステロール血症
 (6). 糖尿病
 (7). 脳血管障害又は末梢動脈閉塞症の既往歴
 (8). 重症肥満








高 HDL 血症(原発性高 HDL コレステロール血症)

 ※一般人口では約 0.14% に認められ性差はない。
  (1). 原発性
   ○CETP(コレステロールエステル転送蛋白)欠損症
     :HMG-CoA 還元酵素阻害剤を投与してみる
   ○角膜混濁を伴う肝性リパーゼ活性低下症
   ○家族性肝性リパーゼ欠損症
   ○アポ A-I 合成亢進による高 HDL 血症
   ○アポ A-I 遺伝子のプロモーター領域の多型性に関連した高 HDL 血症
   ○リンパ球への HDL 取り込み異常に起因する高 HDL 血症
   ○アポ C-III 異常に伴う高 HDL 血症
   ○その他

 (2). 続発性
   ○長期大量飲酒
   ○PBC (原発性胆汁性肝硬変):ウルソデオキシコール酸が効果あり。
   ○肺気腫 (閉塞性肺疾患)
   ○薬物:クロフィブレート・ HMG-CoA 還元酵素阻害剤・パンテチン・ニコ
       チン酸とその誘導体・インシュリン・エストロゲン・コルチコステ
       ロイド・フェニトイン・
       ある種の殺虫剤 (chrorinated hydrocarbon)・
       2-acetamidofluorene
   ○高ショ糖食
   ○運動
   ○その他








CETP (コレステロールエステル転送蛋白) 欠損症

 ※CETP 経路はコレステロール再利用機構かも知れない (昔の飢餓時代には必要
   だったが現代の様な飽食の時代にはむしろ不利に働くかもしれない)。
 (1). 病態:高 HDL コレステロール血症かつ低 LDL コレステロール血症
 (2). 診断:CETP 蛋白の存在、活性の測定、CETP 遺伝子変異の検討
      家族歴
 (3). 意義:動脈硬化になりにくい (まだ決定的ではない)
  ※理由:a. ラット・マウスでは CETP 活性がみられない。
       エサにコレステロールを負荷しても動脈硬化が促進しない。
      b. CETP 欠損症と Lp(a) 欠損症は動脈硬化に有利の様だ。
      c. CETP 阻害剤が開発され HDL コレステロール増加。
        LDL コレステロール低下が認められる。
  ※注意:プロブコールはCETP活性を高め、HDL コレステロールを減少させ
      LDL コレステロール低下 が少なく、冠動脈硬化が進展する例あり。








シンドロームX (Syndrome-X)インシュリンの作用不足と高インシュリン血症

 (1). 高インシュリン血症
 (2). 耐糖能異常
 (3). 低 HDL-C 血症:LPL 活性低下による VLDL の異化障害が低 HDL を招く
 (4). 高 V LDL -TG血症:LPL活性低下により VLDL-TG の異化が低下する為
 (5). 高血圧








リポ蛋白 (a) (Lp(a)) について(internet にて http://WWW.bml.co.jp/ に access)

 (1). 検査方法:ELISA 法
   検体  :血清
   基準値 :30mg/dl 以下

 (2). 解説
   リポ蛋白(a) は1963年 Berg により低密度リポ蛋白(LDL) の遺伝性変異とし
   て報告された。リポ蛋白(a) は LDL よりも若干大きい粒子で、電気泳動像で
   は LDL と VLDL の中間帯として検出される。脂質組成は LDL と類似してお
   り、蛋白部分はアポB-100 とアポ(a) ---- シアル酸に富む糖蛋白で、プラ
   スミノーゲンの類似物質 ---- が S-S結合した構造となっている。
   リポ蛋白(a) は血中濃度が遺伝により決定されるリポ蛋白であり、動脈硬化
   の独立した因子と考えられている。また構造的にプラスミノーゲンと似てお
   り、線溶系の仲介物質として、直接あるいは凝固・線溶系を介して動脈硬化
   に深く関与していることが示唆されている。他の疾患については、虚血性心
   疾患、閉塞性動脈、硬化症、脳血管障害などで上昇し、閉塞性黄疸などで低
   下が見られることなどが報告されているが、臨床的にはまだ明らかにはなっ
   ていない。

 (3). 病態の推定
   【高いとき】
   ●動脈硬化 ●虚血性心疾患 ●閉塞性動脈硬化症 ●脳血管障害








高脂血症の大規模試験

 1. 疫学調査による危険因子の同定
  1). Framingham study (参入時の年齢が 30 〜 62歳で、心血管疾患を有さな
    い人)
   結果:a. 心血管危険因子として高コレステロール、HDL-ch 低値、高血圧、
        喫煙、左室肥大、耐糖能低下、糖尿病、血中フィブリノーゲン高
        値。(相乗効果あり)
      b. LDL 濃度と総コレステロール値の相関
      c. HDL-ch 値と CHD (coronary heart disease) との強い逆相関
      d. TG は 50歳以上の女性では独立した危険因子である
  2). Seven Countries Study (フィンランド・ギリシャ・伊・蘭・米・日・ユ
    ーゴ) 40 〜 59歳男性 12000人を対象。
   結果:食事中の総脂肪、特に飽和脂肪酸摂取量と総コレステロール値が最高
      のフィンランドから、最低のギリシャ・日本(S37 〜 47年)まで強
      い相関を示し、これらは CHD 死亡率とも強い相関を示す。

 2. 血清総コレステロール値の低下による虚血性心疾患の発症率に対する効果(一
   次予防効果)
  1). Multiple Risk Factor Intervention Trial (MRFIT)
   結果:a. IHD (ischemic heart disease) は血清総コレステロール値が上
        昇するとともに連続的に増加し、200mg/dl を越えるあたりから
        急増する。
      b. 喫煙・高血圧は相乗効果を有する。
      c. 食事療法は長期にわたらなければならない (10.5年以上)。
      d. 脳血管障害では、脳出血死は総コレステロール値が 160mg/dl以
       下のヒトではそれ以上のヒトより多く発生し約 3倍だった。
  2). The Lipid Research Clinics Coronar Primary Prevention Trial
    (LRC-CPTT)
    原発性高コレステロール血症の中年男性に対し、コレスチラミン投与群と
    プラセボ対照群に分けて IHD 発症の予防効果をみた。
   結果:コレスチラミン投与群では対照群 に比して総コレステロールが 8.5%
      LDL-ch で 12.6% 低下した。コレスチラミン投与群では CHD の死
      亡率は 24%、非致死性心筋梗塞は19% 低下。
      対照群で同程度の総コレステロール低下を示した群で CHD のリスク
      に差がなかった。
  3). Helsinki Heart Study
    40 〜 55歳の無症候性高脂血症患者に二重盲検試験をした。一方に
    gemfibrozil 投与
   結果:治療群では HDL が 10% 上昇、総コレステロールが 11% 低下、LDL
      が10% 低下、TG が 43% 低下。心筋梗塞の発症は 5年間で 34% 低
      下。しかし全死亡率や癌発生率に変化なし。
  4). WOS (The West of Scotland Coronary Prevention Study)
    血清総コレステロール値が 249 〜 295mg/dl で 45 〜 64歳男性患者に
    対し、プラバスタチン投与群とプラセボ対照群に分けて CHD 発症率を検
    討。
   結果:心筋梗塞の既往歴のない高コレステロール血症男性では、プラバスタ
      チン投与により血清総コレステロール値が低下し、それに伴って CHD
      発症危険率が低下。

 3. 二次予防試験(既に CHD・IHD 発症者に対し再発、増悪を防ぐ為の試験)
  1). The Cholesterol-Lowering Atherosclerosis Study (CLAS I 、II)
   結果:強力に血清総コレステロールを低下させると、病変の進展を抑制す
      る。
  2). 4S (The Scandinavian Sinvastatin Survival Study)
   結果:シンバスタチンで血清総コレステロールを 200mg/dl 以下に保ち、
      総死亡率低下を認め、それは冠動脈疾患死亡率低下が最も大きく寄与
      しており、冠動脈疾患死亡率は 42% 低下した。








低尿酸血症:2mg/dl 以下

 (1). 頻度:男性:0.1%前後、女性:0.5%前後

 (2). 原因
  1). 尿酸の産生低下(極めて稀、尿中の尿酸排泄量も減少)
   a. purine nucleotide phosphorilase deficiency
   b. キサンチン尿症
  2). 尿酸の排泄増加(腎性低尿酸血症)
    :多い、尿細管障害による尿酸クリアランスの増加。
   a. 特発性
   b. 続発性:糖尿病・Fanconi 症候群・Wilson 病・SIADH・RTA・悪性腫瘍
    ・薬物の副作用・血清銅・セルロプラスミンや尿中アミノ酸・リン・カル
    シウム排泄等で鑑別する。

 (3). 病的意義:尿酸が低い事自体は人体に影響せず。
   特発性腎性低尿酸血症:尿中尿酸排泄が増加して尿路結石や急性腎不全をお
   こす可能性がある。アルコールの節制、激しい運動を控える。
   a. 尿路結石:20 〜 25% に存在、尿酸結石と蓚酸 Ca 結石。
    特に尿酸結石はアロプリノールで尿中尿酸排泄を抑制する。
    また何れもウラリットUや重曹で尿の中性化を図る。
   b. 急性腎不全:30才以下の若い例で過激な運動後に発症。
    過激な運動により尿酸産生と排泄増加が起こり、尿細管閉塞を来す 。安静
    と輸液で改善。








高尿酸血症

 ◇プリン体を多く含む食品:原則的に禁酒
  ※ビール (大ビン 4本で200mg)・アンコウの肝 (酒蒸し、400mg/100g)
   白子・海老の一部
  (1). 50 〜 75mg/100g を含む物
    まぐろ・いさき・さわら・きす・とびうお・まだい・ひらめ・あじ・あい
    なめ・ぶり・さけ・あゆ・すじき・めばる・さんま・あさり・やりいか・
    たこ・えび・かに・たらこ・豚(ヒレ・もも)・鶏(ささみ・てば・もも
    ・皮・きも)・サラミ・納豆・ひらたけ
  (2). 76 〜 100mg/100g を含む物
    かつお・にじます・まいわし・まがき・するめいか・車えび・さんま干物
    ・牛腎・牛心・大豆
  (3). 100mg/100g 以上
    大正えび・おきあみ・まあじ干物・レバー(牛・豚)・まいわし干物・鶏
    レバー・干ししいたけ・(かつお節・煮干し:これらは使用料が少ない)

 ◇アルコール飲料中のプリン体の量
  (1). ビール:4 〜 7mg/100ml
  (2). ウィスキー・焼酎とう蒸留酒:0.03 〜 0.12mg/100ml
  (3). 日本酒・ワイン:(1) と (2) の中間

 ◇無症候性高尿酸血症に対する薬物療法 (1995年現在一定の見解はない)
  (1). 尿酸が常時 9mg/dl 以上
  (2). 一日尿酸排泄量が 800mg/日 以上
  (3). 明かな原因なく尿濃縮能力の低下を示す高尿酸血症
  (4). 尿路結石を繰り返す高尿酸血症
  (5). 家族性高尿酸血症及び痛風の家族歴ある場合








減量・運動療法・食事・体重

 体脂肪:1kg あたり 7000Kcal
      (体重 1kg へらすのに 7000Kcal を消費すると考えてもいい)

 運動による消費エネルギー (体重 60Kg のとき)
  ジョギング (分速120m) :7.5Kcal/分
  速歩き (分速120m) :4.2Kcal
   (70m/分 での歩行を 40分行うと約 200Kcal のエネルギーを消費する)
  水泳:11.4 〜 20Kcal








二次性高脂血症を来す疾患

  TG の増加 コレステロールの増加
1. 内分泌・代謝疾患
 a. 甲状腺機能低下症
 b. クッシング症候群
 c. 末端肥大症
 d. 糖尿病
 e. 肥満
 f. 痛風
 g. 神経性食思不振症
 h. 糖原病 (I型)
 i. ウェルナー症候群
 J. 妊娠
 
 
+
+
+ + +
+ +
+
 
+ + +
 
+
 
+ + +
+ +
 
+
+
 
+ +
 
+ +
+

2. 肝疾患
 a. 閉塞性肝・胆道疾患
 b. 肝癌
    
+ + +
+ +
3. 腎疾患
 a. ネフローゼ症候群
 b. 慢性腎不全
 
+ +
+ + +
 
+ + +
+

4. 免疫異常
 a. SLE)
 b. 骨髄腫
 
+ + +
+ +
 
 
+
5. 薬剤など
 a. ステロイド
 b. サイアザイド
 c. β-遮断薬
 d. シクロスポリン
 e. 経口避妊薬
 f. アルコール
 
+
+
+
 
+ + +
+ + +
 
+ +
+
 
+
 
 








高脂血症の具体的な治療とプロブコール (シンレスタール・ロレルコ) の周辺

 a. ある米国の脂質の大家はプロブコールが HDL-c を下げるというので、絶
   対に使わないという人がいる。

 b. プロブコールの会社の説明では、肝臓に対する転送が促進されるので
   HDL-c が減るという意見もあり問題ないというが、症例により HDL-c が
   0 に近くなるものまであり、この説明は眉唾だろう。

 c. プロブコールを用いた大規模介入試験は、未だ存在しないので、予後を改
   善するかどうかは不明。

 d. プロブコールかスタチン系か?
   脂質の profile から言いまして statin系 に軍配があがるし rando-
   mized intervention trialでのsecondary prevention(Sinvastatin)
   、primary prevention (pravastatin) ともに有効性が極めて高いので
   statin 系に軍配があがる。 (単に脂質を下げるというだけでなくそのよ
   うな状況が血管内皮機能を改善する)

 e. 次の重要な問題:heterotype hyperlipidemia 等のような症例
   (もっとコレステロールを下げなければという場合なにを組み合わせるの
   か?)
  ・理想的にはイオン交換樹脂系を組み合わせますが、飲みにくさではこれ
   ほど飲みにくいくすりは無い (コレスチラミン(クエストラン))。

  ・遺伝性のものでいろんな臨床トライアルがなされていますが、ナイアシ
   ンとの組み合わせもいい成績を得ている。

  ・日本で一番遺伝性高脂血症をたくさんもっておられる方に有る会でスタ
   チン系だけで十分脂質を下げることができないときはどうしますかとい
   う質問がでて、「私は、その際は probcol を併用します」との事だっ
   た。更なる、Xanthoma の退縮が得られるということでしたが、
   randa-mized trial ということではなく経験的にそのように使ってい
   るということだった。

  ・フィブラート系とスタチン系の組み合わせは、よく効きますが、
   rabdomyolysis の問題があり副作用を気にしつつ、最後に近い手段と
   して使うべきだろう。

  ・糖尿病などの時は insulin resistance に基づき、主に TG 代謝の障害
   これに伴う HDK の低値があるので、フィブラート系で lipoproteinli-
   pase を活性化して、remnant particle を減少させるのがいい。 (もち
   ろん、運動・食事療法の併用は当然)

・Helsinki heart study は、このフィブラート系を用いて、世界に強烈な
   impact のある結果をだしています。しかも、もっとも効果があったの
   は、高 TG ・低 HDL の脂質プロフィールを持った群においてだった。

 f. プロブコールは強烈な抗酸化剤で、LDL の酸化を抑制して、酸化 LDL が
   macrophage に食われる訳だから (macrophage に食われたL DL が動
   脈壁に沈着) 論理的には良いのかもしれませんが、論理と intervention
   の実証では臨床家に対するインパクトが異なる。

 g. CETP に関しては、以前は longevity syndorme (長寿症候群) として知
   られました。おおかたの所ではそれでいいようですが、阪大閥から、
   CETP 欠損で動脈硬化が早く伸展する例が少数において報告され全てよい
   とは限らないということになり、現在の把握では 100 を越えるような高
   HDL -コレステロール血症でも、動脈硬化の有無では良い方にとらえてい
   いと判断するのが実地臨床だろう。








コレステロールを強烈に下げる治療をするのに遅すぎるということはない

アメリカ心臓病協会のサーキュレーションに出された新しいステートメントで
は既に冠動脈硬化が有ったとしても、コレステロールを強力に低下させる治療
は利益をもたらすことができるとした。

" 多くの医師はあなたが冠動脈疾患をもっている人に薬を与えることによって
心臓発作のリスクを減少させることができることを知らないだけだ "
とアメリカ心臓病協会 特別専門委員会議長のスコット・グルンディーは発言す
る。
" いくつかの臨床介入試験からこの病気のある人の積極的なコレステロール低
下治療は正統化されている。"

"このステートメントは単に医師に冠動脈疾患を有する人々に強力にコレステ
ロールを下げることは正しいことであるとだけ言っているだけでなく、彼らに
どのような方法でいつそれをなすべきかを言っている。"
 冠動脈疾患を有する人々のコレステロール低下療法のゴールは、悪玉コレス
テロール (LDL-C) を 100mg/dl 以下にまで低下させることである。
近年の研究からコレステロール低下療法の効果は速やかに現れることが示され
ている。
しかし、そのような治療は早期に始める必要がある、そうすれば人々は最大の
利益を甘受できる。
不幸にして、多くの人々は彼らの心臓発作あるいは冠動脈疾患と診断されたあ
とすぐにコレステロール低下療法を施されていない。
 従って、ステートメントはプライマリーケアの医師や心臓病専門医にすみや
かに適正な治療を始める責任を勧告するものである。

 おおかたの人は冠動脈疾患を診断されたときに LDL のレベルが130mg/dl
以上でろう。100mg/dl というターゲットを達成するには薬物治療と非薬物治
療が必要となるであろう。
コレステロール低下薬をそのような患者でコレステロール低下食を先ず試して
いる間の遅れさせる必要性はない " とグルンディーはいう。

 " 最大限の非薬物療法を行うことはコレステロールと将来の疾病および心臓
発作を更に減少させるために重要なことである。
冠動脈疾患を有する全ての人々はコレステロール低下食を食べるべきであり、
もっと身体的に活動的となり、もし推奨されるのであれば体重を減少させるべ
きである。
コレステロール低下食は総カロリーの 7% 以下の飽和脂肪、コレステロール摂
取は一日 200mg/dl 以下に押さえるべきである。
そのような食事は LDL を通常 15-20mg/dl 低下させるであろう。
もし LDL レベルが 100 から 129mg/dl の間の人は、ヘルスケアプロバイ
ダーが非薬物療法を目標値の 100mg/dl 未満を達成るるために実施すべきで
ある。

もし、その目標値が 3カ月以内に達成されないのであれば、プロバイダーは目
標値達成のために少量のコレステロール低下薬を加えることを決心するかもし
れない。

すべての冠動脈疾患を治療する内科医はハイリスク患者のコレステロール低下
介入試験の結果について情報を知らされていなければならない。
ハイリスク患者を治療する全ての内科医医師は、初期治療医師、および心臓病
専門医を含めてコレステロール管理に責任をもたなければならない。"








高TG血症(高トリグリセリド血症)と動脈硬化

  1. 高トリグリセリド血症と心血管病
    ・Framingham heart study(1989)ではTGが特に女性において独立した
     冠危険因子であることを実証
    ・高TG血症を示したIIb型高脂血症の家族では脳血管障害の発症率が高脂
     血症のない家族と比べて約2倍だった。(都島ら)
  2. トリグリセリドと凝固線溶
    ・VII凝固因子活性にTGと脂肪摂取量が独立したリスクとなると言われる。
    ・PAI-1はAMIの独立した危険因子とされ、狭心症、深部静脈血栓症など
     で増加 。
    ・その他
  3. TGと冠危険因子の集積
    ・TGはHDL-Cと高い逆相関を示す。
  4. 高レムナント血症・TG正常者の食後高TG血症
    ・空腹時TG正常者の食後高脂血症が動脈硬化に関与。
    ・レムナント(remnant like protein:RLP)の血中濃度が高い例に冠疾
     患が多い。冠動脈疾患患者では脂肪負荷試験でTGとともにRLP-Cや
     RLP-TGが高値 。
  5. 薬物治療介入試験の成績
    ・主としてTGをさげる薬物によりTCの場合と変わらない冠動脈疾患の発
     症抑制率を示した。

    ※高トリグリセリド血症には一次性、二次性、TGの合成亢進、異化障害な
     ど種々の病態がありコレステロールほど確率された冠危険因子としての
     地位は得てない。










尿酸塩の有利な作用について
(ルーバート・ストライヤー:Biochemistry 3rd ed.(New York:Freeman,1988))
大勢の人を痛風の危険にさらすほど高い尿酸レベルをもつ淘汰上の利点は何であ
ろうか。尿酸塩には著しく有益な活動があることがわかってきた。
尿酸塩は、反応性の高い、非常に有害な酸素の仲間、すなわち、水酸基、超酸化
物アニオン、一重項酸素、高鉄原子価状能(+4と+5)中の酸素化ヘム中間生成物を
効率よく片づけていく。実際に、尿酸塩は、酸化防止剤、アスコルビン酸塩とほと
んど同じくらい効果的なのである。原猿類や他の下等な霊長類と比べて、人間の尿
酸塩のレベルが高いのは、人間の寿命がより長いことと、人間の癌の発生率が低い
ことに大いに貢献しているかもしれない。
(R.M.ネシー、J.C.ウィリアムズ『病気はなぜ、あるのか』新曜社、p.182、2002)







肥満・高脂血症の生活指導と栄養(食事)療法のポイント
                                (松澤佑次、日医雑誌 2001;125:860)

1.肥満
(1)減量指導のポイント
   1)現在の肥満度がどの程度で、いかに危険な状態であるかを認識させる.
   2)毎日、体重と共に、ウエスト周径(臍レベル)を測定して、変動を知る.
   3)目標は標準体重まで減量するより、検査データが正常化するか、ウエスト周径
    が基準(男性85cm、女性90cm)に達するよう指導する.
(2)食事指導のポイント
   1)急なカロリー制限を避け、長期実行可能な減食とする(標準体重×20〜25kcal
    /日).
   2)食事パターンの是正:朝食の摂取を促し、夕食の摂取量を制限する(腹八分
    目).早食いを避け、ゆっくり咀嚼する.間食・夜食を避ける.ストレス時の
    代理行動としての過食を避ける.空腹時には温かい飲み物をゆっくり味わって
    飲み、気分転換に散歩などを行う.外食の回数を減らす(外食時には定食を選
    択).
   3)食事内容の是正:栄養バランスを常に考え、野菜を多くする.濃い味付けや揚
    げ物、炒め物を避け、煮物や焼き物を増やす.摂取量を明確にするため小皿に
    一人分を取り分ける(小ぶりの食器に変える).また、野菜や汁物を先に食べ、
    会話をしながらゆっくり味わう.食後すぐに食器を片づけ、残り物を食べない.
(3)運動指導のポイント
   1)スポーツ習慣をつける.
   2)有酸素運動(速歩、ジョギング、水中歩行、水泳)を行う.しかし、苦しくな
    るまで激しく行うと無酸素状態となるので注意する.
   3)運動は少なくとも1回20分以上続ける.
   4)最低2日に1回は行うようにする.
   5)万歩計をつけて1日一万歩を目標とする.
   6)日常生活に運動習慣を取り入れる:通勤に車を使わず歩く.エスカレーターな
    どを使わず階段を使う.電車内では姿勢を正して立つ.食後の軽い運動や散歩
    を心がける.
2.高脂血症
    体質的・遺伝的素因が考えられる場合は、専門医を受診し精密検査をするよう
   指導する.
(1)食事指導のポイント
   1)食品の脂質の量と種類に注意:獣脂、.乳製品、卵などに含まれる飽和脂肪酸
    は、血清コレステロール(Chol)の代謝や排泄を遅らせ高脂血症を悪化させる
    ため、摂取を制限する.植物油(大豆、ごま、紅花など)に含まれる多価不飽
    和脂肪酸は血清Cholを低下させるため、調理に使うよう指導する.魚、特に青
    魚はエイコサペンタエン酸(EPA)を多く含み中性脂肪を下げる効果があるた
    め、獣肉を避けて青魚をとるよう指導する.
   2)Chol摂取の制限:Cholの過剰摂取は高低比重リボ蛋白(LDL)血症を悪化させ
    るため、Cholを多く含む食品(卵黄、レバー、獣肉、エビ、イカ、たらこ、
    すじこなど)は制限する.1日のChol接取量は300mg以下に指導し、改善しない
    場合は200mg以下に制限する.
   3)食物繊維にはChol吸収抑制効果があるため、野菜、穀類、豆類、海藻類、きの
    こ類を十分に摂取する.
   4)蛋白質は植物性を多くする:蛋白質の接取量は直接脂質代謝に影響しないが、
    動物性蛋白質を植物性に変えると血清Cholは低下する.植物性蛋白質は多価不
    飽和脂肪酸や食物繊維を多く含んでおり、高脂血症改善に有効である.
   5)糖質(特にショ糖や果糖)の過剰摂取は中性脂肪を増加させるため、制限する.
   6)節酒・禁酒の指導:アルコールは超低比重リボ蛋白(VLDL)の合成を促進し中
    性脂肪を増加させるため、常習飲酒者の高脂血症の最も大きな原因となる.ま
    た、アルコールは食欲を増進させ肥満を助長するので節酒・禁酒する.
(2)運動指導のポイント
   1)運動不足は、肥満の助長により高脂血症を増悪し、HDL-Chol低下などを来すた
    め、積極的な運動励行を指導する.
   2)運動は精神的ストレスの解消にもつながることから、脂質代謝に好影響を及ぼす.
   3)「肥満」の運動指導のポイントを参照.
(3)生活習慣改善のポイント
     喫煙はHDL-Cholの低下を来すといわれており、低下例では節煙・禁煙を指導する。







心臓疾患発生予防のための生活指導と栄養(食事)療法のポイント
                                (島田和幸、日医雑誌 2001;125:873)

  高脂血症、高血圧、肥満、耐糖能異常は、動脈硬化性心疾患の進行を加速する。
 しかし、これらは食事・運動・嗜好などの日常生活習慣の修正によって、かなりの
 改善効果が期待できる。薬物療法単独では限界があり、生活習慣の改善をべースと
 した包括的な対策が必要となる。
  予防の第一目標は、危険因子の進展を防ぐことである。健全な生活習慣を取り入
 れるよう、本人のみにとどまらず家族志向で指導する。その実施には、医師だけで
 はなく、栄養士や運動療法士などの医療従事者がともに参加するチームアプローチ
 が望まれる。危険因子修正を成功させるには、患者も医療チームに能動的に参加す
 るような両者の関係が理想である。
(1)年齢・性:男性では40歳から冠動脈疾患の発症率が高まるため、40歳以上では
   特に生活習慣の改善に留意する。女性では閉経後(90%が閉経年齢56歳)に冠動
   脈疾患のリスクが高まる。
(2)冠疾患の家族歴:65歳未満の女性あるいは55歳未満の男性で、心血管疾患の家
   族歴を有する人は特に注意が必要である。
(3)禁煙:完全な禁煙を目標とする。定期的に喫煙状況を尋ね、カウンセリング、
   ニコチン代用品、禁煙プログラムを適宜提供する。
(4)血圧管理:130/85mmHg未満を目標とする。生活習慣の修正、体重コントロール、
   運動、節酒、減塩を奨励する。食塩制限は7g/日以下(このうち調味料として添
   加する食塩は4g/日以下)とする。生活習慣の修正を開始して3か月後にも血圧
   が140/90mmHg以上の場合は、降庄薬の投与を考慮する。
(5)高脂血症の管理:血清総コレステロール200mg/dl未満、低比重リボ蛋白(LDL)
   コレステロール120mg/dl未満を目標とする。摂取エネルギーは、標準体重1kgあ
   たり20〜30kcalとし、脂肪量は総摂取エネルギーの25%程度とする。脂肪の質は、
   多価不飽和脂肪酸(P)を飽和脂肪酸(S)よりも多くし、P/S比を1.0〜2.0とす
   る。LDLの酸化変性を防止するうえで、一価不飽和脂肪酸(オレイン酸)の摂取
   も望まれるので、植物油、魚油の両者を用いる。コレステロール摂取量は200〜
   300mg/日未満とし、繊維、特に水溶性のペクチン、マンナン、ガムなどを多く
   とる。食物繊維やビタミンA、C、カリウムを多く含む緑黄色野菜、淡色野菜類
   を約100kcal(300g/日)とる。
    中性脂肪が150mg/dl以上、高比重リボ蛋白(HDL)コレステロールが40mg/dl
   以下の場合は、糖質やアルコールの摂取を減らし、脂肪量は30%程度とし、P/S
   比を1.0〜2.0とする。
    食事療法を数か月継続レても血清総コレステロールが220mg/dl以上のときは、
   薬物療法(スタチン系)を考慮する。中性脂肪の著明高値が続く場合は、薬物
   療法(ニコチン酸系、フイブラート系)を考慮する。
(6)アルコール制限:エタノールで男性は20〜30g/日(日本酒約1合)以下、女性は
   10〜20g/日以下とし、連日の飲酒は避ける。
(7)運動:運動量を増やし、週3〜4回、1回30分間以上の定期的な運動を目標とする。
   定期的に活動状態と運動習慣について尋ねる。歩行、ランニングや水泳など、
   等張性運動を最大酸素摂取量の約50%の軽い強度(早歩き程度)で30〜45分行う。
   運動開始前には心血管病の有無を確認する。
(8)体重管理:理想体重[bodymassindex(BMI)21〜25kg/m2]の達成・維持を目標
   とする。定期的に身長、体重、BMI、ウエスト/ヒップ比(理想は男性0.9、女性
   0.8未満)を測定する。治療開始当初は、標準体重×25kcal/日の処方で3〜4kgの
   体重減少を目指す。長期的には、男性1600kcal/日、女性1400kcal/日くらいの
   エネルギー摂取が妥当な範囲であろう。運動は脈拍数が100〜120/分くらいの中
   等度の運動を、1日の合計が1時間以上になるように行う。これは200〜300kcal/日
   のエネルギー消費に相当する。







◎高コレステロール血症・低コレステロール血症・高HDL血症・低HDL血症
(永井書店『臨床検査診断マニュアル』pp.466-467)

  1. 高コレステロール血症の原因
   1) 原発性高脂血症
   a. LDLの増加(IIa型)
    ・家族性高コレステロール血症
    ・多因子性高コレステロール血症
   b. LDL + VLDLの増加(IIb型) 
    ・家族性複合型高脂血症
   c. β-VLDLの増加(III型) 
    ・家族性異常β-リポ蛋白血症
   2) 二次性高脂血症
   a. 外因性
    ・脂肪食過剰摂取
   b. 内分泌・代謝疾患
    ・甲状腺機能低下症
    ・クッシング症候群
    ・下垂体機能低下症
    ・末端肥大症
    ・糖尿病 
    ・急性間欠性ポルフイリン症
   c. 肝疾患
    ・閉塞性黄疸
    ・肝癌
    ・急性フルコール性脂肪肝(Zieve症候群)
   d. 腎疾患 
    ・ネフローゼ症候群
   e. 血液疾患
    ・多発性骨髄腫(免疫ブロフリン異常症)
   f. その他   
    ・全身性エリテマトーデス
    ・グルココルチコイド
    ・ストレス
  2. 低コレステロール血症の原因
   1) 原発性低脂血症
   ・家族性無β-リポ蛋白血症
   ・家族性低β-リポ蛋白血圧
   2) 二次性低脂血症
   ・低栄養
   ・腸管吸収障害
   ・肝実質障害
   ・免疫グロブリン異常症
   ・骨髄増殖性疾患
   ・慢性貪血
   ・甲状腺機能亢進症
  3. 高HDL血症の原因
   1) 原発性脂質代謝異常症
   ・家族性高HDL血症
   ・CETP欠損症
   2) 二次性脂質代謝異常症
   ・アルコール
   ・運動
   ・胆管炎炎
   ・Banti症候群
   ・エストロゲニン
   ・インシュリン
  4. 低HDL血症の原因
   1) 原発性脂質代謝異常症
   ・家族性底HDL血症
   ・Tangier病
   ・アポA-I変異体症
   ・魚眼症
   ・LCAT欠損症
   2) 二次性脂質代謝異常症
   ・喫煙
   ・閉塞性肝障害
   ・肝実質障害
   ・低栄養
   ・尿毒症
   ・甲状腺機能異常症
   ・免疫ブロブリン異常症
   ・骨髄増殖性疾患
   ・慢性貪血
   ・糖尿病