[井原市医師会だより]


【介護保険の発足を目前にして】
 平成12年度から、寝たきりや痴呆老人の介護のために、介護保険という新しい制度が始まります。井原では、そのために必要な老人保健施設* や特別養護老人ホーム** などの施設整備がなかなか進まなかったことから、昨年末に、医師会の提案で井原の医療・保健・福祉・介護保険について、市・議会・医師会の三者懇談会が開かれました。市民にとって大切な問題であるため、内容は公開するとの条件で、その後も精力的に協議を重ねてまいりました。

 7月26日、市から市長と助役等 4人、議会から議長、副議長、各委員長計 7人、医師会から会長、副会長、理事計 7人が出席し、市民会館でこれまでの協議内容をマスコミ (山陽新聞、中国新聞、井原放送) 参加のもとに公開しました。これからは三者が話し合い、お互いに努力しなければなりません。以下はその全文です。井原市医師会は、現状を広く市民の方がたに知っていただくため「井原市医師会だより」を発行しました。ご一読をお願いいたします。

 * 老人保健施設    : リハビリを主とした病院と家庭との中間的な施設
** 特別養護老人ホーム : 常時介護を要し自宅で介護を受けることが困難な老人のための施設







【井原の医療・保健・福祉・介護保険についての見解】
井原市医師会   
 本格的な高齢化時代を迎えて、高齢者の医療と介護は早急に解決を迫られている大きな社会的問題となりました。そのため、平成12年度から医療と福祉の連携のもとに、新たに高齢者の介護システムとして公的介護保険制度が発足します。医師会は「かかりつけ医」として、さらに要介護認定チームの一員として、役割を確実に果たすことが要求されています。

 平成4年、市は七日市へ市民病院の新築移転を核とし、老健 (老人保健施設) や特養 (特別養護老人ホーム) などの施設を集めた「医療・保健・福祉ゾーン」構想を発表しました。その中で医療と保健と福祉の一体的なサービスを提供する、新しい拠点づくりに努めることを公約しています。計画は市の最重要政策として機会あるごとに強調され、市民は大きな期待を抱いてきました。しかしこのプランは、学術専門団体である医師会はもちろん市民病院の医師とも協議はなく、コンサルタントに依頼した一枚の図面 (『広報いばら』平成5年9月号掲載) だけで、具体的な計画はありませんでした。

 国の高齢者福祉サービス計画、いわゆるゴールドプランにもとづいて、全国的に特養や老健などの保健福祉施設の建設が進められました。これらの施設はもともと民間がほとんどですが、井原では市が市民病院と一体的に建設することを表明し、民間へは情報が提供されず、市の同意を要する福祉施設の建設は市の協力を得難い雰囲気でした。岡山県ではほとんどの地区が病床過剰のためベッド数が規制され、福祉施設も予定数が完了すれば同じく規制されることになっています。

 昨年9月、井原市医師会は在宅介護の支援のために医師会立の訪問看護ステーションを開設しました。しかし施設サービスの面では、老健がない市は井原だけとなり、井原の老人はやむを得ず市外の施設へ入所を余儀なくされています。現在では笠岡などの老健に 70人の老人が入所し、さらに 50人が特養の入所を待っています。

 介護保険を目前にひかえて市の現状を憂慮し、医師会が提唱して昨年末に市・議会・医師会の三者懇談会が開かれました。医師会は医師会立の老健設立を申し入れ、医療・保健・福祉ゾーンや市民病院の新築について、市へ情報の開示を要望しました。懇談会での市の発言はその場限りのもので、残念ながら医師会が信頼できるものではありませんでした。

 懇談会後に市から老健用地として東江原、ついで七日市の土地提供の回答がありました。しかし県医師会などの調査によると、老健や特養などの施設はすでに2年前から井笠地区は県の計画が完了しており、現在では、井原に建設することは不可能であることがわかりました。この事実を市は議会にも医師会にも、もちろん市民へも知らせず、その後も医療・保健・福祉ゾーンの宣伝を続けていました。

 また、市民病院の平成8年度決算は「純利益が出た」と公表していますが、国の補助金と一般会計から計2億6366万円の補填を受け、それにより1385万円の黒字となっています。何はともあれ、正しい情報を知らされなければ市民は何もわかりません。病院は昭和38年に開院しましたが、医療を取り巻く環境は当時と全く変わっています。病院建設についてもバラ色の話だけでなく、構想や規模、予算、さらに健全経営が可能か、将来にわたって市民の経済的負担はどうか、なども検討しなければなりません。建設後は今より負担が増えて、福祉、教育、公共事業などへの、しわ寄せが大きくなるでしょう。このようなことも知らされないと市民はまともな判断はできません。

 医療・保健・福祉ゾーンを宣伝している間に井原にぜひ必要な施設ができなくなりました。市は土地の買収困難のためと弁明していますが、単なるおくれではなく、市民は将来にわたって老健がなく特養も不足という、取り返しのつかないマイナスを背負うことになろうとしています。再三にわたる懇談会の結果、市は医師会に対して、対応のおくれと情報非公開に陳謝の意を表し、今後は医療・保健・福祉に関しては事前に医師会に情報を開示し、協議することを約束して協力を求めました。

 少子高齢化と厳しい社会情勢の中にあって、閉鎖的な市政から、正しい情報が市民に開示される、時代にふさわしい開かれた井原市に転換されなければなりません。井原市医師会は、今後とも地域の医療と保健と福祉の向上のために努力いたします。
  平成10年7月26日
井原市医師会 会 長 小 田 晧 二
副会長 高 木   茂
理 事 菅   嘉 彦
理 事 森 本 允 裕
理 事 河 合 恭 廣
理 事 原 田   寛
理 事 鳥 越 恵治郎







【医師会の見解に対する市長答弁】
市 長 谷本 巌   
 長寿化と少子化による急速な高齢社会を迎え、高齢者のみならず市民だれもが、豊かさとゆとりの中で生きがいを持ち、安心して暮らせる地域社会を創造するため、医療・保健・福祉の連携を強化し、人生80年時代にふさわしい総合的な社会システムを構築することが、市民共通の願いであり、行政もその実現に向けて取り組む必要があります。

 そのためには、それぞれの関係機関がお互いの立場を理解しあい、深い認識と強い連携を図りながら、目的に向かって邁進することが求められています。医師会は申しあげるまでもなく、地域医療を通じて市民福祉の増進と市民の健康保持に日夜貢献をいただいており、井原市が行う行政に深くかかわっていただいている処であります。

 ただ今、小田医師会長からの挨拶の中にもありましたが、医師会と市議会とは10年来、相互の開催という形で懇談の場をもってこられたところでありますが、なぜか市執行部と医師会が同じテーブルで話し合う機会が持たれなかったことは、むしろ不自然であるとのお互いの自覚から、先ほど会長の申されるとおり昨年12月18日に市議会を含めた初の三者懇談会が開催されたところであります。

 その後、医師会と深く接するうちに、先ほどご指摘のありました事項について行政が陳謝すべきところは率直に謝り、反省すべきことは反省し、市民のしあわせ追求のため、共に協力し合うことを確認した処であります。 このため、今後はお互いの立場を理解すると共に、必要に応じて医師会・市議会・井原市が懇談の場をもち、ともに相手の立場を尊重しながら必要な事項について情報提供・意見交換する中で、問題解決に取り組んで参ることを確約したところであります。

 これまで市議会立会のもと、井原市医師会と協議しました事項につきまして、後ほど、助役から報告させますが、市民の皆様をはじめご参会の皆様も医療・保健・福祉行政はもとより各分野にわたり、今後とも井原市発展にご支援ご協力賜りますと共に、お気づきの点、ご意見などがありましたらお聞かせ願い、今後の行政の参考にさせていただきたいと考えるものであります。







【三者協議事項並びに当面する課題の経緯と今後の対応について】
井原市    
1. 老人保健福祉施設について
 井原市は、平成4年七日市町地蔵平へ市民病院の移転を含め医療・保健・福祉ゾーン計画を策定し、用地買収に着手した。また、平成6年3月には将来必要と考えられる保健福祉サービス提供体制を計画的に準備することを内容とする「井原市老人保健福祉計画」(平成6年度 〜 平成11年度) を策定した。

 しかし、その後用地買収は 76.8% の調印に至ったものの、全体計画 7.2ha のうち 約1.9ha についてはどうしても了解が得られなかった。

 この間、井笠保健福祉圏域の老健施設は「岡山県老人保健福祉計画」の予定を満たす結果となってしまった。

 昨年暮れ医師会、市議会、井原市の三者懇談の席上、新見市と同様に市において用地の提供があれば医師会において建設してもよい旨医師会から発言があったことから、東江原町の土地、続いて七日市町地蔵平の土地を再提示し、地蔵平については了解出来そうだとの回答を得たが、井笠圏域へ老健施設を建設することは、現時点では不可能な状態になっていた。

 井原市としては、老健施設の計画が困難な状況にあることを知っていて、情報公開が不十分であったことはお詫びする。

 しかし、市の立場としては、平成12年度から介護保険も開始することから、建設に向けて努力していきたい。老健施設の建設が出来た場合、また出来なかった場合にかかわらず、医師会と協議をしますが、医師会もまた井原市へ協力をお願いする。


2. 市民病院について
 市民病院の新築につきましては、建物の老朽化が進む中で移転新築を計画している地蔵平の用地取得が困難を極める中で、平成10年3月市議会定例会におきまして、取得済用地での建設の可能性や山王台地のほか、現地での立て替えも視野に入れながら検討したいとの考えを示しておりました。

 6月市議会では、地蔵平につきましては、用地取得難から面積的に現在地より使用可能面積が狭いこと、山王台地につきましては適地でないとする人が多いことなどから、現在地での建築を進めたいとの方向づけを示し、市議会で答弁したところであります。

 その中で選択肢しとて、場所については以前の調査委託結果を踏まえて考えると、環境等については多少問題はあるが建築は可能であるとの判断ができること。規模については最近の病床利用状況のほか、経済状況の厳しい中で、財源確保に配慮すると共に、1看護単位当たりの病床限度数は 60床であることなどから判断し、報道されたような方向づけを行ったところであります。

 その際、十分議論されない時点での報道となったことは申し訳ないと思います。その後、市議会の全員協議会でも協議いただいたところですが、今後とも、規模等につきましては、市議会をはじめ医師会等と協議しなが計画を進めます。


3. 西部いこいの里 (在宅複合施設) について
 昨年12月、医師会、市議会、井原市の三者懇談会の席上、医師会長から「西部いこいの里の運営」について質問があった際、社会福祉法人新生寿会へ委託することがはっきりしていたにもかかわらず、明白な回答はしなかった。

 また、老人短期入所施設の入所者は、医師会員の協力なくしては健康保持ができないにもかかわらず、はっきりした回答を差し控えてきた。

 それは、正式な委託契約の締結をしていないことから、回答しなかったものてである。なお、施設のベッド数 30床は、建設認可時の最低基準に従ったものであります。その際、市としては利用目的から 30床は多過ぎるとも考えたが、補助金交付 (国1/2、県1/4) を見込むことから、そのように決定したものである。

 こうした事情から、本来の老人短期入所施設として使用する他、有効活用して医師会も含めて運用を検討する。

 なお、情報公開出来なかったことについてはお詫びし、今後はこのようなことのないよう配慮することを約束する。


4. 今後の対処について
 今後は、医療・保健・福祉行政について、計画の段階から、学術専門団体である医師会および市議会とは十分協議していくことを約束します。







【市民のしあわせを追求する協議会を】
市議会議長 乘 藤 俊 紀   
 「医療・保健・福祉」が新しい時代、21世紀のキーワードであることは、井原市はもとより、全国民の関心事で、大きな政治課題であります。

 井原の「医療・保健・福祉」については、先ほど小田井原市医師会長と谷本井原市長から、それぞれご挨拶と説明があり、医師会と市が現状を認識し、協議ができましたことは、誠に喜ばしい限りであります。

 この協議により、ほのぼのとした明るさと、しあわせが感じられる 21世紀の井原が展望できる思いがいたします。両者の皆さんに心から感謝いたします。

 医師会と市議会は過去10年来、年1回の懇談会を開催してこれらの問題等につきまして協議してきました。市議会として、とくに今、問題点となっています市民病院の移転改築と運営のあり方、老人保健施設の開設、西部いこいの里の運営、これからの介護保険への取り組みなど、医療と福祉、保健に対し、認識不足と勉強不足があったと深く反省しているところであります。同時に、市執行部の市医師会への対応は、必ずしも十分とは言えなかったと思います。

 今後、市執行部は、市医師会、市議会に対し、必要に応じて協議を重ねられ、より充実した医療と保健と福祉の一体的社会を築くよう、お願いするところです。

 本日協議されました「医療・保健・福祉」の問題等につきまして、今後市議会といたしましては、市医師会と市執行部の間にあって、中立的立場を維持しながら、前向きの姿勢で真剣に取り組んでまいりたいと考えます。 市議会は、市民の代表ということを念頭におき、常に市民の立場に立った議会運営を行うことは言うまでもありません。

 引き続き、市医師会、市執行部、市議会の三者が連携を保ち、市民のしあわせを追求する協議会が開催できるよう、お願いいたしますとともに、市医師会の温かいご指導をとくに賜りたいと考えています。





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